イタリアの日本化 - みずほ総合研究所

リサーチ TODAY
2016 年 7 月 22 日
イタリアの日本化
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
みずほ総合研究所は、今年6月の英国・国民投票でEU離脱が決まったことに伴う世界経済の変動を受
け、四半期毎の『内外経済見通し』の緊急改訂を行った1。今回、直接的な影響を受けるユーロ圏の見通し
を英国と共に下方修正した。英国の景気後退リスクやそれに伴う市場変動発の屈折リスクを重視したからだ。
実際の2016年の下方修正圧力は限られる。ただし、我々がリスクファクターとして重視したのは、欧州にお
ける反EU勢力の拡散による政治リスクの拡大、及びイタリアの不良債権問題を中心とする脆弱な金融セク
ターを背景とした信用不安の高まりである。下記の図表は、欧州の不良債権比率の推移である。欧州債務
問題が注目された2009年以降、いわゆる「PIIGS」諸国のなかで、スペインは構造改革を行い不良債権比
率を大幅に低下させた。しかし、ギリシャ、ポルトガル、イタリアでは、同比率がまだ高止まりした状況であり、
抜本的な解決に目処がついていないように見える。この状況は1990年代以降日本の不良債権処理に立ち
会ってきた筆者としては、とても「懐かしい」状況だ。まさに、日本化現象である。ただし、その実態は日本以
上に厳しい面があることに留意が必要だ。
■図表:不良債権比率推移
40
(%)
35
30
ギリシャ
イタリア
ポルトガル
スペイン
日本
米国
25
英国
20
15
10
5
0
09
10
11
12
13
14
15 (年)
(資料)IMF よりみずほ総合研究所作成
次ページの図表は各国主要行のCDSスプレッドの推移である。2016年初から金利が大幅に低下してき
たこともあり、CDSスプレッドは年初の危機不安の頃の水準にまで高まってはいない。しかし、株式市場を
中心に大幅な変化がイタリアの主要行に生じており、イタリア政府は国内銀行への公的資金注入を検討し
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2016 年 7 月 22 日
ている。しかしEUの銀行再建・破綻処理指令(BRRD)は、原則として公的資金注入に先立ちベイルインを
行うことを定めている。イタリアでは、2015年11月に小規模銀行4行に対してベイルインを実施した際、資産
を失った個人投資家が自殺し、それを受けて政府への抗議デモが発生した。それゆえ、イタリア政府は今
回はベイルインを避けたいと考えている。そのためにBRRDの例外規定の適用について、同政府は現在欧
州委員会と協議中であるが、協議は難航しているようだ。例えばドイツのメルケル首相は公的資金注入に
先立ち、投資家のベイルインを実施すべきと主張している。今月、EUのストレステストの結果が公表される
が、依然厳しい状況が見込まれる。
■図表:各国主要行の平均CDSスプレッド推移
(bp)
400
350
300
イタリア
ドイツ
スペイン
英国
日本
米国
6月24日
250
200
150
100
50
1
2015年
3
5
7
9
11
1
2016年
3
5
7 (月)
(注) 2016 年 7 月 18 日現在。シニア 5 年物。
(資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
下記の図表は、イタリアと日本の2000年代前半の不良債権処理を巡る環境を比較したものだ。そもそも
イタリアの不良債権比率は日本を大幅に超えている。一方、今日のイタリアの処理策はEUによる規制があ
るため抜本的な合意がなされにくい。さらに、不良債権の収益償還を行うことは内外の環境、例えば海外の
不透明感、国内のマイナス金利の下で難しい状況だ。日本の2000年代前半の不良債権処理は、厳しい状
況を続けたが、世界的な景気回復と円安という外部環境に支えられた。また、銀行は金融緩和に伴う利ザ
ヤ拡大を享受できた。今日のイタリアには、こうしたサポート要因が少ないのが不安材料だろう。イタリアの
不良債権処理の道程は長いとみるべきだ。
■図表:イタリアと日本の不良債権処理
不良債権比率
処理プロセス
処理環境
イタリア
18%
ベイルアウト策不透明(欧州委の反対)
海外環境が不透明
マイナス金利で利ザヤが縮小
日本(2000 年代前半)
ピークで 8%
本格的な処理の開始
米国の住宅ブームで海外環境良好
低金利ながらも利ザヤは存在
(資料)みずほ総合研究所
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「2016・17 年度 内外経済見通し(2016 年 7 月緊急改訂)」 (みずほ総合研究所 『内外経済見通し』 2016 年 7 月 8 日)
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