藤戸レポート 「ヘリコプター・マネー」はデフレ脱却の特効薬なのか 「ヘリコプター・マネー」 (グラフ1) リーマン・ショックを克服した 3次にわたるQE(量的緩和政策) 2016 年 7 月 19 日 「ヘリコプター・マネー」とは、ノーベル経済学賞を受賞した故ミルトン・フリ ードマン氏が、1969 年の著書「最適貨幣量」で用いた寓話である。デフレ 圧力が強くなると、企業の資金需要は低迷し、家計も節約志向となり、銀行 から民間へのマネーの流れがシュリンクしてしまう。つまり、日本のようにデ フレが慢性化することになる。それを打破するためには、「中央銀行が大量 の紙幣を増刷し、ヘリコプターで市中にバラ撒けば良い」という極端な比喩 だ。実際は、通貨供給量が短期の景気変動および長期のインフレーション に決定的な影響を与えるとした精緻な論文である。中央銀行は膨大な紙幣 を印刷することで、人々がマネーを利用することを促す。それによって、より 多くの物の生産やサービスが拡大され、物価の上昇と同時に名目 GDP が 増加するというロジックだ。「最適貨幣量」という堅苦しい著書名よりも、ハリ ウッド映画的な視覚に訴える効果が大きい「ヘリコプター・マネー」の比喩 が、世界に大きく敷衍することになった。歴史を振り返ると、政治や思想で も、こうしたキャッチ・フレーズの巧拙が、評価を決定することがしばしば起き ている。このフリードマン氏の薫陶を受けたのが、FRB(米連邦準備制度理 事会)のベン・バーナンキ前議長である。バーナンキ前議長は、師匠と同様 に、「デフレ克服のためにはヘリコプターから紙幣をバラ撒けば良い」と発言 したと伝えられ、「ヘリコプター・ベン」の異名を持っている。2006 年 2 月に、 グリーンスパン元議長の後継者となったが、リーマン・ショックを 3 次にわた る QE(量的緩和政策)で克服したことから、名声が高まった(グラフ 1)。つまり、 師匠の論理を世界最大の経済・金融大国で実践し、成果を勝ち得たのだ。 NYダウとFRB資産 (百億ドル) 1,000 (ドル) 22,000 (出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成 QE3(2012/9~2014/10) 900 18,000 QE2 (2010/11~2011/6) 800 700 20,000 リーマン・ショック (2008/9) QE1 (2008/11~2010/3) 16,000 利上げ開始 (2015/12) 600 12,000 NYダウ(右) 500 14,000 10,000 400 4.53兆ドル (7/18) 300 6,000 200 4,000 FRB資産(左) 100 0 2008/1 8,000 2,000 0 2009/1 2010/1 巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 2011/2 2012/2 2013/3 2014/3 2015/3 2016/3 2016 年 7 月 19 日 ストラテジー マーケット分析 思惑を呼ぶ「ヘリコプター・ベ ン」と黒田総裁の会談 (グラフ2) 「ヘリコプター・マネー妄想」で 株高・円安が進行 そのバーナンキ前 FRB 議長が来日し、7/11 には黒田日銀総裁と会談し た。当初は表敬訪問との見方もあったが、11:30 スタートの会談が終了した のが 13:00 前で、約 1 時間半話し込んだことになる。表敬訪問にしては長 すぎる時間だ。表向けは、「世界金融情勢に関する情報交換」とのことだ が、マーケットは、「黒田総裁が『ヘリコプター・ベン』の影響を受けたのでは ないか」と妄想を抱き始めた。ここから、「ヘリコプター・マネー」騒動が始ま ることになった。週明け 7/11 の相場では、6 月雇用統計改善による米国株 大幅高を受けて、日経平均は前引け段階で 500 円以上の大幅上昇を見せ ていた。それにもかかわらず、ドル/円相場の戻りは鈍く、1 ドル=100.50 円 ~100.80 円程度の往来に終始していた。ところが、メディアが 13:02 に会談 終了と報じてから、「ヘリコプター・マネー妄想」が膨らんで、102 円台にまで 反転スピードを速めた。この動きは海外で一段と強まり、7/15 には 106 円 台に駆け上がる展開となった(グラフ 2)。円ロングを 6 万枚以上積み上げて いたヘッジファンドは、ポジション調整を余儀なくされたようだ。 (円/ドル) 円ドルと日経平均の推移 (円) 125 23,000 (出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成 120 22,000 米雇用統計 6月(7/8) 115 110 21,000 20,000 円ドル(左) 105 19,000 100 99.99 (7/8) 95 17,000 90 16,000 85 日経平均(右) 15106 (7/8) 80 セスを辿る 15,000 14,000 1/4 「消費増税先送り」と同じプロ 18,000 1/22 2/10 3/1 3/18 4/7 4/26 5/19 6/7 6/24 7/13 翌12日には安倍総理を表敬訪問したバーナンキ前議長だが、このあた りから、各種メディアで「ヘリコプター・マネー」というフレーズが飛び交い始 めた。極め付けは、7/13の産経新聞で、「政府、ヘリコプター・マネー検討 日銀資金で財政出動」との記事だった。その内容は、 ① 前内閣官房参与、現スイス大使の本田悦朗氏が、「今がヘリコプタ ー・マネーに踏み切るチャンス」と首相に進言した。 ② 浜田宏一内閣官房参与も、「一度限りという条件なら、ヘリコプター・ マネーを検討しても良い」と語った。 ③ 菅官房長官は、「ヘリコプター・マネーに関して特段の言及があった とは承知していない」と否定しながらも、「バーナンキ氏が、『金融緩 和の手段は色々存在する』と指摘した」と語った。 巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 2 2016 年 7 月 19 日 ストラテジー マーケット分析 等々、妙に生々しい内容であった。ここで注目すべきは、産経新聞は総 理官邸と密接な関係を築いており、今までにも特ダネで先行することが多 かったことである。次に注視すべきは、安倍政権が重要政策を決定する際 のアプローチだ。「消費税増税の再度の先送り」を決定した際のプロセスを 思い出して欲しい。 ① アベノミクスのブレーンである本田前参与、浜田参与が、「増税先送 り」を表明する。 ② 世界的な権威であるジョセフ・スティグリッツ教授、ポール・クルーグ マン教授が来日し、「消費増税先送り」の見解を述べる。 ③ 安倍総理が、諸般の事情を総合して決断する。 といった経緯を辿ってきた。今回も、本田前参与、浜田参与が関与し、バー ナンキ前 FRB 議長という金看板が来日している。どうも、「マーケットの妄 想」というレベルを超え始めているように思える。 再びデフレ圧力 (グラフ3) 個人消費、CPI(除く生鮮) 前年比マイナス続く 極端な寓話であるはずの「ヘリコプター・マネー」が検討されている背景 には、日銀が従来の緩和手法を踏襲するだけでは、デフレ脱却が怪しくな っていることがある。5 月の CPI(消費者物価指数・除く生鮮・前年比)は▲ 0.4%で、物価上昇どころか再びデフレ色が強まりつつある。個人消費も、全 世帯消費支出が 5 月も▲1.1%と前年比マイナスを継続している。2 月の閏 年効果を勘案すれば、昨年 8 月以来、延々と前年割れだ(グラフ 3)。全国 百貨店売上高(前年比)も 3 月から水面下に沈み、5 月は▲5.1%とマイナス 幅を拡大している。喧伝されたインバウンド(訪日外国人需要)も、円高進行 で見る影もない。鉱工業生産は、生産・出荷が鈍化し、意図せざる在庫が積 み上がる悪いパターンが続いている。設備投資の先行指標である機械受 注、工作機械受注も低迷が続いている(グラフ 4)。海外景気の鈍化、大幅な 円高傾向を考えれば、経営者が設備投資を先送りするのも当然であろう。 CPI(除く生鮮)と消費支出(前年同月比) (%) (%) 12.0 4.0 消費支出(左) CPI(除く生鮮・右) 10.0 3.0 8.0 消費支出 ▲1.1% (2016/5) 6.0 2.0 4.0 1.0 2.0 0.0 0.0 2.0 -1.0 4.0 6.0 -2.0 ▲8.2% (2011/3) 8.0 ▲10.6% (2015/3) 10.0 (出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成 12.0 2008 CPI (除く生鮮) ▲0.4% (2016/5) -3.0 -4.0 2009 2010 巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 3 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2016 年 7 月 19 日 ストラテジー マーケット分析 (グラフ4) 低迷続く設備投資の先行指標 機械受注と工作機械受注(前年同月比) (%) (%) 50.0 300.0 250.0 40.0 工作機械 受注 ▲19.9% (2016/6) 30.0 200.0 150.0 20.0 100.0 10.0 50.0 0.0 0.0 -50.0 10.0 -100.0 20.0 機械受注(左) 機械受注 ▲11.7% (2016/5) 工作機械受注(右) 30.0 40.0 -150.0 -200.0 -250.0 (出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成 50.0 2008 -300.0 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 現行の日銀緩和策の限界 雇用に関しては、5 月の有効求人倍率が 1.36 倍で、平成バブル崩壊直 後の 1991 年 8 月の 1.40 倍以来の高水準にある。失業率も 3.2%と 1995 年 7 月の 3.1%以来の低いレベルだ(グラフ 5)。遅行指標の代表である雇用は 良好な状態を維持しているものの、物価、個人消費、鉱工業生産、設備投 資を見渡せば、これでデフレ脱却の軌道を描いていると見るのは無理があ る。つまり、日銀の超緩和策を、今までのアプローチに即して強化しても、 デフレ脱却は至難な状況だ。仮に 10 年国債利回りが足下の▲0.2%台から ▲0.3%以上に一段とマイナス幅を拡大した所で、突然物価が上昇傾向を強 め、景気が盛り上がるわけではない。例えば、金利の急低下は住宅需要を 喚起する側面があるが、6 月の首都圏マンション販売戸数は前年比▲ 12.9%と、昨年 12 月以来二桁マイナスが継続している(グラフ 6)。月間契約 率も 69.6%と好不調の分岐点である 70%を下回っている。首都圏のマンショ ン価格が上昇し過ぎて、一般勤労者に手が出しにくくなっているという要因 もある。しかし、日経平均構成 225 銘柄の年初来パフォーマンスで、133 位 住友不動産▲20.5%、152 位▲三井不動産▲23.2%、157 位三菱地所▲ 24.2%と、最も金利低下の恩恵を受けるはずの大手不動産が低迷している のは事実である(7/14 時点)(グラフ 7)。つまり、このレベルから一段とマイナ ス金利幅を拡大しても、景気浮揚が顕著となり、物価上昇が鮮明化すること は想定し難いのだ。既に金利は信じられないくらい低下しており、住宅や設 備投資需要を急拡大させるインパクトはない。現行緩和策の限界である。 無利子・永久国債の日銀一括 そこで、「ヘリコプター・マネー」論の台頭である。まさか黒田総裁がヘリコ プターに乗って、花咲爺のように紙幣をバラ撒くわけにはいかない。おそら く、現実的な手法としては、政府が建設国債(無利子国債・永久債)を発行 し、日銀が一括引受けするパターンであろう。政府は、「大胆な景気浮揚策」 引受けか 巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 4 2016 年 7 月 19 日 ストラテジー マーケット分析 (グラフ5) 遅行指標の代表である 雇用は良好な状態を維持 失業率と有効求人倍率 (倍) (%) 2.40 2.20 7.0 有効求人倍率(左) 失業率(右) 6.0 2.00 1.80 1.60 有効 求人倍率 1.36倍 (2016/5) 1.46倍 (1990/7) 1.40 5.0 4.0 1.20 失業率 3.2% (2016/5) 1.00 3.0 0.80 2.0 0.60 2.0% (1990/3) 0.40 1.0 0.20 (出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成 0.00 1985 (グラフ6) 首都圏マンション販売戸数 昨年12月以来二桁マイナス (%) 0.0 1990 1995 2000 2005 2010 2015 首都圏マンション販売戸数(前年同月比) 100.0 80.0 60.0 40.0 20.0 0.0 -20.0 -40.0 -60.0 (出所)BloombergのデータよりMUMSS作成 -80.0 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 の財源とし、老朽インフラの整備・更新、新幹線網の拡大、道路・空港・港 湾建設、学校・公共機関等の耐震化、防災対策の強化等に利用する(図 1)。ここで、もう一つの状況証拠が現れる。参院選勝利後の会見で、安倍 総理は、「内需を下支えする総合的かつ大胆な経済対策の実施」を表明し たが、この大方針の一方で、「リニア新幹線の全線開業の最大 8 年前倒し」、 「整備新幹線の加速」という妙に細部にこだわった発言をしているのだ。お そらく、この発言の裏には、もう一人の内閣官房参与・藤井聡京大大学院 教授の存在があるものと思われる。藤井参与は、「スーパー新幹線が日本 巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 5 2016 年 7 月 19 日 ストラテジー マーケット分析 (図1) ヘリコプター・マネーの手法 <金融政策> 日 <財政政策> 銀 財政ファイナンス 当 座 預 金 国債 資金供給 79.5兆円 永久国債? 金融機関 政 府 借入<貯蓄 不足する投資を埋める 家計、企業 大規模景気対策 資金余剰 対GDP比 6.1% マネーストック M3 増加額 35.8兆円、前年比 +3.0% 出所;MUMSS作成 (グラフ7) 低迷続く大手不動産株 日経平均、三井不動産、三菱地所の株価推移 105.0 *2015年末=100で指数化 (出所)AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成 100.0 95.0 90.0 85.0 80.0 75.0 日経平均 70.0 65.0 12/30 1/27 2/22 三井不動産 3/16 4/11 三菱地所 5/10 6/2 6/27 を救う」の著者であり、2016 年度に 20 兆円、17 年度 12~13 兆円、18 年度 5~6 兆円、3 年間で総額 37 兆円の経済対策を打てば、デフレは終結する と表明している。リニア以外に、札幌、長崎、北陸新幹線の延伸に加えて、 四国、関空、山形、大分等々を候補に挙げている。 巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 6 2016 年 7 月 19 日 ストラテジー マーケット分析 平成版「日本列島改造論」 藤井参与は、新幹線網の整備が「地方創生」、東京一極集中を緩和する 「国土強靭化」、「成長戦略」、「日本経済再生」の観点から切り札になるとの 見解だ。言うまでもなく、財源が最大のネックになっていたわけだが、「ヘリ コプター・マネー」によって確保できれば、一気に具現化の可能性が見え始 めることになる。いわば平成版の「日本列島改造論」である。石原元都知事 の著作の効果もあって、田中角栄元総理の再評価が進んでいるが、両者 のアプローチは極めて類似している。こうした傍証からすれば、アベノミクス のブレーンの中で、既に実現に向けての検討が始まっている可能性は低く ない。本田前参与は、「今年 4 月の訪米時に、バーナンキ氏は日本経済が 再びデフレに戻るリスクを指摘し、デフレ脱却には政府が市場性のない永 久国債を発行、これを日銀が直接全額引き受ける手法を選択肢として挙げ た」と述べている。どうも、今回の「ヘリコプター・マネー」の基本スキームが、 朧気ながら見え始めたように思える。 「ジンバブエ化」のリスク さて、こうした「ヘリコプター・マネー」論に対して、財政健全化論者や財政 均衡論者は、「噴飯もの」として一顧だにしないか、青筋立てて逆上すること だろう。EU(欧州連合)の政策執行機関である欧州委員会は、ポルトガル、ス ペインに対し、過剰な財政赤字を削減する努力を怠ったとして、最大でGDP の0.2%の罰金を科す可能性があると表明した。南欧重債務国の銀行問題が クローズアップされている状況でさえ、欧州委員会は厳格な財政基準を適用 しているのだ。日本を賑わす「ヘリコプター・マネー」論と、欧州委員会のシビ アさを対比すると、お互いに遥か遠い惑星の異星人国家の話を聞くような気 がすることだろう。欧州委員会にすれば、財政規律を欠いた国家の破滅への 序曲と解釈しよう。金看板のバーナンキ議長や内閣官房参与のロジックを聞 いても、どことなく「魔術」、「手品」との印象が残るのは何故だろう?国家財政 と中央銀行の金融政策の一体化は、たとえ「一度だけ」と限定しても、常用化 するリスクが避けられない。まるで強い鎮静剤を求め続ける患者のように。財 政赤字に中央銀行の紙幣増刷で対応すれば、インフレに歯止めがなくなる。 かつてジンバブエは、経済失政もあって2008年7月にはCPIが2億3,100万%、 2009年1月には6.5×10の108乗!に達した。つまり、通貨としての機能を喪失 し、ただの紙の価値しか存在しなかったのだ。これは極端な例である。日本 は長期のデフレに苦悶してきた。ようやく浮上の端緒を掴みかけたが、再び デフレ圧力は増し始めている。この状況では、「ヘリコプター・マネー」の劇薬 を用いても、直ちにインフレ・リスクが高まるとは思えない。ただし、田中角栄 元総理の「日本列島改造論」も、全く想定外の「オイル・ショック」で瓦解した。 CPI(同)は、1974年10月に+24.7%の超インフレとなった(グラフ8)。 グローバル・クレジット市場 「ヘリコプター・マネー」の議論となると、必ず日銀の信認低下、国債価格 の暴落という話になる。正統派の財政均衡論者からすれば当然である。グロ ーバル・クレジット市場の反応はどうか?日本国債の信用力を表すCDS(クレ ジット・デフォルト・スワップ)スプレッドは、リーマン・ショック、東日本大震災の 惨禍を経験した2011年10月には154ベーシス・ポイント(bp)の高値をマークし ていた。言うまでもないが、当時は民主党政権時代である。ところが、アベノミ クスが軌道に乗るに連れて、日本国債のCDSスプレッドは低下傾向を続け、 100bpを割る展開となった。今年のピークは2/12の56.5bpである。一頃、経済 誌の表紙を飾った「日本国債暴落」は影も形もない(グラフ9)。興味深いのは、 は好評価 巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 7 2016 年 7 月 19 日 ストラテジー マーケット分析 (グラフ8) 第一次石油ショックで 「狂乱物価」に 消費者物価指数(除く生鮮・前年同月比) (%) 35.0 30.0 25.0 第一次 石油危機 (出所)BloombergのデータよりMUMSS作成 +24.7% (1974/10) 20.0 15.0 第二次 石油危機 10.0 +8.5% (1980/6) バブル期 +3.3% (1990/12) 5.0 0.0 -5.0 1971 (グラフ9) 日本国債の信用力を表す CDSスプレッドは低位安定 1976 1981 1986 1991 1996 2001 2006 2011 2016 日本国債CDSスプレッド (bp) 200.0 (出所)BloombergのデータよりMUMSS作成 180.0 160.0 154.7 (2010/4) 140.0 120.0 100.0 74.9 (2014/12) 80.0 56.5 (2016/2) 60.0 40.0 20.0 0.0 2010/1 2010/10 2011/7 2012/4 2013/1 2013/11 2014/8 2015/5 2016/2 「バーナンキ=黒田会談」前の 7/8 には 39.5 bp だったが、「ヘリコプター・ マネー」報道が世界を駆け巡った 7/12 には 32.7bp にまで低下しているの だ。7/14 時点でも 32.5bp の低水準で推移している。同日の主要先進国の CDS ランキングを見ると、イタリア 127.0bp、スペイン 94.0bp、ベルギー 50.5bp、英国 37.0bp、フランス 35.7bp、日本 32.5bp、スイス 29.5bp、ドイツ 20.0bp、米国 18.9bp である(ブルームバーグ・データ)。日本国債はスイス 並みに評価されて、信用力は絶大である(グラフ 10)。しかも世界の投資家 は、「ヘリコプター・マネー」導入で、日本の景気が浮揚力を高め、デフレ脱 却の軌道に乗り、信用リスクは一段と低下すると解釈しているのだ。この事 実を直視しなければならない。将来、政府が「ヘリコプター・マネー」を乱発 すれば、「ジンバブエ化」のリスクは高まるが、「1 回限り」であれば、ポジティ ブな効果が大きいと見ているわけだ。 巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 8 2016 年 7 月 19 日 ストラテジー マーケット分析 (グラフ10) スイス並みに評価されている 日本国債 各国のCDSスプレッド(7/14) イタリア 127.0 スペイン 94.0 ベルギー 50.5 英国 37.0 フランス 35.7 日本 32.5 スイス ドイツ 20.0 米国 18.9 0.0 リスクはあるがリターンも大 きい 「感情」が「論理」に勝つ相場 29.5 20.0 (出所)BloombergのデータよりMUMSS作成 40.0 60.0 80.0 100.0 120.0 140.0 (bp) 日本は、アベノミクスの推進によってデフレ脱却の端緒を得た。しかし、 現行の日銀金融政策が限界に達し、景気も停滞感が強まっている。本来的 には、構造改革・規制緩和によって潜在成長力を高める政策が筋だが、非 常に長い時間がかかるのは避けられない。アベノミクスの 3 年間でも、確た る成果が表れていないのが現実だ。となれば、既成概念を打破した斬新な 政策にトライする価値はある。もちろん、リスクはある。一度「禁じ手」を使え ば、常習化するのは政治の本質だ。しかし、厳しい自己規律を守ることを前 提にすれば、リターンは大きいものと思われる。無利子・永久国債の発行額 は、新幹線建設等が長期にわたることを考慮すれば、かなりの規模が必要 となろう。藤井参与の考えをベースにすれば 40 兆円となるが、現実的には 10~20 兆円が限界と思われる。日本の長期衰退を甘んじて受けるならば、 現行の弥縫策でも良い。前政権は、「高成長は目指さず、ブータンのように 『幸福度』を高める」というファンタジー政策を志向する時代があった。おそ らく、主要先進国の中では、経済成長を放棄した初めての例と思われる。日 本には選択できる政策がまだある。 「ヘリコプター・マネー」発動には、法律の改正が必要との指摘もある。し かし、現与党は憲法改正発議さえ可能な万全の政治体制だ。安倍総理と 黒田総裁が決断すれば、実現は可能と思われる。さて、いつもはバリュエー ション、リスク許容度といった点に着目する冷静な投資家も、こうした前代未 聞の政策発動の可能性が高まると、普段の冷徹な投資セオリーを実行し難 くなる。誰もが未経験となると、想像はできるが、実際に政策発動して見なけ れば、そのインパクトは測定し難い。つまり、「論理」よりも「感情」が勝つ相 場になり易い。短期間で 106 円台にまで駆け上がったドル/円相場を見る と、ヘッジファンドも泡を喰っている可能性が濃厚だ。そこに、兜町のエモー ショナル 100%の突撃部隊が参入するわけだ。大相場は、しばしばこうした 巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 9 2016 年 7 月 19 日 ストラテジー マーケット分析 測定不能の材料から生まれることが多い。経済寄与が幾ら、個別企業への利 益寄与が幾らと分かってしまえば、「感情」よりも「論理」が勝つノーマルな相 場に戻る。もし、巨額の「ヘリコプター・マネー」投入に実現の見通しが立て ば、全盛期のアベノミクス相場の興奮が甦る可能性もある。 緊張感を欠いた政策対応とな れば全値押しリスク 一方、ドル/円相場 106 円台、日経平均 16,500 円で危機感が去り、政策 対応が緊張感を欠いたものになれば、再び逆回転が始まる。仮に、日銀が 現状維持、景気対策の真水(政府が直接負担する財政支出額)が 2 兆円 程度と、お茶を濁した展開になれば、おそらく株価の今回上昇分は全て吐 き出し、為替も再び 100 円接近となろう。「ヘリコプター・マネー」が真夏の 夜の夢と化し、財政均衡論者の「そもそも砂漠の蜃気楼を追うようなもの」と の正論が力を取り戻せば、閉塞感が強い相場に回帰する可能性が高い。 米景気の回復傾向が株価をサポートするものの、再び低水準の往来相場 が続くものと思われる。兜町に陰鬱なトーンが戻ろう。 懸命な政策判断が待たれる 今年の相場は、予想外の事が起きている。大発会からの 6 日連続安、ド ル/円相場の 100 円割れ、英国の EU 離脱等で、相場は大きく上下にブレ た。そして、今度は「ヘリコプター・マネー」だ。現時点では期待感が株高・ 円安の大きな原動力になっているが、実現しなければ諸刃の剣となって投 資家に痛恨の一撃を与えることになろう。今ほど賢明な政策判断が待たれ たことはない。要は衆参両院で 2/3 を占めるに至った政治パワーを、経済・ 金融対策に活かすか否かである。短期的には、ストキャスティックスが 5 月 末以来のデンジャー・ゾーンに突入しているため、段階的な利益確定売り が必要な状況だ(グラフ 11)。ただし、ストキャスティックスは一定レンジ内の 往来相場には強いが、新たなトレンドが形成される場合には機能しなくな る。「ヘリコプター・マネー」は、新・アベノミクス相場を招来するのか? (グラフ11) 短期急騰で テクニカル指標に警戒感 日経平均とストキャスティクス 350.0 (円) (出所) AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成 22,000 20,012 (12/1) 300.0 20,000 17,905 (2/1) 250.0 17,291 (3/14) 17,613 (4/25) 17,251 (5/31) 200.0 16,607 (7/15) 18,000 16,000 日経平均(右) 150.0 (%) 藤戸 則弘 投資情報部長 14,000 ストキャ・ファースト(左) ストキャ・スロウ(左) 100.0 12,000 50.0 10,000 0.0 15/11/2 8,000 15/12/24 巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 10 16/2/17 16/4/7 16/6/1 【重要な注意事項】 (本資料使用上の留意点について) ・ 本資料は当社が信頼できると考える情報ベンダーから取得したデータをもとに作成されておりますが、機械作業 上データに誤りが発生する可能性があります。当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。ここに 示したすべての内容は、当社の現時点での判断を示しているに過ぎません。本資料は、お客様への情報提供の みを目的としたものであり、特定の有価証券の売買あるいは特定の証券取引の勧誘を目的としたものではありま せん。本資料にて言及されている投資やサービスはお客様に適切なものであるとは限りません。また、投資等に 関するアドバイスを含んでおりません。当社は、本資料の論旨と一致しない他のレポートを発行している、或いは 今後発行する可能性があります。本資料でインターネットのアドレス等を記載している場合がありますが、当社自 身のアドレスが記載されている場合を除き、アドレス等の内容について当社は一切責任を負いません。本資料の 利用に際してはお客様御自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。 (利益相反情報について) ・ 当社および関係会社の役職員は、本資料に記載された証券について、ポジションを保有している場合がありま す。当社および関係会社は、本資料に記載された証券、同証券に基づくオプション、先物その他の金融派生商品 について、買いまたは売りのポジションを有している場合があり、今後自己勘定で売買を行うことがあります。また、 当社および関係会社は、本資料に記載された会社に対して、引受等の投資銀行業務、その他サービスを提供 し、かつ同サービスの勧誘を行う場合があります。 ・ 当社の役員(会社法に規定する取締役、執行役、監査役又はこれらに準ずる者をいう。)が、以下の会社の役員を 兼任しております。:三菱UFJフィナンシャル・グループ、カブドットコム証券、三菱倉庫 (外国株に関する注意事項について) ・ 外国株式に関する資料は、Form 10-K 等当該外国法に基づく「有価証券報告書」と同等の公的書類、年次報告 書(Annual Report)、四半期報告書、アーニングリリース等の会社発表による公開情報をもとに作成しております。 当社によるレーティング、投資判断、業績予想等は含みません。また、データの取得・入力時期の違い等により、 本資料と外国証券情報の数値等が異なる場合があります。 ・ 本資料で取り上げられている外国証券は、我が国の金融商品取引法に基づく企業内容の開示は行われておりま せん(金融商品取引法上の情報開示銘柄を除く)。当該外国証券の開示情報は、主要取引所の所在する国の開 示基準に基づいています。 (リスク情報について) ・ 日本および外国の株式・債券への投資は、株価の変動や、発行者の経営・財務状況の変化及びそれらに関する 外部評価の変化、金利・為替の変動等により、投資元本を割り込むリスクがあります。 (手数料について) ・ 国内株式の売買取引には、約定代金に対し最大1.404%(税込み)の売買手数料をいただきます(ただし約定 代金が193,000円以下の場合は最大2,700円(税込み))。株式は、株価の変動等により、損失が生じるおそれ があります。 ・ 外国株式の売買取引には、現地委託手数料と国内取次手数料の両方がかかります。現地委託手数料等は、その 時々の市場状況、現地情勢等に応じて決定されますので、その金額等をあらかじめ記載することはできません。 詳細はお取引のある部店までお問合せください。国内取次手数料は、約定代金に対して最大1.080%(税込 み)の手数料が必要となります。外国株式は、為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。 ・ 非上場債券(国債、地方債、政府保証債、社債)を当社が相手方となりお買付けいただく場合は、購入対価のみ お支払いいただきます。債券は、金利水準の変動等により価格が上下し、損失を生じるおそれがあります。外国債 券は、為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。 (著作権について) ・ 本資料は当社の著作物であり、著作権法により保護されております。当社の事前の承諾なく、本資料の全部もしく は一部引用または複製、転送等により使用することを禁じます。 Copyright 2016 Mitsubishi UFJ Morgan Stanley Securities Co.,Ltd. All rights reserved. 〒100-8127 東京都千代田区大手町一丁目 9 番 2 号 大手町フィナンシャルシティ グランキューブ 三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券株式会社 投資情報部 (商号等) 三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第 2336 号 (加入協会) 日本証券業協会、一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人金融先物取引業協会、 一般社団法人第二種金融商品取引業協会 投資情報部 東京都千代田区大手町 1-9-2 大手町フィナンシャルシティ グランキューブ
© Copyright 2026 ExpyDoc