近隣地域にない短時間 通所リハビリに 転換したことの効果

通所リハビリ編
近隣地域にない短時間
通所リハビリに
転換したことの効果
医療保険での維持期リハビリのうち、一定の条件に該当する場
合、平成 30 年度末で介護保険のリハビリに移行される予定となっ
ている。通所リハビリを利用する方の希望はさまざまだが、リハビ
介護老人保健施設
フェルマータ船橋 リの機能を高め、リハビリのみを実施する施設を利用したいという
松本 倫明
ニーズが今後ますます増えるだろう。
1.リハビリ希望に対応するため
6-8hと1-2hの併設
医療法人社団紺整会 フェルマータ船橋(以下、当
の 6-8 h通所リハビリを廃止し、1-2 h通所リハビリ
のみで運営していくことが可能かどうか【収益】
【リハ
マネジメント】
【予定管理】
という視点でシミュレーショ
ンを行った。
施設)は、平成 10 年の開設当初より 6-8 h通所リハ
ビリ(定員 35 名)での運営をしてきた。6-8 h通所リ
ハビリで運営する場合、長時間滞在するため、リハ
ビリ・入浴・食事・レクリエーション・居場所の提供
など、ケアプランとして位置づけられる利用目的もさ
まざまであり、リハビリの目標を達成してもそのまま
終了とはならず、通い場として通所リハビリの継続利
用を希望される方も多くいた。
一方、
「リハビリだけ行いたい」という利用者の希望
フェルマータ船橋の概要
○1-2h通所リハビリ
・通常規模型通所リハビリテーション
・定員数:1回32名、1日3回転
・営業日:月∼土(日・祝日休み)
○入所
・ベッド数:97床
(一般棟:57床/認知症専門棟:40床)
・短期入所療養介護:約60床
もあり、平成 25 年 4 月より 6-8h通所リハビリと併用
・在宅復帰率:70.3%
して先駆的に 1-2h通所リハビリ(定員数:6-8h、28
・平成24年 在宅強化型老健
名/ 1-2h×3回転:各 8 名)を開始した。1-2h 通所
リハビリは当施設以外は近隣地域になく、リハビリに
○スタッフ数(非常勤・兼務含む)
特化したサービス提供が可能となったことから、リハ
医師 …………… 2名
介護職員 ……… 6名
ビリだけをしたいという利用者の希望に沿うことがで
理学療法士 …… 12名
看護師 ………… 1名
作業療法士 …… 3名
支援相談員 …… 1名
きた。1-2h 通所リハビリスタート時から2ヶ月で一日
の利用があった。
平均 10 名(3単位合計の平均)
2.制度改正により、1-2h×3回転の
通所リハビリへ転換 言語聴覚士 …… 1名
3.3つの視点のシミュレーション
【収益】
平成 27 年 2 月に介護保険制度改正の答申が発表さ
これまで 6-8h と 1-2h の併用で運営していた売上
れ、活動と参加に焦点を当てたリハビリテーションの
を 1-2h のみで算出することが可能かどうかをシミュ
推進により通所リハビリにおいても「卒業」という考え
レーションした。各種加算の算定と 65%程度の稼働
方が求められるようになった。これを機に、これまで
により、同等もしくはそれ以上の売上が可能であると
Vol.29 デイの経営と運営 23
いう結果であった。現在は、1-2 h通所リハビリの卒
ス 1台に利用者が最大 8 名乗車、運転手と介護職が
業者を出しながら新規利用者を受け入れていること
ペアとなり同乗している。基本的なコースと時間は曜
で、登録人数の増加幅は鈍くなっている。そのため、
日、時間、利用者ごとに予定しているが、その日の休
この時期の目標としていた稼働率には未だ到達をし
みや追加に合わせて毎日微調整を行っている。
ていない。しかし、想定していた稼働率以下でも、
回転数を上げた現在、送迎車の動きは以下のよう
売り上げ額はある程度確保できることも分かった(表
になる。
1参照)。
平成 27 年度の制度改正でも指摘されたが、あいま
1-2 hの通所リハビリは、10 時 50 分・13 時 30 分・
14 時 45 分からスタートする。
10 時 50 分からのサ ービスに合 わせて迎 えを行
い、利用を終えた 10 時 50 分からの利用者の帰りの
いな目標で漫然とした長期利用とならないよう、新規
送りをする。その送迎車は施設には戻らず、そのまま
利用の面談をセラピストが担当することとした。加算
テーションマネジメント加算Ⅱ」
を積極的に算定するこ
13 時 30 分からの利用者の迎えを行う。施設へ戻る
と、次はすぐに 14 時 45 分からの利用者を迎えに行
き、14 時 45 分からの利用者が施設に着くころには
13 時 30 分から利用者がサービスを終えているので帰
ととした。
りの送りを行う。再び送りから戻ってくると、今度は
【リハマネジメント】
では、アセスメントを重視し、その後の質の高いマネ
ジメントとサービス提供を行うことのできる「リハビリ
14 時 45 分からの利用者がサービスを終える時間とな
るため、帰りの送りを行い当日の運行は完了となる。
【予定管理】
このように過密な送迎管理となるが、おかげで送迎
回転 数を上げることで、延べ 利用人数は 最大で
400 名程度になると予想され、管理業務が課題となっ
減算はほとんどない。
た。送迎についても検討を行った。送迎はハイエー
セラピストには、リハビリ会議の参加や進行役、
社会参加支援加算の現状確認のための訪
問など、リハビリ以外の負荷も大きくな
表1
平成26年度
平成27年度
基本報酬(1-2h)
13.7人/日
62.7件/日
基本報酬(6-8h)
22.8人/日
0件
リハビリテーションマネジメント
加算Ⅰ
141.8件/月
213.3件/月
63.3件/月
リハビリテーションマネジメント
加算Ⅱ2
0件
生活行為向上リハビリテーション
実施加算(3ヶ月以内)
31.6件/月
生活行為向上リハビリテーション
実施加算(4ヶ月以上6ヶ月以内)
31.6件/月
が、よりセラピストとしての業務などに集
中できる環境がつくれるよう管理業務を
一括して行うリハコーディネーター
(以下、
RCの役割の一つとして各セラピストや
関係職種と連携のもと、リハビリ会議の
スケジュール調整や連絡・管理を行って
いる。円滑な遂行とセラピストの業務負
認知症短期集中リハ加算Ⅱ
4.1件/月
個別リハビリテーション加算
42.2件/日
0件
理学療法士等体制強化加算
13.7件/日
62.7件/日
サービス提供体制加算
36.5件/日
62.7件/日
約107,000,000円
約108,000,000円
24 デイの経営と運営 Vol.29 ネジメントしていくべきという考えもある
RC)
を配置した。
リハビリテーションマネジメント
加算Ⅱ1
収入
る。本来スケジュール調整なども含めてマ
担軽減に寄与することができている。
4.1-2h通所リハビリの特徴
当施設の 1-2 h通所リハビリは、リハビ
リに特化したサービス内容である。新規
利用の依頼を受けると必ずセラピストが自
宅を訪問している。家屋環境や本人のア
セスメントを行い、達成可能な目標と期
間を設定し、契約までを行う。マネジメン
特集
1
先進事例からわかる!
地域密着型デイサービス・通所リハビリの戦略
トを充実させていくことで、利用目的にも変化が表れ
ができた。
てきている。6-8 h通所リハビリのころから、きちん
利用を終了した一部の利用者から、
「6-8 h通所リ
と目標設定をした上でリハビリ提供をしていたが、イ
ハビリに戻してくれたら再び通うのに」と時々そんな声
ンテークなど情報不足は否めなかった。現在は、セ
を聞くこともあるが、近隣地域よりリハビリ施設とし
ラピストがアセスメントを十分に行った上で目標設定
て一定の評価を得ている当施設では、1-2 h通所リハ
をすることで、より具体化した生活目標を持つことが
ビリのみとなったことで「やはりフェルマータはこうあ
できている。具体的な生活目標は明確な利用目的と
るべきだ」
「フェルマータみたいな施設が近くにあって
なり、その方の「やること」が分かりやすくなるため、
よかった」
など、評価してくださる利用者の声が多い。
休まずに通ってリハビリを行うという意欲にもなる。
利用目的が明確化されるということで、リハビリのみ
現に、リハビリテーションマネジメント加算Ⅰの方とリ
を望む利用者にとってはシンプルで使いやすい資源と
ハビリテーションマネジメント加算Ⅱの方の休む率に
なっているのだと思われる。実際に要介護度も以下
差が生じている。
また、生活行為向上リハビリテーション加算の算定
件数も当施設の特徴の一つといえる。アセスメントを
した結果、加算対象となりそうな方については作業
療法士が中心となり、本人・家族・ケアマネジャーに
「終了」に向けた目標やプログラムを提案している。社
会参加を目的としている同加算の具体的な目標とプロ
グラムを説明することで、利用者の理解を得ることが
でき、算定件数も徐々に増えてきている状況である。
(表2)のように改善している。
表2 介護度の変化
H26.12
H27.12
要支援1
3.0%
4.0%
要支援2
6.9%
12.4%
要介護1
25.3%
38.8%
要介護2
27.6%
24.3%
要介護3
24.4%
13.2%
要介護4
9.8%
6.0%
要介護5
2.8%
1.3%
○生活行為向上リハビリテーション実施加算
算定件数(6-12月)
また、リハビリのみを目的に来所される利用者に対
(3ヶ月内):47件
して、職員の支援も明確化され、働きやすくなる。こ
(4ヶ月以上6ヶ月以内):31件
のような施設で働く職員は、プライドを高く持つこと
ができ、常にさまざまな視点で先を目指して考えてい
5.1-2h通所リハビリを行う良さ・
利用者増への効果
る職員が多い。
近隣施設との差別化にもつながっている。市内老
健の通所リハビリはそれぞれの特色を持ち運営をして
当施設で、6-8 h通所リハビリから1-2 h通所リハ
いるが、リハビリのみに特化した通所リハビリは少な
ビリへの転換した際、それまでの設備・資源のまま
く、もちろん 1-2 h通所リハビリのみで運営をしてい
運営ができた。施設内のスペースやレイアウトは変更
る老健施設は当施設以外にない。送迎範囲が重なっ
などを行ったが、基本的に施設内にあったものを使
ていても、サービスが差別化されていることで、競合
用している。
することなく施設間連携も良い状態を保つことができ
送迎に使用する車両についても、6-8 h通所リハビ
ている。
リと 1-2 h通所リハビリを併用しているころから使用し
このように当施設では 1-2 h通所リハビリという新
ていた、ハイエース4台をそのまま使用し、最大 4 台
しいサービスに転換したことで、コスト面の低減や資
が 1日 3 回転フル稼働している。また、6-8 h通所リ
源の活用だけでなく、働く職員にとっても良い効果
ハビリ時に提供していた入浴や食事などのサービスが
が表れている。在宅強化型老健である本体機能に加
廃止となったことにより、通所リハビリ専任の介護職
え、1-2 h通所リハビリを行うことは、リハビリに特
員も、これまでの 7 名体制から 6 名へと削減すること
化した老健施設の最大の特徴とも言える。そのような
Vol.29 デイの経営と運営 25
取り組みを利用者が評価してくれたということが最大
訪問などで確認を行っているが、今後は居宅訪問を
の利点となっているのかもしれない。
基本として、卒業者すべてを直接確認していく方向で
検討している。
6.今後の課題と対応
卒業後の行き先はグラフに示す通りである。平成
今後の課題として、ケアマネジャーへの周知や送
27 年 4 月から平成 28 年 2 月現在のものであるが行き
迎などがある。以下に今後の課題と対応についてまと
先としてデイサービスの割合が多くなっている(すべ
める。
て法人外のデイサービス)。
また、状態変化により再利用となった利用者は現
① ケアマネジャー
市内の居宅介護支援事業所へ足を運び、当施設
の案内をしていくことで、徐々にではあるがケアマネ
在 1 名であり、デイケア卒業後デイサービスを利用さ
れていたが、より高い目標を達成するために当施設
の再利用をする運びとなった。
ジャーへの周知はできてきたように思う。しかし、
「1-2
h通所リハビリを行っていることは知っているが、ど
この回転率を上げる仕組みは新規利用者をいつで
のように利用(ケアプランへの位置づけ)したらよい
も受け入れることができる他に、卒業者が困ったとき
のかイメージがつかない」などの声を耳にすることが
にいつでも再利用することできる利点もある。通所リ
ある。
ハビリが必要な方が、いつでも利用することができる
当施設では、経験値の高いセラピストがケアマネ
という環境を整えている。
ジャーに対して、直接意見交換を行う場を設けたり、
地域で勉強会などを開催することで理解を深めてい
卒業後の行き先と割合 N=47
ただく努力をしている。
サービス利用なし
6.4%
② 送迎
1-2 h通 所リハビリを利用したいといった多様な
ニーズに答えるべく、送迎範囲をこれまでよりも広げ
ボランティア活動
2.1%
地域活動
14.9%
て対応している。そのため、送迎時間が長くなった
り、送迎に遅れが生じてしまうなど、回転率を上げる
ことでの、運営上の課題も発生してきている。
デイサービス利用
76.6%
少しでも負担を軽減していけるように、送迎ルート
の見直しや、曜日・時間変更の相談などを日々行って
いる。
③ 卒業後のサポート体制
目標設定から卒業までのマネジメントをセラピスト
医療保険でのリハビリが終了となった方が介護保
が行うことで利用者の安心感も増している。さらにす
険へ、そして介護保険のリハビリを卒業した方が地
べての利用者に対して、状態が変化した際には再利
域へと出ていくように、2 年後に迫った医療・介護同
用できる旨をお伝えしている。卒業を迎える最終利用
時改定へ向けた戦略を考え準備をしていく必要があ
日には、必ず皆の前で卒業証書の授与式を行う。利
る。また、その時にはさらに先へと進むことができる
用者本人が頑張った成果を称える場でもあるが、ほ
ように準備を進めていきたい。
かの利用者にとっても良い影響を与えており、
『私は
いつ卒業できるのかしら?』などと自ら聞いてくるほど
で、相乗効果が期待できる。終了後の生活状況把握
については、ケアマネジャーからの情報提供と居宅
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