GISの販促活用 顧客データや年齢層から最適な方法を選択

シリーズ 商圏分析と立地診断[第26回]
GISの販促活用
顧客データや年齢層から最適な方法を選択
販促には折込チラシやポスティングなど様々な手法
そこで今月は、最適な販促方法を選択する過程を紹
があるが、地図情報システム(GIS)を利用すれば商
介する。
圏特性や販促内容に応じて最適な販促手法を分析する
※記事中の顧客データはダミーです。実際のものではあ
ことができる。本誌ページでも紹介している通り、イ
(田中)
りません。
ンターネット広告もその選択肢の一つになった。
資料提供:技研商事インターナショナル(株)
『MarketAnalyzer™』
人口からチラシ配布地域を選択
図1
販促方法を選択の過程を解説する
ために、東京 23 区内にあるホーム
センターくろがねや成城店(東京都
世田谷区)と東京都下にあるホーム
ランドヤサカ青梅新町店(東京都青
梅市)の半径 2 キロ圏を解析した。
この 2 店を選択したのは単に、都市
部と郊外という異なる商圏特性でそ
れぞれの販促手法がどう変わるのか
を比較したかったため。
図 1 と 図 2 は、 ホ ー ム セ ン タ ー
(HC)2 店(図 1 はくろがねや、図 2
はヤサカ)の半径 2 キロ圏を郵便番
号区域で分割し、それぞれの地区の
人口を地図上に表記したうえで人口
密度に応じて色塗りをした地図。地
図は用途に応じて市区町村区分に分
けることや新聞販売店エリアに分け
ることができる。またポスティング
のために徒歩何分圏という区分けも
可能だ。
仮にこの区分けが新聞販売店エリ
アだったとしたら、地図上の人口を
参考に予算に応じて配布地域を選択
することができる。単に人口の多い
地域を選ぶ場合には色の濃い地域を
選択すればいいが、足元人口のみに
配布したい場合には、この地図に車
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図2
シリーズ 商圏分析と立地診断[第 26 回]
5 分圏などの範囲を描き、該当する
図3
地域のみを選択する方法もある。
会員化率に応じた販促も可能
図 3 ~ 5 は、HC2 店の周辺図にダ
ミーの顧客データを重ねたもの。各
店で発行しているカード会員の居住
地が示されているという前提だ。小
さなマル印が会員顧客の居住地を示
している。したがって、会員が多い
地域に販促する場合には点の集まっ
ている地域を中心に、逆に会員が少
ない地域に販促する場合には点のま
ばらな地域を中心に折込チラシの配
布地域を選択すればよい。
図 4 と図 6 は、郵便番号区域の会
図4
員化率を集計したうえで色塗りをし
た地図。会員化率が高い地域は色が
濃く、低い地域は色を薄くしている。
図 4 を見ると、店よりも西側の会
員化率が高く、東側の会員化率が低
いことが分かる。またもっとも会員
化率が高いのは、店の周辺ではなく
一番南側の地域になっている。
図 5 では逆に、店の周辺の会員化
率は高い。店の東側は比較的シェア
が高いものの、西側はあまりシェア
が高くないことが分かる。
何度も言うがこれはダミーの顧客
データなので、実際には図 4 のよう
に高速道路を越えた南側の会員化率
図5
が高くなることは考えにくい。ただ
いずれにしても自社のシェア率がひ
と目で分かるので、折込チラシを配
布する際だけでなくポスティングを
する際にも参考にできる資料だ。
若年層にはチラシ以外の販促を
ここまでは新聞の折込チラシとポ
スティングを前提に解説をしてきた
が、それぞれには限界もある。表 1
は、NHK 放送文化研究所が発表し
た年齢別の新聞行為者率。1 日に 15
分以上新聞を読んだ人の割合だ。こ
れには自分で購入していない場合や
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電子版のみの購読なども含むが、実
図6
際に新聞を 15 分以上読んだ人の割
合なので、購読率(=折込チラシの
配布率)というよりもリーチ率(折
込チラシを実際に目にした率)に近
い。したがって、購読率よりも低い
数値になっている筈だ。
これを見ると、10 代 20 代は 10%
以下、30 代でも 10%前後しかない。
さらに年齢が上がるにつれて上昇
し、40 代 で は 20 ~ 30 %、50 代 は
40%前後、60 代は 50%以上で、70
代は 50 ~ 70%になっている。
前述のようにこれを購読率ではなく
リーチ率だと考えると、 年 齢 層が 高
図7
い顧客に対する販促としては折込チ
ラシで十分かも知れない。ただし20
~ 30 代、中でも20 代の女性には販
促効果がとても低いことが分かる。
高齢者の少ない地域を選択
そこで、今月号で紹介しているデ
ジタル・アドバタイジング・コンソ
ーシアム(DAC)のネット広告を使
って比較的年齢層の低い客層に販促
をするための資料を作成してみる。
図 7 と図 9 は、各商圏の年齢別構
成を地図に示したもの。ここでは
60 歳以上の人口比に応じて色塗り
をしている。色が濃ければ 60 歳以
図8
上の人口比が高く、薄ければ低い。
図 7 を見ると、店より西側の地域
は高齢者の比率が高いことが分か
る。これと合わせて図 4 の顧客分布
を見ると、高齢者の比率が高い地域
は会員化率も高く、高齢者の比率が
低い地域は会員化率も低い。前述の
通り 60 代以上は新聞行為者率が高
いうえ会員化率も高いので、これま
で通り折込チラシやダイレクトメー
ル(DM)でも十分販促できそうだ。
但し店の東側は、これまで通りの販
ト広告を試してみる価値があること
かる。図 6 の会員化率と見比べても
促では効果が薄い可能性がある。こ
が分かる。
相関関係はなさそうだ。そこでこの
れらのことから店の東側地域には、
若い世代向けに新たなインターネッ
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一方で図 9 を見ると、店の周辺は
場合には、会員化率とは関係なく若
60 歳以上の人口比が低いことが分
い世代が多く住む地域を中心にイン
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ターネット広告を試してみる価値が
図9
ありそうだ。
ちなみに両店の年代別人口構成比
(図8と図10)を比べると、くろがね
やの足元商圏はヤサカに比べ、高齢
者の構成比が全般的に高いことが分
かる。大雑把な言い方をすれば、く
ろがねやはヤサカよりも折込チラシ
の販促効果が高いということになる。
販促ツールは記事内にあるものの
他に E メールや SNS など様々なも
のがある。GIS を活用すれば、これ
らを効果的に組み合わせて費用対効
果の高い販促ツールを選ぶことがで
きる。
図 10
表1
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