FOREX WEEKLY

2016 年 7 月 29 日
市場営業統括部
FOREX WEEKLY
チーフ・エコノミスト
山下えつ子
Tel: +1-212-224-4561 (ニューヨーク)
[email protected]
・先週末の G20 財務相・中銀総裁会議では、2 月の会議における政策総動員が再確認された。
・2 月の G20 会議以降の流れの中で、金融政策と財政政策の両方を実施する国として、久しぶ
りに日本が金融市場において注目を集めている。
・日本では、経済対策と日銀の追加緩和の実施の可能性が高まっており、経済対策については規
模、日銀については実施のタイミング(財政出動の発表に合わせるか否か)と追加措置の中身、
が注目点である。
今週のレンジ
来週の予想レンジ
9 月末の予想レンジ
12 月末の予想レンジ
ドル/円
103.99-106.72 円
103.00-106.00 円
102.00-108.00 円
105.00-110.00 円
ユーロ/ドル
1.0952-1.1119ドル
1.1050-1.1150ドル
1.0000-1.1200ドル
1.0000-1.1500ドル
ユーロ/円
114.46-117.28円
114.00-117.00 円
110.00-120.00 円
105.00-120.00 円
(今週のレンジは先週金曜日東京午前 5 時~本日東京午前 5 時(データ:Bloomberg)、
予想レンジは本日東京午前 5 時~来週金曜日東京午前 5 時)
・本号はニューヨーク時間木曜日午後3時までの情報をもとに作成しています。
・FOREX WEEKLYに関するお問い合わせは、現在お取り引き中の営業部/支店にお願い申し上げます。
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1
FOREX WEEKLY 2016/7/29
日本への注目が高まっている
Brexit は金融市場の大きな混乱には繋がらず、7 月は日米の金融政策と政治が中心的なテーマとな
った。特に、久しぶりに日本の動向が注目を集め、Brexit の混乱一巡後の株式相場の上昇や円安へ
の戻りといったかたちで相場に明瞭に現れた。
今年前半は既に過ぎたが、振り返ると、2 月下旬の G20 財務相・中銀総裁会議をこの 7 月の日本を
中心とする相場の再来の出発点として位置付けることが出来るだろう。この G20 会議において、金融
政策のみでは均衡ある成長に繋がらない、との認識が明示され、構造改革の推進のほか、財政政策も
機動的に実施するという方針が合意された。金融政策が限界に達したので、財政政策へバトンタッチ
する、という意味ではない。金融政策と財政政策の両方が必要だ、という意味である。
難しいのは危機時以外での経済政策の国際協調の実施合意である。実際、財政黒字国のドイツも財
政赤字が縮小してきた米国も、未だに成長のための財政出動を決めていない。財政収支に現在たとえ
出動の余裕があっても、例えば将来の社会保障費の増大による歳出増が見込まれる場合や、移民問題
対策のような成長戦略とは別の緊急支出がある場合などは、成長のために世界同時に財政出動をしよ
うとの決定には向かえないからだ。また、たとえば米国の大統領選のように政権が交代する場合にも
スケジュール的に財政出動が決まる可能性は低くなる。このような各国の事情から、財政緊縮から財
政出動へと金融危機後の大きな転換点を迎えているものの、G20 会議で合意があったとはいえ、財政
出動は多くの国で遅れている。
他方、日本は消費増税の実施時期の延期を決めた後、参院選での自民党勝利を経て、経済対策を近
く正式に打ち出す見込みとなっている。金融政策については米国の FOMC も今週開催されているが、
いずれにしても方向性は利上げであって、緩和ではない。日米欧では日本のみが財政出動と金融緩
和の両方を近く実施する可能性が高まり、G20 会議での合意を実現する最初の国、ということにな
った。
先週末の G20 会議でも政策総動員が再確認された
23 日・24 日に中国・成都で行われた G20 財務相・中銀総裁会議では 2 月下旬の会議で合意された
「すべての政策手段-金融、財政および構造改革-を個別にまた総合的に用いる」ことを再確認する
声明が出された。金融政策のみでは均衡ある成長に繋がらないという 2 月の G20 会議での表明と、こ
のため構造改革の推進と財政政策の機動的な実施が必要だという方向性が繰り返されて会議は終了
した。
金融緩和と財政出動の両方が実施されることについて、特に、金融緩和を継続しているユーロ圏と
日本について、ヘリコプターマネーなのか、という理解不十分なままの期待が金融市場には根強くあ
る。だが、財政収支が赤字の国における財政出動と金融緩和の継続という組み合わせはヘリコプター
マネーという発想に繋がりやすいのは否めない。だが、中銀による財政ファイナンスは行われないの
が原則である。これが今週の日銀の金融緩和への期待と決定会合を前にした黒田総裁のヘリコプター
2
FOREX WEEKLY 2016/7/29
マネー否定発言の背景にある。黒田総裁が 29 日にどのような決定を発表するかは不明だが(本レポ
ートは結果発表前に執筆)、ヘリコプターマネーの否定は緩和実施の否定と同義ではないことに注
意は必要だ。今回の G20 会議の機会に黒田総裁は「必要な追加措置は講じる」と発言しており、今
回の会合で追加措置を決定するかどうかには言及は当然ないが、必要があると判断した場合には追加
措置は講じられる、と述べている。ただ、ヘリコプターマネーに関わるマーケットの誤解を考える
と、もし日銀が誤解を避けたいと強く考えるならば、“追加措置”の実施が講じられても、国債買
い入れの増額については見送りとなる可能性もあろう。
為替と株は不安定な動き
今週の日銀の金融政策決定会合への思惑のほか、日本の経済対策の規模についての情報も今週の為
替と株の動きが不安定となる要因だった。経済対策の規模は当初の 10 兆円程度から 30 兆円程度まで
見込みが膨らむ一方、今年度の補正予算額は予想よりも小さい、といった憶測などでマーケットの期
待が上下し、思った以上に日本が注目されている。
金融緩和の有無、また追加措置がある場合の内容など日銀の決定会合に関する多くの情報が飛び交
い、
その度に為替相場は 104 円を割り込むほどまで円高へ振れたり、株式相場も大きく上下するなど、
マーケットは不安定である。事前の予想の位置やマーケットのポジションの傾きによって、結果に対
する反応は異なってくるが、マーケットの動きが大き過ぎて、その位置も不透明だ。ただ、やはり日
銀が緩和を決定すれば円安・株高、今回は見送れば円高・株安、という反応になると予想される。
瞬間的にはドル円で上下とも 2 円程度は動くのではないか。
米国の金融政策はほぼ予想通り
今週は米国で FOMC も開催されている。7 月の注目テーマとしては米国の金融政策も挙がってはい
たが、6 月に利上げ実施は白紙に戻されたかたちとなっていたため、翌月の今回の会合で利上げが実
施される可能性はほとんどなく、実際に、結果も政策変更はなかった。声明文の発表のみだったが、
その声明文には次の 9 月の会合での利上げを示唆するほど強いメッセージはなく、米国の金融政策
については材料持ち越しである。
ただ、
声明文は 7 月初の雇用統計の上振れを踏まえて、前回よりも景気判断が上方修正されたほか、
「近い将来の経済見通しに対するリスクは後退した」との一文が加えられ、印象はややタカである。
また、
前回は反対票はなかったが、今回はジョージ総裁が再び利上げを主張して反対票を投じている。
Brexit 後の金融市場の混乱は長期化せず、米国内の景気も心配したほど悪くはなかった。このため、
今回の FOMC では安堵とともに次の利上げに向けて仕切り直しがあったと考えられる。
だが、9 月に利上げが実施されるか否かは来週の雇用統計を始めとする景気指標などを見てから、
Fed も考えを固めていくと思われる。プレアドが始まるとすれば、最速で 8/17 の今回の FOMC の議
事録、その後は 8/26 のジャクソンホールでのイエレン議長の講演、といった機会が予想される。
もっと慎重を期すならば、9 月初の雇用統計後までプレアドの機会は見送られるかもしれない。それ
までは景気指標の発表を受けた相場の上下はあっても、利上げの有無に関する確信を持てない状態が
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FOREX WEEKLY 2016/7/29
マーケットでは続くだろう。
FOMC 前には利上げに対するタカ派トーンが強まるとの警戒感がいったん高まったが、上記のよう
に 9 月利上げをプレアドするほどのタカ派な声明文ではなく、すぐに債券買い、ドル売りへと相場は
反転。前述の日本の政策への思惑の振れも加わって、金融市場の動きは捉えにくい。米債券市場では
10 年債利回りは 1.50%を割り込むところまで低下したが、恐らく、FOMC 声明文をマーケット参加者
がハトだったと捉えているのではなく、直前に警戒したほどタカではなかったこと、またイベント通
過で再び、債券買いが始まったため、と考えられる。
米国では先週、共和党の全国大会、今週は民主党の全国大会が、それぞれ行われた。米国の金融・
財政政策を先の G20 会議での合意の枠組みの中で考えると、まず、金融政策は今のところ次の一手も
利上げであり、成長のためには、せいぜいのところ「ゆっくりしたペースでの利上げ」であって緩和
ではない。財政政策は、この大統領選の中、レームダック議会で新たな景気刺激策が決定される可能
性は極めて低い。米国が経済成長のための財政政策を打ち出すとすれば、実施は来年以降のこととな
る。当面は大統領選のキャンペーンでどの程度、具体的な財政政策への言及があるのか、のみが注目
点となる。
4
FOREX WEEKLY 2016/7/29
ディーラーに聞きました(来週のドル円相場の方向性~ブルベア)
週
6 月 20 日~
27 日~
7 月 4 日~
11 日~
18 日~
25 日~
8 月 1 日~
予想
+1
-2
-2
-1
+2
+3
-1
実績
ベア
ベア
ベア
ブル
中立
ベア
≪見方≫
当行の為替ディーラー(マーケット、カスタマー)8 名を対象に、来週の相場予想を聴取。ドルブル(終値から1円以
上のドル高)、中立(終値から上下1円内)、ドルベア(終値から1円のドル安)の三択で、結果を(ドルブル人数-ドルベア人数)
で表記。+(プラス)は円安ドル高、-(マイナス)は円高ドル安を示す。
主要 3 通貨の動き(2015 年 1 月~)
ドル/円
ユーロ/ドル
140
1.20
135
115
130
1.15
125
110
1.10
115
110
7/1/2016
5/1/2016
3/1/2016
1/1/2016
9/1/2015
7/1/2016
5/1/2016
3/1/2016
1/1/2016
9/1/2015
11/1/2015
7/1/2015
5/1/2015
105
1/1/2015
7/1/2016
5/1/2016
3/1/2016
1/1/2016
9/1/2015
11/1/2015
7/1/2015
1.00
5/1/2015
95
3/1/2015
1.05
1/1/2015
100
120
3/1/2015
105
11/1/2015
120
145
7/1/2015
1.25
5/1/2015
125
ユーロ/円
150
3/1/2015
1.30
1/1/2015
130
(データ出所:Bloomberg)
その他通貨の中期的な動向(2011 年 1 月~)
ドル/人民元
英ポンド/ドル
6.8
ドル/台湾ドル
35.0
1.80
34.0
6.7
1.70
6.6
6.5
33.0
32.0
1.60
31.0
6.4
6.3
30.0
1.50
29.0
6.2
1.40
6.1
6.0
28.0
27.0
1.30
5.9
26.0
7/1/2016
1/1/2016
7/1/2015
1/1/2015
7/1/2014
1/1/2014
7/1/2013
1/1/2013
7/1/2012
1/1/2012
7/1/2011
25.0
1/1/2011
7/1/2016
1/1/2016
7/1/2015
1/1/2015
7/1/2014
1/1/2014
7/1/2013
1/1/2013
7/1/2012
1/1/2012
7/1/2011
1/1/2011
7/1/2016
1/1/2016
7/1/2015
1/1/2015
7/1/2014
1/1/2014
7/1/2013
1/1/2013
7/1/2012
1/1/2012
7/1/2011
1.20
1/1/2011
5.8
(データ出所:Bloomberg)
5
70
60
50
40
30
20
3500
2500
1500
原油(WTI 先物(期近物):ドル/バレル)
6
2016/7/1
4500
2016/7/1
5500
2016/4/1
株(上海総合指数)
2016/4/1
14000
15000
2016/1/1
2015/10/1
2015/7/1
2016/7/1
16000
2016/7/1
17000
2016/4/1
株(米ダウ)
2016/4/1
2016/1/1
16000
2016/1/1
18000
2016/1/1
18000
2015/10/1
19000
2015/10/1
20000
2015/10/1
20000
2015/7/1
株(日経平均株価)
2015/7/1
22000
2015/7/1
2.6
2.4
2.2
2.0
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
2015/4/1
2015/1/1
2016/7/1
2016/4/1
2016/1/1
2015/10/1
2015/7/1
2015/4/1
2015/1/1
%
2015/4/1
2015/1/1
2016/7/1
2016/4/1
2016/1/1
2015/10/1
2015/7/1
2015/4/1
2015/1/1
0.6
0.4
0.2
0.0
-0.2
-0.4
2015/4/1
2015/1/1
2016/7/1
2016/4/1
2016/1/1
2015/10/1
2015/7/1
2015/4/1
2015/1/1
債券(日本国債・10 年債利回り)
2015/4/1
2015/1/1
2016/7/1
2016/4/1
2016/1/1
2015/10/1
2015/7/1
2015/4/1
2015/1/1
FOREX WEEKLY 2016/7/29
通貨以外のマーケット動向(2015 年 1 月~)
債券(米国債・10 年債利回り)
%
株(ドイツ DAX 指数)
13000
12000
11000
10000
9000
8000
金(NY 先物(期近物):ドル/トロイオンス)
1500
1400
1300
1200
1100
1000
900
(データ出所:Bloomberg)
FOREX WEEKLY 2016/7/29
今週のプライスアクション(ドル円)
(出所:Reuters)
①
① 日本での 50 年債発行検討の
報道を受けて一時ドル円は
上昇した。後に同報道は否定
されている。
② 日銀の追加緩和に関する報
道を受けてドル円は上昇し
た。
③ ETF の購入額増額等、日銀が
追加金融緩和策を発表。ドル
円は 104 円台後半から下落
した。
②
③
来週のチャ-ト分析
(出所:Reuters)
日足 JPY=EBS
2016/06/06 - 2016/08/02 (TOK)
Daily EUR=EBS
価格
2016/05/10 - 2016/07/27 (TOK)
Price
112.00
1.15
110.00
1.14
108.00
1.13
106.00
1.12
104.00
1.11
102.00
1.10
100.00
1.09
.12
.12
06日
13日
20日
2016年 6月
27日
04日
11日
18日
2016年 7月
25日
16日 23日 30日
2016年 5月
01日
<ドル円、日足、ボリンジャーバンド>
06日
13日 20日
2016年 6月
27日
04日
11日 18日
2016年 7月
25日
<ユーロドル、日足、一目均衡表>
・ 現在雲の下を推移。
・ 8/5 の雲上限は 1.1264 ドル、下限は 1.1171 ドル
・ ボリンジャーバンドとは移動平均±2σ(σ=標準偏差、ここでは
20 日間の平均)を上限・下限とするバンド。
・ バンド中心で推移。現在の上限は 108.09 円、下限は 100.38
円
来週の主な材料
8/1(月)
(米)7 月製造業 ISM(欧)7 月ユーロ圏製造業 PMI(確報)(中)7 月製造業 PMI
8/2(火)
(日)7 月マネタリーベース、7 月消費者態度指数(米)6 月個人取得・支出
8/3(水)
(日)金融政策決定会合議事要旨(6/15-16 分)(米)7 月非製造業 ISM
(欧)7 月ユーロ圏サービス業 PMI(確報)
8/4(木)
(米)6 月製造業受注(欧)ECB 月報
8/5(金)
(日)6 月毎月勤労統計(米)6 月貿易収支、7 月雇用統計(欧)6 月独製造業受注
(時間は全て現地時間)
(本ページの担当:阿部)
7