英国 EU 離脱による為替リスクと地方経済

新・地方自治ニュース 2016 No.8 (2016 年7月 25 日)
英国 EU 離脱による為替リスクと地方経済
2016 年6月の国民投票の結果を受けた英国 EU 離脱問題が、世界の金融市場に大きな衝撃を与え
続けた。英国首相選挙とその後の国内情勢から、英国と EU の離脱交渉の年内スタートは困難視され
ていたこともあり、また、完全離脱までの4年間のプロセスにおいても不安定な状況が続くことが懸
念されている。その中でとくに、輸出関連の日本企業だけでなく、農業、水産業等の海外依存、そし
て外国人旅行客の動向など地域の景況悪化も懸念されており、旅行会社等の倒産もすでに生じている。
こうした点は、地域経済のリスクを通じて、地方財政にも影響する。加えて、秋の米国大統領選挙結
果も政治リスクとして横たわる中、地域経済に対するリスク管理の重要性が高まる。英国離脱が日本
国内の地域に与える影響で、まず留意して行かなければならないのは、日本円の「安全通貨」、国際
経済としての「逃避通貨」としての尺度を認識し判断する力を持つことである。不安定な国際社会の
中で、日本円に対する国際市場からの安全通貨、逃避通貨としての評価が変動することで為替相場も
大きく変動し、そのことは、地域経済に当然大きな影響を与える。
避難通貨の基本的な要因は、三つである。第1は、国際通貨としての決済性が相対的に高いこ
とである。2014 年段階での世界決済通貨比率で日
本円が占める割合は3%弱であり、ドル、ユーロ、
ポンドに続き第4位である。しかし、英国離脱問
題でポンドはリスク通貨自体となり信用が揺れ動
くとともに、欧州圏の統合力が問われる中でユー
ロの信頼性も経済的・政治的両面から流動的とな
らざるを得ない。こうした状況では、決済通貨と
して第4位に位置してきた円の決済性は相対的、
構造的に高まらざるを得ない。一方で、世界でも
っとも決済性の高い米ドルについても、大統領選挙を通じて保守主義が民主党、共和党を問わず
強まる中で、ドル高への流れは弱まっており、米国財務省も半期の為替報告書で円をはじめとし
た通貨を為替操作の要監視通貨に指定し、ドル高けん制の姿勢を強めている。この点からも、円
の逃避通貨としての位置付けが、当面、高まる方向にある。
第2は、国の対外純資産の規模である。日本の
対外純資産残高は 2014 年末時点で、約 367 兆円
に達している。構造的に安定した純債権国となっ
ている。もちろん、円建ての場合、為替での金額
的変動はあるものの、民間企業の海外への直接投
資の拡大等により、増加基調が続いている。この
点においても、日本円の信頼性は極めて高い。
第3の要因は、経常黒字である。日本の経常黒
字額は 2016 年4月段階で 1,675 億ドルであり、
2015 年の 1,375 億ドルからさらに増加している。
貿易収支は、エネルギーの輸入拡大などから赤字基調であるものの、経常収支は海外からの移転
所得等の増加で黒字となっている。2016 年に入って、日米の金利差は拡大しており、金利差から
は円安ドル高要因となる。しかし、金融市場の不安定な状況では、逃避資金としての評価のイン
パクトは大きくなる。地域経済のリスク管理として、地方自治体も日本円の為替市場での位置付
けを常に意識する必要がある。
(資料:財務省、日本銀行等データより作成)
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