かけがえのない生命を大切に - 東京都立総合芸術高等学校

平成 28 年 7 月 20 日
平成 28 年度 夏季休業前全校集会でのお話
東京都立総合芸術高等学校長
市川 治郎
かけがえのない生命を大切に
この4ヶ月間、授業や発表演奏、定期公演、制作展示等に全力で取組んできた生徒の皆さんに、ま
ずは敬意を表します。本校の校舎内には、芸術へ向かう生徒たちの真剣な姿が行き交い、常に張り詰
めた空気を感じることができました。そして表彰に値する優れた成績を残すことができました。
一方、様々な場面で強いストレスを感じることも多かったのではないでしょうか。
夏休みを前にして、いろいろお話ししなければならない項目は多くありますが、すでに様々な機会
に指導を受けていることでもあるため、私からは最も大切なこと一つに絞ります。
現在、我が国で最も深刻な社会問題として、若者による自殺増加問題があります。特に長期の休み
明け近辺に集中しており、様々な対策が講じられていますが、十分な効果が表れません。
本校生徒の皆さんが志す芸術の世界は、他のどの分野と比べても競争の激しい世界です。一人一人
が日々の切磋琢磨の中で悩み苦しみ、どうすればよりよい成果を上げることができるのか、自問自答
されていることと思います。時折すれ違いざまに見せる厳しい表情からも、その苦しさを感じ取るこ
とはできます。しかし、皆さん一人一人が受け止めている強いストレスを、残念ながら私が全て感じ
取ることは不可能です。
芸術の世界には、簡単に手に入る模範解答など用意されていません。ゲームの世界のような攻略法
もありません。そして権威ある表彰や受賞も、一つの道標に過ぎません。そのように考えると、さら
に不安に陥ってしまうかもしれません。しかし、ストレスを経験し乗り越えなければ、より強いスト
レスに打ち克つ耐性は備わりません。冗談を言う場面ではないかもしれませんが、日々ストレスと闘
っている本校の皆さんが、
「高校生ストレス我慢大会」にでも出場すれば、まず優勝間違いなしです。
昔々、ある道の達人が居りました。その達人が掌に小鳥を乗せると、小鳥は飛び立とうとしても飛
び立てなかったと言います。なぜなら、小鳥が飛び立とうとする瞬間、そのわずかな気配に合わせて
掌から力を抜くと、小鳥は飛び立つための足の踏ん張りを失って飛び立てないのです。まさかと思う
人がいるかも知れませんが、私にはこの話が全くの夢物語とは思えません。この達人のように皮膚感
覚を極限まで磨くことで、微細な変化にも瞬時に対応し得る能力を身に付けることもあるでしょう。
本当に修練を積んだ人間の能力には、
常人には計り知れない恐るべき可能性が潜んでいるものです。
私たちに日々降りかかるストレスも、この小鳥を載せた掌のように、瞬時にその力をいなして減力
することはできないものでしょうか。簡単なことではありませんが、人間に備わる優れた技術のほと
んどは、たゆまぬ修練鍛錬の積み重ねから得られるものであるとすれば、ストレスへの対応技術も必
ずや体得できるものと考えます。
どうか生徒の皆さん方には、自分たちは最強の芸術エリートであるという自信をもってストレスに
立ち向かい、かけがえのない自らと友達の生命を大切に、長く有意義な人生を歩んでいただきますよ
うお願いいたします。
エネルギーと活気にあふれる夏。猛暑と闘い自然災害に備える夏。くれぐれも健康と安全には十分
に注意され、元気な姿で9月に再会することを楽しみにしています。