情報提供資料 2016 年 7 ⽉ 15 ⽇ 三井住友アセットマネジメント シニアエコノミスト 佐野 鉄司 エコノミスト 星⼭ 真和 エコノミスト便り 【アジア経済】⾼成⻑を続けるインド 〜インド経済の魅⼒を再考〜 中国の成⻑率が鈍化しても、輸出依存度の低いインドへの影響は軽微に留まる⾒込み。インフレ率が 低位で安定することが⾒込まれる下、内需主導で成⻑率は緩やかに加速すると⾒られる。 景気モメンタムが上向いているうちに必要な改⾰を実施している。破産法の成⽴により貸出の伸びは加 速に向かい、間接⾦融への依存度の⾼い中⼩企業は恩恵を受けるだろう。 ⾼い成⻑期待や規制緩和を反映し、直接投資の流⼊は持続する⾒込み。通貨安の抑制と製造業の 発展による⽣産性の向上が期待できる。 (図表1) 実質GDP成⻑率 2013 年以降、中国の成⻑率の鈍化傾向が鮮明になる中、 アジア経済の下振れ懸念も同時に浮上してきた。特に、2015 (%) 16 年 6 ⽉から 7 ⽉にかけての中国の財新製造業 PMI の悪化 14 (6 ⽉:49.4 →7 ⽉: 47.8)や、同時期の上海株式市 12 場の急落等を受け、景気減速懸念は市場に広く認識された。 10 +7.7%に⾼まる⾒込みとなっている(図表 1)。本稿では、 ⾼成⻑を続けるインドの強みを探り、インド経済の魅⼒を再考 する。 2021 2020 2019 2018 2017 アジア 輸出依存度(2015年) (%) 30.0 (%) 70.0 中国依存度が低く、⽣産者年齢⼈⼝の増加が続く 50.0 多くのアジア経済は中国との貿易を通じて経済圏を構築して 40.0 おり、中国の景気下振れは、輸出を通じて景気下振れをもた 30.0 らしやすい。しかし、インドでは、財輸出の GDP ⽐が 12.8% 20.0 (15/16 年度)と他のアジアと⽐較すると低い上に、中国向け 10.0 輸出⽐率が 3.5%(15/16 年度)と、極めて低い(図表 0.0 輸出依存度(左軸) 25.0 中国向け輸出⽐率(右軸) 20.0 15.0 10.0 5.0 0.0 マレーシア タイ 韓国 インドネシア フィリピン (注)輸出依存度=財輸出/GDP、インドは2015年4-6⽉期〜2016年1-3⽉期。 (出所)CEICのデータを基に三井住友アセットマネジメント作成 1 (年) (出所)IMFのデータを基に三井住友アセットマネジメント作成 (図表2) 60.0 2)。このため、インド経済は中国依存度が低く、中国経済の 2016 2015 2014 2013 2012 2011 2010 2 2009 ば、インドの経済成⻑率は 2017 年に+7.5%、2019 年には 4 2008 の成⻑率を上回り続けている。IMF(2016 年 4 ⽉)によれ 6 2007 り、同時期の中国の成⻑率同+7.0%を抜いてからは、中国 8 2006 っている。特に、15 年 4-6 ⽉期には前年同期⽐+7.5%とな インド IMF予測(16年4⽉) 2005 ⼀⽅、インドの実質 GDP 成⻑率は 2012 年以降徐々に⾼ま 中国 インド 情報提供資料 (図表3) (%) ⽇本 75 傾向と⾒込まれていることも(国連統計)、中⻑期的な景気 のドライバーとなるだろう(図表 3)。中国の公式統計によれ ば、中国の⽣産者年齢⼈⼝(15〜59 歳)は 2012 年から すでに減少を始めている。 国連予測 中国 インド 影響を受けにくいという特徴がある。 また、⽣産者年齢⼈⼝(15〜64 歳)が 2040 年まで増加 ⽣産年齢⼈⼝⽐率 70 65 60 55 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 2055 2060 2065 2070 2075 2080 2085 2090 2095 2100 50 インフレ率は低位で安定する⾒込み (年) インドでは⾬季(6〜9 ⽉)の降⾬量が農産物価格を通じて インフレ率に⼤きな影響を与えやすい。⺠間気象予報会社の (注)⽣産年齢⼈⼝⽐率=総⼈⼝に占める⽣産年齢⼈⼝(15-64歳)の割合。 (出所)国連のデータを基に三井住友アセットマネジメント作成 スカイメットは、今年は 6 ⽉(平年⽐▲13%)、7 ⽉(同 +8%)、9 ⽉(同+23%)と、7⽉から 9 ⽉にかけて降⾬ 量が加速的に増加する⾒通しを発表している。⾜下にかけて の降⾬量は、概ね⾒通しに沿った動きとなっている(7 ⽉ 1 週 (図表4) 7 6.5 6 は平年⽐+35%の多⾬であった)。⾬季の多⾬でインフレ率 5.5 が低位で安定すれば、実質購買⼒の向上につながり、消費主 4.5 導での成⻑加速が期待できる。また、インフレ率の低位安定に 3.5 より、利下げ観測が浮上しやすくなっている。インド準備銀⾏の 2.5 ラジャン総裁は、今年 9 ⽉の任期満了後に退任することがす でに明らかになっているが、すでにインフレターゲットのフレームワ ークが機能しており、インフレ率の安定が予想される状況では、 ⾦融緩和路線は継続されるだろう。 世銀 破産処理ランキング 破産処理年数 フィリピン(53位、2.7年) インド(136位、4.3年) 5 ⽶国(5位、1.5年) 4 3 2 1.5 1 中国(55位、1.7年) 0.5 ⽇本(2位、0.6年) 0 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 破産処理ランキング(位) (出所)世界銀⾏「Doing Business 2016」のデータを基に三井住友アセットマネジメント作成 破産法の成⽴等、改⾰は着実に進展している 2014 年 5 ⽉にモディ政権が発⾜した際に、多くの⼈々は劇 的な改⾰を期待した。実際は、上院が与党連合の議席数が (図表5) 過半数に届かないため、改⾰の⽬⽟とされた⼟地収⽤法の改 20.0 正案の審議が進展しないこともあり、モディノミクスに対する失 18.0 望感をメディアが喧伝する構図が出来上がっている。しかし、モ ディ政権は、後述の通り、今年 5 ⽉に体系⽴った破産法を成 ⽴させており、脆弱な銀⾏システムが強化されるという点で、改 ⾰は着実に進展している。 フィリピン 貸出・不良債権⽐率 (%) 22.0 (%) 4 ⺠間向け貸出(前年⽐:左軸) 不良債権⽐率(点線は旧基準:右軸) 3.5 3 16.0 14.0 2.5 12.0 2 10.0 8.0 インドでは体系⽴った破産法がなかったため、複数の法令解釈 の相違などによって、破産処理に平均 4.3 年を要している。世 2 2015 (出所)CEICのデータを基に三井住友アセットマネジメント作成 破産処理は短期化へ。銀⾏貸出の伸びは加速する⾒込み 2014 2013 2012 2011 2010 2009 1.5 (年) 情報提供資料 (図表6) インド 銀⾏貸出(前年⽐) (%) グが 53 位。インドでも同様の効果が⾒込まれ、インドの破産 (年/⽉) 15/12 0.0 14/12 5)。フィリピンは、破産処理に要する年数が 2.7 年でランキン 13/12 5.0 12/12 ⾏貸出の伸び率が加速し、不良債権⽐率が低下した(図表 11/12 10.0 10/12 2012 年に破産処理を効率化する法律を制定したところ、銀 09/12 15.0 08/12 される⾒込みである。なお、アジアではフィリピンが 2010 年と 07/12 20.0 06/12 原則として 180 ⽇に制限しており、劇的に処理期間が短縮化 05/12 25.0 04/12 位であった(図表 4)。新しい破産法は破産処理の期間を 03/12 30.0 02/12 (Doing Business 2016)ではインドは 189 カ国中 136 01/12 35.0 00/12 界銀⾏が調査している、直近の世界の破産処理ランキング (出所)CEIC、貸出=SCB(Scheduled Commercial Banks)の信⽤残⾼のデータを基に 処理ランキングは相当上昇すると⾒込まれる。 三井住友アセットマネジメント作成 (図表7) から、2015 年の、同+9.6%にかけて鈍化したが(図表 6)、 12 破産法の制定により銀⾏の不良債権処理が進展すれば、⾦ 11 融機関の信⽤供与能⼒の改善を通じて、貸出の伸び(信⽤ 10 の量)は加速に向かうだろう。加えて、準備銀⾏は MCLR* 9 (Marginal Cost of Funds based Lending Rate)の 8 導⼊等により、これまでよりも貸出⾦利(信⽤の価格)が低 7 下しやすくなる環境を整えている。「量」と「価格」、2 つの改善 6 3.5 5⼤銀⾏の基準貸出⾦利(左軸) 政策⾦利(左軸) 3.0 2.5 2.0 16/05 16/01 15/09 15/05 15/01 14/09 14/05 14/01 13/09 13/05 13/01 12/09 12/05 11/09 1.5 11/01 の併せ技による効果がインドの隅々まで⾏き渡ることで、とりわ け、間接⾦融への依存度の⾼い中⼩企業は恩恵を受けるだ (%ポイント) スプレッド(右軸) 11/05 銀⾏貸出の伸びは、2010 年のピーク(前年⽐+20.9%) インド 政策⾦利と貸出⾦利 (%) 12/01 間接⾦融の拡⼤は中⼩企業に恩恵 (年/⽉) (出所)CEICのデータを基に三井住友アセットマネジメント作成 ろう(図表 7)。 う。また、直接投資流⼊の多くは製造業に関連した業種に対 するものと⾒られ、設備投資の増加と⽣産性の向上に繋がる と⾒ている。 3 (注)⾦融収⽀は除く外準・直投ベース。 (出所)CEICのデータを基に三井住友アセットマネジメント作成 16/06 順調にインドに流⼊すると考えられ、ルピーの安定に繋がるだろ 16/03 ▲6.0 総合収⽀ 15/09 緩和を進めている。インドの成⻑期待から直接投資は今後も 15/03 ▲4.0 経常収⽀ 14/12 単⼀ブランド⼩売、防衛等の産業に対する直接投資の規制 14/09 ▲2.0 14/06 している(図表 8)。モディ政権は今年 6 ⽉に、⺠間航空、 14/03 0.0 直接投資 13/12 +1.7%と、経常収⽀⾚字を単独でファイナンスしたことを⽰唆 13/09 2.0 ⾦融・資本収⽀ 13/06 1.1%であった。⼀⽅、直接投資収⽀の⿊字は同年度に同 12/09 4.0 12/06 インドの経常収⽀は⾚字であり、15/16 年度には GDP ⽐▲ 誤脱 12/03 6.0 13/03 (%) 堅調な直接投資が経常収⽀⾚字をファイナンス 4四半期平均 15/12 インド 総合収⽀(名⽬GDP⽐) 15/06 (図表8) 12/12 *MCLR:銀⾏の基準となる貸出⾦利の算定に関わるルール (年/⽉) 情報提供資料 今後は、消費と投資の好循環が期待できる (図表9) 前述の通り、メディアがモディ政権に対する失望を宣伝する構 図が出来上がっているものの、破産法の成⽴等、改⾰は着実 インド成⻑のメカニズム インフレ安定 直投流⼊ 通貨の安定 に進展していることを受け、⼟地収⽤法の成⽴は当⾯⾒込み 難い状況にもかかわらず、直接投資は堅調な流⼊超基調が 続いている。よって、今後中⻑期的には、「インフレ安定下での 消費 投資 ⽣産性向上 消費の拡⼤」、というこれまでの主⼒の成⻑エンジンに加え、 「直接投資流⼊拡⼤による設備投資の加速」という新たなエ ンジンの効果が期待できる局⾯に向かうと⾒ている。加えて、 成⻑率 投資の流⼊拡⼤を反映した⽣産性の向上により、賃⾦上昇 (出所)各種資料を基に三井住友アセットマネジメント作成 下でも単位労働コストの上昇が抑制されることでインフレ率の 上昇も抑制されることが期待できるため、消費のさらなる拡⼤ に繋がるという好循環も期待できるだろう(図表 9)。 (図表10) 対⽶ドル為替レート 11年末=100 (円) 120 インド 90 80 1-3 ⽉期時点の外貨準備残⾼は短期対外債務の約 4.4 倍) 70 していることもあり、他の新興国⽐でルピーは安定して推移して 60 きた。実際、今年 5 ⽉に⽶国の利上げ期待が⾼まった局⾯で 50 は、他の新興国⽐で良好なパフォーマンスを⽰した。より⻑期 40 パフォーマンスはよく、変動性も安定している(図表 10)。 各国 (出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友アセットマネジメント作成 4 2016/6/30 2016/4/30 2016/2/29 2015/12/31 2015/8/31 2015/10/31 2015/6/30 2015/4/30 2015/2/28 2014/12/31 2014/8/31 2014/10/31 2014/6/30 2014/4/30 2014/2/28 2013/12/31 2013/8/31 2013/10/31 2013/6/30 2013/4/30 2013/2/28 2012/12/31 2012/8/31 2012/10/31 通貨安 2011/12/30 (2011 年末〜)の動きで⾒ても、他の新興国⽐でルピーの ブラジル 通貨⾼ 2012/6/30 短期対外債務対⽐で⼗分な外貨準備を保有(2016 年 南ア 各国 2012/4/30 インドは、これまでのところ、安定的な国際収⽀の状況に加え、 インドネシア 100 2012/2/29 他の新興国通貨と⽐較するとルピーのパフォーマンスは良好 トルコ 110 (年/⽉/⽇) 情報提供資料 当資料は、情報提供を⽬的として、三井住友アセットマネジメントが作成したものであり、投資勧誘を⽬的として作成されたもの⼜は⾦融商品取引法に基づく開⽰書類 ではありません。 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