金利水没の帰結は米国重視と更なるフロンティアの

リサーチ TODAY
2016 年 7 月 26 日
金利水没の帰結は米国重視と更なるフロンティアの二極化
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
これまで何度もTODAYで紹介してきた「世界の金利の水没マップ」が示しているように、国別・年限別の
国債利回りがマイナス(水没)のなか、世界の投資家が運用に窮する状況は極まっている。筆者は昨年来
その「水没マップ」を用いながら、「金利水没(マイナス金利)」のなかで資産運用を行うには、「LED戦略」、
つまり①長く(Long)、②外に(External)、③多様な(Diversify)リスクの3分野しか選択肢はないとしてきた。
「E」の海外は、まだ沈んでいない国を探して投資せざるをえないということだ。未だ沈んでいない地域を示
したのが下記の図表である。利回りが依然プラスであるフロンティアの大層は米国にあることがわかる。次は
中国になるが、資本規制があるなかでは、実務上中国への投資は容易でない。その他では、英国、カナダ、
イタリア、フランス等を順に投資対象に含めていくという流れになるだろう。ただし、図表からもデットの世界
で運用を行うとなれば、米国を中心に考えざるをえないというのが今日の運用の現実だ。利回りがプラスで
あって正常の金融活動が続くという観点から、金融業務は米国を中心に考えざるをえない。
■図表:利回りがプラスの債券残高(国別)
(兆ドル)
25
20
15
10
5
ルクセンブルク
スウェーデン
メキシコ
国際機関
ブラジル
1
インド
(資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
オーストラリア
(注)国債と社債の合計。2016 年 7 月 25 日現在。
スペイン
オランダ
韓国
ドイツ
フランス
イタリア
カナダ
日本
英国
中国
米国
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リサーチTODAY
2016 年 7 月 26 日
下記の図表は、現段階での金利が水没していない地域の比率を示す。金利が水没していない地域全
体の3分の1以上は米国であり、これに中国を加えると半分近くを占める。世界のなかで比較的、経済のパ
フォーマンスがいいアングロサクソンの国々、つまり英国、カナダが続き、欧州ではイタリア、スペイン、フラ
ンス等の南欧諸国が中心になる。次いで、韓国、インド等のアジアの新興国が来る。いずれにしても、投資
家はまだ沈んでいない地域をフロンティアとして探さざるえない。
■図表:利回りがプラスの債券の国別構成比
インド
2.0%
オーストラリア
その他
19.4%
1.9%
スペイン
1.8%
プラス金利の
世界の債券
62.0兆ドル
オランダ
1.8%
韓国
2.5%
ドイツ
2.6%
フランス
3.1%
イタリア
3.6%
カナダ
4.0%
英国
5.3%
米国
35.6%
中国
11.9%
日本
4.4%
(注)国債と社債の合計。2016 年 7 月 25 日現在。
(資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
結局、今日では運用の対象を「待ち」続けるのではなく、経済活動の源にある動きを自ら川上に遡ってつ
かみにいかないと運用ができない。また、従来、投資家がもっていた運用範囲を拡大して対処せざるをえな
い。こうした観点から、大きなフロンティアは中国の債券市場である。中国の債券市場の規模は現在、米国、
日本に次いで世界第3位であるが、水没しない範囲では世界第2位で、最近は社債市場の拡大が顕著で
ある。依然として債券の売買には規制も多いが、今後バランスシート調整に伴い、不良債権の拡大に伴う
証券化など、海外からのファイナンスニーズが増大する可能性が高い。同様に、欧州ではイタリア等、南欧
諸国の不良債権の処理に伴い財政の拡大や、債券の供給が期待される。世界的な投資家としては、新た
な投資商品に対する需要への調査体制の整備等を通じ、運用範囲のフロンティアを拡大する必要がある
だろう。
「金利水没」のなか、金融経済の正常な状況が続くのは、結局、米国でしかないなか、世界中の金融活
動が米国に集中せざるをえないのが実情だ。米国以外ではここで議論したように、フロンティアを拡大せざ
るをえない。すなわち、米国とフロンティアの両極端な「バーベル状況1」がLED戦略の帰結である。「金利水
没(マイナス金利)」は、運用に新たな発想を迫るものになる。
1
短期債券と長期債券にそれぞれ同額のバランスの取れた投資をすること。この場合は、米国債とフロンティア債を組み合わせた
投資戦略
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