(2016 年 7 月号掲載) 「アートによる地方創生」~中之条町の挑戦~ 群馬経済研究所主任研究員 ― 要 約 伊勢和広 ― 1. 中之条町は、群馬県北西部の山間地に位置し人口減少が続いているが、アート イベント等を活用して町外から人を呼び込むユニークな活動を行っている。 2.中之条町では、2年に1度開催される現代アートの展覧会「中之条ビエンナー レ」を 2007 年から続けている。アーティストに少ないコスト負担で作品を披露す る機会を提供し、中之条の風土に根ざした作品を町内で制作し展示してもらうこ とで、地域の魅力向上を図っている。 3.ビエンナーレでは、展示会場を町内の市街地、温泉地など各地区に設けるた め、来場者が町内各地を巡ることとなる。それに伴う「来場者と地域住民との触 れ合い促進」や「観光消費の拡大」などによって町が活性化している。 4. 町が発表しているビエンナーレの開催実績を、07 年と 15 年の対比でみると、 「1日あたりの延べ来場者数」は 2000 人から約 1 万 5000 人に、「経済効果」は 3000 万円から6億円に、それぞれ大きく増加しており、町内経済にも好影響を与 えている。 5.地域住民はボランティアとしてビエンナーレ運営を支えている。ビエンナーレ のボランティアを通じて 他地域から来たアーティストや来場者と触れ合うことによ って、田舎暮らしの豊かさなど自分たちでは気付かなかった「外から見た中之条町の 良さ」を住民が再認識し、地元への愛着が深まるという効果も生んでいる。 6.中之条町の好事例から学べることは、「前例がないことを実行する勇気」と 「第三者の視点を導入することの重要性」である。また、「定住人口の増加」に 必ずしもこだわらず、来町者を増やす「交流人口の増加」を目指すという地方創 生策もあるということである。「第三者の視点」というフィルターを通して自分 の町の良さを再認識し、住民自身が自分の町を更に好きになるということは、地 方を創生するための原点となるであろう。
© Copyright 2024 ExpyDoc