エッセー7 マンション居住者の高齢化への対応

2012 年 10 月
エッセー7
マンション居住者の高齢化への対応
不動産コンサルタント : 矢島 尚司
新築時に購入した持ち主が、物件と共に高齢化して住み続けていきます。物件が古くなるにつれて
修繕費がかかるようになっていきます。管理組合が潤沢な修繕積立金を蓄えるためには、次第に積
立金支払いを増加させなければなりませんが、リタイア後の人にはきつい負担となります。
最終的には建て替えが検討されますが、10年以上の余命を期待していないような年金生活者が建
替えに同意することはなかなか難しいのです。
管理組合は民法上の組合です。民法上の組合の意思決定は全員一致が原則です。ということは、ひ
とりのオーナーでも反対すれば建替えができないことになってしまいますので、区分所有法におい
ては、所有者の5分の4の賛成によって建て替えができるようになっています。さらに、「マンシ
ョンの建替えの円滑化等に関する法律」が制定されました(平成14年6月)。
(大規模災害の場合には、特別措置法によってさらなる円滑化がはかられています。)
このいわゆる円滑化法を活用した建替え事例が平成16年から22年4月時点までに50件あり、
うち41件は工事完了しています。活用していない建替えは同じ時期に26件(16件が工事完了)
にとどまり、今後は建替えは基本的に円滑法を使うことになると思います。でも、これは建て替え
必要なマンションのほんのひと握り、いやひとつまみにもなりません。
この法律を使用しても管理組合の合意形成を進めることは難しく、
1)土地が広々としている(公団の分譲など)。余った土地分が高く売れる。容積率の未使用分が
あったり、建設時より容積率が緩和されたりしたことで増床が可能になった
2)エレベータがなく、建て替えで階段上り下りしなくて済むのが賛成への強いモチベーションに
なる
がそろわないと、建て替えに向かって進みづらいのです。増床によって例えば50戸の物件が60
戸になれば10戸分を新たに分譲し、その売却代金で建築コストの一部をまかなうことが期待され
ます。そのようなケースではゼネコンやデベロッパーのような業者が住民の合意形成を促進してく
れます。高齢者でも子供と共同名義化を提案し、同時に親子ローンを斡旋するなど資金調達への道
をつけてくれることもあります。身寄りのないお年寄りの場合には、権利を買い上げて老健施設へ
の支払いに充てるようなプランを提案してくれることでしょう。
2012 年 10 月
不動産コンサルタント : 矢島 尚司
管理組合のような「ご近所さん」に自身の懐具合を明かすことは抵抗があり無条件に建替え反対す
る住民も、第三者である業者には同意できる条件を伝えることができたりすることがあります。業
者は交渉やとりまとめのプロフェッショナルですから、管理組合が自力で進めるよりも遙かに上手
です。
その物件そのものの増床が無理でも、近隣の低層建物の未利用の容積率を買い上げたり、近隣を地
上げしたりした大きなプロジェクトに仕立てることで全体の価値を高め、新たな買い手を呼び込む
ことが期待できる場合には、より大手の業者が関わってくれます。(むしろ中小業者の手に余るの
です。
)
しかし、そのような幸運な例は駅の近くの条件の良い土地に限られ、それほど多くはありません。
逆に建替えると建築後に強化された規制によって、日影規制が適用され、減床になるケースもあり
ます。周囲が建て込んだために大型重機の搬入が難しくなり、建設コスト・期間が上昇する例もあ
ります。
増床も無理で、住民のほとんどが貧乏な年金生活者で蓄えもなく、力のある身内もいなくて借り入
れも不可能な物件には業者も寄りつきません。
地方、山間地には、若年層が都市に流出して、高齢者だけが残っている集落が増えています。高齢
者が次第に亡くなっていくと集落を構成する最低限度の人数が確保できなくなることが予想され
るような集落を「限界集落」と呼びます。
昭和40年代に開発された公営団地が、「都市型限界集落」になり始めています。淋しい、汚い、
恐いという都市スラムとなり、自治体や公団が頭を抱えています。
あなたの住むマンションがこのようになることを防ぐには、
①潤沢な修繕積立金により定期的な大規模修繕の実施
②若年層に向けた、共用施設のリノベ-ション
に加え、
③コミュニケーションの活発化
2012 年 10 月
不動産コンサルタント : 矢島 尚司
が必須の条件となります。
居住者が、管理組合・自治会・各種サ-クルの中で、生き生きと活動し、住民がお互いの生活に関
心を持ち、異常に気づくようになることで、お年寄りが経済的・身体的に困窮する前に行政やコミ
ュニティが助けの手をさしのべることができます。そのことで、孤独死を減らしたり、発見を早め
たりすることにつながります。
お年寄りが、生きる知恵を伝承するサークル活動で、若年者・幼年者と接する世代交流が盛んにな
ることも期待したい。そうすれば社会全体が明るさを取り戻していくのではないでしょうか。
これは、行政の助けを待つだけではなく、マンションに住む住民のひとりひとりが、少しずつ意識
を変え、気持ちをオープンにしていくことが必要です。最初は世話役に大きな負担がかかることも
あるかもしれませんが、多くの人が楽しさを味わって、仲間の輪が広がっていくと長続きします。
成功例が報道され、ネットが活用されて、ノウハウが共有されていけば良いですね。
コミュニケーションが日頃から行われていれば、将来避けて通れない建替えについて意識を高める
ことができ、業者やコンサルタントへの相談も早くから行うことができます。
私が居住する物件の、今期の管理組合総会で「住まいト-タリエ」の導入が決まりました。24 時間・
365 日対応サ-ビスです。専有部分のサ-ビス(水のトラブル対応・電球の交換・給湯器のトラブ
ル対応他)、生活サポートサービス(家事・買い物代行・便利屋・宅配食・ハウスクリーニング等)
があり、高齢化社会と働く家庭への利便性の要望に応えています。組合が機能していれば、古いマ
ンションであってもこのように、くらしのグレードアップができるのです。
さらに、
④ マンションの二次マーケットの活性化
がどうしても必要です。
これについては、いくつか後のエッセーにて述べることにいたします。