女性排尿障害と尿道の超音波検査

DOI: 10.3179/jjmu. JJMU.R.82
◇ STATE OF THE ART 女性排尿障害の超音波診断 ◇ 女性排尿障害と尿道の超音波検査
皆川 倫範
小川 輝之
石塚 修
抄 録
女性尿道の超音波検査は一般的な検査ではない.しかし,文献的には興味深い報告が散見される.特に,腹圧性尿
失禁の病態を解明するモダリティとしての役割が大きい.その理由として,
長さや角度といった解剖学的なパラメー
ターを測定することが容易である点,動的な検査なので失禁の瞬間を捉えられる点,血流を評価できる点が挙げら
れる.腹圧性尿失禁では,解剖学的な異常,腹圧時におけるダイナミックな所見,尿道ないしその周囲の血流は,
病態に深く関わることが分かる.また,最近の報告によれば,尿の禁制に関わる尿道の役割として,従来考えられ
ていた closer として以外に,実は opener であるという新しい報告も認め,今後さらに病態や機能を明らかにする
モダリティとして注目を集めると思われる.さらに本稿では,尿道内腔にゼリーを注入した状態で尿道を観察する
ソノウレスログラフィーの所見を供覧し,今後の女性尿道超音波検査の位置づけについて論じる.
Ultrasonography of Female Urethra
Tomonori MINAGAWA, FJSUM, Teruyuki OGAWA, Osamu ISHIZUKA, SJSUM
Abstract
Ultrasonography is not a common modality for observing the female urethra in a clinical setting. However, it can yield
useful information on urethral function, especially in female patients with stress urinary incontinence. The morphology of
the female urethra, dynamic findings under high abdominal pressure, and the vascularity of the urethra are important
information for understanding the pathology of female stress urinary incontinence. Nowadays, a new urethral function,
not only a closer but also an opener , was reported using ultrasonography of urinary micturition . In addition ,
sonourethrography of the female urethra is presented, and the role of ultrasonography of the female urethra is described.
Keywords
female urethra, stress urinary incontinence, sonourethrography
1.は じ め に
ある real-time の観察により,尿失禁や臓器脱といっ
た機能に関する評価にも用いられる場面が増えてき
尿道の超音波検査というと,一般的な検査とは言
た.本稿ではそういった,尿道の形態や機能に関わ
い難い.ましてや女性尿道の超音波検査となると,
る報告を中心に,尿道の超音波検査に関する報告を
さらに報告の数が少ない.そもそも,女性尿道を十
紹介し,我々の行っているソノウレスログラフィー
分に観察できるモダリティがない.例えば,女性の
の所見を供覧する.
場合,技術的・解剖学的に尿道造影で得られる所見
は乏しい.尿道鏡は内腔だけの観察であるし,客観
2.女性尿道超音波:手技・手法について
性に乏しい.MRI はかなり詳細に観察できるが,
女性で尿道を含む骨盤底臓器を観察する場合,コ
コスト・医療資源の問題や,尿道機能の評価に関し
ンベックスプローブを用いた経陰唇(Translabial)
て用いるには少なく,臨床的な意義も乏しい.そう
アプローチとリニアプローブを用いた経膣アプロー
いった点で,
超音波検査にはいくつかの利点がある.
チが一般的である1,5).経会陰(Transperineal)と表
安全,低コストのうえ,周囲臓器の観察が可能であ
現される場合もある6).経陰唇アプローチを行う利
る.古典的には,腫瘍・憩室・結石の診断に用いら
点は,簡便なことが挙げられる.実際の経陰唇超音
れてきたが,現在では CT,MRI に勝る検査とはい
波検査画像を Fig. 1 a に供覧する.外陰部は凹凸が
1-4)
えない
.しかし今日では,超音波検査の特性で
あるので,プローブ―皮膚間の空気による影響を減
信州大学附属病院泌尿器科学教室
Department of Urology, Shinshu University Hospital, 3︲1︲1 Asahi, Matsumoto, Nagano 390︲8621, Japan
Received on January 22, 2016; Accepted on March 31, 2016 J-STAGE. Advanced published. date: July 19, 2016
Jpn J Med Ultrasonics