Economic Monitor

July21, 2016
No.2016-031
Economic Monitor
伊藤忠経済研究所
主席研究員
主任研究員
武田
須賀
淳 03-3497-3676 [email protected]
昭一 03-3497-3678 [email protected]
中国経済:一旦下げ止まったが成長再加速は期待薄(4~6 月期
GDP)
4~6 月期の GDP 成長率は、景気の減速がひとまず止まったことを示した。これまでの生産抑制
によって在庫調整が進み、製品の需給環境が改善したことから、製造業の生産活動が持ち直しつ
つあることが背景にある。また、需要の動きを見ても、個人消費は自動車販売が拡大するなど底
堅く、政府のインフラ投資も引き続き大幅に拡大している。今後は人民元安により輸出の下げ止
まりも期待されるが、過剰生産能力を抱える製造業では、投資抑制が続くことが見込まれるため、
このまま回復に向かうほどの勢いはない。
製造業は下げ止まったが、勢いに欠ける
今月 15 日に発表された 2016 年 4~6 月期の実質 GDP 成長率は、
実質GDP(産業別)の推移(前年同期比、%)
1~3 月期と変わらず、前年同期比+6.7%となった。産業別に
16
見ると、三次産業は+7.5%と、1~3 月期の+7.6%から伸びが
14
やや鈍化した一方で、二次産業は前年同期比+6.3%と、1~3
月期の+5.8%から伸びが高まった。
三次産業の伸びの鈍化は、2015 年の株価上昇による業績押し上
げ効果がはく落した金融業(1~3 月期+8.1%→4~6 月期+
5.3%)の減速が主因である。一方で、シェアが最も大きい小
売業は伸びが高まり、後述の通り個人消費の堅調な拡大を裏付
けた(+5.8%→+6.5%)1。
GDP全体
2次産業
工業生産
12
1次産業
3次産業
10
8
6
4
2
0
2011
2012
2013
2014
2015
2016
(出所)中国国家統計局
二次産業の内訳を見ると、製造業を主とする工業の下げ止まり
が全体の伸びの高まりに寄与した(+5.7%→+6.0%)
。工業生
生産者物価の推移(前年同月比、%)
10
産統計(右上グラフ中の工業生産)を見ても、4~6 月期は前年
8
同期比+6.1%と、2016 年 1~3 月期+5.8%から伸びは高まって
6
4
おり、製造業の底入れを裏付けている。主な業種を見ると、汎
2
用機器(+4.8%→+4.3%)は伸びが低下したものの、化学原
0
料・製品(+8.8%→+10.0%)
、自動車(+9.5 %→+11.6%)
、
コンピューター・通信機器(+8.6%→+9.7%)が在庫調整の
進展などから伸びが高まった。
在庫調整の進展は、6 月の生産者物価が、鉱産物や原材料のみな
工業製品
うち生産財
うち消費財
▲2
▲4
▲6
▲8
2011
2012
2013
2014
2015
2016
(出所)中国国家統計局
らず、衣料品や日用品を中心に消費財(5 月▲0.2%→6 月▲0.1%)のマイナス幅縮小もあって、5 月の前年同
月比▲2.8%から▲2.6%へマイナス幅を一段と縮めたことからも確認できる。
三次産業のシェアは、小売業 19.2%、金融業 16.7%、不動産業 12.0%(2015 年実績)
。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊藤忠経済研
究所が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告
なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と整合的であるとは限りません。
1
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伊藤忠経済研究所
ただし、景況感を表す製造業 PMI(担当購買者指数)を見る
PMI ( 担当者購買指数) の推移( 中立=5 0 )
と、5 月の 50.1 から 6 月は好不況の境目である 50.0 へ低下
60
した。内訳を見ると、新規輸出受注(5 月 50.0→6 月 49.6)
58
が 4 か月ぶりに 50 を割っており、製造業は輸出の低迷(詳
56
細後述)により回復力を欠いている。なお、非製造業 PMI は
製造業
新規受注(製造業)
輸出受注(製造業)
非製造業
改善
54
52
5 月の 53.1 から 6 月は 53.7 と 50 を大きく越えて拡大してい
る。
50
48
悪化
46
2012
2013
2014
2015
2016
( 出 所 ) 中 国 国 家 統計 局
個人消費はやや持ち直し
需要動向を見ると、内需の柱である個人消費はやや持ち直した。個人消費の代表的な指標である社会商品小売
総額は、5 月の前年同月比+10.0%から 6 月は+10.6%に伸びは高まった。物価上昇を除いた実質で見ても、5
月の+9.7%から 6 月は+10.3%へ、
四半期でも 1~3 月期の+9.6%から 4~6 月期は+9.8%へやや持ち直した。
品目別の内訳を見ると、石油製品(+0.4%→▲1.6%)の伸びがマイナスに転じ、家電音響機器(+7.2%→+
6.8%)の伸びがやや低下したものの、約 1 割を占める自動車(+7.7%→6 月+10.3%)や、衣料品(+7.2%
→+8.5%)
、日用品(+10.9%→+14.0%)は伸びが高まった。自動車販売について、乗用車販売台数を見る
と、6 月単月では 2,301 万台(5 月 2,237 万台)
、四半期で見ても、1~3 月期の年率 2,154 万台から 4~6 月期
は 2,235 万台へ増加している。
社会商品小売総額の推移(前年同期比、%)
自動車販売台数の推移( 季節調整値、年率、万台)
18
2 ,8 0 0
17
名目
実質
16
15
2 ,6 0 0
自動車販売台数
2 ,4 0 0
うち乗 用 車
2 ,2 0 0
14
13
2 ,0 0 0
12
1 ,8 0 0
11
1 ,6 0 0
10
1 ,4 0 0
9
1 ,2 0 0
8
20 11
20 12
20 13
20 14
20 15
20 16
(出所)中国汽車工業協会
(注)当社試算の季節調整値
( 出所) 中国国家統計局
固定資産投資は製造業の設備投資抑制により減速
固定資産投資の推移( 前年同期比、%)
もうひとつの内需の柱である固定資産投資は、1~3 月期の
前年同期比+10.7%%から 4~6 月期は前年同期比+8.2%
へ減速した。内訳を見ると、道路輸送などを中心としたイ
ンフラ投資(1~3 月期+20.3%→4~6 月期+22.7%)は
伸びが高まったものの、製造業(+6.4%→+1.8%)は抑
制傾向が続いている。上述のように、製造業の生産活動は
持ち直しているが、いまだ生産設備の過剰度合いが大きい
ため、製品需給の改善が設備投資などの拡大に結び付きに
くい状況が続いている模様である。また、不動産業も 1~3
月期に大きく伸びが高まった後に 息切れしている(+
2
50
固定資産投資全体
イ ンフ ラ 投 資
製造業
不動産業
40
30
20
10
0
▲ 10
2 0 11
2 0 12
2 0 13
2 0 14
2 0 15
2 0 16
( 出 所 ) 中 国 国 家 統計 局
( 注 )1.イ ン フラ 投 資は 、道 路、鉄 道 、水 利・ 環境 ・公 的 施設 、電 気・ ガ ス・ 水道 の 合計 。
2.固定資産投資全体のうち、インフラ投資は2 1.5% 、製 造 業は
32 .7% 、不動 産 業は
2 3 .0% を占 め る(
20 15年 )。
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8.2%→+7.3%)
。
不動産業の固定資産投資の伸び率低下は、住宅価格の伸びの
主要70都市の新築住宅価格の推移(前月比、%)
鈍化を背景に不動産企業の投資が一服したものと考えられる。
3.5
一線都市
二線都市
三線以下都市
3.0
実際に、主要 70 都市の新築住宅価格を見ると、価格が上昇し
2.5
た都市数は、5 月の 60 都市から 6 月は 55 都市に減少した一方、
2.0
下落した都市数は 4 都市から 10 都市に増加した。都市規模別
1.0
1.5
0.5
に見ても、すべての規模の都市において、3~4 月をピークに
0.0
▲ 0.5
前月比の伸びは低下傾向にある2。
▲ 1.0
▲ 1.5
2011
2012
2013
2014
2015
2016
(出所)中国国家統計局
(注)一線都市は北京、上海、シンセン等の直轄市等の大都市、二線都市はその他省都等
の主要都市、三線都市はその他比較的発展している中小都市
輸出は先進国向けを中心に減少が続く
輸出は、減少が続いている。通関統計で見ると、4~6 月期は
前年同期比▲4.3%と、1~3 月期の▲9.7%からマイナスの伸
びが続いた(6 月は前年同月比▲6.0%)
。また、季節調整値
1,200
6,500
でも 4~6 月期は前期比▲1.3%と 5 四半期連続のマイナスと
1,000
6,000
なり、輸出の減少傾向が続いている。仕向地別に見ると、
800
5,500
ASEAN 向けは 1~3 月期の前期比▲6.3%から 4~6 月期は+
600
5,000
2.3%と、プラスに転じて底堅い動きを見せているが、米国
400
4,500
向け(▲0.5%→▲4.3%)と EU 向け (▲5.0%→▲1.2%)
200
はそれぞれ減少が続き、日本向けは+1.1%から▲4.0%とマ
日本
EU
輸出全体(右軸)
米国
アセアン
4,000
0
3,500
2011
イナスに転じた。
百
仕向地別の通関輸出の推移(季節調整値、百万ドル)
2012
2013
2014
2015
2016
(出所)中国海関総署
(注)当社試算の季節調整値。
ただし、輸出数量指数は 3 月以降、前年同月比プラスが続い
ており(3 月+23.3%、4 月+6.9%、5 月+4.6%)
、人民元相場が昨年半ば以降、ドルに対して 8%近く下落し
ていることが追い風となったと考えられる。人民元の下落は続いていることから、輸出の下げ止まりは近いと
みられる。
輸出数量指数の推移(前年比、%)
人民元相場の推移(元/米ドル)
6.90
人民元
安
6.80
21
18
6.70
15
6.60
12
6.50
9
6.40
6
6.30
3
0
6.20
▲3
6.10
6.00
2010
人民元
高
2011
(出所)中国銀行
2
24
2012
2013
2014
2015
2016
▲6
2011
2012
2013
2014
2015
2016
(出所)中国海関総署
(注)直近二時点は4月及び5月単月のデータ。
ただし、6 月は一線都市のうち、主にシンセンにおいて前月比が大きく伸びたことが寄与して一線都市全体の伸びはやや高まっ
た(5 月+1.9%→6 月+2.1%)。
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景気は下げ止まりながらも回復に向かう勢いは欠く
以上のように、4~6 月期の GDP 成長率からは、景気の減速はひとまず止まったことが確認された。これは、こ
れまでの生産抑制によって在庫調整が進み、製品の需給環境が改善、製造業の生産活動が下げ止まったことが
背景にある。また、需要の動きを見ても、個人消費は自動車販売が拡大するなど底堅く、インフラ投資も引き
続き大幅に拡大している。
今後は、人民元安を追い風とした輸出の持ち直しも期待できるが、過剰生産能力を抱える製造業では、投資抑
制が続くことが見込まれる。景気減速は一旦下げ止まったものの、このまま回復に向かうほどの勢いはなく、
経済成長が再び加速することは期待薄であろう。
4