悪性胸膜中皮腫の手術を受けられる方へ

悪性胸膜中皮腫の
手術を受けられる方へ
兵庫医科大学病院
はじめに
悪性胸膜中皮腫は非常にまれな疾患で、手術件数も日本全国で100150件(肺癌は35000件/年)と少数です。このため十分な手術を含め
た治療についての情報が不足し、不安に思われる患者さんが少なくあり
ませんでした。このパンフレットを通じて中皮腫の手術についての不安
が少しでも和らいでもらえることをスタッフ一同、祈っています。辛く
長い治療ですが、我々とともに頑張りましょう。
兵庫医科大学病院スタッフ一同
目次
1. はじめに・目次
・・・1
2. あなたの病状について
・・・2
3. 悪性胸膜中皮腫の治療について
・・・3
4. 悪性胸膜中皮腫の手術とは
・・・4
5. 入院から退院の流れについて
・・・5,6
6. 手術にむけての準備について
・・・7
7. 術後の流れについて
・・・8
8. 術後のリハビリについて
・・・9
9. 関連部署のご紹介
・・・10
10.退院後のスケジュール(治療・検査)
・・・11
患者さんへのお願い
11.退院後の過ごし方について
<1>
・・・12
(
)さんの病状について
(平成 年
年齢・性別
歳
元気さ(PS)
中皮腫の組織型
月
日現在)
男性
・女性
0・1・2・3・4
上皮型 ・ 2相型 ・ 肉腫型
特殊型(
)
みぎ ・
左右・部位
進行度(stage)
ひだり
Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ
月
日(
手術予定日
20 年
予定術式
(1)胸膜切除/肺剥皮術
)
胸膜肺全摘へ移行の可能性
有
・
無
(2)胸膜肺全摘術
併存疾患
・
・
・
・
その他注意すべき点
<2>
悪性胸膜中皮腫の治療について
• CT検査やPET検査などを行って事前に中皮
腫の進行度を検討し、病気の進み具合
(stage)を調べます。
• Ⅰ期からⅢ期であれば、手術によって腫瘍の
完全切除が期待できるため、手術に耐えられ
るかを判定したうえで手術を含めた治療(集
学的治療)を計画します。Ⅳ期(他の臓器に
転移があり切除不能な状態)であったり、体
力的に手術に耐えられない場合は化学療法を
計画します。
• 手術には以下の2つの方法があります。
 胸膜切除/肺剥皮術(P/D)
 胸膜肺全摘術(EPP)
(詳細は次ページをご参照ください)
当院での悪性胸膜中皮腫の手術件数の推移
• 中皮腫の場合、通常の“がん”と違って解剖学的に十分な余裕をもって切除するこ
とが不可能で、腫瘍ギリギリでの切除とならざるを得ません。このため手術単独で
の治療成績は芳しくなく、化学療法(抗がん剤)や放射線治療と組み合わせた治療
(集学的治療)の一つのパートとして行います。
• 当初切除可能と判断し化学療法を開始しても、化学療法の効果が乏しい場合は、手
術を行ったとしても良好な結果を期待しづらく切除の対象となりません。体にかか
る負担がとても大きな手術ですので、まず化学療法を行い効果が確認できた方のみ
手術を計画します。
兵庫医大での治療成績(1)
兵庫医大での治療成績(2)
手術施行群、つまり抗がん剤による治療効
果が認められた場合は手術によって生存期
間が延長できる可能性があります。
我々が手術の低侵襲化を図り始めた2009
年3月以降のEPPとP/Dの手術成績は現時
点ではほぼ同様と考えています。
兵庫医大では手術完遂群の生存期間中央値が
39.6ヶ月と国内外の主要な施設(13-31.7ヶ
月)と比較しても良好な成績です。
<3>
悪性胸膜中皮腫の手術とは
悪性胸膜中皮腫に対して行う手術を説明します。
『胸膜切除/肺剥皮術』と『胸膜肺全摘術』の2つの術式が
あります。
胸膜切除/肺剥皮術
(P/D)
手術内容
手術の
メリット
手術の
デメリット
胸膜肺全摘術
(EPP)
• 肺を温存し胸膜のみを切除
する手術です。
• 必要時、心膜や横隔膜を合
併切除します。
• 片側の肺を胸膜や心膜。横隔
膜と一緒に一塊に切除する手
術です。
• 肺を温存するため、術後の
心肺機能の低下が少なく、
術後も術前とほぼ同様の生
活を送ることができます。
• 胸膜肺全摘術に体力的に耐
えられない場合でも手術が
できる可能性がある。
• 腫瘍が存在する胸腔内(胸の
中)に入ることなく切除する
ため、術後の再発率が低いと
言われています。
• 腫瘍が存在する胸腔内(胸
の中)で手術操作を行うた
め、目に見えないレベルで
がん細胞が残りやすく再発
のリスクがやや高いと言わ
れています。
• 片肺を全摘出するため、術後
の心肺機能の低下が顕著です。
日常生活に戻るために十分な
リハビリが必要です。
手術時間
6-10時間
6-8時間
出血量
1000-2000ml
1000-1500ml
体にかかる負担
大きい
非常に大きい
手術関連死亡率
3-5%
5-10%
空気漏れ・不整脈
膿胸・急性肺障害
再建に使用したパッチの不具合
声のかすれ
不整脈・心不全
気管支断端瘻・膿胸
再建に使用したパッチの不具合
声のかすれ
術後入院期間
2-3週間
3-4週間
術後の追加治療
化学療法
放射線治療
主な合併症
<4>
入院から退院までの流れについて
1.入院〜手術
10-4病棟(10号館4階)に入院していただきます
-
10-4ナースステーション
入院後に手術説明があります。
担当のリハビリスタッフによる説明
があります。
手術に必要な物品を準備します。
食事は手術前日の夜まで可能で
す。
病室
2.手術
手術当日は朝8時30分から9時の間に手術室に入室します。
手術センター入り口
患者さんが少しでも安心でき、そして
安全に手術が受けられるよう手術室
でもチームで協力します。一緒に頑
張りましょう。
(呼吸器外科担当:森永・竹川)
手術室風景
手術中の様子
大きな手術ですが、胸腔鏡(カメラ)を使いながら、できるだけ体に優しい手術を
目指します。
3.ICU(集中治療室)
手術が終わると、ICUに入室します。
患者さんの急激な状態変化に対してで
も、迅速に対応できるように24時間体
制で医師と看護師が一丸となって治療
にあたります。
ICUフロアおよびベッド
<5>
4.HCU(準集中治療室)
全身の状態(血圧や脈拍・呼吸の状態)が落ち着けばICUからHCUに移動
となります。合併症を予防するために早期よりリハビリを開始します
血圧や脈拍・呼吸の状態をモニタリングしながら無
理なくリハビリを行えるように支援します。術後早
期でしんどい時期ですので辛いときは我慢せず、
仰ってください。
HCUの病室・ベッド
5.一般病棟へ帰棟〜退院
身の回りのことがご自身で出来るようになれば10-4病棟に戻ります。
全身状態が落ち着けば、退院に向けたリハビリを開始します。
退院が決まれば退院後の生活や、注意
点について看護師より説明があります。
病棟で歩行訓練を行います。
病棟は1周100mです。
治療が安心して受けられるよう、
スタッフ全員で患者さんとご家族
をサポートします。からだや気持
ちがつらいときはいつでもご相談
下さい。安心して自宅に帰れるよ
う退院後の生活も一緒に考えて
いきましょう。
<6>
手術に向けての準備について
(予定は状況によって変わることがあります。)
(1)手術に向けての心構え
–
規則正しい生活を行い、体調を整えましょう。
–
医師からの手術説明、麻酔科の診察、看護師による病棟・手術の説明、手術室
看護師による訪問があります。説明を聞いて理解を深めましょう。
–
わからないことや疑問点があれば、スタッフに確認しましょう。
(2)手術に必要な物品
食事セット
入浴セット
歯磨きセット
フェイスタオル
•
•
•
•
–
–
–
–
•
•
•
•
コップ
オムツ
バストバンド
電動髭剃り(男性の方のみ)
物品には名前をご記入して下さい。
その他の物品は当日までにお持ち帰りください。
少量の荷物(貴重品以外)であれば病棟のロッカーで預かることも可能です。
預かりをご希望される場合は事前にお知らせください。
(3)手術に向けたストレッチ
頸部セルフストレッチを行い筋肉をほぐしましょう
–運動始めは少しずつ動かし、痛みの出ない範囲で行ってください
–運動中は楽に呼吸をして、息こらえをしないよう注意してください
–息切れがするときは控えてください
痰の出し方
深呼吸(腹式呼吸)
1. 息を鼻から吸い、
お腹膨らませるこ
とを意識します。
2. 息は口から吐きお
腹を凹ませること
を意識します。
1. 腹式呼吸で息を吸いこみます。
2. お腹を抱えるようにして傷口を手で押さ
えながら体を前に倒します。
3. 口を少し開きながら大きく2回咳をします。
<7>
術後の流れについて
胸膜切除/肺剥皮術
胸膜肺全摘術
• 入院オリエンテーションがあります。
入院
• 術前オリエンテーションがあります。
• 手術説明があります
• リハビリ診察で身体機能検査・呼吸法指導を行います。
• ICU入室後に面会となります
手術当日
• ICU入室後に面会となります
(人工呼吸器は手術室で離脱)
• 胸に管が3本入ります
(鎮静し人工呼吸器を装着)
• 胸に管が1本入ります。
• 飲水・食事が開始となります。 • 人工呼吸器を外し、自分で呼吸
手術翌日
• 立位~歩行を行います。
を始めます。
• ベッド上でリハビリを開始しま
• 内服を開始します。
す。
術後2日目
~
術後7日目
術後1週間
~
• HCUに移動します。
• 立位~歩行訓練を開始します。
• 歩行訓練を開始します。
• 飲水・食事が開始となります。
• 呼吸の状態(息切れ)に注意
• 内服を開始します。
しながら運動量を拡大してい
• HCUに移動します。
きます。
• 胸の管(ドレーン)が抜けます。
• 点滴がなくなります。
• 点滴がなくなります。
• 10-4病棟へ移動します。
• 10-4病棟へ移動します。
• 徐々に管が抜けていきます。
• 倦怠感や食指不振など心不全症
• 管が全て抜ければ、シャワー
状が出現しやすい時期です。
浴が開始となります。
• 体の調子を見ながら運動量を拡
大します。
• 空気漏れが続けば胸の中に薬
をいれます(胸膜癒着術)。
術後2週間
~
• シャワー浴を開始します。
• リハビリ室でリハビリを行います。
• 退院に向けて心臓や肺の状態を検査で確認します。
• 退院に向けた援助(退院指導)を行います。
術後3週間
~
• リハビリ室で身体機能検査を行います。
• 退院後に利用可能な社会資源を紹介します(必要時)
例)介護保険申請・かかりつけ医の紹介…
<8>
術後のリハビリについて
1.リハビリの目的
•手術後のリハビリは、肺炎や筋力低下など手術侵襲に伴う合併症を予防し、
スムーズな回復を目指すことを目的に行います。
•一般的に、呼吸状態や血圧など全身状態が安定していれば、手術翌日からリ
ハビリを開始します。ベッド上での準備運動から始まり、起き上がりや立ち
上がりなどステップアップして、徐々に離床を進めます。(右下図参照)
2.リハビリの実際
退院
①ベッド上リハビリ:術後は一時的に痰が
増えることがあり、まずは痰を出し
やすくしたり肺を拡げたりするため
に深呼吸の反復を行います。また手
足の運動を行います。
リハビリ室
歩行・階段
練習
座る・立つ
練習
ベッド上
リハビリ
手術
図.術後リハビリのイメージ
②起き上がり運動:呼吸状態や循環動態(血圧な
ど)が落ち着いている場合は、痛みに注意し
ながら体を起こし、座った姿勢や、立ち上が
りの練習をします。
③歩行・階段運動:血圧変化などの問題がなければ、
歩行練習を行います。歩行が安定すれば、自
宅環境などの必要性に応じて階段練習を取り
入れていきます。
④リハビリ室での運動:リハビリ室で退院に向けての体力作りをします。
一般的に自転車運動や重りを使ったトレーニングを行います。
3.合併症など
胸膜肺全摘術(EPP)では手術侵襲が大きい
ため、胸膜切除/肺剥皮術(P/D)に比べ、不
整脈や心不全などの循環器合併症が起こる
確率が高くなります。リハビリ中も、各種
モニタリングをしながら安全に実施します。
<9>
リハビリは私たちに
お任せください!!
関係部署のご紹介
入院中・通院中問わず、患者さんの様々な悩みに対して、多職種でいろ
いろなアプローチの仕方で取り組みます。
1.ペインクリニック(痛みの外来)
“痛み”に対する専門家です。術後の痛みのコントロールが難しいときに一緒に治療
に参加します。外来での継続治療も可能です。
2.リエゾンチーム(心のケア)
“病気による不安”や“手術に対する不安”により、一時的に精神的な不調をきた
すことも少なくありません。リエゾンチームは専門医師および専門看護師や心理カウ
ンセラーなどで構成されており、患者さんの状態に即してカウンセリングや投薬によ
る治療が可能です。
3.がん診療支援室
患者さんやご家族が“がん(中皮腫)”に上手に付き合っていくためのサポートを行
います。専門の相談員が窓口となって医師や看護師、ソーシャルワーカーなどの病院
スタッフと連携を取りながら問題を解決するお手伝いをします。
4.栄養サポートチーム(NST)
患者さんの栄養状態をサポートします。
抗がん剤治療により味覚が変化したり食欲が低下している患者さんが多くおられます。
NSTでは患者さんの食欲やご希望をお聞きし、食事形態の調整を行います。
5.医療社会福祉部
利用できる社会資源の案内をします。(介護保険・労災申請・石綿救済制度・高額医
療費など)。また退院後の医療環境の整備も行います(転院調整・在宅診療や訪問診
療医の紹介など)
チームで治療に当たります!!
医師
薬剤
師
患者さん
ご家族
看護
師
社会福祉士
<10>
理学療法士
栄養師
臨床心理士
退院後のスケジュールについて
1.手術後の治療について
悪性胸膜中皮腫は手術だけでは目に見えないがん細胞が残っている可能性があ
り、治りにくいと言われています。このため手術の後に追加治療を行うことを
おすすめしています。
 術後化学療法
手術前に行ったものと、ほぼ同様の内
容・回数です。ただし投与量は術後のた
めに減量します。
 放射線治療
胸膜肺全摘を行った場合に行います。
IMRT(強度変調放射線療法)という特
殊な装置を用いて、胸膜があった部分に
重点的に放射線を照射します。
副作用を抑えるため30回に分け、照射
するので治療期間は約6週間かかります。
2-3ヶ月後に
2.外来通院について
⁻手術後の治療に併行して、外来通院していただきます。
⁻定期的に術後の経過や再発の有無を検査します。また創部の確認(再発がな
いかどうか)も行います。
⁻かかりつけの病院と一緒に経過観察していきますので呼吸器外科の通院は状
態が落ち着けば3〜6か月毎となります。
⁻遠方の方では1泊2日での短期入院で検査を行うことも可能です。
患者さんへのお願い
兵庫医科大学呼吸器外科では手術を受けられる悪性胸膜中皮腫の方を対象
に様々な研究を行っています。患者さんの負担にならないことと個人情報
の保護に注意しますので、ご協力をお願いします。
具体的な例(抜粋)
体の状態についてのアンケート
手術後の回復過程の調査(定期的な検査と問診など)
切除した腫瘍の一部を凍結保存し、新しい治療法の開発
<11>
退院後の過ごし方について
毎日の生活について
–帰宅時には手洗いうがいを行い、外出の際はマスクをしましょう
–食事、睡眠をしっかり取り、無理をせず規則正しい生活をしましょう
–禁煙を続けましょう
清潔について
–傷口を強くこすったりひっかいたりしないようにしましょう
–出来るだけシャワーや入浴を毎日行いましょう
運動について
–体調がすぐれない日、疲労感があるときは休み、体に負担にならない範囲内で行ない
ましょう
痛みについて
–傷口には、痛みやしびれ感が続くこともあります
–入院中に医師と薬剤師が患者さんに合わせた痛み止めを調整するので、用法用量を守
って飲みましょう
緊急時の連絡方法について
以下の症状が出たときは
病院へ連絡し、
医師に相談して下さい




傷口が赤く腫れたり膿が出たり、38.0℃以上の高熱が続くとき
息切れがひどくなり、呼吸が苦しくなったとき
手、足や顔などにむくみが出てきた、急激に体重増加がみられたとき
食事があまり食べられなくなり水分もとれなくなったとき
!!緊急時の連絡先!!
平日8:30~16:45
土曜日(第1,3,5のみ)8:30~12:30
→呼吸器外科外来 0798-45-6225
夜間・休日・祝日
→兵庫医科大学病院代表 0798-45-
6111
<12>
MEMO
・( / )
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「兵庫医大で治療を受けて良かった」と思ってい
ただけるように、我々は最大の努力を致します。