みずほ欧州経済情報 2016年7月号 ◆ トピック イタリア国民投票で高まるEU「離脱ドミノ」懸念 イタリアで行われる憲法改正を問う国民投票の行方に注 目が集まっている。国民投票で憲法改正が否決されれば、 年明けにも解散総選挙となる可能性がある。 ◆ 景気判断 ユーロ圏景気は緩やかに回復 企業サーベイは、7~9月期入り後も景気が緩やかな回復を 続けていることを示唆している。ただし、下振れリスクは 高く、今後の動向を注視する必要がある。 1.トピック:イタリア国民投票で高まる EU「離脱ドミノ」への懸念 イタリアで高まる 「離脱ド ミノ」への懸念 英国に続く国はどこか?EU 各国の「離脱ドミノ」への懸念が燻る中、イタ リアで行われる憲法改正を問う国民投票の行方に注目が集まっている。レン ツィ首相は、投票結果が政権の意思に反して「憲法改正に反対(NO) 」とな った場合には辞職する意向を示しており、早期解散総選挙となれば EU 懐疑 政党が議席数を伸ばすと考えられている。国民投票は、レンツィ首相の信任 投票の様相を呈しており、EU の「離脱ドミノ」リスクとして捉えられている。 国民投票は上院の権限縮 小が目的 イタリア議会は「完全二院制」を取っており、上院(Senato della Repubblica)と、下院(Camera dei Deputati)が同等の権限を持つ。立法 権に加え、新政権に対する信任投票などについても両院が同等の権限を持っ ている。このため、立法プロセスが長期化、複雑化している上に、政権の安 定性を損なうという欠点がかねてより指摘されていた。 レンツィ首相による今回の憲法改正は、上院の権限を削減することを目的 としている。上院の権限削減により「ねじれ国会」の発生を防ぎ、政権運営 の安定性を高めることが可能になる。この改正が実現すれば、上院議員数は 現在の 315 名から 100 名に減員され、議員の選定についても国民による直接 選挙から、95 名は各地域首長の代表、5 名は大統領による推薦という形で選 ばれることになる。 レンツィ政権は 2014 年 2 月に発足して以降、上院改革のための憲法改正 を推し進めており、ようやく本年 4 月に議会で改正法が成立した。但し、イ タリア憲法の第 138 条では、憲法改正については議会で 3 分の 2 以上の賛成 が無ければ国民投票に付託されることが義務付けられており、本改正案はこ の基準を満たすことが出来なかったため、国民投票が行われることになった。 上院の権限縮小は下院の 選挙改革とセット 政権の安定運営実現に向けたレンツィ首相の憲法改正は、昨年 5 月に成立 した下院の選挙制度改革法案とも深く関連している。 イタリアでは、ボーナス議席付き二回投票制を柱とする新たな下院選挙制 度改正法案が既に成立し、2016 年 7 月より施行される。同法案では、下院選 挙制度は比例代表制を基本とするが、選挙で 40%以上の最大得票を得た政党 には 340 議席が得られる「ボーナス議席制度」がある(下院の議席総数は 630 議席。どの党も 40%の得票を得られなかった場合は、上位二党による決選投 票となる) 。この選挙制度改正によって、下院における与党の過半数維持が 容易となり、安定政権が生まれ易くなる。しかし、上下院の権限が等しい完 全二院制のままでは、下院だけ選挙制度を変えても実質的な政権の安定運営 にはつながらない。このため、併せて上院の権限縮小が必要となった。 国民投票の支持率は拮抗 国民投票の実施時期については定まっていないが、最近レンツィ首相は 「10 月 30 日か 11 月 6 日」と発言している。現在までの世論調査をみると、 2016 年初は憲法改正に賛成の支持率が約 36%と反対(約 18%)を大きく上 回っていたが、最近では両者はほぼ拮抗しており、結果については予断を許 さない(図表 1) 。背景にあるのは、レンツィ政権への支持率の低下や反 EU 機運の高まりだ。昨秋、国民に負担をかける形での銀行の不良債権処理を進 1 みずほ欧州経済情報(2016 年 7 月号) めようとした政府への不満や、止まらないイタリアへの難民流入、英国の EU 離脱国民投票キャンペーンを通じた EU 懐疑的な世論の高まりなどが挙げら れる。 仮に、国民投票で憲法改正が否決された場合、イタリアでは年明けにも解 解散総選挙なら EU 懐疑 散総選挙が実施される可能性が高まる。レンツィ首相は必ずしも辞任する必 政党躍進か 要は無いが、政治的にみれば辞任撤回は難しいだろう。現在、イタリアの政 党支持率をみると、EU との関係見直しを問う、 「五つ星運動」が支持率を伸 ばしており、同じく EU 懐疑的な政党である「北部同盟」も一定の支持を得 ている(図表 2) 。仮に解散総選挙が実施された場合は、EU 懐疑的な「五つ 星運動」が第一党となる可能性がある。もっとも、同党は他党との連立を否 定しているため、北部同盟と連立するかは現時点では分からない。しかし、 二つの EU 懐疑政党が連立に合意したり、EU 離脱に関して政策協力等を実施 することになったりすれば、イタリアが EU との関係性を問う国民投票に向 かうリスクが高まる。 図表1 イタリアの国民投票に関する世論調査 図表2 イタリアの政党支持率 (%) 50 45 1月11日 五つ星運動 フォルツァ・イタリア (%) 40 7月18日 民主党 北部同盟 35 40 30 35 30 25 25 20 20 15 15 10 10 5 5 0 2015/1 0 賛成 反対 未定 (資料)EMG_Acquaより、みずほ総合研究所作成 15/7 16/1 16/7 (年/月) (資料) EMG_Acquaより、みずほ総合研究所作成 2 みずほ欧州経済情報(2016 年 7 月号) 2.ユーロ圏経済の概況:7~9 月期も緩やかな景気回復が持続 4~6 月期のユーロ圏成 長率は低下の見込み 4~6 月期のユーロ圏GDP成長率は、内需減速により、1~3 月期(前期比 +0.6%)から低下したとみられる(1 次推計値は 7/29 発表)。外需寄与度はマ イナス幅が縮小、または、プラスに転じた可能性がある(詳細は 5 頁)。 7 月のPMIは底堅い水 英国民投票でEU離脱が選択されたことを受け、金融市場では、先行きの 準でユーロ圏景気の緩 ユーロ圏景気に対する慎重な見方が増えている。今後 6 カ月のユーロ圏景気 やかな回復の持続を示 に対する市場関係者の楽観・悲観を表すZEW景況感指数は、欧州債務危機 唆。ただし下振れリスク が深刻だった 2012 年以来の水準まで低下している(図表 3)。 が高く、8 月以降の動向 を注視する必要あり 離脱決定がユーロ圏成長率に及ぼす影響を考えると、図表 4 のようにまと められる。この内、ユーロ圏成長率に対する負の影響が特に大きいのは、投 資への影響であると思われる。今後の対英関係に関して不透明感が高まり、 英国と繋がりのある企業を中心に投資が抑制されるだろう。雇用が抑制され、 それに起因して消費が控えられることも懸念材料だ。一方、輸出減やそれに 起因した投資減など、英景気悪化の直接的な影響は限定的と考えられる。 今のところ、英国民投票後のユーロ圏景気は、7~9 月期入り後も前期並み のペースで回復を続けている模様である。成長率との連動性の高いユーロ圏 合成PMIは、7 月に 52.9 と、6 月から 0.2Pt の低下にとどまった(図表 5)。 発表元の Markit 社によると、受注や雇用は改善を続けている。ただし、下 振れリスクは高く、8 月以降の動向を注視する必要がある。 耳目を集めるイタリア 7 月に入り、イタリアの不良債権問題が耳目を集めている。イタリアでは 不良債権問題。大手行の 不良債権が 3,300 億ユーロあり、不良債権比率は 18%と高水準である(図表 不良債権処理を巡って 6)。特に注目されているのは、資産規模が第 3 位の大手行で、欧州中央銀行 イタリア政府と欧州委 (ECB)は同行に対し、今後 3 年間で不良債権を 4 割削減するよう求めてい が交渉中 る。しかし、削減によって生じる損失を全て自力で吸収することは難しそう だ。イタリア政府は公的資金の利用を模索しているが、欧州委員会は欧州連 合(EU)のルールに則して債権者による損失負担(いわゆるベイルイン)を 求め、両者の交渉が続いているようだ。 ベイルインとなれば個 イタリアでは、ベイルインを実施することに対する政治的なハードルが高 人投資家が損失を被る。 い。2015 年秋にイタリアで 4 つの銀行が救済された際、ベイルインが実施さ レンツィ政権はベイル れ、劣後債保有者が損失を被った。この劣後債保有者の多くは個人投資家で インを回避したい模様 あり、ベイルイン後、政府に対する抗議デモが起きた。今秋に国民投票を控 えて世論を意識せざるを得ないレンツィ政権にとって、有権者に評判の悪い ベイルインは、何としても回避しなければならない政策課題となっている。 3 みずほ欧州経済情報(2016 年 7 月号) 図表 3 ZEW景況感指数 図表 4 (DI%Pt、「良くなる」―「悪くなる」) 80 要因 60 40 マインド の悪化 20 0 ▲ 20 金融市場 の混乱 13/7 14/7 15/7 16/7 (年/月) 58 × 上記の投資・消費抑制に関連した輸入の減少 ○ 英国拠点の縮小→ ユーロ圏内に拠点増設 ○ 株価下落→ 逆資産効果 × 資金調達コストの増加 × 輸出を通じて○ 消費を通じて× ユーロ減価→ 輸出押し上げ、購買力低下 ○ イタリア不良債権 (億ユーロ) 4,000 (Pt) (%) 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 3,500 3,000 1,000 ← 景 気 50 2,000 1,500 → 500 0 48 縮 小 46 2009 2014/7 15/7 16/7 (年/月) ユーロ圏 ドイツ フランス イタリア・スペイン (資料)Markit よりみずほ総合研究所作成 図表 7 10 不良債権 11 12 13 14 15 不良債権比率(右目盛) 16 (年/四半期) (注)2014 年Q1 に調査対象が変更、2015 年Q1 に不良債権の定 義が変更されており、両時点で数値に断裂がある。 (資料) イタリア中銀よりみずほ総合研究所作成 ユーロ圏景気の全体感を示す主要統計 Q4 2015 Q1 2016 Q2 2016 Q3 2016 2016/02 2016/03 2016/04 2016/05 2016/06 2016/07 ユーロ圏(19カ国) 前期比、% 0.4 0.6 n.a. n.a. - - - - - - ドイツ 前期比、% 0.3 0.7 n.a. n.a. - - - - - - フランス 前期比、% 0.4 0.6 n.a. n.a. - - - - - - イタリア 前期比、% 0.2 0.3 n.a. n.a. - - - - - - スペイン 前期比、% 0.8 0.8 0.8 n.a. - - - - - - ユーロ圏合成PMI Pt 54.1 53.2 53.1 52.9 53.0 53.1 53.0 53.1 53.1 52.9 ユーロ圏製造業PMI Pt 52.8 51.7 52.0 51.9 51.2 51.6 51.7 51.5 52.8 51.9 ユーロ圏サービス業PMI Pt 54.2 53.3 53.1 52.7 53.3 53.1 53.1 53.3 52.8 52.7 長期平均=100 106.2 104.0 104.3 n.a. 103.9 103.0 104.0 104.6 104.4 ユーロ圏ESI 金融 × 不透明感の高まり→ 投資・雇用・消費の抑制 図表 6 2,500 見通し 英国向け輸出減少→ 輸出関連業の投資抑制 ユーロ圏・主要国合成PMI 拡 54 張 52 景況感 × (注)○は成長率を押し上げ、×は押し下げ。 (資料)みずほ総合研究所作成 56 実質 GDP 成長率 英国の内需悪化→ 英国向け輸出減少 油価下落→ 購買力上昇 (注)市場関係者に対し今後の景気動向を尋ねたもの。 (資料)ZEWよりみずほ総合研究所作成 図表 5 ユーロ圏成長率 への影響 想定される状況 英景気 の悪化 ▲ 40 20 12/7 離脱決定がユーロ圏に及ぼす影響の整理 1.5 1.7 1.5 1.5 - - - - - - 末値、% 0.05 0.00 0.00 n.a. 0.05 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 末値、% 0.63 0.16 ▲ 0.13 n.a. 0.11 0.16 0.28 0.15 ▲ 0.13 末値、€/$ 1.09 1.14 1.11 n.a. 1.09 1.14 1.15 1.11 1.11 専門家調査(当年のユーロ圏GDP成長率、%) ECB主要政策金利 ドイツ10年国債利回り ユーロ/ドル (資料)Eurostat、欧州委員会経済金融総局、ECB、Markit、Datastream よりみずほ総合研究所作成 4 みずほ欧州経済情報(2016 年 7 月号) 3.ユーロ圏内外需動向:輸出・生産に弱さ。受注は国民投票後も底固い ユーロ圏輸出は減少。た ユーロ圏輸出は減少している。5 月のユーロ圏域外輸出金額(国際収支統計 だし、輸入の落ち込みが の財・サービス輸出金額)は前月比▲2.0%と落ち込んだ。4・5 月に均すと、 大きく、4~6 月期の外需 1~3 月期比▲1.7%である。貿易統計で仕向地毎にみても全般に弱い。EU 寄与度はマイナス幅縮 向け(除くユーロ圏、同▲2.4%)は減少した(図表 8)。新興国向けは、中国向 小またはプラス転化へ け(同▲10.4%)を筆頭に落ち込んだ。米国向け(同▲0.3%)は停滞した。 輸出は、夏場にかけて弱さが残るだろう。輸出先国のPMIをユーロ圏の 輸出ウェイトで加重平均した「ユーロ圏輸出先PMI」は伸び悩んでいる状 況だ(図表 9)。秋口以降、輸出は徐々に回復軌道に復することが期待される。 ユーロ圏輸入は減少している。5 月のユーロ圏域外輸入金額(国際収支統 計)は前月比▲0.7%と 7 カ月連続で落ち込み、 4・5 月の 1~3 月期比は▲2.9% と輸出よりも悪化した。輸出の伸び率が輸入のそれを上回る結果、4~6 月期 のGDP成長率に対する外需寄与度は、マイナス幅が縮小するか、プラスに 転じる公算が大きい。 ユーロ圏生産は減産。他 5 月のユーロ圏鉱工業生産は、前月比▲1.3%と減産に転じた。輸出や投資 方、英国民投票後も受注 の弱さを背景に、生産は一本調子での回復に至っていない。国別にみても、 は改善 5 月は主要国いずれも減産となった(図表 10)。 先行きを考えると、輸出の復調などを背景に、生産は徐々に弱含みから脱 すると見込まれる。英国民投票後も、PMI受注指数(製造業、7 月)は改善 を続けている。ただし、8 月以降の動向を見極める必要がある。 ユーロ圏消費は減速。英 ユーロ圏個人消費は減速している。5 月のユーロ圏小売数量は前月比+ 国民投票後の消費者マ 0.4%と 2 カ月連続で増加した(図表 11)。とは言え、4・5 月平均は 1~3 月 インド悪化は限定的 期からほぼ横這いであり、小売数量に年初ほどの勢いはない。6 月のユーロ 圏新車登録台数は同▲1.2%と減少に転じた。4~6 月に均すと前期比▲0.2% と弱含んでいる。サービス消費にも回復の加速感はうかがわれれない。 7~9 月期入り後を展望すると、個人消費は、雇用・所得に沿って 4~6 月 期並みの緩やかなペースで回復を続けるとみられる。7 月のユーロ圏消費者 信頼感指数は▲7.9Pt と、英国民投票後も 6 月(▲7.3Pt)から小幅な低下にと どまった。 5 みずほ欧州経済情報(2016 年 7 月号) 図表 8 ユーロ圏仕向地別輸出金額 図表 9 (2014/11=100) 120 (Pt) 56 55 110 54 拡張 115 105 ← 景気 100 95 ユーロ圏輸出先PMI 53 52 51 PMIは低位横ばい 50 15/8 15/11 16/2 米国向け 南米・アフリカ向け 縮 →小 90 2014/11 15/2 15/5 EU向け NIEs・ASEAN向け 中国向け 16/5 (年/) (資料)Eurostat よりみずほ総合研究所作成 図表 10 49 2014/6 15/6 16/6 (年/月) (資料)Markit よりみずほ総合研究所作成 ユーロ圏・主要国鉱工業生産 図表 11 (2014/11=100) 106 ユーロ圏消費関連統計 (2010年=100) (千台) 104 105 104 900 103 850 103 102 102 101 800 101 100 99 2014/11 15/2 15/5 15/8 15/11 16/2 16/5 ユーロ圏 ドイツ スペイン (年/月) フランス イタリア (資料)Eurostat、各国統計局よりみずほ総合研究所作成 図表 12 Q4 2015 企業 外需 雇用 2015/6 15/9 15/12 新車登録台数(右目盛) 750 16/6 (年/月) 16/3 小売数量 (資料)Eurostat、ECBよりみずほ総合研究所作成 ユーロ圏内外需関連統計 Q1 2016 Q2 2016 Q3 2016 2016/02 2016/03 2016/04 2016/05 2016/06 2016/07 鉱工業生産 ユーロ圏(19カ国) 前期比、% 0.1 0.8 ▲ 0.2 n.a. ▲ 1.3 ▲ 0.8 1.4 ▲ 1.3 n.a. ドイツ 前期比、% ▲ 0.6 1.7 ▲ 0.7 n.a. ▲ 1.0 ▲ 0.8 0.8 ▲ 1.3 n.a. n.a. フランス 前期比、% 0.6 ▲ 0.6 0.2 n.a. ▲ 1.2 ▲ 0.5 1.2 ▲ 0.5 n.a. n.a. イタリア 前期比、% ▲ 0.1 0.5 ▲ 0.1 n.a. ▲ 0.8 0.0 0.4 ▲ 0.6 n.a. n.a. スペイン 前期比、% 0.5 0.1 0.4 n.a. ▲ 0.3 1.3 ▲ 0.1 ▲ 0.5 n.a. n.a. % 81.6 82.0 81.5 n.a. - - - - - - 前期比、% 1.2 ▲ 1.1 ▲ 0.7 n.a. ▲ 0.1 ▲ 0.7 ▲ 0.1 ▲ 0.2 n.a. n.a. ユーロ圏設備稼働率 ユーロ圏製造業受注 (大型輸送機器除く) ユーロ圏経常収支 n.a. 億ユーロ 27.7 29.1 33.6 n.a. 26.4 32.4 36.4 30.8 n.a. n.a. ユーロ圏財・サービス輸出 前期比、% 0.7 ▲ 1.5 ▲ 1.7 n.a. ▲ 0.1 0.5 ▲ 1.1 ▲ 2.0 n.a. n.a. ユーロ圏財・サービス輸入 前期比、% 0.1 ▲ 2.4 ▲ 2.9 n.a. ▲ 0.1 ▲ 2.0 ▲ 1.2 ▲ 0.7 n.a. n.a. ユーロ圏実質雇用者報酬 前期比、% 0.7 0.9 n.a. n.a. - - - - - - % 10.5 10.3 10.2 n.a. 10.3 10.2 10.2 10.1 n.a. n.a. ユーロ圏小売数量 前期比、% 0.1 0.7 0.1 n.a. 0.3 ▲ 0.6 0.2 0.4 n.a. n.a. ユーロ圏新車登録台数 前期比、% 3.0 3.4 ▲ 0.2 n.a. ▲ 0.6 ▲ 1.4 1.1 0.3 ▲ 1.2 n.a. ユーロ圏失業率 家計 100 (資料)Eurostat、欧州委員会経済金融総局、ECBよりみずほ総合研究所作成 6 みずほ欧州経済情報(2016 年 7 月号) 4.ユーロ圏物価動向:インフレ率はプラス圏へ。ECBは政策を据え置き 6 月ユーロ圏インフレ率 6 月のユーロ圏インフレ率(消費者物価)は前年比+0.1%と、5 カ月ぶりに は 5 カ月ぶりにプラス圏 プラス圏へ浮上した(図表 13)。エネルギー物価の下落幅縮小が主因である。 コア・インフレ率(エネルギー・食品等を除く)はやや高まった。 コア・インフレ率の内訳をみると、 サービス物価上昇率が小幅に上昇した。 振れの大きいパック旅行・航空運賃を除いても同様の結果であり、サービス 物価はようやく上昇局面に入った可能性がある。他方、非エネルギー工業品 物価上昇率は、昨夏以来の水準に低下した。ユーロ安による押し上げ効果は 一段と和らいでいる。 ECB理事会は政策の 現状維持を決定 7 月 21 日の政策理事会において、欧州中央銀行(ECB)は金融政策の現状 維持を決定した。声明文では、必要ならば責務の範囲内で行動するという従 来の表現が踏襲され、追加緩和含みの姿勢が維持された。 景気見通しの精査は次 回理事会に先送り 今回の理事会に関し、事前の注目度が高かったのは次の 2 点と思われる。 第 1 に、ユーロ圏の景気見通しである。今回は、英国民投票後に行われる初 めての理事会であるため、景気見通しの明確な修正は無くとも、今後の修正 に関連する手掛かりが得られないか期待する向きがあった。この点、ドラギ 総裁は、今後数カ月で発表される新たな情報を踏まえて見通しを精査すると 述べるにとどめた。 国債購入プログラムの 第 2 に、国債購入プログラム(PSPP)の技術的詳細の見直しに関する発言で 技術的詳細の見直しに ある。PSPP では、ECBへの資本拠出割合(①いわゆるキャピタル・キー) ついては言質を与えず に応じて、各国毎に購入上限が設定される。例えば、ECB全体で 500 億ユ ーロ分の国債を購入する場合、資本拠出割合が約 25%のドイツについては、 およそ 125 億ユーロ分のドイツ国債が購入される(※)。この 125 億ユーロで 購入可能なドイツ国債の銘柄は、残存期間が 2 年~30 年で、かつ、②利回り が預金ファシリティ金利(▲0.4%)を上回るものに限られる(図表 14)。PSPP によるECBの国債保有は、③各銘柄の発行残高の 33%が上限となる。 国債利回りが低下する中、②を満たせない銘柄が増えており、ドイツ国債 では半分程度が PSPP の対象から外れている(図表 15)。この結果、ECBの 購入額が目標に届かない可能性があるため、市場では、①~③のいずれかの 変更が検討されるとの見方があった。しかし、ドラギ総裁は、今回の理事会 で特定の対応について議論しておらず、また、技術的詳細の見直しは元々可 能であるとの従来の発言を繰り返した。 (※正確には、PSPP の対象には地方債や国際機関債などが含まれる) 9 月理事会に向けて注目 結局のところ、事前の注目度が高かった点を含め、今回の理事会では、今 されるのは経済指標の 後の金融政策に重要な示唆を与えるものはなかった。ドラギ総裁が言う通り、 下振れ度合い 今回の理事会では情報が不足しているということなのだろう。9 月理事会に 向けて、図表 16 に示す指標が明確に下振れてくれば、追加緩和が視野に入 ってくるだろう。 7 みずほ欧州経済情報(2016 年 7 月号) 図表 13 ユーロ圏インフレ率 (前年比、%) 1.2 図表 14 PSPP の対象となる債券の条件 国債、地方債、国際機関債、または、ECBが認定した機関 が発行する債券であること (前年比、%) 0.0 ▲ 0.5 0.9 ECBが参照する4格付機関の内、少なくとも1機関より、投 資適格との格付を得ていること ▲ 1.0 0.6 ▲ 1.5 0.3 購入時における残存期間が、2年~30年364日であること ▲ 2.0 0.0 ▲ 0.3 ▲ 2.5 利回りが預金ファシリティ金利を上回ること ▲ 3.0 ECBは、各債券銘柄毎に、残高の33%まで保有可能(いわ ゆるissue limit)。ただし、個別に認められる場合は25%ま で ▲ 3.5 ▲ 0.6 ▲ 4.0 16/6 (年/月) 2015/6 15/9 15/12 16/3 ユーロ圏インフレ率 コア・インフレ率 エネルギー・食品・アルコール・煙草(右目盛) ECBの保有合計は、各国の国債等残高の33%まで(いわ ゆるissuer limit) (注) 赤字は、本文で言及した条件。 (資料)ECBよりみずほ総合研究所作成 (資料) Eurostat よりみずほ総合研究所作成 図表 15 PSPP 対象外のドイツ国債 60 図表 16 次回理事会に向けて注目される指標など (%) 日時 50 40 指標など 7月22日 7月のユーロ圏PMI→小幅低下にとどまる 7月28日 7月の欧州委員会景気調査 4~6月期のユーロ圏GDP(1次速報) 30 7月29日 20 8月18日 7月理事会の議事要旨 8月24日 8月ユーロ圏PMI 8月30日 8月の欧州委員会景気調査 8月31日 8月のユーロ圏消費者物価 9月8日 ECB政策理事会 7月のユーロ圏消費者物価 10 1/20 3/9 4/20 6/1 7/8 7/20 (月/日) (注)10 年債利回りが過去最低だった 7/8 を除き、全てECB理事会 の前日。ドイツ国債(残存 2 年~30 年)の内、利回りが預金 ファシリティ金利を下回る銘柄の割合。市場価格ベース。 (資料) Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 (資料)みずほ総合研究所作成 図表 17 ユーロ圏物価関連統計 Q4 2015 物価 商品 ユーロ圏インフレ率 コア(エネルギー・ 食品等除く) エネルギー Q1 2016 Q2 2016 Q3 2016 2016/02 2016/03 2016/04 2016/05 2016/06 2016/07 0.2 0.1 ▲ 0.1 n.a. ▲ 0.2 ▲ 0.0 ▲ 0.2 ▲ 0.1 0.1 n.a. 前年比、% 1.0 1.0 0.8 n.a. 0.8 1.0 0.7 0.8 0.9 n.a. 前年比、% ▲ 7.2 ▲ 7.4 ▲ 7.7 n.a. ▲ 8.1 ▲ 8.7 ▲ 8.7 ▲ 8.1 ▲ 6.4 n.a. 食品・アルコール・タバコ 前年比、% 1.4 0.8 0.9 n.a. 0.6 0.8 0.8 0.9 0.9 n.a. 非エネルギー工業品 前年比、% 0.5 0.6 0.5 n.a. 0.7 0.5 0.5 0.5 0.4 n.a. サービス 前年比、% 1.2 1.1 1.0 n.a. 0.9 1.4 0.9 1.0 1.1 n.a. ドイツ・インフレ率 前年比、% 0.3 0.1 0.0 n.a. ▲ 0.3 0.2 ▲ 0.3 0.0 0.3 n.a. フランス・インフレ率 前年比、% 0.2 0.0 0.1 n.a. ▲ 0.1 ▲ 0.1 ▲ 0.1 0.1 0.3 n.a. イタリア・インフレ率 前年比、% 0.2 ▲ 0.0 ▲ 0.4 n.a. ▲ 0.3 ▲ 0.3 ▲ 0.4 ▲ 0.3 ▲ 0.3 n.a. スペイン・インフレ率 前年比、% ▲ 0.5 ▲ 0.8 ▲ 1.0 n.a. ▲ 1.0 ▲ 1.0 ▲ 1.2 ▲ 1.1 ▲ 0.9 n.a. 生産者物価(消費財) 前年比、% ▲ 0.2 ▲ 0.4 n.a. n.a. ▲ 0.4 ▲ 0.6 ▲ 0.6 ▲ 0.5 n.a. n.a. 輸出物価 前年比、% 2.3 ▲ 0.3 n.a. n.a. ▲ 0.5 ▲ 1.8 ▲ 2.7 n.a. n.a. n.a. 前年比、% 輸入物価 ブレント原油(ユーロ建て) 前年比、% ▲ 2.6 ▲ 4.8 n.a. n.a. ▲ 4.8 ▲ 7.6 ▲ 8.1 n.a. n.a. n.a. ▲ 34.5 ▲ 34.3 ▲ 27.0 n.a. ▲ 40.4 ▲ 32.5 ▲ 31.6 ▲ 28.2 ▲ 21.4 n.a. (資料) Eurostat、Datastream よりみずほ総合研究所作成 8 みずほ欧州経済情報(2016 年 7 月号) 5.英国経済の概況:国民投票後のサーベイは今後の景気減速・悪化を示唆 4~6 月期のGDP成長 率は加速 4~6 月期の英GDP成長率(1 次推計値)は前期比+0.6%と、1~3 月期(同 +0.4%)から加速した(図表 18)。業種別の内訳をみると、鉱工業(同+2.1%) が牽引役となった。輸送機械業などの生産が、4 月に一時的に急増したこと が影響した。他方、建設業(同▲0.4%)は 2 四半期連続で減少し、サービス 業(同+0.5%)は減速した。 7~9 月期の景気は失速 7~9 月期入り後の景気は、 失速する可能性が高い。 7 月の合成PMIは 47.7 の公算大。PMIは 50 に急低下し、景気判断の節目となる 50 を下回った(図表 19)。この値は、金 割れ 融危機が発生した時以来の低水準である。発表元の Markit 社によると、製 造業とサービス業で受注が急減した。この理由として、多くの企業が国民投 票の結果を受けた不透明感の増大を挙げている。ただし、製造業の中でも輸 出関連業は、ポンド安を追い風に輸出受注が増えたところがあったという。 PMI以外の指標も景 PMI以外でも、国民投票後に発表された経済指標・調査は、内需を中心 気減速・悪化を示唆する とした英景気の減速・悪化を示唆する内容であり、特に次の 3 つが注目され 内容 る。第 1 に、IOD(英経営者協会)が 6/24~6/26 に企業を対象に実施した 調査だ。ここでは、離脱が事業活動に影響を及ぼし(回答企業の 64%)、投資 削減(同 36%)や雇用抑制(同 34%)に踏み切る可能性があるとされている。 第 2 に、調査会社GfKが 6/30~7/5 に消費者を対象に実施した調査だ。 今後の景気が悪くなり、それに伴って高額な買い物を控えるとの家計の回答 が増加している(図表 20)。消費者マインドの冷え込みが今後の消費回復の重 石になると思われる。 第 3 に、RICS(英王立公認不動産鑑定士協会)の調査である(回答は全て国 民投票後に集計)。住宅価格に先行性のある新規購入問い合わせDIが急低 下しており(図表 21)、今後、住宅価格が下落に転じ、それに伴う逆資産効果 が消費に影響を及ぼす可能性が高い。 BOEは現状維持。ただ イングランド銀行(BOE)は、7 月の金融政策委員会(MPC)において、 し、8 月MPCで金融緩 金融政策の据え置きを決定した。ただし、MPCメンバーの 1 人が 25bp の 和に踏み切る見込み 利下げを主張したほか、据え置きを主張したメンバーに関しても次回 8 月の MPCでの緩和を想定していたという。 議事録では、短期的には、国民投票の結果に起因する不確実性が経済活動 を下押しする可能性が高いと評価されている。8 月のインフレ報告書では、 景気・物価見通しが下方修正され、MPCでは金融緩和が決定される公算が 大きい。 金融市場は、 8 月MPCで利下げされる確率を 80%程度と織り込んでいる。 また、企業・家計の資金調達コストを引き下げ、内需の下支えを図るため、 非伝統的手段の強化も図られるとみられる。具体的には、量的緩和の拡大(現 在は資産残高を維持)や貸出促進策(Funding for Lending)の強化などが想定 される。 以上 9 みずほ欧州経済情報(2016 年 7 月号) 図表 18 英GDP 1.0 図表 19 英PMI (前期比、%) (Pt) 62 60 0.8 58 0.6 拡 56 張 54 ← 0.4 0.2 52 景 50 気 48 0.0 → ▲ 0.2 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 2014 その他 金融ビジネス 鉱工業 15 商業 建設業 実質GDP 46 縮 小 44 16 (年/四半期) 合成PMI 2014/7 15/7 図表 20 英消費者マインド (前年比、%) (問い合わせ増加―減少、DI% 25 80 住宅価格指数 pt) 新規購入問い合わせDI(右目盛) 20 60 15 40 10 20 5 20 10 0 ▲ 10 ▲ 20 0 ▲ 30 ▲5 0 ▲ 20 ▲ 10 消費者信頼感指数 内、今後の景気 内、高額商品への購買意欲 ▲ 50 ▲ 60 16/7 (年/月) 図表 21 英住宅市況 (DI、%pt) ▲ 40 サービス業 (資料)Markit よりみずほ総合研究所作成 (資料)英統計局よりみずほ総合研究所作成 30 製造業 問い合わせDIが急低下。 ▲ 40 今後の価格低下を示唆 ▲ 60 ▲ 15 ▲ 20 ▲ 25 2004/6 06/6 (年/月) (資料)GfKよりみずほ総合研究所作成 08/6 10/6 12/6 14/6 ▲ 80 16/6 (年/月) (注)問い合わせDIは 12 カ月先行。 (資料)Nationwide、RICS よりみずほ総合研究所作成 図表 22 英景気の全体感を示す主要統計 Q4 2015 成長率 実質GDP 景況感 Q1 2016 Q2 2016 Q3 2016 2016/02 2016/03 2016/04 2016/05 2016/06 2016/07 前期比、% 0.7 0.4 0.6 n.a. - - - - - - 合成PMI Pt 55.4 54.2 52.4 47.7 52.7 53.6 51.9 53.0 52.4 47.7 製造業PMI Pt 53.1 51.6 50.7 49.1 50.8 50.9 49.6 50.4 52.1 49.1 サービス業PMI Pt 55.4 54.0 52.7 47.4 52.7 53.7 52.3 53.5 52.3 47.4 企業 鉱工業生産 前期比、% ▲ 0.3 ▲ 0.2 2.1 n.a. ▲ 0.2 0.5 2.1 ▲ 0.6 n.a. n.a. 外需 財輸出 前期比、% ▲ 1.6 1.4 6.0 n.a. 0.5 3.1 8.1 ▲ 8.2 n.a. n.a. 財輸入 前期比、% 1.4 0.8 ▲ 1.1 n.a. 1.1 1.2 0.1 ▲ 4.7 n.a. n.a. % 5.1 5.1 5.1 0.0 5.1 5.1 5.0 4.9 n.a. n.a. 前期比、% 0.4 0.9 0.7 n.a. 0.4 0.2 0.4 0.1 n.a. n.a. 前期比、% 1.1 1.2 1.6 n.a. ▲ 0.4 ▲ 0.5 1.8 0.9 ▲ 0.9 n.a. Nationwide住宅価格指数 前年比、% 4.0 5.0 4.9 n.a. 4.8 5.7 4.8 4.7 5.1 n.a. 雇用 家計 失業率 民間賃金(賞与除く、 3カ月平均) 小売数量 物価 消費者物価指数 金融 主要政策金利 英10年国債利回り ポンドドル 前年比、% 0.1 0.3 0.4 n.a. 0.3 0.5 0.3 0.3 0.5 n.a. 末値、% 0.50 0.50 0.50 NA 0.50 0.50 0.50 0.50 0.50 0.50 末値、% 2.29 1.84 1.32 n.a. 1.79 1.84 1.99 1.84 1.32 n.a. 末値、£/$ 1.47 1.44 1.34 n.a. 1.39 1.44 1.46 1.46 1.34 n.a. (資料)英統計局、Nationwide、Markit、Datastream よりみずほ総合研究所作成 10 みずほ欧州経済情報(2016 年 7 月号) 2016年 7月 2 8 日 発行 欧米調査部上席主任エコノミスト 吉田健一郎 03-3591-1265 kenichi ro.yoshid a@mizuho- ri.co.jp 欧米調査部主任エコノミスト 松本 惇 03-3591-1199 atsushi .matsumot o@mizuho- ri.co.jp ●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではあり ません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが、その正確 性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されるこ ともあります。
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