研究倫理について考えよう

9章
社会・文化
TFU リエゾンゼミ・ナビ『学びと出会い』
9-13.研究倫理について考えよう
1
21 世紀以降の主な研究不正事件
〔1〕
旧石器捏造事件(2000 年)
「ゴッドハンド」とまで呼ばれた民間考古学者が宮城県築館町の上高
森遺跡などで発見したとされる旧石器が捏造と暴露された事件。ねつ造
は 30 年以上前から行われていた。影響が極めて大きく、歴史教科書の
修正や大学入試問題にまで及びました。
〔2〕ベル研究所研究員論文大量ねつ造事件(2002 年)
電話の発明者グラハム・ベルに由来する名門研究所の研究員が大量の
論文でデータをねつ造していた事件。『ネイチャー』(※1)、『サイエン
ス』
(※2)、
『フィジカル・レビュー』
(※3)等の世界に影響の強い雑誌
でのデータねつ造が問題となり、21 本の論文が撤回された。研究員は
解雇され、博士号も剥奪されました。
〔3〕ES 細胞ねつ造事件(2005 年)
韓国初の自然科学系ノーベル賞受賞を期待されていた研究者の論文
が、調査委員会で捏造と断定されて論文が撤回された事件。研究者は研
究助成金など約 6500 万円を騙し取ったと、懲役 2 年(執行猶予 3 年)
※1 Nature
1869 年に天文学者ノーマ
ン・ロッキャーによってイ
ギリスで創刊された総合
学術雑誌。世界で特に権威
のある学術雑誌の一つ。
※2 Science
アメリカ科学振興協会
(AAAS) によって発行さ
れている 1880 年創刊の学
術雑誌。世界で特に権威の
ある学術雑誌の一つ。
※3 Physical Review
物理学専門誌として最も
権威がある、アメリカ物理
学会が発行する学術雑誌。
の有罪判決を受けました。
2 我国の最近の研究不正事件
〔1〕ディオバン事件(2013 年)
高血圧治療薬の臨床研究に製薬会社社員が統計解析者と関与し、デー
タをねつ造した事件。関連する研究論文が撤回されるのみでなく、製薬
認可に直結する研究への不正、利害当事者の関与(利益相反※4)が大
きく問題視されました。
〔2〕刺激惹起性多能性獲得細胞(STAP 細胞)事件(2014 年)
2014 年 1 月『ネイチャー』掲載の STAP 細胞に関する論文のデータが
ねつ造とされた事件。この細胞は、多くの科学者が論文に従って試みて
も再現できませんでした。後に、代表研究者の博士論文の盗用も併せて
問題となり、博士号が取り消されました。
※4
利害に関係なく中立的に
業務を行わなければなら
ない者が、自己や第三者の
利益を図り、依頼者の利益
を損なう行為のこと。
3
研究不正の分類
米科学アカデミーによれば、研究不正は次の3レベルに分類でき、罪の
重さ的には Category3→1→2 となります。
●category 3
研究違法行為(Unacceptable Research Practices)
研究実施に伴う法違反や犯罪行為。研究行為とは直接の関係がないセク
ハラやアカハラ、研究費不正使用、着服など、研究に関係なく問題となる
違法行為のことです。
●category 1
研究不正行為 (Research Misconduct)FFP
「捏造」
(Fabrication)
存在しないデータ、研究結果等を作成すること。
「改ざん」
(Falsification)
研究資料・機器・過程を変更する操作を行い、データ、研究活動によっ
て得られた結果等を真正でないものに加工すること。
「盗用、剽窃」(Plagiarism)
他の研究者のアイディア、分析・解析方法、データ、研究結果、論文又
は用語を、当該研究者の了解もしくは適切な表示なく流用すること。
従来はこの二つが「研究不正」の対象でしたが、2000 年以降はこれを
更に拡大しカテゴリーが新設され「研究不正」の対象となりました。
●category 2
問題ある(好ましくない)研究行為
(Questionable research practice)
アメリカ科学アカデミーは、問題有る研究行為として以下を上げており、
これらも研究不正とされますので注意しましょう。
・重要な研究データを,一定期間,保管しないこと
・研究記録の不適切な管理
・論文著者の記載における問題
・研究試料・研究データの提供拒絶
・不十分な研究指導,学生の搾取
・研究成果の不誠実な発表(特にメディアに対して)
4
研究不正はなぜいけないのか?
道徳的理由は当然として、研究不正がいけない理由はいくつかありますが、
ここでは二つを紹介します。
第一には、少数の不正をする研究者が得をするようだと、多くの研究者も
真面目に研究をしなくなります。
「悪貨が良貨を駆逐する」ことなく、多く
の研究者が真理の探究に向かって努力し、社会全体を良くするためには努力
したものの権利を保証するためにも、研究不正を防止せねばなりません。も
し研究不正が多発すれば、研究や科学への信頼が損なわれ、そこへの公費投
入も減少し、結果として公共の福祉が損なわれます。
第二には、効率の側面です。研究には多くの時間や費用が必要で、多くの
公的資金や時間がそこに費やされます。もし、その土台となっているものが
「剽窃」については、下記の
サイト:慶應義塾大学 教養
研究センター アカデミッ
ク・スキルズ「剽窃について」
はよくまとまっていますの
で、視聴してください。
https://www.youtube.com/w
研究不正による嘘のものならば、そこに費やされた時間や費用は無駄となり、 atch?v=IxM1e4W1S8I
これは当事者だけでなく社会にも大きな浪費になります。また、研究不正取
締まりにも、膨大なコストがかかります。こうした社会的コストの節約のた
めにも、研究不正はいけないという規範を社会で共有する必要があります。
5
研究倫理は道徳、マナーではない
研究倫理を「嘘をついてはいけない」という一般道徳、マナーと同一視す
る人がいますが、これは間違いです。一般道徳は通常、人間が社会生活を営
んでいれば自然と身につきます。身に付けたものを守るか否かが問題です。
研究倫理はそれと異なる、特定組織の独自規範です。なので、自然に身に
つくような moral ではなく、特別に修得せねばならない ethics になります。
例えば「将棋愛好者」という人の輪に混じって活動するには、将棋のルール
を身に着けねば一緒にプレーできません。これは社会生活で得られるもので
はなく、本を読んだり人から聞いたりして、自ら覚える必要があります。
「研
究倫理」は、研究という職業に特有の考え方・規則・対処法であって、自然
には習得できません。従って研究倫理教育が必要になるのです。
6
大学での研究倫理
大学とは、科学、研究を行う場です。従って、大学生には研究倫理教育が
必要となります。大学生活でのレポートにおける「盗用」
「剽窃」
(出典を明
らかにせずに他人の著作物を引用すること、ex.ネットのコピペ)は大きな
問題です。高額の授業料を払って勉強しに来ているのに、知識・技術を身に
着けられないだけでなく、これは「知的万引き」であり、犯罪です。欧米の
大学では、これをすると退学になる可能性もあります。剽窃は一読すればす
ぐわかりますし、近年ではコピペなどの剽窃を自動検索するソフトウェアも開
発され、多くの大学で導入されています。
卒業論文などではこれが更に厳格化されつつあり、2007 年に文京学院大学
で初めて剽窃による修士論文の学位授与取り消しがなされ、翌 2008 年には山
形大学で博士論文の学位が取り消されています。
7
研究倫理を学ぶ教材
研究倫理を学ぶには、たくさんの教材があります。学部生レベルでは少し難
しいかもしれませんが、日本学術振興会が 2015 年位発行した『科学の健全な
発展のために
-誠実な科学者の心得-』(丸善、2015)は、豊富な情報が載
せられています。Web 版を無料で読めるので、アクセスしてみてください。
日本学術振興会
『科学の健全な発展のために-誠実な科学者の心得-
テキスト版(日本語)』
https://www.jsps.go.jp/j-kousei/data/rinri.pdf
科学技術振興機構では、研究倫理を学べるゲーム「The Lab」を公開していま
す。このゲームでプレイヤーは、研究代表者、外国人ポスドク、大学院生、研
究倫理担当者 4 つの異なるキャラクターを演じ、判断が迫られる場ではその立
場から選択を行います。その選択の組み合わせで、異なった結末を迎えるバー
チャル体験型の学習シミュレーションとなっています。
科学技術振興機構
The Lab
http://lab.jst.go.jp/
コピペレポ
Wikipedia をハイ
ートは、一
パーリンクもその
歩間違った
ままでコピペしち
ら退学だ
ゃった…
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