為替トピックス7月20日号 (PDF/411KB)

2016/
為替トピックス
7/20
投資情報部
FX ストラテジスト
由井 謙二
トルコでクーデター未遂、リラは下落

トルコで7月15日夜から16日にかけてクーデターが発生した。ただ、クーデターが国民全体
の支持を得ていなかったこと、参加者が軍の一部にとどまったことから、半日程度での鎮圧
となった。

クーデター未遂事件を受けて、トルコ政府は国内各層の反対勢力に対する粛清の動きを強
めている。また、事態収拾にリーダシップを発揮したエルドアン大統領への支持が高まれ
ば、大統領権限強化に向けた憲法改正のため、解散総選挙に踏み切る可能性があろう。

トルコリラはクーデターの早期鎮圧を受けて持ち直したが、19日には政府による粛清に対し
て市場は行き過ぎではないかとの懸念を強め、節目の1ドル=3.0リラを超えて減価した。

政治不透明感が一段と強まっている状況下、資金流出にさらされやすい場面は今後も継続
するとみられ、リラ相場は下値不安がくすぶる展開が予想される。
トルコでクーデター
が発生も、半日程度
で鎮圧される
トルコでは、現地時間の7月15日夜から16日にかけて、軍の一部によるクーデター
が発生した。首都アンカラの国会議事堂や、最大都市イスタンブールのアタチュル
ク国際空港が襲撃され、主要道路は封鎖される等、緊迫化の様相が強まった。
しかし、休暇中で難を逃れたエルドアン大統領はテレビ放送等を通じて国民に対し
て、蜂起した軍に抗議するように呼びかけ、クーデターの試みを必ず失敗に終わら
せると強調した。これを受け、市民が外に出て、反乱勢力に対して抵抗姿勢を示し
たほか、トルコ国軍の多数に加え、野党もクーデターに対する反対する声明を出す
等、反乱勢力への支持は広がらなかった。
トルコ政府は、16日未明にクーデターの鎮圧を発表。今回のクーデター未遂は、国
民全体の支持を得たものではなかったことや、参加したのが軍の一部に過ぎなかっ
たこともあり、半日程度での鎮圧となった。
エルドアン大統領
は、クーデターは
ギュレン運動が扇動
したと主張
エルドアン大統領は、一連のクーデターは米国在住のイスラム教指導者ギュレン師
が率いるグループ「ギュレン運動」が扇動したと主張し、米国に、ギュレン師の身柄
引き渡しを求めている(ギュレン師はクーデターへの関与を否定)。また、ギュレン派
に近いとされる軍関係者や裁判官を7千人以上も拘束、警官や大学教員等の解任
は数万人におよび、クーデター未遂後の反対勢力粛清の動きが広がっている。
この資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。銘柄の選択、投資に関する
最終決定はご自身の判断でお願いいたします。また、本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成したものですが、その正確性、完全
性を保証したものではありません。本資料に示された意見や予測は、資料作成時点での当社の見通しであり今後予告なしに当社の判断で随
時変更することがあります。最終ページに金融商品取引法に係る重要事項を掲載していますのでご覧ください。
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為替トピックス
「ギュレン運動」はトルコの国是である世俗主義とイスラム教は矛盾しないとする穏健
な思想を持つ。元々、与党・公正発展党(AKP)の主要な支持団体だったが、2013
年末から14年初めにかけて、当時AKP首相だったエルドアン氏がイスラム色の強い
政策を打ち出し、強権的な姿勢を強めたことや、政府がギュレン運動の資金源とい
われる大学予備校の閉鎖を示唆したこと等から、AKPとの軋轢(あつれき)が深まっ
ていた。
クーデター未遂を受
け、大統領権限強化
に向けた憲法改正の
動きが強まる公算
クーデター未遂を受けて、まず政治面では、エルドアン大統領はギュレン運動の支
持者を粛清する動きを一層強めるとみられる。しかし、こうした動きに対して、欧米諸
国からは懸念の声が強まっている。
エルドアン大統領は17日に2002年に廃止した死刑制度の復活に言及した。これに
対して、米国のケリー国務長官はトルコ政府に「犯人を裁くことは支持するが、行き
過ぎた手法は慎むべきだ」と主張したほか、ドイツのメルケル首相も、「死刑制度を
導入するなら、欧州連合(EU)に加盟できない」と反対の意を表明した。
また、1982年の軍政下に制定された憲法を改正し、エルドアン大統領が求める大統
領権限強化に向けた動きが活発化する公算が大きい。憲法改正を国民投票に諮る
ためには、議会の5分の3(550議席中330議席)以上の賛成、国民投票を経ずして憲
法改正するためには議会の3分の2(367議席)以上の賛成が必要となる。現在の国
会におけるAKPの議席数は317議席であり、野党の協力なしで憲法改正を国民投
票に諮るためには、13議席不足している。
今回、事態収拾に強いリーダシップを発揮したエルドアン氏への国民の支持が高ま
れば、憲法改正を確実にするため、AKPが解散総選挙に打って出る可能性が高ま
ろう。こうしたエルドアン体制の強化の動きは、短期的には国内の安定につながる可
能性がある。しかし、中長期的には、国内の不協和音を高め、今回のようなクーデ
ターを起こす火種につながりかねない。総じて、政治的な不透明感が一段と強まっ
たと評されよう。
トルコの政党別議席数(総議席:550)
国民民主主義党
(HDP)
59議席
民族主義者行動
党(MHP)
40議席
共和人民党
(CHP)
134議席
公正発展党
(AKP)
317議席
出所:各種資料よりみずほ証券作成
この資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。銘柄の選択、投資に関する
最終決定はご自身の判断でお願いいたします。また、本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成したものですが、その正確性、完全
性を保証したものではありません。本資料に示された意見や予測は、資料作成時点での当社の見通しであり今後予告なしに当社の判断で随
時変更することがあります。最終ページに金融商品取引法に係る重要事項を掲載していますのでご覧ください。
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為替トピックス
経済面では、外国人
観光客の 減少傾向
が継続する見込み
経済面では、まず外国人観光客の減少が継続するとみられる。トルコは隣国シリア
で勢力をふるう過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」に加え、クルド人の独
立国家建設を目指す非合法武装組織「クルド労働者党(PKK)」と対立しており、国
内でテロ事件が続いている。今回クーデター未遂で襲撃されたアタチュルク国際空
港は、6月にもISISとみられる自爆テロにより、多数の死傷者を出す事件が起きた。
昨年後半以降は治安悪化を受けて、トルコを訪れる外国人観光客は大幅に減少し
ており、今年5月には前年比▲34.7%と過去最大の落ち込みを記録した。外国人観
光客の減少で、旅行や運輸が大宗を占めるサービス輸出は昨年9月以降、前年比
▲10%超の下落が続いている。
6月にはロシアとの関係修復がみられ、ロシア人観光客のトルコ旅行に関する制限
が解除されることとなっていた。しかし、今回の事態でその見通しが立たなくなり、ト
ルコの観光業にとってさらなる打撃になるとみられる。また、トルコへの投資手控え
の動きが広がれば、直接投資の減少にもつながるだろう。
外国人観光客とサービス輸出(前年比)
(%)
(月次:2006/1~2016/5)
40
30
20
10
0
▲ 10
▲ 20
サービス輸出
▲ 30
外国人観光客
▲ 40
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
出所:ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
政治不透明感が強ま
るなか、リラは下値
不安がくすぶる展開
が見込まれる
16
(年)
トルコリラ(以下リラ)はクーデターの発生を受けて対ドルで急落。15日には一時1ド
ル=3.05リラ台と1月下旬以来の安値をつけた。ただ、16日未明にクーデターが鎮圧
されたと報じられると、週明け18日には2.97リラ前後まで持ち直した。
しかし、クーデター未遂後の粛清の動きが6万人規模となり、全国の大学にまで広が
る動きに対して市場は行き過ぎではないかとの懸念を強め、19日のトルコ金融市場
では株売り・債券売り(金利は上昇)・リラ売りのトリプル安の様相となり、リラは再び
3.0リラ台を上回る水準に減価した。
エルドアン大統領は「20日に重大な発表がある」と表明しており、その内容が注視さ
れる。また、米大手格付会社はトルコ国債の格付けを引き下げる方向で見直すと発
表しており、格下げ懸念はリラのネガティブ要因となろう。
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為替トピックス
海外投資家のトルコへの証券投資動向では、今年5月にダウトオール前首相が突
然の辞意を表明し、政治不透明感が高まって以降、投資資金は流出傾向となって
いる。政治不透明感は一段と強まっている状況下、資金流出にさらされやすい場面
は今後も継続するとみられ、リラ相場は下値不安がくすぶる展開が予想される。
(ポイント)
トルコの主要株価指数と10年国債利回り
(日次:2014/1/2~2016/7/19)
(%)
100000
6
90000
7
80000
8
70000
9
60000
10
クレジットデフォルトスワップ5年物の推移
(bp)
350
(日次:2014/1/2~2016/7/19)
300
250
株高・債券高(金利低下)
50000
11
株安・債券安(金利上昇)
40000
14/1
14/7
15/1
15/7
16/7
(年/月)
10年国債利回り(右逆目盛)
イスタンブール100(左目盛)
200
12
16/1
出所:ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
150
14/1
14/7
(週次:2014/1/3~2016/7/15)
15/7
(1ドル=リラ)
8.0
(1リラ=円)
トルコリラの推移
(日次:2014/1/2~2016/7/19)
2.0
資金流出・リラ安
.
2.4
0.0
2.6
▲ 2.0
2.8
▲ 4.0
3.0
▲ 8.0
14/1/3
14/6/20
14/12/5
15/5/22
15/11/6
(1ドル=リラ)
1.8
2.1
52
リラ安
2.2
2.0
債券(左目盛)
株式(左目盛)
トルコリラ(対ドル、右逆目盛)
(年/月)
リラ高
6.0
▲ 6.0
16/7
56
1.8
資金流入・リラ高
4.0
16/1
出所:ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
海外投資家のトルコ証券投資動向とリラ相場
(億ドル)
15/1
2.4
44
2.7
40
3.0
対円(左目盛)
36
3.2
3.4
16/4/22
(年/月/日)
(注)株式、債券ともに4週移動平均、7/8時点
出所:トルコ中央銀行、ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
48
32
14/1
3.3
対ドル(右逆目盛)
3.6
14/7
15/1
15/7
出所:ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
16/1
16/7
(年/月)
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時変更することがあります。最終ページに金融商品取引法に係る重要事項を掲載していますのでご覧ください。
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為替トピックス
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広告審査番号 : MG5690-160720-23
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