「次世代ヘルスケアをめざした D2K サイエンスのフロンティア」 Frontiers

FS-11
日時: 2016 年 10 月 26 日 16:00-17:30
場所: 401 室
「次世代ヘルスケアをめざした D2K サイエンスのフロンティア」
Frontiers in BioMedPharma&Ntutrition Data to Knowledge Science
開催趣旨(モデレーター挨拶): 16:00-16:05
計算機と通信技術(ICT)の活用を基盤とした統計学、データ解析、パターン認識、人工知能、
グラフィックスなどの情報計算技法の応用は、化学や生物学から、医学、医薬品開発、毒性学、
栄養学、農水産学、環境健康科学などヘルスケア(健康医療)に関係した、幅広い分野に拡大し
ている。とくに最近は、Translational Research への関心の高まりから、実験室の成果を臨床
や食卓に迅速に届ける(from bench to bedside/dining table)実践への関心が高まっている。
そこで浮上してきたのが、データから知識の生成(Data to Knowledge)の迅速化、とくにビッグ
データからの知識生成(BD2K)である。このフロンティアでとくに関心が高まっているのが、伝
統的な診療機関に蓄積されている記録の電子化 EMR(Electric Medical Record)と、生活者や
患者がスマートフォンなどを活用して収集した個人の健康に関する記録 PHR(Personal Health
Record)を統合的に活用することである。もうひとつ関心が高いのが、医療機関であるか個人で
あるかを問わない、介在(治療や健康への何らかの対処)の記録をしらべて、改善の可能性を探
り、それを実践するという学習あるいは進化の仕組み(Learning Healthcare Ecosystem)であ
る。このセッションでは、こうした新しい領域に関係した実践を事例によって紹介していただき、
討議によって理解を深めることを目的としている。
モデレーター:中井謙太(東大医科研)、神沼二眞(サイバー絆研究所)
1. 診療機関の医療データ(EMR)と個人が収集した健康医療データ(PHR) 16:05-16:30
田中博(東北大学、東北メディカル・メガバンク機構)
長い歴史のある、病院など診療機関における記録の電子化(電子カルテ)の現状や東北メ
デイカルメガバンクにおける大規模な前向きコホート研究のためのデータ収集の経験を踏
まえ、新しい波としての EMR と PHR との統合の可能性について解説する。詳細
2. 医療機関へのスマートフォンの大量導入 16:30-17:00
畑中洋亮(東京慈恵会医科大学、先端医療情報技術研究講座)
慈恵医大では、昨年 4 月に寄附講座として「先端医療情報技術研究講座」を設置し、10 月
からは iPhone3,400 台を全 4 病院の臨床現場に導入、
臨床現場からの医療改革を開始している。
現代人の多くが保有するスマホを中心とする新しい ICT が、患者や医療従事者へ具体的に貢献
する新しい「医療と研究」のカタチをどのように生み出そうとしているかを紹介する。詳細
4. がん診療への NGS と IBM Watson の利用 17:00-17:30
古川洋一(東大医科学研究所、臨床ゲノム腫瘍学分野)
東京大学医科学研究所では、昨年 7 月より IBM が開発した人工知能 Watson(Watson Genomic
Analytics)を日本で初めて導入し、がん患者の診療における有用性を検討する共同研究を開
始した。本発表では次世代シークエンサー(NGS)解析で得られたがんのゲノム情報を、Watson
を利用して解析した経験を紹介する。詳細
3. 総合質疑 (延長可能な時間内)
以上の紹介事例は、医療だけでなく、医薬品の開発、薬の適正使用、Precision Medicine,
Personalized Medicine, Personalized Nutrition(個人に適した食事の助言)など、幅広
い領域で参考になると思われる。そのような観点から近未来の課題も含めて、質疑を交えて
理解を深める。詳細
参考文献(モデレーターによる)
・K. Shameer et al. Translational bioinformatics in the era of real-time biomedical, health
care and wellness data streams, Briefings in Bioinformatics, 1–20, 2016.
・東京慈恵会医科大学先端医療情報技術研究講座、スマホで始まる未来の医療~医療+ ICT の最
前線~、日経 BP, 2016.
・ D. Ferrucci, Watson: Beyond Jeopardy! Artificial Intelligence 199–200:93–105, 2013.
・古川洋一、変わる遺伝子医療 (ポプラ新書)、2014 年。
より詳しい背景および参考資料については、関連サイト(http://xxxxx)を準備中。
より詳しい背景および参考資料サイトのコンテンツ(準備中)
「がん診療への NGS と IBM Watson の利用」要旨
次世代シークエンサー(NGS: Next-Generation Sequencer)による腫瘍組織のゲノム解析は、が
んの発生・進展メカニズムの解明だけでなく、新たな医療の開発にも多大な貢献をしている。が
んの医療開発分野では、がん化に関わる新たなドライバー遺伝子変異の発見を通じて、新規分子
標的薬の開発にも寄与してきた。また、腫瘍ゲノムの異常に応じた薬剤の選択など、個別化医療
の実現にも役立っている。さらに個別化医療を発展させる為には、ゲノム情報と臨床情報を統合
したデータベースの整備や、ビッグデータを解析する情報処理システムの開発が必要である。
我々は、当研究所血液内科の東條教授、ヒトゲノム解析センターの宮野教授、ヘルスインテリジ
ェンスセンターの井元教授らとともに、IBM の開発した人工知能 Watson Genomic Analytics を
ゲノム情報分析に取り入れる共同研究を開始した。具体例では、治療薬耐性となった再発性がん
の腫瘍組織の全ゲノム解析を行い、タンパク質をコードする領域に約 4000 種類の変異と、欠失・
増幅、染色体転座などのゲノム構造異常約 90 種類を同定した。この結果を Watson で解析した結
果、10~20 分でがんと関連する遺伝子変異 99 種類と、構造異常 4 種類を選び出した。それと共
に、選ばれた変異・構造異常に対して効果が期待される分子標的薬数種類を提示した。これらの
候補薬剤の選択根拠となる論文情報も添付されており、変異の解釈にかかる労力および時間が軽
減・短縮された。膨大な変異情報の中から、エビデンスに基づいて有用性が示された候補治療薬
を探し出すツールは、今後ますます必要になるものと見込まれる。