欧州経済見通し Brexit 選択の衝撃

欧州経済
2016 年 7 月 21 日
欧州経済見通し
全9頁
Brexit 選択の衝撃
長引く「視界不良」
主席研究員
経済調査部
山崎 加津子
[要約]

6 月 23 日の国民投票で英国は EU からの離脱(Brexit)を選択した。キャメロン首相の
後任となったメイ首相の下で、英国は今後 EU との離脱交渉に臨むことになるが、この
交渉がいつ始まり、いつまで続き、どのような結末を迎えるのかを判断する手がかりが
ほとんどないのが現状である。EU からの離脱協定が発効するまで、英国と EU の法的な
関係はこれまでと変わらないのだが、今後数年単位で継続する可能性が高い「視界不良」
の状態は英国経済にとってマイナス要因である。

英国経済はこの春ごろから景況感の悪化や建設投資の落ち込みが見られたが、Brexit
が選択されたことで企業投資や雇用の手控えに加え、これまで経済成長を牽引してきた
個人消費が減速に転じることが懸念される。今後の英国の成長率はマイナスに転じると
見込まれる。英中銀(BOE)は 7 月には追加緩和を見送ったが、インフレーション・レ
ポートを公表する 8 月には成長率予想を下方修正すると共に、追加緩和策を発表するこ
とになろう。

ユーロ圏経済に対する Brexit 選択の影響も徐々に顕在化してくると予想される。英国
の景気減速はユーロ圏の輸出減につながるが、これがユーロ圏企業の投資や雇用の抑制
要因となるか注目される。他方で Brexit をにらんで、ロンドンのシティが担っている
欧州の金融仲介機能を自国に呼び込もうとフランス、ドイツ、アイルランドなどがさっ
そく売り込みをかけているが、ロンドンに拠点を有する金融機関等が他国への全面的な
移転を具体化させるのは、英国と EU の新しい関係が見通せるようになってからの話と
なろう。
株式会社大和総研 丸の内オフィス
〒100-6756 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 1 号 グラントウキョウ ノースタワー
このレポートは投資勧誘を意図して提供するものではありません。このレポートの掲載情報は信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性、完全性を保証する
ものではありません。また、記載された意見や予測等は作成時点のものであり今後予告なく変更されることがあります。㈱大和総研の親会社である㈱大和総研ホールディングスと大和
証券㈱は、㈱大和証券グループ本社を親会社とする大和証券グループの会社です。内容に関する一切の権利は㈱大和総研にあります。無断での複製・転載・転送等はご遠慮ください。
2/9
英国の EU 離脱選択
衝撃を受けた金融市場
6 月 23 日の英国の国民投票は EU 離脱支持が 51.9%、EU 残留支持が 48.1%という結果となり、
EU 離脱が選択された。なお、投票率は 72.2%と 2015 年 5 月の総選挙の時の 66.1%を大きく上
回っており、国民の関心の高さがうかがわれる。
EU 残留をメインシナリオとしてきた金融市場では、この結果を受けてポンドが急落し、代わ
って円、ドル、スイス・フランなどが上昇した。なお、株価が世界的に下落した一方、安全資
産として日米独の国債が買われて長期金利が一段と低下した。EU 離脱決定に加えて投資家心理
を冷え込ませたのが、英国の政治の混乱である。EU 離脱派の勝利が明らかになると、EU 残留支
持を訴えてきたキャメロン首相は即座に辞任を発表したが、他方で、EU 離脱のキャンペーンの
先頭に立ってきたジョンソン前ロンドン市長は後継首相への立候補を断念し、また、ファラー
ジュ英国独立党(UKIP)党首は党首を辞任して、いわば司令塔不在となったのである。
もっとも、最初の衝撃を乗り越えたあと、世界の株価は総じて反発しており、英国株もその
例外ではない。Brexit 懸念で英国景気が悪化しても、世界経済が一気に悪化するほどの影響力
は持たないと認識されたこと、また、英国の上場企業はグローバル企業でポンド安による収益
改善効果が期待されることなどが要因と考えられる。加えて、英国の EU 離脱が実現するのは最
短でも 2 年半後であり、それまで英国と EU の関係はこれまでと変わらないことも認識されたと
考えられる。さらに、キャメロン首相の後任選びが当初予定の 9 月初めから 2 カ月前倒しされ、
7 月 13 日にはメイ新首相が就任したことも一応の安心材料である。
EU 離脱実現までの長い長い道のり
メイ首相は国民投票で選択された「EU 離脱」を実現させるために EU との離脱協議を粛々と進
めていく方針で、EU 残留支持派の一部が期待した国民投票のやり直しや、総選挙の前倒し実施
の可能性を明確に否定した。とはいえ、英国の EU 離脱には非常に多くの不透明要因が存在して
いる。現状では、英国がいつ EU から離脱するのか、どのような条件で EU から離脱するのか、
離脱後の英国と EU の新しい関係がどうなるのかに関してほとんど手がかりがない。
今後の日程表で最初の注目点は、英国がいつリスボン条約(EU 基本条約)の 50 条に則って
EU に離脱を公式に通告するかだが、メイ首相はこれを「来年以降」と言っているのみである。
与党保守党はこの問題に関して、EU 離脱派と EU 残留派に大きく割れてしまったため、EU との
交渉の前にまず保守党内での意見調整が必要になるが、この調整は難航すると予想される。EU
離脱派はかねてより、EU 離脱後も英国企業が不利な立場に陥らないよう、EU 加盟国と同様に EU
単一市場へアクセスできることを望んでいるが、同時に EU からの移民を英国が制限できるよう
にし、また EU に対する拠出金の負担は免れたいと考えている。しかしながら、この要求がこの
まま通るはずはなく、英国としては交渉前に「絶対に譲れない条件」、「妥協可能な条件」など
優先順位をつける必要がある。
3/9
英国が EU に離脱を通告すると、そこから離脱協定を策定するための 2 年間の交渉がスタート
し、双方が離脱協定に合意すれば、協定発効日に英国は EU から離脱することになる。とはいえ、
英国が EU の前身である EC に加盟してから 40 年以上が経過しており、EU 離脱のためにどの分野
でどのような手続きが必要であるかの洗い出しだけでも容易な作業ではないだろう。なお、2 年
という期限は EU 加盟国が全会一致で承認すればこれを延長することは可能である。
ところで、英国に拠点を有する企業、英国に投資をしようと考える投資家にとってもっとも
注目されるのは、英国が EU から離脱したあとの両者の関係がどうなるかだが、これについては
離脱協定とは別に新たな協定の締結が必要とされる。その協議が離脱協定と同時進行で行われ
るのか、離脱協定の合意後に着手されるのか現時点でははっきりしない。同時進行が合理的と
考えられるものの、この交渉は EU の他国との FTA 協議などに鑑みれば、離脱協定の交渉以上に
時間を要すると予想される。英国が EU 離脱後も EU 加盟国とまったく同じ条件で EU 単一市場に
アクセスできるようでは、EU に加盟する意味がなくなるため、EU 側としてはなんらかのハード
ルを設けると考えられる。ただし、英国は EU にとって重要な貿易パートナーであり、EU 内に構
築されているサプライチェーンを構成する国でもある。英国に対して、高すぎるハードルを設
けることは、英国以外の EU 加盟国にとって自分の首を絞めることにもなりかねない。
このように Brexit がいつ実現するのかと問われれば、
「数年後」としか言えない状況にある。
場合によっては、この EU 離脱に向けた過程のどこかで Brexit という選択を撤回する可能性も
残されていると考えられる。例えば EU 離脱交渉中に、Brexit に対する懸念が英国経済に大きな
マイナスの影響を及ぼし、失業率が顕著に上昇した場合には、EU 離脱に対する国民の考え方が
大きく変わる可能性がある。英国の次の総選挙は 2020 年 5 月の予定だが、そこで EU 残留を主
張する政党が与党に選ばれれば、EU 離脱を選択した国民投票の結果を覆す可能性が高まること
になろう。
Brexit という選択が経済に及ぼす影響に注目
すなわち、Brexit という選択が英国経済に対してどれほどのダメージを及ぼすのか、それと
も予想に反して及ぼさないのかが今後の大きな注目点となる。Brexit を選択したことで長期に
わたって視界不良の状態が続くと予想されるが、これは内外の企業の投資判断を慎重にさせ、
英国内での新規投資を手控える動きにつながると予想される。投資が手控えられれば、それは
投資が行われた場合にあり得た雇用創出が失われるということである。一方、現在英国に拠点
をおく外国企業、とりわけ EU 単一市場へのアクセスを目的に英国に欧州拠点をおいている EU
域外の企業が、その拠点を英国外に移す決断を短期間で行うことはないと考えられる。むろん、
これらの企業は Brexit が選択されたことを受けて、英国にある拠点の少なくとも一部を他の EU
加盟国に移す検討を開始しているはずだが、まずは英国と EU との新しい関係がどうなるかを見
極める必要がある。
4/9
英国経済
Brexit 選択で懸念される投資手控えと消費減速
英国経済は 2013 年初めから 3 年以上にわたって個人消費と固定資本形成の内需主導で堅調な
経済成長を継続してきた。ただし、この春ごろから建設投資の落ち込みが目立ち、住宅販売業
者の販売見通しも大幅に悪化している。これらはいずれもまだ国民投票の結果が判明する前の
調査結果だが、4 月に 2 軒目の住宅購入に対する印紙税が引き上げられたことに加え、Brexit
が選択された場合の国外からの投資減少が懸念されていたと考えられる。
実際に Brexit が選択されると、商業用不動産に投資するファンドへの解約請求が殺到し、解
約停止決定が相次ぐことになった。他方で、ポンド安と不動産価格の下落に着目して、中東や
中国などからの投資資金が流入していると報じられている。英国の不動産市場は深刻な落ち込
みは回避しそうではあるが、Brexit に伴う不透明感払拭に長い時間を要すると予想されること
が今後どのような影響を及ぼすか注目される。
一方、Brexit 懸念は個人消費には目立った悪影響を及ぼしてこなかった。4-6 月平均の失業
率が 4.9%にまで低下するなど雇用改善が進み、それが低インフレとあいまって家計の実質所得
拡大を後押ししている効果が大きいと考えられる。ただし、Brexit が選択されたことにより、
今後は景気見通しと雇用見通しが悪化する可能性が高い。さらに、ポンド安が進行したことが
輸入物価上昇を通じて消費者物価上昇率を加速させると見込まれる。6 月の消費者物価上昇率は
前年比+0.5%と英中銀(BOE)のインフレ・ターゲットである同+2.0%を大幅に下回っている
状態で、緩やかな物価上昇は BOE にとって望ましいことである。ただし、ポンド急落が消費者
物価上昇率の加速ペースを強めてしまうと、賃金上昇率が伸び悩んでいる状況であるため、実
質可処分所得の伸びが大きく減速することが懸念される。英国の個人消費は 2014 年以降、高い
伸びが続いてきたが、今後は減速傾向を強めると予想される。
2016 年後半の英国の成長率はマイナスに転じると見込まれる。成長率予想を 2016 年は前月の
+1.8%から+1.6%へ、2017 年は同+2.0%から+0.4%へそれぞれ下方修正した。
BOE は 8 月に追加緩和へ
英中銀(BOE)は 7 月 13 日の金融政策理事会では追加緩和を見送ったが、次回の 8 月 3 日の
金融政策理事会では現在 0.5%に政策金利の引き下げや 3,750 億ポンドで維持してきた資産購入
規模の拡大などの量的緩和策の追加措置を決定する可能性が高いだろう。なお、この理事会の
決定が公表される 8 月 4 日にはインフレーション・レポートも合わせて公表されるが、同レポ
ートでは Brexit 選択を受けて英国の成長率予想が下方修正されると見込まれる。
一方、財政政策では、キャメロン政権が掲げてきた 2020 年までの財政健全化計画の放棄が決
定されたが、景気悪化が見込まれる中でこのほかにどのような景気対策をメイ首相が打ち出す
かも注目される。
5/9
図表 1
英国の経済指標
建設業の生産統計は大幅な落ち込み
3カ月前
3カ月比%
3
住宅販売業者サーベイ(RICS)
%
100
今後3カ月の価格見通し
80
2
60
1
40
0
20
今後3カ月の販売見通し
0
-1
-20
-2
-40
-3
その他新築建設
新築住宅
新築建設投資
-4
-60
-80
-5
12
13
14
15
-100
16
07
小売売上高と消費者信頼感
前年比%
8
%
15
小売売上高(左目盛)
消費者信頼感(右目盛)
6
08
09
10
11
12
13
14
15
16
4-6月平均の失業率は4.9%に低下
前月差
万人
15
%
9
10
5
4
10
8
5
7
0
6
-5
5
0
-5
2
-10
0
-15
-20
-2
-25
-4
-6
-35 -10
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16
輸入物価上昇率とポンド
07
前年比%
-25
%
7
-20
6
15
-15
5
10
-10
4
5
-5
3
0
0
2
-5
5
1
-10
10
0
15
-1
前年比%
25
輸入物価(左目盛)
20
ポンドの実効為替レート
-15
07
失業保険申請者数(左目盛)
失業率(右目盛)
-30
08
09
10
11
12
13
14
15
16
08
09
10
11
12
13
4
14
15
16
BOEの政策金利とインフレ率
政策金利:7月0.5%
HICP:6月0.5%
コアHICP:6月1.4%
インフレターゲット中心値
07
08
09
10
(出所)英国統計局(ONS)、BOE、RICS、欧州委員会データより大和総研作成
11
12
13
14
15
16
6/9
ユーロ圏経済
Brexit 選択の波及効果は?
6 月 23 日の国民投票で Brexit が選択されたことは、ユーロ圏にとっても大きな衝撃だったが、
この決定がユーロ圏経済にどのような影響を及ぼすのかに関する手がかりはまだほとんどない。
Brexit 選択後の景気指標の一番手として発表されたドイツの 7 月の ZEW 指数(ドイツの 6 カ月
後の景気見通し)は 6 月の 19.2 ポイントから-6.8 ポイントに大幅に悪化した。ただし、この
指標はアナリストやファンドマネージャーなど市場関係者に対するアンケート調査であり、
Brexit が選択されたことで金融市場が大きく動揺した影響が強く出ている可能性が高い。
Brexit 選択がユーロ圏企業の景気判断や投資判断にどのような影響を及ぼしたかは、企業の購
買担当者に対するアンケートである PMI 指数や ifo 景況感指数に注目するべきだが、現段階で
判断の手がかりが乏しいのは企業も実は大差がないかもしれない。
なお、ユーロ圏でもここ 3 年の景気回復は個人消費の回復に負うところが大きい。その個人
消費の動向を占う上で注目される消費者信頼感の 7 月の速報値は-7.9 ポイントで、
6 月の-7.2
ポイントと比べてごく小幅の悪化にとどまった。ユーロ圏の失業率は英国に比べればスローペ
ースではあるものの低下傾向にあり、この雇用改善と低インフレによって家計の実質可処分所
得は 2016 年 1-3 月期に一段と伸びが加速した。消費者信頼感が急速に悪化しなければ、個人
消費が牽引する緩やかなユーロ圏の景気回復が持続すると予想される。
もちろん、Brexit を選択したことで英国景気が悪化すれば、それは対英輸出減少という経路
でユーロ圏にも及ぶものである。それがユーロ圏において投資抑制や雇用削減につながるほど
のインパクトになるかどうかが今後の注目点となろう。
ところで、Brexit をにらんで、ロンドンのシティが担っている欧州の金融仲介機能を自国に
呼び込もうとフランス、ドイツ、アイルランドなどがさっそく売り込みをかけている。Brexit
によるユーロ圏経済へのプラスのインパクトとなり得る動きではあるが、ロンドンに拠点を有
する金融機関等が他国への全面的な移転を具体化させるのは、英国と EU の新しい関係が見通せ
るようになってからの話となろう。
ユーロ圏の成長率予想は 2016 年は+1.5%に据え置く一方、
2017 年に関しては+1.5%から+1.3%へ下方修正した。
資産購入プログラムのルール変更を迫られる ECB
Brexit が選択されたことで、ドイツを筆頭にユーロ圏の国債利回りの低下が進んでいるが、
これが ECB の量的緩和を難しくしている。というのも現行ルールでは ECB は中央銀行預金金利
(-0.4%)よりも低金利の国債を購入することができず、しかも一銘柄につき発行残高の 33%
までという買取上限が設定されているためである。ドイツの国債利回りが一段と低下したこと
で、購入可能な国債が縮小し、上限に達する時期が早まることが懸念されている。ECB は年内に
はその資産購入プログラムのルール変更や買取対象資産の拡大などの措置を発表することにな
ろう。
7/9
図表 2
ユーロ圏の経済指標
ZEW指数(ドイツ景気見通し)は7月に大幅悪化
%
ユーロ圏の消費者マインド
前年比%
5
100
0
80
-5
3
60
-10
40
1
20
-15
0
-1
-20
-20
-3
-40
-25
-60
-80
ZEW指数
現況判断
-5
15
-7
消費者信頼感(右目盛)
-100
07
08
09
10
11
12
13
14
16
失業者数増減(左目盛)
失業率(右目盛)
-35
07
%
13
ユーロ圏の失業者数の減少続く
万人
800
-30
小売売上高
08
09
10
11
12
13
14
15
16
ユーロ圏の家計所得と消費
前年比%
5
実質可処分所得
600
12
400
11
200
10
4
実質個人消費
3
0
9
-200
8
2
1
0
-1
-2
-400
7
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16
06
ECBの政策金利とユーロ圏の消費者物価上昇率
%
5
政策金利:6月0.0%
コアインフレ率:6月0.9%
インフレ率:6月0.1%
4
-3
3
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16
ユーロ圏の消費者の物価見通し
%
40
30
20
2%
2
10
1
0
0
-10
-1
-20
今後12カ月の物価見通し
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16
07
08
(出所)ECB、Eurostat、欧州委員会、ZEW データより大和総研作成
09
10
11
12
13
14
15
16
8/9
欧州の政治リスクの行方
英国が国民投票で EU 離脱を選択したことが、他国の EU に懐疑的あるいは否定的な政治勢力
を勢いづけることになるか注目されている。なお、ユーロ圏ではこの 10 月にはイタリアで憲法
改正の是非を問う国民投票、来年 3 月にはオランダの議会選挙、4 月から 5 月にかけてはフラン
スの大統領選挙、9 月にはドイツの議会選挙と主要国で大きな選挙が目白押しである。
英国で EU 離脱派が勝利したことをイタリアの五つ星運動、オランダの自由党、フランスの国
民戦線などのポピュリスト政党は大いに歓迎し、自国でも国民投票を実施すると気勢を上げた。
ただし、金融市場の混乱や、景気見通しの悪化、EU 離脱に至る長期の視界不良な期間が認識さ
れるに従って、これまで顕著に低下していた各国与党の支持率が持ち直す動きが見られる。6 月
末のスペインのやり直し総選挙では、ラホイ首相率いる国民党(PP)が議席を伸ばした。また、
ドイツではメルケル首相が党首を務めるキリスト教民主同盟(CDU)とその姉妹政党のキリスト
教社会同盟(CSU)、及び社会民主党(SPD)が与党だが、その支持率は難民が急増した 2015 年
半ばから低下傾向にあったのが、英国の国民投票以降は若干ながら反転している。
これが一過性の動きなのか、継続的な動きになるのかは、各国政府及びユーロ圏・EU の政策
に対する信頼感を回復できるかにかかっていると考えられる。そもそも各国でポピュリスト政
党が支持を伸ばしているのは、EU が推進してきた欧州統合が経済成長や雇用創出に結びついて
いるという実感が薄れ、代わって債務危機や難民急増という問題解決がうまくいっていないと
いう負の側面が強く意識されているためである。Brexit というショックを、EU という組織の抱
える問題解決の起爆剤に活用できるかが問われている。
図表 3
ドイツの世論調査で与党の支持率に下げ止まりの兆し
「次の日曜日が総選挙ならどの政党に投票しますか?」
ドイツの世論調査による政党支持率の推移
50%
45%
40%
CDU/CSU
SPD
緑の党
FDP
左派党
AfD
35%
30%
25%
20%
15%
10%
5%
(注)2013 年 9 月 22 日実施の前回の総選挙の得票率を起点としている。
(出所)INSA/YouGov、wahlrecht.de のデータより大和総研作成
16/7
16/5
16/3
16/1
15/11
15/9
15/7
15/5
15/3
15/1
14/11
14/9
14/7
14/5
14/3
14/1
13/11
13/9
0%
9/9
<欧州経済・金利見通し>
ユーロ圏経済見通し
2015
通年
2016
Q1
Q2
2017
Q3
通年
Q4
通年
Q1
Q2
Q3
Q4
1.5%
1.6%
1.5%
2.8%
2.3%
3.5%
1.5%
1.1%
1.3%
2.0%
1.2%
1.2%
1.4%
1.2%
1.3%
2.0%
2.4%
2.4%
1.5%
1.2%
1.3%
2.4%
2.8%
2.8%
1.4%
1.2%
1.2%
1.6%
3.6%
3.6%
1.3%
1.2%
1.3%
2.0%
1.9%
2.1%
1.5%
1.6%
1.5%
2.8%
2.3%
3.5%
1.0%
1.9%
0.2%
-2.6%
10.1%
1.1%
1.2%
1.3%
1.8%
1.6%
1.9%
0.7%
2.0%
1.1%
0.6%
10.0%
1.2%
1.2%
1.3%
2.1%
1.7%
2.0%
1.1%
2.2%
1.0%
0.8%
9.8%
1.4%
1.2%
1.3%
2.1%
1.8%
2.0%
1.4%
1.9%
1.2%
0.7%
9.7%
1.5%
1.2%
1.3%
2.0%
2.5%
2.5%
1.3%
1.9%
1.3%
1.0%
9.6%
1.3%
1.2%
1.3%
2.0%
1.9%
2.1%
1.1%
2.0%
1.2%
0.8%
9.8%
前期比年率
国内総生産
民間消費支出
政府消費支出
総固定資本形成
輸出等
輸入等
1.7%
1.7%
1.3%
2.9%
5.3%
6.1%
2.2%
2.2%
1.6%
3.4%
1.7%
3.0%
0.8%
1.0%
1.2%
0.8%
2.0%
2.0%
1.7%
1.7%
1.3%
2.9%
5.3%
6.1%
1.5%
2.8%
0.0%
-1.9%
10.9%
1.7%
1.7%
1.5%
2.9%
3.1%
4.3%
1.5%
2.2%
0.0%
-3.2%
10.3%
1.5%
1.7%
1.5%
3.0%
2.0%
3.9%
1.1%
1.7%
-0.1%
-3.7%
10.1%
0.9%
1.2%
1.4%
2.4%
2.4%
2.8%
1.0%
1.3%
1.2%
2.0%
0.8%
1.6%
前年同期比 (除く失業率)
国内総生産
民間消費支出
政府消費支出
総固定資本形成
輸出等
輸入等
鉱工業生産(除建設)
実質小売売上高
消費者物価
生産者物価
失業率
1.4%
1.4%
1.6%
3.1%
2.2%
3.4%
0.5%
1.8%
0.3%
-2.3%
10.0%
1.2%
1.4%
1.4%
2.1%
1.7%
2.4%
0.7%
1.8%
0.5%
-1.0%
10.0%
10億ユーロ
貿易収支
経常収支
財政収支
独
国債10年物(期中平均)
独
国債2年物(期中平均)
欧
政策金利(末値)
351.8
332.8
-209
92.1
87.4
90.0
85.5
80.0
73.9
75.0
68.3
337.1
315.0
-193
72.0
65.7
70.0
66.1
65.0
58.5
66.0
59.9
273.0
250.2
-177
0.54%
-0.25%
0.05%
0.31%
-0.48%
0.00%
0.12%
-0.53%
0.00%
0.08%
-0.60%
0.00%
0.15%
-0.55%
0.00%
0.17%
-0.54%
0.00%
0.20%
-0.50%
0.00%
0.30%
-0.45%
0.00%
0.40%
-0.40%
0.00%
0.45%
-0.40%
0.00%
0.34%
-0.44%
0.00%
(注)2016 年 Q1 まで実績値(消費者物価と金利は同 Q2 まで実績値)
。それ以降は大和総研予想
(出所)EU 統計局(Eurostat)、欧州中央銀行(ECB)、大和総研
英国経済見通し
2015
通年
2016
Q1
Q2
Q3
2017
Q4
通年
Q1
Q2
Q3
Q4
通年
1.6%
2.7%
1.8%
-0.8%
2.4%
2.5%
-0.4%
1.2%
2.0%
-9.6%
-2.0%
-2.0%
1.1%
1.4%
3.2%
-5.9%
-1.2%
-1.2%
1.6%
1.6%
2.8%
0.0%
1.2%
1.6%
1.6%
1.6%
2.4%
0.8%
2.4%
2.8%
0.4%
1.6%
2.3%
-5.2%
-0.3%
-0.1%
1.6%
2.7%
1.8%
-0.8%
2.4%
2.5%
1.3%
4.6%
0.6%
0.1%
5.0%
0.2%
2.0%
2.0%
-4.7%
0.3%
0.2%
1.5%
3.5%
1.6%
1.7%
5.3%
-0.0%
1.6%
2.1%
-6.4%
-0.6%
-0.3%
-0.2%
2.3%
1.8%
1.5%
5.3%
0.3%
1.4%
2.4%
-5.9%
-0.8%
-0.6%
0.3%
2.6%
1.7%
1.3%
5.3%
1.0%
1.5%
2.6%
-3.8%
0.1%
0.3%
0.8%
2.6%
1.7%
1.3%
5.4%
0.4%
1.6%
2.3%
-5.2%
-0.3%
-0.1%
0.6%
2.7%
1.7%
1.5%
5.3%
前期比年率
国内総生産
民間消費支出
政府消費支出
総固定資本形成
輸出等
輸入等
2.2%
2.5%
1.4%
3.3%
4.8%
5.8%
1.8%
3.1%
1.9%
-0.2%
-1.5%
0.4%
1.8%
3.0%
2.8%
0.8%
2.4%
0.8%
2.2%
2.5%
1.4%
3.3%
4.8%
5.8%
1.3%
4.4%
0.1%
-1.7%
5.4%
2.0%
2.8%
1.9%
0.7%
2.3%
1.7%
0.3%
4.4%
0.3%
-1.0%
5.1%
2.0%
2.8%
1.6%
-0.3%
3.2%
4.1%
1.8%
5.4%
0.3%
-0.5%
4.9%
0.2%
2.2%
1.6%
-2.0%
2.0%
2.8%
-1.0%
1.4%
1.6%
-7.8%
-1.2%
-0.8%
前年同期比 (除く失業率)
国内総生産
民間消費支出
政府消費支出
総固定資本形成
輸出等
輸入等
鉱工業生産
実質小売売上高
消費者物価
生産者物価(出荷価格)
失業率
1.7%
2.7%
1.8%
-1.3%
3.9%
3.5%
1.5%
4.6%
0.7%
0.5%
5.0%
0.7%
2.4%
2.0%
-2.3%
0.4%
0.8%
1.5%
4.1%
1.2%
1.5%
5.2%
10億英ポンド
貿易収支
経常収支
財政収支
国債10年物(期中平均)
国債2年物(期中平均)
政策金利(末値)
-126.3
-100.3
-54.6
-34.3
-32.6
1.3
-30.4
-21.9
-33.5
-29.0
-35.9
-31.5
-134.1
-115.0
-51.6
-35.6
-30.3
-31.5
-23.2
-34.4
-28.2
-36.9
-31.9
-138.4
-113.6
-56.9
1.82%
0.54%
0.50%
1.55%
0.44%
0.50%
1.37%
0.41%
0.50%
0.80%
0.20%
0.25%
0.70%
0.20%
0.25%
1.11%
0.31%
0.25%
0.70%
0.20%
0.25%
0.80%
0.20%
0.25%
0.80%
0.20%
0.25%
0.80%
0.20%
0.25%
0.78%
0.20%
0.25%
(注)2016 年 Q1 まで実績値(物価と金利は同 Q2 まで実績値)
。それ以降は大和総研予想
(出所)英国統計局(ONS)、英中銀(BOE)、大和総研