リサーチ TODAY 2016 年 7 月 20 日 米国がどうなるかで円ドルは決まる、達磨さんが転んだ 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 米国の6月の雇用統計が市場予想を大幅に上回って以降1、米国の景気不安は大きく後退した。株式市 場も史上最高値の水準を更新する状況にある。こうした状況については、米国の景気の強さを反映してい る面がある一方で、英国のEU離脱も含め、金融緩和の長期化を前提にした「いいとこどり相場」の可能性も ある。下記の図表は米国のGDP成長率の推移であるが、米国の景気拡張期間は、今年7月で85カ月となり、 サブプライム・ローンで住宅ブームに沸いた前回の73カ月を1年近く上回っている。需要の伸び余地や中 国・資源バブル崩壊の懸念があることから、米国景気は既に「第4コーナーを回った」との見方が根強い。 下記の図表で1980年代以降を振り返れば、いずれの景気拡張期もバブルの崩壊て終わっていた。今回は、 米国内の要因よりも海外の影響を受けやすいとみられる。みずほ総合研究所は今年6月の英国のEU離脱 に伴う世界経済の変動を受け、四半期毎の『内外経済見通し』の緊急改訂を行った2。今回の緊急改訂で は米国の見通しを据え置いたが、米国の循環的な景気後退リスクや海外市場の変動発の屈折リスクを重 視している。 ■図表 1980年以降の米国の景気循環 ITバブル の崩壊 商業用不動産 バブルの崩壊 中国・資源バブルの崩壊 + Brexit、伊不良債権問題etc 住宅バブル の崩壊 (前期比年率%) 10 92カ月 120カ月 73カ月 今年7月で 85カ月目 5 0 ▲5 ▲10 1980 85 90 95 2000 05 10 15 (注) 網掛けは景気後退期。2016 年 4~6 月期は見込み。 (資料) 米国商務省、全米経済研究所(NBER)よりみずほ総合研究所作成 次ページの図表はシカゴ連銀の全米経済活動DIの推移を示す。2014年半ば以降の経済指標には、原 油安・ドル高や、新興国経済の減速を受けて生産関連指標の弱さが目立っていた。DIは2014年半ば以降 1 リサーチTODAY 2016 年 7 月 20 日 低下傾向を辿っており、足元では景気拡張期の終焉を示す水準に近づいている。基本的に生産関連指標 の悪化が主因だが、長期停滞といわれるような構造変化の影響で下方バイアスが存在することに留意が必 要だ。すなわち、下方バイアスにより経済指標がリセッション・ラインに近づきやすいことから、景気後退シナ リオが議論されやすいリスクを内包している。 ■図表:シカゴ連銀全米経済活動DI 1.0 2014年半ば以降、 ほぼ一貫して低下傾向。 構造変化の影響で下方バイアスが 存在することに注意。 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 ▲ 0.2 リセッション・ライン ▲ 0.4 ▲ 0.6 ▲ 0.8 ▲ 1.0 1980 90 00 10 (年) (注)シカゴ連銀全米活動指数は 85 の経済指標より構成されており、①消費・住宅、②雇用、③生産・所得、④売上・ 受注・在庫の 4 つの分野に分けられる。 リセッション・ライン(▲0.35)は、景気後退入りの可能性を示唆する水準。 (資料)シカゴ連銀よりみずほ総合研究所作成 「世界の金利の『水没』マップ」のなかで、世界全体の4分の1以上の債券が水没するなか、米国は水没 せず、世界の「海」のなかで「浮き輪」のように浮き出ている。世界の運用者が生き残りをかけ「運用難民」と して「浮き輪」に殺到する結果が、米国長期金利の低下につながった。同時に、その圧力が米ドルの上昇 につながっている。米国は年初来ドル高を嫌い10%以上のドル安誘導を意図してきた。その目安となる水 準は明示されていないが、IMFの調査によると、米国の経常収支を改善させるには、対ドルで98円程度ま での調整が必要との見方も根強い。ドル安誘導と、本来ドル高圧力を加えやすい利上げは、自己矛盾して いるため、当社は年内の利上げはないとのスタンスを続けている。 当社の緊急改訂見通しのなかで、米国の見通しは据え置いたが、その前提は米国のドル安誘導が米国 経済のサポートになることだ。目処となる為替水準は幅を持ってみる必要があるが、100円近辺にあるとみら れる。仮に米国の景気回復が循環的に後退に向かう蓋然性が高まれば、利上げシナリオは消失し、為替 の水準は90円台に定着するとみるべきだ。さらに、次のFRBの一手がQE4のような追加緩和策へ戻るとす れば、円/ドルレートが90円を割るリスクも否定できない。 「水没マップ」で海外環境を振り返れば、いま米国が「浮き輪」ということは、米国しか景気回復の地域が ないことを意味する。今年の米国のドル安誘導は、金利格差によって米国に「運用難民」が押し寄せること で生じるドル高圧力、つまり世界中から掛かる重みに米国の「浮き輪」が耐えられなかったことを意味する。 それゆえ、実際の利上げは難しいのではないか。むしろ、次の一手が利上げではなく、緩和方向のバイア スがかかるとの見方が市場を動かしやすい。 1 2 小野 亮「米景気後退の鐘を鳴らすのは誰か」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 7 月 11 日) 「2016・17 年度 内外経済見通し(2016 年 7 月緊急改訂)」(みずほ総合研究所 『内外経済見通し』 2016 年 7 月 8 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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