建築コストの経年変化の調査(平成27年度)

建築コストの経年変化の調査(平成27年度)
総括主席研究員
岩 松
研
大川 浩子
究
部
準
1 調査の目的と経緯
建築コスト管理システム研究所(以下、コスト研という)では、1996年(平成8年)より「建築コストの
変動が把握可能なコスト項目について、その価格の経年変化を長期的に調査し、その実態を図表
に整理して公表することや、その変動要因の分析やコスト変動のシミュレーションを行うこと」を目的
とした自主研究に取り組んでいる。具体的な研究対象は、代表的な建築工事の単価情報である。
建築工事の積算に利用される単価には、市場単価、施工単価、材料単価、労務単価があるが、
それらの水準や推移を体系的かつ長期的に整理した資料は、それまで殆どなかった。価格(単価)
は様々なメッセージを関係者に与える。建築コストを扱うコスト研としても基礎的な研究に取り組む
必要があった。しかしながら、コスト研は独自の価格調査機能を持たないため、(一財)経済調査会
及び(一財)建設物価調査会(以下、両調査会という)が発行する定期刊行物4誌(図1-1)からの
主要9都市の価格情報をインプットすることにしてスタートした。
この研究による成果は、当初は機関誌(建築コスト研究)記事や学術論文として発表された。そ
の後、2007年(平成19年)2月にコスト研のホームページで、70アイテムについての単価の長期推
移がわかる図表並びに関係論文を初めて公表した。その後も図表の表現方法等に改良を加え、
掲載アイテムを順次追加しつつ、毎年度データを更新している。
2016年(平成28年)1月以降は、1970年からの長期の推移グラフをアーカイブ化し、2015年10月
までの情報で更新を取りやめた(アーカイブページで公開中)。そして、単価の新たな改訂情報に
ついては、2010年からの推移グラフとして示すこととした。これに伴い、グラフの表現法や各アイテ
ムの単価説明を適切に見直すなど、大幅な改訂を行った。表1-1に掲載アイテムのリストを示す。
図1-1 単価情報を引用した出版物
出典 (一財)経済調査会 「積算資料」「建築施工単価」
(一財)建設物価調査会 「建設物価」「建築コスト情報」
1
表1-1 掲載アイテムのリスト(113)
市場単価(40)
施工単価(6)
材料単価(48)
1)鉄骨工場加工組立
建 築 工 事 ( 8)
5
14)EP(合成樹脂エマルションペイント、1 種、白) 14)内装工
15)床ビニル床シート(プレーン、t2.5)
15)ガラス工
16)床ビニル床タイル(半硬質、t2)
17)床タイルカーペット(BCF-N100、t6.5x500mm
角)
18)壁せっこうボード(不燃、t12.5)
19)天井ロックウール化粧吸音板 1(フラット
タイプ、不燃、t9)
20)天井ロックウール化粧吸音板 2(凹凸タイ
プ、不燃、t12)
21)天井捨張用せっこうボード(不燃、t9.5)
14)ビニル床シート張り
15)タイルカーペット張り
16)壁せっこうボード張り
17)天井ロックウール吸音板張り 1
(フラットタイプ)
18)天井ロックウール吸音板張り 2
(凹凸タイプ)
1)600V ビニル絶縁電線
1)埋込形蛍光灯
1)600V ビニル絶縁電線 1(1.6mm)
1)電工
2)600V ビニル絶縁電線 2(38mm 2 )
3)600V 耐燃性ポリエチレン絶縁電線(38mm 2 )
4)600V ビニル絶縁ビニルシースケーブル
(VVF3 芯、1.6mm)
5)600V ポリエチレン絶縁耐燃性ポリエチレ
ンシースケーブル(EM-EEF3 芯、1.6mm)
6)600V 架橋ポリエチレン絶縁耐燃性ポリエ
チレンシースケーブル(3 芯、38mm 2 )
7)合成樹脂可とう電線管(22mm)
8)2種金属線ぴ(A 型、40x30mm)
9)ケーブルラック(ZM500A)
10)鋼板製プルボックス 1(500x500x300mm)
11)鋼板製プルボックス 2(200x200x100mm)
12)位置ボックス(アウトレットボックス中型
四角浅型)
13)防火区画貫通処理材
14)接地極(銅板式 1.5t x900x900mm)
15)電動機その他接続材(金属製可とう電線管
17mm)
16)埋込形蛍光灯(FRS15-322)
17)露出形蛍光灯(FSS9-322)
1)配管工事(水道用
硬質塩化ビニルラ
イニング鋼管、手
間のみ)
1)ダクト用亜鉛鉄板(平板、0.5t)
2)スパイラルダクト(200φx0.5mm)
3)チャンバー用亜鉛鉄板(平板、0.8t)
4)シーリングディフューザー(アネモ形、
C2#20)
5)風量調節ダンパー(VD、300x300mm)
6)洋風便器(C910R)
7)保温材 1(長方形ダクト用)
8)保温材 2(スパイラルダクト用、200φ)
9)保温材 3(給水配管用、25A)
10)水道用硬質塩化ビニルライニング鋼管
(50A)
2)600V 耐燃性ポリエチレン絶縁電
線
3)600V ビニル絶縁ビニルシースケ
ーブル
電気設備工事( )
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4)600V ポリエチレン絶縁耐燃性ポ
リエチレンシースケーブル
5)合成樹脂製可とう電線管
6)2種金属線ぴ
7)ケーブルラック
8)鋼板製プルボックス 1
9)鋼板製プルボックス 2
10)位置ボックス
11)防火区画貫通処理
12)接地極
13)電動機その他接続材
1)コーナーボルト工法ダクト
機械設備工事( )
23
労務単価(19)
1)異形棒鋼 1(SD295A D10)
1)特殊作業員
2)異形棒鋼 2(SD345 D25)
2)床用磁器質タイル
2)鉄筋加工組立(施工費のみ)
2)普通作業員
3)生コンクリート(強度 21N/mm 2 、スランプ
3)外壁小口タイル
3)鉄筋ガス圧接(施工費のみ)
3)とび工
18cm)
4)コンクリート型枠用合板(t12、輸入品) 4)鉄筋工
4)コンクリート工事(施工費のみ) 4)アルミ製建具
5)H 形鋼(SS400、H-200x100x5.5x8mm)
5)普通合板型枠
5)鉄骨工
6)屋根アスファルト防水(平部アスファルトルーフィン
6)屋根アスファルト防水
6)塗装工
グ A-2 密着工法)
7)シーリング(PS-2、ポリサルファイド、10x10mm) 7)溶接工
7)シーリング
8)床タイル Ⅰ類(磁器質、無釉、100x100mm
8)屋内軽量鉄骨天井下地
8)運転手(特殊)
角、平)
9)外装タイル Ⅰ類(磁器質、施釉、108× 9)型わく工
9)床コンクリート面直均し仕上げ
60mm、小口平)
10)複層塗材 E
10)大工
10)木材(正角材 105×105×L4000mm、米つが)
11)フロート板ガラス
11)天井鋼製下地材(シングル野縁、CS-19) 11)左官
12)ビル用アルミサッシ(引違い窓、
12)EP 塗り
12)防水工
W1500xH1800)
13)ビニル床タイル張り
13)フロート板ガラス(FL-5mm、2.18m 2 以下) 13)タイル工
1)根切り
2)スパイラルダクト
3)チャンバー
4)シーリングディフューザー(アネ
モ形、取付費のみ)
5)風量調節ダンパー(取付費のみ)
6)衛生器具取付費(取付費のみ)
7)保温工事 1(長方形ダクト)
8)保温工事 2(スパイラルダクト)
9)保温工事 3(給水配管)
© 2006-2016(一財)建築コスト管理システム研究所
2
1)ダクト工
2)配管工
3)保温工
上記の措置としたのは下記のような点からである。

1970年頃からの長期グラフに価格情報を四半期毎に追加し続けても、その変動が次第に
把握しにくい状況となっている。

価格変動は5~10年のタイムスパンで見ればおおよそ把握が可能であり、実用的な目的か
らしても十分と思われる。

1970年以降の超長期の価格情報が一枚になったグラフについては、更新中のグラフの時
間軸の目盛りが一杯になるころに、その接続が可能なものについて、繋げたものを別途作
成し、現在のアーカイブページで公開中のものと入れ替えることを想定している。
2 提供中の価格情報等の内容(※詳細はコスト研ホームページを参照ください。)
表1-1には113アイテムがあるが、上記のように、基本的にこれまでの採録単価アイテム数をその
まま引き継いだ。今回の表示年見直し作業に伴い、現在、採録アイテムの条件等の見直しを行っ
ている。今後、必要に応じて順次行う方針である。図2-1には市場単価と材料単価の例を示した。
また、価格採取の頻度は、これまでと同様、ほぼ1年ごとに改定される労務単価を除いて、原則的
に四半期毎(両調査会の1、4、7、10月に刊行される物価資料で発表される数値)である。
①市場単価の例「鉄筋加工組立(施工費のみ)」
②材料単価の例「異形棒鋼1(SD295A D10)」
図2-1 新しい表示期間に変更にした経年変化グラフ(上段)及びアイテムの単価設定条件(下段)
3
なお、各単価の推移グラフは PDF 形式のみでの情報提供が基本となるが、国から公表される公
共工事設計労務単価については、国公表資料や関連文献とともに、エクセルや CSV 形式による
時系列データの提供を引き続き行っている(図2-2、図2-3)。また、本研究の成果は、コスト研内の
他の自主研究等でもデータやグラフ等の素材が活用されている。
図2-2 国土交通省公表の設計労務単価情報
図2-3 コスト研が再整理したデータ
近年、建築の様々なコストが大きく変動する状況があり、両調査会及び国が調べて公表している
代表的なコスト情報を、四半期毎にタイムリーにまとめて示すことは、それなりに社会的意義をもつ
ものと捉えている。また、当研究所としても、本調査で得た情報を使って、それに的確な分析を加え
ることにより、より分かり易く建築コストの状況を伝える研究に役立てていきたいと考えている。
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