試験研究は今No.813「日本海南部海域に新たな二枚貝養殖事業を

試験研究は今
No.813
日本海南部海域に新たな二枚貝養殖事業を!(儲かる養殖事業化検討の試み)
◎はじめに
日本海南部海域ではイカやスケトウダラなどの天然資源を対象とする漁業が主流ですが、
資源状態の悪化による漁業生産の低迷は今後の地域経済に深刻な影響を及ぼすことが懸念
されています。北海道水産林務部は日本海漁業振興基本方針(H26 年 12 月)において、
「日本海南部海域における栽培魚種の生産増大」を重要政策の一つとしました。具体的に
は、実績があり経営が安定しているホタテやマガキなどの二枚貝類、これらの魚種との複
合的な養殖魚種としてマボヤ、磯焼け漁場の未利用個体を用いて短期間で身入りの改善が
可能なキタムラサキウニなどを対象とすることになっています。
◎水産試験場の視点
行政が取り組む事業は既存技術で対応できますが、ホタテ、マガキ、マボヤなどの養殖
には外海に設置した垂下養殖施設や作業船などの設備投資が必要です。他方、漁業者の減
少により各地の漁港利用率は低下し、栽培漁業への有効活用が求められています。そこで、
水産試験場は「漁港静穏域活用」
、
「二枚貝養殖」をキーワードとした新たな養殖業の創出
を目指します。H28 からスタートした研究課題:
「漁港静穏域を利用した二枚貝等養殖技
術開発と事業展開の最適化に関する研究」のロードマップ(概要版)を図 1 に示しました。
1)~3)では、アサリ、イワガキ、バカガイ、ムールガイの 4 種の養殖技術開発に取り組
みます。4)では、利用の少ない漁港の養殖適性を診断する技術を開発します。さらに、5)
では、儲かる養殖事業化検討調査に取組みます。
◎儲かる養殖事業の創出
「儲かる養殖事業化検討」はこれまで水試では扱ってこなかったテーマです。これから
開発する二枚貝養殖事業を「これならやってみたい」と漁業者の皆さんに興味を持っても
らわなくては事業化には結びつきません。漁業者にとって魅力ある提案とはなんでしょう
か。
「儲かるかどうか?」ですね。二枚貝養殖をどうすれば儲かる事業にできるかを漁業者
の皆さんとともに考えるという試みです。
◎二枚貝養殖事業の特徴とビジネスの考え方
養殖には養殖資材・種苗代・管理経費などの生産コストが発生するので、養殖生産物を
天然物と同じ市場ルートで販売しても儲かりませんね。儲けを出すためには、天然物との
品質的な差別化(品質向上や高品質時期限定出荷など)と、高価買取市場の開拓が必要で
す。幸い、二枚貝は垂下養殖により、高成長と高歩留による高品質化が期待できます。養
殖技術開発のテーマは生産品の高付加価値化です。しかし、良質な生産物を作る技術があ
っても、高く買ってくれる市場がなくてはなりません。生産した二枚貝を加工して付加価
値を高めるという 6 次化の考え方もありますが、加工商品の開発という高いハードルがあ
ります。この事業では、高級食材を扱うレストランに高品質二枚貝を供給し、シェフに付
加価値をつけてもらうというビジネスモデルを考えました。漁港静穏域利用による二枚貝
養殖は生産規模が比較的小さいため、小ロット購入を必要とする高級レストランをターゲ
ットにしました。
◎札幌の人気レストランのシェフ 150 人に聞きました
そこで、札幌の人気レストランのシェフ 150 人にアンケート調査を実施したところ、回
答者 38 名のうち、直接インタビューに応じてくれた 26 人のシェフが「垂下養殖で高品質
な二枚貝(アサリ)ができれば魅力を感じる」とこの取組に興味を持ち、事業推進に協力
してくれるサポーターシェフとして登録してくれました。
◎担い手漁業者ネットワークの構築
漁業者に養殖事業で儲けてもらうことが本事業のゴールです。そのためには養殖事業の
担い手の探索が必要です。担い手となる桧山・後志の漁業者がネットワーク化し、サポー
ターシェフと交流することでビジネス化を検討する流れができることをイメージしていま
す。担い手漁業者のネットワークを構築するために、養殖技術開発状況の情報共有のため
のニュースレター発信とシェフを交えた調理テストなどを行ってゆきます。
ロードマップ
日本海海域における漁港静穏域二枚貝等養殖技術の開発と事業展開の最適化に関する研究
実施期間:H28~31
1)アサリ垂下養殖技術
の開発と実証
(栽培水試・函館水試・工試)
2)イワガキ養殖安定化
技術開発
H28
H29
(栽培水試・中央水試)
4)利用の少ない漁港の
養殖適地診断
垂下養殖における成長把握
バカガイ養殖適性検討
垂下養殖技術開発
ムールガイ養殖特性把握
養殖実用化の検討
漁港静穏域の養殖環境調査
漁港の養殖適性評価手法の
策定と診断
(地質研・中央水試)
5)儲かる養殖事業化
検討調査
(中央水試・栽培水試)
H31
イワガキ種苗生産安定化技術開発
(栽培水試)
3)その他二枚貝の養殖
適性調査と技術開発
H30
アサリ中間育成技術開発及び低コスト化
アサリ垂下養殖条件(収容密度等)の解明
養殖サイクル
の検討
養殖の効率化(基質の探索)
養殖の軽労力化(リフトアップ装置開発)
体成分分析・官能試験
イワガキ
ムールガイ
シェフによる製品評価
・意見交換
バカガイ
アサリ
地域にあった
ビジネスモデルの検討
養
殖
適
地
診
断
と
具
体
的
な
事
業
実
施
プ
ラ
ン
の
提
案
図 1 H28 年度道総研重点研究課題:「日本海海域における漁港静穏域二枚貝等養
殖技術の開発と事業展開の最適化に関する研究」のロードマップ(概要版)
(中央水産試験場 資源増殖部 資源増殖部長 宮園 章)