接触場面における日本語母語話者の配慮 ―ロールプレイにおける

ポスター発表
接触場面における日本語母語話者の配慮
―ロールプレイにおけるモニタリングの分析を通して―
フォード丹羽 順子(佐賀大学)
三宅 和子(東洋大学)
1 この研究の目的
接触場面の会話は、表面上はスムーズに見えても、母語話者からの歩み寄りで成立してい
ることが多いだろう。そこで、本研究では、接触場面において日本語母語話者が学習者の言
語行動に対してどのような配慮をしながら会話をしているかを明らかにすることにした。
2 研究の方法
2.1 モニタリング
モニタリングとは、会話参加者が会話中に内省的に行っている、自己と会話相手の言語行
動に関する評価や判断のことである(三宅・フォード丹羽 2014)
。
2.2 実施の手続き
日本語学習者8名(日本語能力試験 N3レベル4名、N2レベル4名)と日本人学生8名
のペアに、ロールプレイ(以下 RP と略す)を実施し録音した。RP 実施後1週間以内に、個
別に、モニタリングのフォローアップインタビュー(以下 FU と略す)を行った。
RP は、学習者がバイト先の日本人学生に、授業での発表の準備ができていないため、今週
の土曜日のシフトを代わってほしいと頼む、依頼場面のものである。
3 結果と考察
日本人学生のモニタリングから、学習者の言語行動に対してさまざまな配慮がなされてい
ることがわかった。これらは、
(1)学習者の日本語能力に対する「言語的な配慮」
、
(2)会
話が円滑に進むようにする「談話展開的な配慮」
、
(3)相手の感情を考える「語用論的な配
慮」の3種類に分けることができた。
3.1 言語的な配慮
次の(4)について、日本人学生 T は FU で、学習者 S が「店長」という言葉を知ってい
るか不安に思い、
「トップ」という言葉を補足したと述べている。また、T9 では「いいです
よ」という言葉は、了承の「いい」なのか、断りの「いい」なのかがわからないかもしれな
いと思い「手伝います」を補足したと述べている。
(4)S7:うーん、バイトの、代わっていただけませんか。
T7:あー、そうだね、それ、店長に、あの、店の、その、トップの人には言ってま
すか。
(中略)
T9:そうなんですね。じゃ、いいですよ。手伝います。
このように、学習者の日本語能力に配慮して言葉を補ったり言い換えたりするという配慮
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が見られた。
3.2 談話展開的な配慮
次の(5)について、日本人学生 M は FU で、学習者 Y が「こんにちは」と言って話を切
り出したことに関して、日本語話者は普通は言わないと思ったものの、学習者に合わせて「こ
んにちは」と返したと話している。また、
(6)については、日本人学生 A は、授業の時間
が重なっているかを尋ねたのに対して「準備はまだだ」と答えられ、理解しづらかったが話
をつなげるために受け入れたと話している。
(5)Y1:あ、マリ、こんにちは。
M1:こんにちは、どうしたの、ユー。
(6)Y2: 来週授業で、発表、発表があって、あ、う、アルバイトの、あ、アルバイ
トの時間は重なっています。
(中略)
A3: 授業の時間が重なってるんですか。
Y4: あー、いえ。準備はまだです。
このように、会話が円滑に進むように、相手の発話に合わせたり、相手の応答が不適切で
理解するのに困難があっても受け入れたりするという配慮が見られた。
3.3 語用論的な配慮
次の(7)について、日本人学生 M は、学習者の依頼を断る際、強く「代われない」とは
言えないと感じ、申し訳ないという気持ちがあったと説明している。M の発話には様々な緩
和表現が使われている。また、
(8)については、日本人学生は依頼を断ることを本当に申し
訳ないという気持ちを伝えるため、ためらいながら新たな提案をしたと話している。
(7)M3: あーっとね、2週間後に授業の発表があるんだよね。その準備があって、今
週の土曜日忙しいから、うん、代われないかも。
(8)C7: その、ラインとかで、お手伝いすることはできるけど。
S8: はい。
C8: それはどうやろ?
このように、相手の感情や人間関係に配慮した言語表現の工夫や代替策の提示などの配慮
が見られた。
4 まとめと今後の課題
以上のように、母語話者は学習者に対して、
「言語的な配慮」
、
「談話展開的な配慮」
、
「語用
論的な配慮」をしながら会話をしていることがわかった。日本人学生が行っているこれらの
配慮を検討し、依頼場面に必要な学習者のスキル、たとえば、依頼をするために話しかける
ときにあいさつの言葉は言わない、というようなことを考え、学習者にフィードバックをし
ていきたい。
また、日本人学生同士に同じ RP を実施し、学習者の RP と比較したいと考えている。
<参考文献>
三宅和子・フォード丹羽順子(2014)
「日本語学習者の会話遂行時におけるモニタリング行為」,
『ヨーロッパ日本語教育』18 号, pp. 247-248,ヨーロッパ日本語教師会.
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