森の名手 大柄 重人さん(PDF:785KB)

 日本人が古くから育んできた森とともに生きる知恵や技を次世代に伝えようと、今も現役で活躍する
「森の名手・名人」をご紹介します。
▲余った皮を薄くひも状にして独特
の縫い方で革を縫う
▼丸太の中心をくり抜く機械はなんと
大柄さんの手づくり
と
大柄 重人
げ
し
え
お
お
さん
日南町の素材にこだわって和太鼓づくりをしてきた大柄太鼓店の
4代目。平成 17 年に和太鼓づくりにおいて最年少の鳥取県伝統工
鳥
取県日野郡日南町で太鼓店を
営む4代目当主の大柄重人さ
ん 。伝 統 的 な 製 法 を 用 い て 和 太 鼓 を つ
12
2016.7 No.112
林野
く る 中 国 地 方 唯 一 の 太 鼓 職 人 で 、町 の
活 性 化 を 目 的 に 、可 能 な 限 り 日 南 町 の
材料を活用した太鼓づくりに励んでい
ま す 。な か で も 胴 に 使 用 す る ケ ヤ キ 材
は 、大 柄 さ ん の 所 有 す る 山 か ら 伐 採 す
ることもあるそうです。「斜面など厳し
い 環 境 で 育 つ ケ ヤ キ は 、硬 く 音 の 響 き
が良い上、腐りにくい。そういった強い
木を育てるためにも自分でしばしば山
に 入 り 、木 の 様 子 を 意 識 し て 見 る よ う
にしている。良い太鼓をつくるために、
山を大切にすることも太鼓職人の仕事
だからね」と大柄さん。
そんな大柄さんですが、若い頃は「太
鼓づくりなんて地味な仕事はやりたく
ない」と、高校を卒業してすぐに家を飛
び出したそうです。しかし、100年以
上も続く大柄太鼓店の歴史を途絶えさ
せることはできないと、 歳のときに
合 い の 変 化 で 音 が 変 わ る 。そ の 変 化 を
れ に 、天 然 の 皮 は 製 品 に し て か ら も 風
に よ っ て 探 っ て い く し か な い ん よ 。そ
の 調 整 が 必 要 で 、そ の 作 業 は 経 験 と 勘
に合わせてつくるには革や胴の厚み
な に 甘 く な か っ た 。使 う 人 の 求 め る 音
よ う に な る と 思 っ た け ど 、現 実 は そ ん
手 伝 い で 見 と っ た か ら 、す ぐ に で き る
「太鼓づくりは小さいときから親父の
家業を継ぐ決心をしました。
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太鼓職人
くらしにそっと息づく
和 太 鼓 づくり
▲なめす前の脱毛した牛皮は乾燥し
ていてカチカチに固い
芸士に認定された。「第 13回 聞き書き甲子園(平成 26年度)」に登場。
くり抜いた丸太
▲
「お気に入りの場所」と大柄さんの所有する山に案内してくれた
▲作業場には 200年以上前の太鼓やつくりかけの太鼓がずらり。太鼓は木を切ってから完成するまでに
10年以上もかかるそうだ
▲太鼓をつくる上で欠かせない牛皮の厚みを整える
「皮かんな」
鼓は に
た太 たい
け
み
手が ども だね
子
在
の
存
自分 事な
大
▲精力的に活動する奥日野源流太鼓。現在大柄さんは練習メニューを考えるなど代表としてグループをまとめている
見 極 め る の も 至 難 の 業 。そ う い っ た 簡
単にたどり着けない太鼓づくりの奥深
さ に 、い つ の 間 に か ど っ ぷ り と 夢 中 に
なっていったんだ」
こうして和太鼓のとりことなった大
柄 さ ん は 、親 子 参 加 型 の 太 鼓 づ く り イ
ベ ン ト な ど を 開 催 す る ほ か 、自 身 で 太
鼓を叩く和太鼓団体「奥日野源流太鼓」
を結成。太鼓づくりにとどまらず、さま
ざまな活動を通じて和太鼓の伝承や普
及に貢献しています。
「打ち手の魂とか振動を肌で感じられ
る 和 太 鼓 は 、祭 り や 伝 統 芸 能 な ど を 通
じ て 、古 く か ら 日 本 人 の く ら し に 寄 り
添ってきた。今、その伝統を受け継ぐ後
継 者 は 減 っ と る け ど 、太 鼓 に 携 わ る 者
と し て 俺 が 技 術・技 能 を 後 世 に 伝 え て
い く 必 要 が あ る と 思 っ て い る 。そ の た
め に も 、多 く の 人 に 太 鼓 の 魅 力 を 感 じ
てもらえるような場を提供していきた
いね」
大 柄 さ ん の 夢 は 、太 鼓 の 材 料 と な る
木が育つ森や、伝統的な太鼓づくり、太
鼓 演 奏 の イ ベ ン ト な ど を 通 し て 、日 南
町を太鼓の感じられる町にすることで
す。「太鼓には人を結ぶ絶大な力がある
ん よ 」と 胸 を 張 っ て 話 す 大 柄 さ ん の 熱
い 思 い を 乗 せ て 、今 日 も 日 南 町 に は 太
鼓の音色が力強く響き渡っています。
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