価値創造のためのダイバーシティ経営に向けて

Ⅱ 価値創造のためのダイバーシティ経営に向けて
①プロダクトイノベーション:
対価を得る製品・サービス自体を新たに開発したり、改良を加えたりするもの
(多様な人材が異なる分野の知識、経験、価値観を持ち寄ることで、「新しい発想」が生まれます。)
②プロセスイノベーション:
1.なぜ今、「ダイバーシティ経営」 なのか
製品・サービスを開発、製造、販売するための手段を新たに開発したり、改良を加えたりするもの(管
理部門の効率化を含む)
(1)競争優位を構築するための経営戦略
(多様な人材が能力を発揮できる働き方を追求することで、効率性や創造性が高まります。)
「ダイバーシティ経営」とは、
「多様な人材 を活かし、その能力 が最大限発揮できる機会を提供することで、
1
2
イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営 」のことです。個々の企業が置かれた市場環境や技
3
術構造の中で競争優位を築くために必要な人材活用戦略といえます。福利厚生や CSR(企業の社会的責任)
としてではなく、あくまでも経営戦略の一環として、自社の競争力強化という目的意識を持って戦略的に進め
ることが重要です。
③外的評価の向上:
顧客満足度の向上、社会的認知度の向上など
(多様な人材を活用していること、およびそこから生まれる成果によって、顧客や市場などからの評価
が高まります。)
④職場内の効果:
社員のモチベーション向上や職場環境の改善など
ダイバーシティ経営が求められる背景には、グローバル化をはじめとする市場環境の変化があります。こう
した変化は、企業にとって、競争環境の変化や不確実性を加速するとともに、ステークホルダーの多様化をも
(自身の能力を発揮できる環境が整備されることでモチベーションが高まり、また、働きがいのある職
場に変化していきます。)
たらします。
そうした中、企業は、以下のような対応を求められます。
ダイバーシティ経営の成果イメージ
直接的成果(財務的価値)
多様化する顧客ニーズを的確に捉え、新たな収益機会を取り込むためのイノベーションを生み出すこと。
急激な環境変化に柔軟かつ能動的に対応し、リスクをビジネス上の機会として捉え機動的に対処すること。
②プロセス・イノベーション
生産性・創造性の向上、
業務効率化など
国内外の投資家からも、「持続可能性」(サステナビリティ)のある投資先として信頼されることなど。
こうした要請に対応するための経営戦略として、事業展開に不可欠な多様な価値観を有する幅広い層の人材
を確保し、その能力を最大限発揮してもらうことで、イノベーションの創出など、価値創造につなげる「ダイ
バーシティ経営」が求められます。これは、これからの時代に企業が勝ち残るための、いわば「標準装備」と
も言えます。
(2)ダイバーシティ経営の成果
①プロダクト・イノベーション
商品・サービスの開発、
改良など
社内インパクト
社外インパクト
④職場内の効果
ES※ の向上、
職場環境改善など
③外的評価の向上
CS※・市場評価の向上、
優秀な人材獲得など
間接的成果(非財務的価値)
※CS/ES…顧客満足(Customer Satisfaction)/従業員満足(Employee Satisfaction)
ダイバーシティ経営は、社員の多様性を高めること自体が目的ではありません。また、福利厚生や CSR(企
業の社会的責任)の観点のみを直接的な目的とするものでもありません。経営戦略を実現するうえで不可欠な
多様な人材を確保し、そうした多様な人材が意欲的に仕事に取り組める職場風土や働き方の仕組みを整備する
ことを通じて、適材適所を実現し、その能力を最大限発揮させることにより「経営上の成果」につなげること
このうち、①と②は、企業の収益・業績に直結しうる「直接的効果」をもたらすものであり、③と④は、企
を目的としています。
業の収益・業績に「間接的効果」をもたらすものと言えます。
ここでは、経営上の成果として、大きく 4 つに分けて考えることができます。
ダイバーシティ経営には、多様な人材の確保、定着、能力発揮などのために様々な取組が含まれ、その過程
で、①∼④の成果が複合的にあらわれてきます。
1 「多様な人材」とは、性別、年齢、国籍、障がいの有無などだけでなく、キャリアや働き方などの多様性も含みます。
2 「能力」には、多様な人材それぞれの持つ潜在的な能力や特性なども含みます。
3 「イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」とは、組織内の個々の人材がその特性をいかし、いきいきと働くことの出来る環境を整え
ることによって、「自由な発想」が生まれ、新しい商品やサービスなどの開発につながるような経営のことです。
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Best Practices Collection 2016
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2.ダイバーシティ経営の基本的な考え方と進め方
(1)ダイバーシティを経営戦略として進めるために
∼自社のダイバーシティ経営の方向性を定め、推進していくために必要なこと∼
ダイバーシティ経営を成果につなげるために、平成 24 年度から平成 27 年度までに「ダイバーシティ経営
ダイバーシティ経営は、企業が競争優位を築くための経営戦略の一環として位置付けられる人材活用戦略で
企業 100 選」に選定された各社の取組事例から共通的な要素を抽出し、業種・規模などを超えて幅広く参考
す。経営において多様な人材の能力を発揮させることで、人材活用の裾野を広げると共に、各々の視点を生か
にしていただくためにとりまとめたものが、下記の「基本的な考え方と進め方」です。
した多様な市場ニーズへの対応や、「違い」を生かしたイノベーションの創出につながります。
この基本的な考え方を参考としつつ、他社の取組をそのままなぞるのではなく、事業目的や市場環境などに応
ダイバーシティ経営推進のための戦略は、経営全体の方向性に整合的に設計される必要があります。まずは
じて、自社にとって有効な「ダイバーシティ経営」のあり方を創出し、まずはできることから実践していくこ
自社が今置かれた環境の中で、どのような競争優位の確立を目指すのか、その実現のためにどのような経営戦
とが重要です。
略を立てるのか、その実行のためにどのような人材を確保し、どのように配置し、どのようなミッションを与
え、どのようなマネジメントにより成果を上げさせるか、といった一連の取組を一貫したものとして構築する
必要があります。
ダイバーシティ経営の基本的な考え方と進め方(全体像)
①自社の経営理念とダイバーシティ経営の明確化
(1)ダイバーシティを経営戦略として進めるために
①自社の経営理念とダイバーシティ経営の明確化
②経営トップを核にした体制・計画づくり
(2)多様な人材が活躍できる土壌をつくるために
(A)
(B)
(C)
人事制度・人材登用
勤務環境・体制の整備
社員の意識改革・能力開発
①職 務の明確化・公正
で透明性の高い人
事評価制度
①勤務時間・場所の柔
軟化と長時間労働の
削減
②多様な人材の積極的
な登用・採用
③ 個々の強み・多様性
を引き出し活かす配
置・転換
②多様な人材が働きや
すい環境・体制構築
①キャリア形成や能力
開発のための教育・
研修の拡充
②マネジメント層の意
識改革・スキル開発
自社のダイバーシティ経営
の方向性を定め、推進して
いくために必要なこと
自社の社員の属性、特性を
見極め、その能力を活かす
ために必要なこと
◆自社の経営理念は、多様な価値観や考え方を束ねる“拠り所”となっていますか。→アイデアリ
スト(1)①1)
多様な人材が集まるということは、その属性だけでなく、文化や価値観、ものごとの考え方についても多様になる可
能性が生じます。まさに、その多様性の中から新しい発想やイノベーションが生まれてくることになりますが、現場レ
ベルでは、そこから生じる軋轢などに対して適切に対応していくことが必要になります。
その時に指針となるのが、自社の「経営理念」です。考えがぶつかったとき、行動に迷った時、どう解決するのが自
社の経営にとって最適であるかを、社員一人ひとりが「経営理念」に照らして判断し、議論できることが、何より重要
になります。ダイバーシティ経営の実践とは、その積み重ねに他なりません。
その意味で、概念的な「経営理念」だけではなく、そこから一歩具体化させた「行動指針」を明確にしておくことが
必要です。すべての社員が目指すべき理想像とその考え方を共有することが、ダイバーシティ経営の第一歩となります。
◆経営理念や行動指針との関連性の中で、ダイバーシティ経営が位置付けられていますか。→アイ
デアリスト(1)① 2)
(3)多様な人材の活躍を価値創造につなげるために
①情報共有・意思決定プロセスの透明化
②「違い」を強みにつなげるコミュニケーション活性化・職場風土づくり
③適性配置を可能にする機会・業務の創出
④多様なステークホルダーとのコミュニケーションを通した成果の発信・共有
価値創造
個々の社員の活躍を、イノ
ベーション創出へつなげる
ために必要なこと
ダイバーシティ経営は、前述のように、企業が競争優位を築くための経営戦略の一環として位置付けられる人材活用
戦略です。福利厚生や CSR(企業の社会的責任)の観点のみを直接的な目的とするものではありません。
したがって、企業理念や社員の行動指針の中で明確に位置付け、自社なりの戦略として具現化させる必要があります。
そのためには、ダイバーシティ推進によって目指すべき経営成果についてのイメージを明確にし、それを共有すること
が必要です。その上で、ダイバーシティに関する指針、行動目標を定めることでアクションを推進するための後ろ盾が
でき、具体的な施策を実行に移すことができるようになります。
◆トップは「自社にとって、ダイバーシティとは何か」、「どのような意味を持つものか」を明確に
発信していますか。→アイデアリスト(1)① 3)
ダイバーシティ経営は、経営戦略を実現するうえで不可欠な人材活用上の課題ですが、各社の置かれた状況によって
その位置付けや取組内容は大きく異なります。
トップはまず、自社が、今なぜ、ダイバーシティ経営に取り組むのか、それによって何を得ようとしているのか、トッ
プ自身が理解、納得した上で、社員に対してわかりやすく説明する必要があります。
また、ダイバーシティ経営を実現するためには、既存の職場風土や働き方を改革することも求められます。そのため、
トップが繰り返し社員に向けてメッセージを発信することによって、経営における優先度の高さを明確にし、その必要
性に対する理解を会社全体に浸透させていくことが求められます。また、ダイバーシティ経営は、人材活用だけでなく、
人材育成への取組が重要となるため、その成果はすぐに現れるとは限りません。そのため、トップがその重要性を継続
的に発信し続けることによって、息の長い取組を実施していくことが重要になります。
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Best Practices Collection 2016
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②経営トップを核にした体制・計画づくり
「チャレンジド(the challenged)」という言葉があります。これは、障がいのある人材を「挑戦という使
命やチャンスを与えられた人材」とポジティブに捉えようという新たな考え方を表しています。育児中の女性
◆行動計画を実現するための適切な目標を設定していますか。また、目標に対して、適切な指標を
設定し進捗管理・達成度を測定していますか。→アイデアリスト(1)② 1)
行動指針を定めるだけでは、ダイバーシティ経営は画餅に終わってしまいます。ダイバーシティ経営を推進するため
には、現状を分析し、課題点を洗い出した上で、中長期的な目標を設定しなければなりません。また、定期的にその目
標の達成度を測りながら、施策の展開に反映させる必要があります。すなわち、ダイバーシティ経営に関する PDCA
サイクルを回すことが重要です。多様な人材を量的に確保したら後は自然に成果があらわれてくる、というものではな
いのです。
なお、ダイバーシティ経営の推進に関する指標として、例えば「女性管理職比率」や「外国人採用率」などが用いら
れることが多くみられます。こうした目標設定は重要ですが、単にこの数値を上げることを自己目的化するのではなく、
何のためにダイバーシティ経営を進めるのか、そのためには、どのような人材に、どのような業務を任せ、どのような
成果を上げることが必要か、という点を常に明確にする必要があります。また、数値目標の選択も自社の実態に即した
ものを設定することが大事です。例えば、社員に占める女性割合が低い企業では、採用における女性比率について目標
設定をすることも有効です。
◆ダイバーシティを推進する体制がありますか。また、ダイバーシティ推進の担当部署は、各関連
部署と密接に連携を図っていますか。→アイデアリスト(1)② 2)・3)
ダイバーシティ経営の推進にあたっては、人事評価や配置、両立支援などの人事処遇制度の整備や運用のみならず、
職場マネジメントなど業務遂行の方法など、組織全体の在り方を見直すことが必要となります。こうした全社的な取組
を包括的、体系的に進めるためには、部署を横断してこうした施策を展開するための推進体制が必要となります。なぜ
なら、特定の役割と権限を持つ担当者を設けることで、活動を持続できる可能性が高くなり、また、全社的にその活動
を認識させ、他部署からの支援を得やすくなるからです。推進組織や推進担当者だけでなく、特に経営企画や人事管理
の部署の担当者がダイバーシティ経営に関して正しい認識を持つことが重要です。
もちろん、専従の、もしくは新規の部署を設けなくとも、機動的に活動が展開できる場合には、既存の部署に同様の
権限を持たせることで代替することも可能です。特に中小企業にとっては、その方が効率的な場合が多いといえます。
加えて、ダイバーシティ経営を推進するための取組は、担当部署内で完結するものではありません。あくまで「企業の
競争力強化」を目的とした経営戦略ですので、その目的に応じて、経営企画部署や各事業部門などをはじめ関連する部
署と密に連絡を取り合いながら、協力して施策を展開していくことが必要になります。ダイバーシティ推進担当部署は、
ダイバーシティ推進に係る人事施策を全社的に展開・浸透させることのみならず、経営戦略の一環としてダイバーシティ
推進に向けた施策のあり方を企画し、見直していくことが求められます。
◆トップは、担当部局だけではなく、社員とコミュニケーションをとりながら進めていますか。→
アイデアリスト(1)② 4)
ダイバーシティ経営は、社員の日常的な業務に直結するものであり、特に管理職層の意識改革とマネジメントの改革
が必要です。このため、トップの役割として、ダイバーシティ推進を担当部署に任せきりにしていては、その実現には
至りません。社員が持てる能力を十分に発揮し、組織としてのパフォーマンスに貢献しているかどうか、常に社員との
直接のコミュニケーションの接点を持って確認をしながら取組を改善していく過程をトップダウンとボトムアップの両
方から進めていく必要があります。
また、社員からの提案を受け入れ、実行に移す体制を構築することも有効です。日々の業務の中で気付いた些細なこ
とでも、社員の声に耳を傾け、その改善を繰り返すことにより、変化を受け入れる風土が育ちやすくなります。
(2)多様な人材が活躍できる土壌をつくるために
∼自社の社員の属性、特性を見極め、その能力を活かすために必要なこと∼
ダイバーシティ経営では、社員の能力を見極め、適材適所を図ることによって、イノベーションの創出や生
産性の向上を実現させることを目指します。そのためには、個々人の抱える事情に配慮し、全ての人材が様々
な制約の中でも仕事への意欲を高め、能力を発揮できるような環境整備が必要となります。例えば、子どもを
持って働く母親、日本語での会話が難しい外国人、何らかの支援が必要な障がいのある人材、週 5 日フルタ
イムで働くことを望まない高齢者などです。
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も、時間制約があるからこそ緊張感を持って時間当たりの生産性を上げようとする傾向がありますし、育児経
験から豊富なアイディアも生まれてきます。障がいや時間制約などをマイナスとして捉えるのではなく、「ビ
ジネスチャンスや生産性向上につながる可能性」として捉え直す発想も重要です。
こうした多様な人材が仕事への意欲を高め、能力を発揮できるようにするためには、「制約のない社員」を
前提とした従来型のマネジメントの仕組みを大胆に改革し、柔軟性を高める方向で働き方を改革していくこと
が必要です。
働き方の改革には、持続的な取組が不可欠です。また、そうした改革は、「制約のない」社員には、一時的
に「不都合」が感じられる場合もあり、社内の抵抗がある場合も考えられます。しかしながら、最終的にその
組織で何を生み出したいかを明確にし、「制約のある人材」に対して、一人ひとりの可能性や強みが発揮でき
る部分に着目し、それを引き出す技術や制度を生み出してフォローを実施していくことによって、様々なバッ
クグラウンドを持つ人材が活発に、自発的に働ける組織に変わっていくことが可能になります。また、「制約
のない」社員であっても、長い職業キャリアの中で制約の生じる可能性があります。「制約」は固定的なもの
ではなく、誰もが当事者になりうるものであるという点についても、理解を図っていくことが重要と言えます。
(A) 人事制度・人材登用
①職務の明確化・公正で透明性の高い人事評価制度
◆誰にとってもわかりやすい評価体系になっていますか。また、公正な評価を実施できるよう、業
務分担や達成すべき目標が明確になっていますか。→アイデアリスト(2)(A)① 1)・2)・3)
社員の属性や働き方にかかわらず、職務やパフォーマンスに応じた公正な評価を実施していくことが必要です。その
ためにも、個々の社員に期待する役割、達成すべき目標を明確にし、社員自身がその働き方や目標を理解・納得して達
成に向け取り組めるよう、上司となる管理職が適切に指導、フォローする体制が求められます。特に、グローバル経営
の中で、文化や国籍の異なる人材を活用していく上では、こうした努力が社員の仕事への意欲を維持・向上させるため
に重要となります。
また、両立支援についても、どれほど働きやすい制度を整えたとしても、制度を利用することで人事評価に際して合
理的に説明できない低評価となる不安があっては、「活用できる」制度とは言えません。また、逆に、ある社員が制度
を利用しながら高い業績を上げていても、その評価が不透明な場合には、他の社員との軋轢を生んでしまう恐れもあり
ます。
したがって、両立支援などの制度を導入し、その活用を円滑化していくためには、利用する社員に対して求めるアウ
トプットの質や量を予め具体的に提示し、その成果に対して適切な評価を行う、といった明確な評価軸の整備が必要に
なります。そうすることで、時間制約がある中でも、計画的に業務を進めて期待されるアウトプットを出し、高い意欲
を維持して活躍してもらうことも可能になります。
②多様な人材の積極的な登用・採用
◆「ポジティブ・アクション」を有効に活用していますか。→アイデアリスト(2)(A)② 1)・2)
従来の人事処遇制度の中では、組織の中で、多数派・主流派でなかった属性の人材は重要な仕事を任されにくい、管
理職などに登用されにくい、といった現実があります。こうした状況を改善し、個々人の能力や実績に応じた適材適所
を図るためには、過渡的な構造改革の取組として、多数派・主流派でなかった人材を積極的に登用するための条件を整
備する取組、いわゆる「ポジティブ・アクション」が有効な場合もあります。
ただし、管理職登用の目標値の設定など、数値目標ありきで“数合わせ”をしても、却って逆効果になる可能性もあ
ります。登用対象層の拡大のために仕事の経験機会の不足を研修で補ったり、意識改革のための研修を実施したり、さ
らに登用された者に対する組織的なフォロー体制を構築するなどして、登用対象層の拡大や登用された人材が能力を十
分に発揮できる環境の整備が併せて必要となります。また、外国人や中途採用者などの登用を図るためには、国籍や勤
続年数などに関わらない人事処遇制度の構築が望まれます。
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③多様性を引き出し活かす配置・転換
◆人材の経験・スキルの多様性を高め、新たな可能性を開発して発揮できるように意識的な配置・
転換を行っていますか。→アイデアリスト(2)(A)③ 1)
個々の人材が有する多様性を尊重することにとどまらず、人材の経験・スキルの多様性を積極的に高めていくために、
意識的な配置・転換などを実施することも重要です。経験・スキルの多様性が高まると、個々の人材が発揮できる能力
の引き出しが増え、活躍の機会と可能性を広げることができます。
また、配置・転換による新たな経験を通じて個々の人材の視野が広がることで、事業企画について斬新な発想が生ま
れたり、業務プロセスの改革につながったりするなどの効果も期待できます。さらに、社員が「多能工化」することによっ
て、業務の繁閑や社員の急な休みなどに対しても、柔軟に対応することが可能になります。
配置・転換に当たっては、会社側の都合を押し付けるのではなく、十分なコミュニケーションにより、人材育成の上
の意義を明確に伝えつつ、本人のキャリア意識とのすり合わせを行うことで、成長意欲を高めていくことが重要です。
◆多様な人材の活躍を支えるような雇用区分の設計になっていますか。→アイデアリスト(2)
(A)③ 2)
勤務場所などに制約がある社員の活躍の機会を拡大するためには、個々の事情に応じた多様な働き方ができるような
個別の人事管理を行う必要があります。勤務地限定型の雇用区分を設ける企業もありますが、雇用区分の設計や運用を
誤ると、実質的に男女別の雇用区分となるなど多様な人材の活躍の機会を制約することになるため、留意が必要です。
仮に雇用区分を設けるとしても、その設定や運用では、社員の希望と企業の人材活用ニーズをすり合わせて雇用区分
間で相互に転換できる仕組みを設けることや、雇用区分に応じて昇進の上限を設定する企業がありますが、その場合に
は上限設定に合理性があるか検討が必要です。他方、勤務地を限定しない総合職においても、転居を伴う異動の頻度や
時期を見直したり、育児や介護などに配慮するなど柔軟な運用を行うことも重要です。
②多様な人材が働きやすい環境・体制構築
◆個々の社員の事情に応じた環境整備を行っていますか。また、その勤務を支援する体制が取られ
ていますか。→アイデアリスト(2)(B)② 1)・2)・3)・4)・5)
特別な配慮が必要な社員や、通常の勤務に制約のある社員の活躍を促すためには、様々な工夫が求められます。例えば、
相対的に筋力の弱い女性や高齢者が多く働くような職場では、力を入れずに物を運ぶための機器の導入などの工夫を行
うことで、業務負荷が軽減されます。同様に、車椅子でも作業のできる高さの机や通路幅の拡張、段差の解消といった
職場のハード面の整備を行うことで、障がいのある社員も制約なく勤務することが可能となります。
一方で、社員の間での円滑なコミュニケーションを実施するために、配慮や工夫が必要となる場合もあります。例えば、
外国人社員とのコミュニケーションには、言葉の壁だけでなく、価値観や文化的慣習などの違いから意思の疎通が難し
い場合がありますが、セミナーやマニュアルなどによって双方の考え方の違いを提示することなどにより、よりスムー
ズなコミュニケーションが実現すると考えられます。
さらに、既存制度の運用を柔軟化することで、活躍できる環境が整う場合もあります。例えば、育児期の社員に対し
ては、ベビーシッターなど育児関連費用の補助を行ったり、通勤時間が短い拠点へ配置したりすることにより、社員が
仕事の時間を確保しやすくできるよう支援することも考えられます。
このように、個々の社員の事情に応じた環境整備を行うにあたっては、単に制度を整備するだけではなく、実際に社
員が使いやすい制度になっているか、運用上で改善すべき点はないか、日々の業務の中で工夫できることはないか、と
いったことを確認しながら、絶えず見直しを実施することが有効だといえます。また、チャレンジドの雇用などに際し
ては、地域の就労支援機関など、外部の専門機関と連携を行うことで、より適切なサポートを行うことが可能になります。
(C)社員の意識改革・能力開発
①キャリア形成や能力開発のための教育・研修の拡充
(B)勤務環境・体制整備
①勤務時間・場所の柔軟化と長時間労働の削減
◆時間や場所などに関して柔軟な働き方が可能になっていますか。→アイデアリスト(2)
(B)① 1)
・
2)・3)
画一的、硬直的な「新卒採用、男性正社員、長期継続雇用モデル」を前提にすると、それ以外の人材の活躍の機会が
制限されます。多様な人材が仕事への意欲を高め、能力を発揮できるよう、従来型の働き方そのものを見直し、勤務時
間や通勤に制約などのある社員も対等に活躍できる環境を整えるための働き方改革を行うことが必要です。
例えば、育児中の社員や在宅で家族の介護をする社員など、様々な制約はあっても能力と意欲がある人材を企業とし
てつなぎ止め、能力を最大限発揮してもらうには、「人材活用戦略」として、柔軟な勤務環境・制度の整備、運用が必
要となります。
勤務時間や通勤に制約などのある社員に対しては、単に業務量や負荷を時間に合わせて調整するだけではなく、フレッ
クスタイム制や在宅勤務(テレワーク)などにより、時間と場所の自由度を高め、柔軟な働き方を可能とすることによっ
て、時間制約がハンデとならないような方向での支援が求められます。
◆画一的な働き方を見直し、長時間労働を是正していますか。→アイデアリスト(2)(B)① 4)
働く時間や場所の柔軟化を図っても、そもそも長時間労働が前提になっていると、能力を発揮する場が制限される人
材は多くなります。育児や介護など家庭の事情を抱える社員だけでなく、例えば外国人社員が従来型の日本の働き方に
馴染めず、離職する場合があることなども指摘されています。
短時間でも成果を上げる働き方を職場全体で実践することによって、生産性が上がるとともに、社員の満足度を高め
る効果が期待されます。
ただし、労働時間の削減だけを取り出して実践しようとしても、職場のマネジメント、更には業務遂行にあたっての
役割などが変わらなければ、なかなか実態は変化しません。上記のような問題意識を共有しながら、関連する制度や職
場風土そのものを見直す取組を同時に進める必要があります。
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◆多様な人材を意思決定層に引き上げるために、多様な人材を対象とした管理職研修などを実施し
ていますか。また、社員のスキルアップのための多様な手段を用意していますか。→アイデアリ
スト(2)(C)① 1)
例えば女性など、組織の中でこれまで多数派・主流派でなかった属性の人材は、スキルアップのための機会や、マネ
ジメントスキル向上のための有形無形の社内資源に十分にアクセスできていない場合がみられます。
そのような状態のまま、たとえ抜擢・登用したとしても本来の力を発揮できないままに挫折してしまうケースも生じ
かねません。多数派・主流派でない人材が組織の中で実力を発揮できるようにするためには、意識づけのための研修や
きめ細かいフォローアップの仕組みを設ける必要があります。女性を例に挙げれば、女性社員向け職場マネジメント研
修やメンター制度などを通じて、主流派が“暗黙知”として継承してきたノウハウなどを積極的に提供することが有効
です。
また、多様な人材のスキルアップを支援するための取組も重要です。業務に直接かかわる部分での OJT(on-the-job
training)だけでなく、例えば資格取得の促進や支援、時間や場所に縛られずに受講できる e- ラーニングプログラムの
導入、社員の学びを促進するための休暇取得や助成制度の整備などにより、個々の社員が自発的・積極的なスキルアッ
プに取り組む組織が作られます。同時に、そうした人材が、キャリアプランを構築し自律的に仕事に向き合う機会を提
供することも有効です。
◆多様なキャリアや価値観を持つ人材のネットワーキングを通じて、社員の仕事への意欲の向上や
キャリアアップを図っていますか。→アイデアリスト(2)(C)① 2)
仕事への意欲を高く維持して日々の業務に取り組むためには、中長期的なキャリアアップの見通しをもつことが重要
です。ただし、特に女性にとっては、「身近なロールモデルがいない」ことにより、自身の将来的なキャリアイメージ
を持ちにくいことが指摘されています。そこで、多様な経験を積んだ人材を広くネットワーク化し、悩みや課題を話し
合ったりする機会などを設けることが効果的です。自身の日々の業務上の悩みや将来的なキャリアなどについて意見交
換をしたり、成功体験を共有したりすることで、同じ悩みや課題を抱えるのは「自分一人ではない」と体感でき、仕事
への意欲のさらなる向上にもつながることが期待されます。
また、自社内だけで十分なネットワーク化を図ることが難しい場合には、複数社が共同でネットワーキングを行う機
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会も有効です。自社内だけでは得られない視野や視点が広がり、現状を打破するための活力や具体的な示唆が得られる
といった効果があります。
②マネジメント層の意識改革・スキル開発
◆多様な人材の能力を発揮させるために、管理職層の意識改革を図る取組を実施していますか。→
アイデアリスト(2)(C)② 1)
ダイバーシティ経営を実践するにあたって、最も大きな課題となるのは、管理職による職場マネジメントです。どれ
ほど制度が整っていても、実際に社員が働く職場で活躍の機会が限られていては、仕事への意欲は低くなり、能力が十
分に発揮されず、ダイバーシティ経営の成果が出る前に、取組は頓挫してしまいます。一人ひとりの「違い」を最大限
に生かして組織を率いるリーダーシップが管理職のマネジメントに求められます。
まずは、自社にとってのダイバーシティ経営の目的(なぜ今取り組まねばならないのか)を、社員、特に管理職層が
十分に理解する必要があります。その時、企業理念や行動指針などの大きな目的を踏まえた上で、現状の組織の課題解
決のためにダイバーシティをどのように「活用」するかを考えることが有効でしょう。
ダイバーシティ経営の推進は、往々にして総論賛成、各論反対になりがちです。組織全体でダイバーシティ経営を推
進するためには、各部署でどのような取組が必要かを職場レベルで具体的に検討するとともに、そうした取組を各職場
で共有して刺激を与え合える機会を設けたり、業績評価の項目に入れるなど、管理職層に対する十分なインセンティブ
を与えることが必要となります。
◆管理職層のマネジメントスキルを高めるための工夫を行っていますか。→アイデアリスト(2)
(C)
② 2)
管理職層の職場マネジメントのスキルを向上させることも必要です。従来の「あうん」の呼吸が通じる均一的な集団
の人事管理に比べ、様々な事情を抱えた人材を束ねて経営目標に向かって組織としての業績を最大化するためには、高
度な職場マネジメント能力が要求されます。
個々の業務の目的、過程、期限、評価といった点について、多様な社員に対してきちんとコミュニケーションをとり
ながら説明していく必要があります。特に、価値観や文化的慣習の異なる外国人や、国内でもコミュニケーション自体
に困難を伴う障がいや多様な価値観を持つ人が多い職場などでは、とりわけ意識的に「伝え」、「理解してもらう」過程
が重要になります。ただ、これらの過程では、細かな方法について指示を与えることが重要なのではありません。理念
や目標、行動指針の共有を前提として、多様な人材が成果を生み出す過程や方法には多様な道筋がありえるものとの捉
え方も重要になります。
このような管理職に求められる職場マネジメントのスキルは、自然に身に付くものではありません。研修やワーク
ショップなどを通して意識的な改革を促す必要もあります。また、ダイバーシティ経営推進の観点からだけでなく、職
場のマネジメントの改革それ自体を実行していく中で、そこにダイバーシティ経営の観点を組み込んでいくというアプ
ローチも有効です。
(3)多様な人材の活躍を価値創造につなげるために
∼個々の社員の活躍を、イノベーション創出へつなげるために必要なこと∼
ダイバーシティ経営を成果につなげるためには、企業としての基本的な価値や方向性について企業理念・行
動指針などの形で共有しつつ、多様な人材の価値観や考えを尊重・反映して価値創造につなげていくための、
意思決定プロセスや組織文化の変革が求められます。
さらに、ダイバーシティによる成果を対外的に発信する活動を通じて、一般消費者や投資家からの評価や信頼
が高まることにより、企業価値が高まり、さらに優秀な人材の確保などにつながるという好循環が生まれます。
①情報共有・意思決定プロセスの透明化
◆社員それぞれの意見を表明できる場を設け、相互に情報を共有しあう仕組みを作っていますか。
また、それらの多様な意見は尊重されていますか。→アイデアリスト(3)① 1)
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「多様な人材がいれば、自然に多様な意見が出てくる」ことは、まずありません。特に、職場内での“少数派”は、
その思いや意見を表に出しづらい状況に置かれています。その点を認識した上で、個々の社員が同じように声を上げら
れるように、仕組みを作っていくことが有効です。例えば、すべての社員に対し等しく「直談判」の機会を設けたり、
あるいは職場の中で気付きや提案をし合う制度をつくったりするなどすることで、自然に意見を表明することができる
組織風土へと変わっていくでしょう。
ただし、その際には、表明した意見を尊重する姿勢を、トップ(または現場のマネジメント層)が保つ必要があります。
少数派の意見だから、前例にないアイディアだから、といって排除されてしまっては、それ以降、勇気をもって発言す
る社員はいなくなってしまいます。制度や仕組みを導入した上で、そこから得られた多様な意見をどのように生かして
いくか、その運用こそが問われることになります。
◆社内の情報共有や意思決定のプロセスについて、全社員にとって透明性の高いものとなっていま
すか。→アイデアリスト(3)① 2)
意思決定のプロセスについて、多様な社員間で、納得感のある公平で透明性の高いものにしていく必要があります。
「言
わなくてもわかっているはず」という考えや、多数派・主流派の社員だけでの意思決定は、ダイバーシティ経営のもと
ではそぐいません。社内会議の運営など経営における意思決定プロセスについて、働き方や価値観、コミュニケーショ
ンスタイルの違いがある多様な人材の意見が反映され、意思決定について納得感が得られる仕組みに見直す必要があり
ます。
②「違い」を強みにつなげるコミュニケーション活性化・職場風土づくり
◆多様な人材が有する「違い」を経営における強みにつなげていくために、社員が幅広く交流し互
いに刺激を与え合うことを促進していますか。→アイデアリスト(3)② 1)
ダイバーシティ経営に取り組む企業の中には、日常業務から離れて組織横断で行うオフサイトミーティングや委員会
活動などを実施している企業が少なからずあります。これらの取組は、多様な人材がそれぞれに活躍するだけでなく、
互いの考えや価値観をぶつけあって、刺激を与え合いながら企業価値を生み出すコミュニケーション活性化のために有
用です。こうした施策を意識的に進めることで、常日頃からセクショナリズムに陥らない風通しの良い職場風土が形成
されると共に、個々の社員の発想や考え方の多様性がイノベーションにつながります。
③適性配置を可能にする機会・業務の創出
◆多様な人材が、仕事の上で能力を発揮し、個々の強みを活かすことができる機会を積極的に設け
ていますか。→アイデアリスト(3)③ 1)・2)
ダイバーシティ推進を経営成果に結びつけるためには、多様な価値観や能力を持つ人材が、その能力を活かして、仕
事の上で個々の強みを発揮できる機会をつくることが重要です。例えば、社員一人ひとりの生活者としての視点や育児・
介護などの経験を商品やサービスの開発、あるいはマーケティングなどに活かすことが考えられます。また、チャレン
ジドや高齢者がそれぞれの特性に応じて能力を発揮できるように仕事を切り出すなど仕事の進め方を工夫する中で、プ
ロセスイノベーションが起こり、会社全体としての生産効率が高まり、製品・サービスの質の向上が実現できます。
ほかにも、異なる業種や職種で働いてきた中途採用者の前職の経験を積極的に活かして、新しいサービスを生み出し
たり、社内の業務改善を図ったりすることも可能となります。
すなわち、強みを活かす「仕事づくり」や多様な人材への「機会付与」が、人材の成長を加速化し、社員一人ひとり
の有する視点や能力から新たなイノベーションを生み出すことにつながります。
◆多様な人材の新しい挑戦を、全社で支え、成果に結び付けるための工夫を行っていますか。→ア
イデアリスト(3)③ 3)
上記のような、多様な人材による新たなチャレンジを成功させるには、その試みをバックアップし、全社のノウハウ
を総動員して支援していく必要があります。しかしながら、よくある“失敗”パターンとして、「女性消費者に向けた
商品開発のために女性チームを結成」して、あとは「お任せ」にしてしまうような事例も見られます。
新規事業であれ、業務プロセス改善であれ、新たな取組を推進していくためには、単に新しい人材を登用するだけで
は不十分であり、その人材が活躍できるだけの材料を投下しなければなりません。このことは、一般的には認識されて
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いるはずですが、こと「多様な人材の活躍」を冠する取組では忘れられがちなポイントです。また、「女性」を同質的
に捉えてしまうと、個々人の間にある多様性が看過されてしまいます。個別のアイディアやスキルを組織として活かし
ていく工夫がダイバーシティマネジメントには求められます。
チームを組成して、あるいは取組を開始して満足するのではなく、それをどのように一つのビジネス(または業務プ
ロセスなど)として軌道に乗せていくか、ここにダイバーシティ推進に対する企業の「本気度」が現れると言えます。
④多様なステークホルダーとのコミュニケーションを通した成果の発信・共有
別紙 取組のアイデアリスト
それでは、平成 24 年度から平成 27 年度に「ダイバーシティ経営企業 100 選」に選定された、先進的な
取組を行っている各社では、「2.ダイバーシティ経営の基本的な考え方と進め方」をどのように具体化して
いるのでしょうか。
◆ダイバーシティ推進に関する取組を社内に周知し、その成果を共有していますか。→アイデアリ
スト(3)④ 1)
平成 24 年度から平成 27 年度のベストプラクティスから、前項の各項目に対応する取組をピックアップし
ました。自社にとって有効なダイバーシティ経営を実践していく際の参考として、ご活用ください。
(※取組内容は、表彰年度におけるものです。)
せっかくいろいろな施策を進め、成果を上げていても、そのことが一部の社員にしか伝わっていなければ、全体とし
ての好循環にはつながりません。自社内に、どのような社員がいるか、どのような仕事をして成果を上げているかを積
極的に発信することによって、ダイバーシティ推進の経営上の意義に対する理解が全社で共有され、社内全体の風土改
革につながります。また、仕事への意欲を高めて能力を発揮しているロールモデルとなりうる社員の存在を知ることに
よって、他の社員の励みにもなり、仕事への意欲の向上の一策ともなります。
特に、トップが取組による成果をしっかりと認識した上で、社内に対し評価をフィードバックすることが、更なるダ
イバーシティ推進を加速させることに繋がります。
(1)ダイバーシティを経営戦略として進めるために
①自社の経営理念とダイバーシティ経営の明確化
1)経営理念の明確化
▪ 新たに経営理念として「VISION:私たちがめざす姿」、「MISSION:私たちがやるべきこと」、「VALUE:一人ひ
とりの行動」を体系立てて明確化し、朝礼で共有するとともに、常に手元に置いて参照できるような冊子も用意
した。自社がどこに向かって事業を展開していくのか、そのために個々人が何を意識して日々の業務に取り組め
◆多様な人材の活躍状況を社外に情報発信していますか。また、ダイバーシティ経営の成果について、
発信し共有していますか。→アイデアリスト(3)④ 2)
少子高齢化の進行による人材不足が懸念される中、どの企業にとっても優秀な人材を確保することは喫緊の課題に
なってきます。また、ビジネスのグローバル展開を図るには、日本国内に留まらずに人材を集めていくことが必要とな
ります。
ダイバーシティ経営に取り組む中で、多様な人材を登用し成果を上げていることを社外に発信することにより、「多
様な人材が働きやすい、活躍しやすい職場である」ことが社会的にも認知されていきます。多様な人材を受入れることで、
地域における多様な人材の雇用促進に寄与するのみならず、全国各地から優秀な人材の確保につながることも考えられ
ます。
さらに、自社のダイバーシティ経営に関する取組と成果を、積極的に社外に発信し、その理念への共感を高めることで、
顧客に対するイメージアップや投資家からの信頼向上にもつながります。
ダイバーシティ経営は単なる「多様な人材の活用」ではなく、中長期的に企業の競争力を高めるための経営戦略であ
ることは、ここまで繰り返し述べてきました。そうであれば、ダイバーシティ経営に取り組むことこそが、これから成
長する企業にとっての必要条件としてみなされるようになるでしょう。企業の様々なステークホルダーからの評価が高
まることで、それが企業としての持続可能性の基盤となっていきます。
ばよいのかを、経営理念に紐づけて浸透させる取組である。(H26 選定:ヱビナ電化工業㈱)
▪ 従来のやり方や価値観に拘る社員に対しては「Customer determines our success(お客様に選ばれる存在で
あり続ける)」という理念に立ち返りつつ、何が最も顧客にとってメリットをもたらすかを丁寧に話し合い、業務
遂行に支障をきたさないような方法を全員で検討するといったプロセスを取っている。(H26 選定:日本 GE ㈱)
▪ 創業者が京都大学在学中に立ち上げた学生ベンチャー「堀場無線研究所」を前身とする同社は、社是「おもしろ
おかしく」にみられるように、「成果を出すためには、仕事を心からおもしろいと感じ、仕事も遊びも一生懸命取
り組むべきである」という創業者の“おもい”を受け継いできた。(H27 選定:㈱堀場製作所)
2)経営理念・行動指針への位置づけ
▪ 2010 年の「花王ウェイ(経営理念)」の改定に伴い、行動原則に「私たちは、ダイバーシティ(多様性)から生
まれる活力が事業の発展を支えるとの認識に立ち、文化、国籍、信条、人種、性別などの多様性を尊重します。」
と明記されることとなった。(H24 選定:花王㈱)
▪ 同じベクトルに向かいながらも、異なる個性、感性や能力を持つ多様な人材を求め、創立 70 周年に向けて策定し
た中期経営計画“70 VISION”において人材方針を「3G ! generation free, gender free, global」と定め、
ダイバーシティを経営戦略の源泉に位置づけている。(H25 選定:㈱光機械製作所)
3)トップによるダイバーシティ推進の宣言
▪ 当時の社長は、「女性が活躍することなく辞めていくとしたら、住友生命の人事制度や組織に原因があるはずだ。
3.まとめ
そして制度や組織を改革すれば女性が辞めずに働き続ける会社になり、そのような女性は実務経験の積み重ねに
よって専門性を深める。これはサービスの質の向上につながり、管理職になる人材も増えるはずだ」と、考えたのだ。
そして社長は 2005 年に女性活躍推進についての全社通達を発令した。(H25 選定:住友生命保険相互会社)
グローバル競争の激化や少子高齢化による内需の低迷など、厳しい環境の中で企業が競争優位を確立するた
めには、多様な人材の能力を最大限活かして価値創造につなげることが必要です。こうして名実ともに多様な
人材を経営資源として有効に活用することで、個々の企業の競争力が強化されることは、我が国経済をデフレ
経済から脱却させ、成長路線へのシフトをもたらすことにもつながります。
ダイバーシティ経営は経営戦略の一環であり、自社の競争力強化という目的意識を持って、戦略的に取り組
むことが必要です。その中で最大の試練が管理職の「職場のマネジメントの改革」です。従来のマネジメント
に比べ、多様な人材を束ねて事業戦略上の目標に向かってパフォーマンスを最大化するためのマネジメントは、
遙かに高度なものであり、組織内の様々な「慣性」を断ち切り、ダイバーシティ経営を前に進めるには、トッ
プの強いリーダーシップと継続的な取組が不可欠です。
この「ダイバーシティ経営企業 100 選ベストプラクティス集」に収録された企業事例を参考に、各社にお
いてダイバーシティ経営を推進し、競争力強化につなげていただくことを期待しています。
▪ 1999 年に制定されたグループの「グローバル憲章」は 2008 年に改訂、現在では 27 言語に翻訳されており、
さらに毎週更新されるトップメッセージもすべて 10 言語に翻訳され、ダイバーシティを含めた経営への考え方や
世界の販売会社・工場などの事業戦略や動き、社員への期待などが発信されている。「能力、人格、資質、行動に
優れた人が国境という概念を超えて、国籍や民族に関係なく適材適所に配置され、組織を牽引している状態」が
「真のグローバル企業の理想」であるとの現社長の思いが共有され、それに向けて「日本人の本社社員が海外拠点
を統括する」という従来のマネジメントから、より自立的にビジネスを展開できるグローバル組織への転換を図っ
ている。(H27 選定:ブラザー工業㈱)
②経営トップを核にした体制・計画づくり
1)適切な目標の設定
▪ 同 社 が 設 定 し た KPI は「2020 年・10 %・20 %・30 %」、 す な わ ち「2020 年 に、 管 理 職 全 体 の 女 性 比 率
10%・45 歳未満の管理職の女性比率 20%・40 歳未満の管理職の女性比率 30%をそれぞれ達成する」という目
標である。前身の 2 社では、2006 年頃から新卒の女性採用を増やしており、2020 年にはその女性社員たちも
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