ゼブラフィッシュの求愛行動を司る フェロモン受容体の同定と嗅覚神経

ゼブラフィッシュの求愛行動を司る
フェロモン受容体の同定と嗅覚神経回路の解析
2016 年
長岡技術科学大学
矢吹
生物統合工学専攻
陽一
目次
第1章
序論
1.1 嗅覚研究の背景
・・・ 1
1.2 ゼブラフィッシュとマウスの一次嗅覚神経回路の比較
1.2.1
末梢嗅覚器官と嗅覚受容体
・・・ 2
1.2.2
嗅覚受容体の発現様式
・・・ 3
1.2.3
嗅細胞の軸索投射様式と匂い地図
・・・ 4
1.3 性フェロモンと行動
・・・ 5
1.4 本研究の目的
・・・ 7
第2章
PGF2α への行動応答
2.1
緒言
2.2
材料と方法
2.3
2.4
・・・ 11
2.2.1
実験動物
・・・ 12
2.2.2
単独状態での PGF2α への嗜好性テスト
・・・ 12
2.2.3
集団状態での PGF2α への嗜好性テスト
・・・ 13
2.2.4
嗜好度解析
・・・ 13
2.3.1
単独状態での PGF2α への応答
・・・ 14
2.3.2
集団状態での PGF2α への応答
・・・ 14
2.3.3
メスの PGF2α への応答
・・・ 15
結果
考察
・・・ 15
第3章
PGF2α 嗅覚受容体の同定
3.1
緒言
3.2
材料と方法
3.3
3.4
第4章
・・・ 20
3.2.1
嗅上皮切片作製
・・・ 22
3.2.2
嗅上皮切片の免疫染色
・・・ 22
3.2.3
ISH プローブ作製
・・・ 23
3.2.4
蛍光二重 ISH
・・・ 24
3.2.5
PGF2α 嗅覚受容体の同一性、相同性検索
・・・ 24
3.2.6
HEK293 細胞を用いた嗅覚受容体の機能解析
・・・ 25
3.2.7
受容体系統樹の作成
・・・ 25
3.3.1
PGF2α に応答する嗅細胞
・・・ 26
3.3.2
PGF2α 応答細胞に発現する受容体
・・・ 26
3.3.3
OR114-1 嗅覚受容体に類似した新規 OR 遺伝子 ・・・ 27
3.3.4
OR114-1、OR114-2 の機能解析
・・・ 28
3.3.5
OR114-1、OR114-2 の発現数の比較
・・・ 28
結果
考察
・・・ 29
PGF2α により活性化される神経回路
4.1
緒言
・・・ 48
4.2
材料と方法
4.2.1
ゼブラフィッシュ系統
・・・ 50
4.2.2
ホールマウント嗅球の免疫染色
・・・ 51
4.2.3
嗅球エクスプラントのカルシウムイメージング・・・ 51
4.3
4.4
第5章
4.2.4
脳切片作製・免疫染色
・・・ 52
4.2.5
嗅上皮除去手術
・・・ 52
4.2.6
飼育水中の PGF2α 濃度測定
・・・ 52
4.3.1
PGF2α 刺激により活性化される嗅球糸球体
・・・ 53
4.3.2
PGF2α 刺激により活性化される神経回路
・・・ 54
結果
考察
OR114-1 変異ゼブラフィッシュの表現型
5.1
緒言
5.2
材料と方法
5.2.1
・・・ 64
TALEN による OR114-1 変異ゼブラフィッシュ系統作製
・・・ 66
5.3
5.4
5.2.2
嗅上皮切片の ISH
・・・ 67
5.2.3
ホールマウント嗅球、脳切片の免疫染色
・・・ 67
5.2.4
PGF2α への嗜好度テスト
・・・ 67
5.2.5
産卵効率の解析
・・・ 68
5.2.6
求愛行動の解析
・・・ 68
5.3.1
嗅上皮・嗅球での表現型
・・・ 69
5.3.2
高次嗅覚中枢での表現型
・・・ 69
5.3.3
嗜好度の解析
・・・ 70
5.3.4
産卵行動への影響
・・・ 70
結果
考察
・・・ 71
総括
・・・ 82
参考文献
・・・ 86
公表論文
・・・ 95
謝辞
・・・ 96
第1章
1.1
序論
嗅覚研究の背景
生物は外的環境から視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚を通じて様々な情報を受
け取り、状況において適切な応答をすることで生命を維持している。なかでも
匂いの情報を認識する嗅覚は食物の探索、危険からの回避、同種の認識、生殖
行動の発現などを引き起こす、生命活動の根幹に関わる非常に重要な役割を担
っている。
嗅覚の研究は Buck and Axel (1991)による嗅覚受容体(olfactory receptor = OR)遺
伝子の単離を皮切りに飛躍的な発展を遂げた。彼らはその功績により 2004 年に
ノーベル生理学医学賞を受賞している。その後、マウスやショウジョウバエの
嗅覚を中心に分子生物学的、遺伝子工学的手法などを駆使した解析が盛んに行
われ、特に末梢の嗅覚器官から嗅球までの一次嗅覚神経回路における発達や匂
い情報の表現様式と処理機構についてはその詳細が明らかにされてきた(Mori
and Sakano, 2011)。今日、嗅覚研究は一次嗅覚神経回路からより高次の嗅覚中枢
へとフォーカスを移し、匂いに対する高次嗅覚中枢での表現様式と情報処理機
構や、行動の発現や内分泌応答に至るまでの神経回路、さらには匂いの記憶・
学習のメカニズム解明に向けた研究が進められている。
コイ科の小型淡水魚であるゼブラフィッシュ(Danio rerio)も嗅覚研究の有用な
脊椎動物モデルとして用いられてきた。ゼブラフィッシュは体外で受精し、多
産であることから、遺伝子組み換え操作を容易かつ効率よく行うことができる。
また、胚が透明であるため、遺伝子操作で蛍光蛋白質を発現させることにより、
発生過程におけるその動態を同一個体で生きたままリアルタイムで観察するこ
とができる。さらに嗅覚に関しては受容体遺伝子の数がマウスよりも 1 桁少な
-1-
く(Alioto and Ngai, 2005; Niimura and Nei, 2005; Niimura et al., 2014)、複雑な匂い情
報処理の分子・細胞・神経回路メカニズムをマウスよりも単純化して理解する
ことができると期待されている。ゼブラフィッシュの嗅覚神経回路においては
嗅上皮から嗅球へ、そして嗅球から高次中枢への神経軸索投射様式が明らかに
されてきた(後述; Sato et al., 2005; Miyasaka et al, 2019, 2014)。しかしながら、匂
いと行動との結びつきやゼブラフィッシュ脳の解剖学的な知見はまだ少なく、
高次嗅覚中枢が担う機能や神経回路網についてはほとんど解明されていない。
1.2
ゼブラフィッシュとマウスの一次嗅覚神経回路の比較
ゼブラフィッシュも末梢の嗅覚器官で匂いを検知し、その情報は脳の嗅球へ
と伝えられる。しかし、マウスと比較すると、その機構には違いが見られる。
1.2.1 末梢嗅覚器官と嗅覚受容体
マウスでは独立した 2 つの嗅覚器官、嗅上皮と鋤鼻器が存在し、嗅細胞の種
類や発現する嗅覚受容体が異なっている(Mombaerts, 2004; Tirindelli et al., 2009)。
嗅上皮では主に OR(~1,100 遺伝子)を発現した繊毛嗅細胞が疎水性・揮発性の匂
い分子を受容する(Niimura et al., 2014)。また一部の繊毛嗅細胞は微量アミン関連
受容体(trace amine-associated receptor = TAAR, 15 遺伝子)を発現し、アミン類を検
知している(Hashiguchi and Nishida, 2007)。これに対して鋤鼻器では鋤鼻受容体
(V1R, ~150 遺伝子; V2R, ~150 遺伝子)を発現した微絨毛嗅細胞が主に親水性の匂
い分子を受容する(Mombaerts, 2004)。
ゼブラフィッシュにおいてもマウスと同様に OR (~140 遺伝子)、V1R (6 遺伝
子)、V2R (~60 遺伝子)、TAAR (~100 遺伝子)があるが、末梢の嗅覚器官は 1 つし
-2-
か存在しない(Hansen and Zeiske, 1998; Alioto and Ngai, 2005, 2006; Hashiguchi and
Nishida, 2007; Saraiva and Korsching, 2007)。嗅上皮と呼ばれるゼブラフィッシュ
の末梢嗅覚器官には、細胞の形や嗅上皮における局在、発現分子の違いなどに
って分類される 4 種類の嗅細胞が混在している(Yoshihara, 2014; Ahuja et al.,
2014) (図 1)。
嗅上皮の深層には繊毛嗅細胞が存在し、長い樹状突起を嗅上皮表面へと伸ば
している。マウスの繊毛嗅細胞と同様に、嗅上皮表面の繊毛には OR あるいは
TAAR を発現する(Sato et al., 2005)。
嗅上皮の浅層には微絨毛嗅細胞が存在する。微絨毛嗅細胞は繊毛嗅細胞に比
べて短い樹状突起を表層へと伸ばしており、嗅上皮表面の微絨毛には V1R、V2R
を発現している(Sato et al., 2005; Saraiva and Korsching, 2007)。
さらに、上記 2 種類の嗅細胞に比べると少数ではあるが、嗅上皮の最表層に
は Crypt 嗅細胞、Kappe 嗅細胞の 2 種類が存在する(Oka et al., 2012; Ahuja et al.,
2014)。Crypt 嗅細胞は微絨毛と短い繊毛をもった卵型の形状をしており、V1R
の 1 つである ORA4 を発現している。一方で、Kappe 嗅細胞は微絨毛をもち、
Crypt 嗅細胞よりも形状が少しだけ縦に長いが、発現する嗅覚受容体はまだわか
っていない。
1.2.2 嗅覚受容体の発現様式
マウスの嗅上皮では、それぞれの繊毛嗅細胞は 1,130 種類の OR 遺伝子の中か
らたった 1 種類のみを発現することが知られている(1 細胞-1 受容体ルール;
Chess et al., 1994; Malnic et al., 1999; Serizawa et al., 2003; Niimura et al., 2014)。受容
体は匂い分子の立体構造を認識して結合する。したがって、個々の嗅細胞は発
現する嗅覚受容体が認識する立体構造をもった匂い分子のみに応答する。
-3-
ゼブラフィッシュでもこのルールが概ね適用されているが、例外も報告され
ている。例えば OR103-1 を発現する繊毛嗅細胞は同時に OR103-2 もしくは
OR103-5、あるいはその両方を発現している(Sato et al., 2007)。また本研究におい
て野生型ゼブラフィッシュの嗅上皮で OR の二重蛍光 in situ hybridization を行っ
た際にも、共発現が認められる OR が存在した(未発表データ)。嗅細胞に発現す
る嗅覚受容体は匂い分子を認識すると細胞内の G タンパク質を活性化し、活性
化された G タンパク質はアデニル酸シクラーゼを活性化する。アデニル酸シク
ラーゼにより細胞内の ATP が cAMP に変換され、cAMP がイオンチャネルを開
いて嗅細胞の神経活動が生じる。ところがショウジョウバエでは 1 つの嗅細胞
に 2 種類の嗅覚受容体が発現し、それらが形成する二量体が匂い分子作動性の
イオンチャネルとして機能している(Sato et al., 2008; Wicher et al., 2008)。ゼブラ
フィッシュにおいても、2 つの受容体を発現する嗅細胞では受容体が二量体を形
成しイオンチャネルとして機能しているのかもしれない。あるいは、受容体が
認識できる匂いを識別する必要がなく、嗅細胞レベルで匂いの情報が統合され
ているのかもしれない。
1.2.3 嗅細胞の軸索投射様式と匂い地図
脳における匂い情報の入り口である嗅球には糸球体が並んでおり、その中で
嗅細胞の軸索と二次嗅覚ニューロンの樹状突起がシナプスを形成している。同
一の嗅覚受容体を発現する嗅細胞は、それらの軸索を特定の糸球体へと集束し
て投射しており(Mombaerts et al., 1996)、この投射様式はマウス、ゼブラフィッシ
ュ、ショウジョウバエなど、動物種を越えて保存されている。
マウスでは嗅上皮の嗅細胞は主嗅球へと、鋤鼻器の嗅細胞は副嗅球へと軸索
を投射する。すなわち OR や TAAR で認識される疎水性匂い分子の情報は主嗅
-4-
球へ、V1R や V2R で認識される親水性フェロモン分子の情報は副嗅球へと伝わ
る。進化的に水から陸に生活の場を移した陸棲生物では、匂い分子の特徴を親
水性か疎水性かでまず大別しているのかもしれない。さらに、匂い分子の化学
構造によって情報が伝わる糸球体の位置が決まっている。これにより、匂いの
情報はその分子構造に基づいた糸球体の分布「匂い地図」として嗅球上に展開
されている。
ゼブラフィッシュには嗅覚器官が 1 つしかないが、マウスと同様に嗅球上に
匂い地図が存在する(Friedrich and Korsching, 1997, 1998; Koide et al., 2009;
Yoshihara, 2014)。ゼブラフィッシュの嗅球では正確な糸球体の数はわかっていな
いが、複数の糸球体を「糸球体群 (Glomerular cluster, G)」として捉えると、背側
(dorsal, dG)、背外側(dorso-lateral, dlG)、外側(lateral, lG)、腹側前方(ventro-anterior,
vaG) 、 腹 側 後 方 (antero-posterior, apG) 、 腹 内 側 (ventro-medial, vmG) 、 内 背 側
(medio-dorsal, mdG)、内側前方(medio-anterior, maG)、内側後方(medio-posterior,
mpG)の 9 つの糸球体群に分けることができ、それぞれ応答する匂い分子の構造
に共通の特徴がある(Braubach et al., 2012; Yoshihara, 2014)。例えばエサの匂いで
あ る ア ミ ノ 酸 は 嗅 球 の 外 側 糸 球 体 群 (lG) を 、 腐 敗 し た 魚 か ら 発 せ ら れ る
cadaverine などのアミン類は背外側糸球体群(dlG)を、社会性相互作用に関連のあ
る匂いであると考えられている胆汁酸は背側糸球体群(dG)を、それぞれ活性化す
ることがわかっている(図 1-2)。
1.3
性フェロモンと行動
フェロモンとは「ある個体で分泌され、同種の他個体に対して生得的な行動
や内分泌系の変化を引き起こす分子」であると定義される。このうち性行動へ
-5-
の作用があるものを性フェロモンと呼ぶ。初めて性フェロモンが同定されたの
はメスのカイコガから放出される bombykol であり、オスを誘引する作用がある
(Nakagawa et al., 2005)。ショウジョウバエではオスが交尾の際にメスに性フェロ
モン 11-cis-vaccenyl acetate (cVA)を塗布し、メスに対しては性行動を促進し、一
方でオスに対しては求愛行動を抑制する作用をもつ(Kurtovic et al., 2007)。また、
マウスではオスの涙に分泌される ESP1 がメスの受け入れ行動(ロードシス)を
引き起こす(Haga et al., 2010)。このように、性フェロモンは異性の行動を促進す
ることによって、生殖行動において重要な役割を果たす。そして、魚類ではメ
スにおいて卵母細胞の成熟や排卵を促進するステロイドホルモンである
17α,20β-dihydroxy-4-pregnen-3-one (17,20P) や そ の 代 謝 物 17,20P-20-sulfate
(17,20PS)、排卵後に卵巣で産生されメスの性行動を促進するホルモンであるプ
ロスタグランジン F2α (PGF2α)が性フェロモンとしても作用していると考えられ
ている。
PGF2α は哺乳類において、7 回膜貫通型の G タンパク質共役受容体である PGF2α
受容体(Ptgfr)を介して、黄体の退行や子宮筋を収縮させるホルモンであることが
知られている(Sugimoto et al., 2015)。また、畜産業では分娩や発情期を誘発する
ための薬としても利用されている。魚類においても PGF2α は、排卵後に卵巣で
産生され、メスの産卵行動を促進する作用がある(Kobayashi et al., 2002; Juntti et
al., 2016)。1988 年、Sorensen らは PGF2α およびその代謝物である 15-keto-PGF2α
が排卵後のキンギョのメスから体外に放出され、オスの嗅細胞をエサの匂いで
あるアミノ酸よりも低濃度で活性化させること、さらにはオスの性行動を引き
起こすことを見出した(Sorensen et al., 1988)。このように、PGF2α はホルモンとし
ても性フェロモンとしても作用することから「ホルモン様フェロモン(hormonal
pheromone)」と呼ばれ(Doving, 1976; Stacey and Sorensen, 2009)、メスの性周期状
-6-
態をオスに伝えるとともに、雌雄の性行動のタイミングを同期させる役割を担
っていると考えられてきた。その後の電気生理学的知見から、ゼブラフィッシ
ュ、コイ、サケ、ナマズなどでも PGF2α がホルモン様フェロモンとして機能し
ていることが強く示唆されている(Stacey and Cardwell, 1995; Kobayashi et al.,
2002; Stacey and Sorensen, 2009)。
1.4
本研究の目的
PGF2α は多くの魚類でホルモン様フェロモンとして働くと考えられているが、
PGF2α を匂い分子として捉える分子機構についてはまだ明らかにされていない。
また、フェロモンとしての PGF2α の情報が脳でどのように処理されてオスの性
行動を引き起こすのかもわかっていない(図 1-3)。本論文ではホルモン様フェロ
モン PGF2α による性行動発現の嗅覚メカニズム解明に向け、ゼブラフィッシュ
をモデル生物として行った研究の成果を述べる。PGF2α の匂い入力から性行動発
現へと至る神経回路を解明することで、外的環境の情報がどのように処理され
適切な行動を選択するのかという脳の普遍的な機能の解明に繋がるものと期待
される。
ゼブラフィッシュでは PGF2α 嗅覚刺激に応答する電気生理学的な知見はある
ものの、行動応答についてはまだわかっていなかった。第 2 章ではゼブラフィ
ッシュが PGF2α に応答しどのような行動を出力するかを明らかにした。続いて
第 3 章では PGF2α をフェロモンとして受容する分子機構を解明するため、PGF2α
によって活性化される嗅細胞種の特定、PGF2α を認識する嗅覚受容体遺伝子の同
定について述べた。第 4 章では PGF2α 刺激に対する嗅球、高次嗅覚中枢におけ
る応答について記した。さらに第 5 章では PGF2α を特異的に認識する嗅覚受容
-7-
体変異の体を作製し、PGF2α が実際の産卵行動に及ぼす影響について、そして高
次嗅覚中枢と行動との関連について考察した。
-8-
図 1-1. ゼブラフィッシュには 4 種類の嗅細胞が存在する
ゼブラフィッシュの嗅上皮には繊毛嗅細胞、微絨毛嗅細胞、Crypt 嗅細胞、Kappe
嗅細胞の 4 種類が存在し、細胞体の位置や樹状突起の長さ、繊毛や微絨毛の有
無、発現する受容体に特徴がある。
-9-
図 1-2. ゼブラフィッシュ嗅球の糸球体群と匂い地図
ゼブラフィッシュの嗅球には 9 つの糸球体群が存在し、応答する匂いの分子構
造に特徴がある。また緑の糸球体群は主に繊毛嗅細胞から、青の糸球体群は主
に微絨毛細胞から、赤の糸球体群は Crypt 嗅細胞、Kappe 嗅細胞から、それぞ
れ軸索投射がある。
-10-
第2章
PGF2α への行動応答
キンギョにおいて PGF2α はオスの性行動を引き起こすが、ゼブラフィッシュで
はオスの行動にどのような影響を与えるのかはわかっていなかった。本章では
PGF2α に対する行動応答を見るため、1 匹または 8 匹のオスを入れた水槽に
PGF2α を投与した。その結果、1 匹の状態では応答は見られなかったが、8 匹の
状態では投与した PGF2α に誘引された。また 8 匹のメスを入れた水槽に投与す
ると、メスも PGF2α に誘引された。このことから PGF2α に対する行動応答には
PGF2α 以外の感覚情報が同時に入力されることが重要であることが示唆された。
2.1
緒言
性フェロモンは同種の異性に対し性行動の発現や内分泌系の変化を引き起こ
す。キンギョでは性周期状態により異なるホルモン様フェロモンがメスから放
出され、雌雄の産卵行動のタイミング一致に重要な役割を果たしている
(Kobayashi et al., 2002)。
排卵前のキンギョの卵巣ではステロイドホルモン 17,20P が卵母細胞の発達を
促進する。さらに体外にも放出され、性フェロモンとしてオスの血中の性腺刺
激ホルモンを増加させ、精子の産生が促進される。卵母細胞が成熟する頃には
17,20P の代謝物である 17,20PS が放出され、オス血中の性腺刺激ホルモン量の増
加、およびメスへの行動(追跡、つつき)を引き起こす。排卵期では卵巣で PGF2α
が産生され、ホルモンとしてメスの排卵・生殖行動を誘起し、オスに対しては
性フェロモンとして生殖行動を引き起こす。このように、ホルモン様フェロモ
ンは卵母細胞の成熟に合わせて精子量を増加させ、雌雄が同じタイミングで生
殖行動を行うよう調整する役割を担っている。
-11-
キンギョでは上述の行動応答の他、PGF2α に対する嗅覚応答がアミノ酸よりも
低い濃度で見られることが確認されている(Sorensen et al., 1988)。この特徴的な
嗅覚応答はゼブラフィッシュを含む多くの魚類で見られ(Stacey and Cardwell,
1995; Friedrich and Korsching, 1998; Stacey and Sorensen, 2009)、PGF2α が多くの魚
種でホルモン様フェロモンとして作用していると考えられている理由の 1 つと
なっている。しかしながらキンギョ・コイ以外の魚種で PGF2α が実際にオスの
性行動を引き起こすのかどうかはわかっていない。著者はまずゼブラフィッシ
ュのオスを単独、または 8 匹の集団で入れた水槽に PGF2α を投与し、それぞれ
の応答を観察した。
2.2
材料と方法
2.2.1 実験動物
本論文で使用したゼブラフィッシュは、理化学研究所・脳科学総合研究セン
ター・シナプス分子機構研究チームの飼育施設において、水温 28.5°C、明 14 時
間(9:00 - 23:00)/暗 10 時間(23:00 - 9:00)周期の環境下で飼育された。野生型ゼブ
ラフィッシュは RIKEN-Wako 系統を用いた。
なお本論文において、全ての動物実験は理化学研究所が定める動物実験実施
規定に従い実施された。
2.2.2 単独状態での PGF2α への嗜好性テスト
雌雄混合 10~20 匹程度の集団で飼育していた野生型ゼブラフィッシュ成魚の
オス(5-9 ヶ月齢)を行動実験実施 1 週間前に単離し、行動実験水槽(すりガラス様
壁面、25×6×16 cm)で飼育して順化させた。飼育水 600 ml を入れた行動実験水槽
-12-
に順化したゼブラフィッシュを移し、水槽内を極端な偏りがなく泳ぐようにな
るまで少なくとも 50 分順応させた。その後、水槽の片側から 60 µl の 10-5M PGF2α
を投与した。またコントロールとして同量の dimethyl sulfoxide (DMSO)を投与し
た。
2.2.3 集団状態での PGF2α への嗜好性テスト
2.2.2 と同様に飼育していたゼブラフィッシュのオスを行動実験実施 1 週間前
に、同性 8 匹 / グループに分けた。飼育水 25 リットルを入れた行動実験水槽
(45×30×23 cm)に 1 グループを移し、極端な偏りがなく泳ぐようになるまで少な
くとも 50 分の順化を行った。その後、水槽の片側から 250 µl の 10-4M PGF2α あ
るいは DMSO を投与した。
2.2.4 嗜好度解析
投与した匂いに対する嗜好性の定量的な解析をするため、個々のゼブラフィ
ッシュの位置に基づいた attraction score を式(1)のように定義した。
・・・
式(1)中、Nodor は水槽の匂い投与側半分に、Ncontrol は匂い投与とは反対側半分に
いるゼブラフィッシュの数をそれぞれ指す。単独状態、集団状態、それぞれの
実験について 0.5 秒毎に attraction score を解析し、匂い投与前後 2 分間の平均値
の差を paired t-test により検定した。
Preference index は集団内の個々に対して式(2)により算出し、30 秒毎に集団の
平均値を計算した(Saumweber et al., 2014)。
-13-
・・・
式(2)中、Todor は水槽の匂い投与側 3 分の 1 領域内、Tcontrol は匂い投与とは反対側
の 3 分の 1 領域内、Tcenter は中央 3 分の 1 領域内での滞在時間をそれぞれ指す。
嗜好性は preference index が 0 から有意に離れた値であるかどうかを Wilcoxon
signed-rank test により検定し判断した。
2.3
結果
2.3.1 単独状態での PGF2α への応答
単独状態のオスのゼブラフィッシュ 11 匹に対し PGF2α への嗜好性テストを実
施し、匂い投与前後 2 分間の平均 attraction score を算出して投与前後のスコア平
均値を比較した。DMSO に対しては、投与前の平均 attraction score は 0.04±0.05、
投与後の平均は 0.10±0.09 であった(図 2-1a, 左; p = 0.51)。PGF2α 投与前の平均
attraction score は 0.11±0.04、投与後は 0.11±0.11 であり、コントロールと同様、
有意な差は認められなかった(図 2-1a, 右; p = 1.0)。したがって単独状態では投与
された PGF2α に対して嗜好性、忌避性を示さないことが明らかになった。
2.3.2 集団状態での PGF2α への応答
オス 8 匹のゼブラフィッシュ 7 グループに対して PGF2α への嗜好性テストを
実施し、単独状態と同様に匂い投与前後の attraction score を比較した。DMSO 投
与前の平均 attraction score は 0.10±0.10、投与後は 0.03±0.13 であった(図 2-1b, 左;
p = 0.57)。一方で PGF2α では投与前の平均 attraction score -0.03±0.12 に対し、投与
-14-
後は 0.66±0.09 に上昇した(図 2-1b, 右; p = 0.0036)。この結果から、ゼブラフィッ
シュは集団状態において PGF2α に対し嗜好性を示すことがわかった。
さらに時間分解能を上げて解析を行うため、0.5 秒毎に集団内全ての個体の位
置をプロットした(図 2-2b)。また長軸方向平均位置の推移(図 2-2c)、および定量
的な解析のため 30 秒毎の preference index の有意差検定を行った(図 2-2d)。その
結果、集団状態のゼブラフィッシュは投与直後から PGF2α に誘引されているこ
とがわかった。一方で、嗅上皮を切除したゼブラフィッシュのグループでは
PGF2α への誘引応答は観察されなかった(図 2-2, OE-removed)。これらの結果から、
ゼブラフィッシュの集団は嗅覚依存的に PGF2α に誘引されることが明らかとな
った。
2.3.3 メスの PGF2α への応答
オスが誘引応答を示したときと同じ条件で、メスの PGF2α に対する応答を観
察した。その結果、メスも投与された PGF2α に誘引された(図 2-2, female)。しか
しながら、オスは PGF2α 投与後すぐに応答が見られるのに対し、メスに明確な
誘引応答が見られたのはオスよりも遅かった。
2.4
考察
水槽内に投与された PGF2α に対し、集団のゼブラフィッシュは誘引応答を示
した。嗅上皮を外科的に切除したゼブラフィッシュの集団はこの応答が見られ
なかったことから、PGF2α への誘引応答は嗅覚に依存していることが示された。
単独状態ではこの行動応答は見られなかった。
集団でいる状況では、投与された PGF2α 以外にも、他個体から排出されるさ
-15-
まざまな嗅覚刺激を受けている。PGF2α などのホルモン様フェロモンはメスの尿
に混ざって放出されると考えられており(Appelt and Sorensen, 1999)、自然環境下
では PGF2α を他の匂いと同時に認識している可能性が高い。さらに集団状況下
では嗅覚以外にも他個体に由来する視覚や体性感覚刺激などが存在している点
で、単独でいる状況とは大きく異なっている。例えばショウジョウバエでは集
団状況における個体間の接触が個々の行動に影響を与えている(Ramdya et al.,
2015)。またキンギョでは集団でいるオスに PGF2α で刺激を行うと血中の黄体形
成ホルモンの上昇が見られるが、単離されたオスではこの上昇が見られないこ
とが報告されている(Sorensen et al, 1989)。これらのことから、性フェロモン PGF2α
に対する行動の発現には、PGF2α 以外の匂いや他個体からの感覚刺激が大きく影
響していると考えられる。集団でゼブラフィッシュを飼育していた水槽に 1 匹
のオスを入れた状況で PGF2α を投与する実験を行うことで、行動発現に必要な
感覚刺激が匂いなのかどうかを考察することができる。
集団状況下では、オスだけではなくメスも PGF2α に誘引された。このことか
ら PGF2α は集合フェロモンとしての役割がある可能性が考えられる。ゼブラフ
ィッシュの産卵行動を観察すると、オスが放精するタイミングはメスが放卵す
るときとほぼ同時である。メスは卵を 1 ヵ所にまとめて産みつけるのではなく、
泳ぎながら撒き散らすような形で放卵する。おそらくこれに対応するように、
放精も局所的ではなく発散するように行っていると推測される。したがって、
PGF2α にメスも誘引されることによって、一度の放精で受精する卵の数を増やす
ことに繋がると考えられる。産卵効率を上げるためにはメスが PGF2α に誘引さ
れる際に放卵できる状態である必要がある。もしかしたら排卵前のフェロモン
である 17,20P や 17,20PS もオスだけでなくメスにも作用し、性周期に影響を与
える作用があるのかもしれない。
-16-
図 2-1. ゼブラフィッシュの集団は PGF2α に嗜好性を示す
単独状態(a)、8 匹の集団(b)におけるゼブラフィッシュの DMSO、PGF2α に対す
る嗜好性。匂い投与前 2 分間(Pre)、投与後 2 分間の attraction score を算出した。
黒のバーは平均値を表す。*: p < 0.01 (n = 7 groups, paired t-test; Pre-Post の比較)。
-17-
図 2-2. ゼブラフィッシュの PGF2α 嗜好性は嗅覚に依存する
(a) 未施術のオスの集団(Intact fish)の DMSO(緑)、PGF2α (青)、嗅上皮を除去し
たオスの集団(OE-removed fish)の PGF2α (マゼンタ)、未施術のメスの集団
(Female)の PGF2α (オレンジ)に対する応答。矢印は匂いを投与した場所を示す。
(b-d) 0.5 秒毎のグループ内全てのゼブラフィッシュの水平軸上の 位置(8
fish/group × 7 groups) (b)、平均位置(c)、30 秒毎の preference index(d)を算出した。
-18-
匂い刺激は time = 0 で投与し、その後もそのまま水槽内に残っている(黄色背景)。
* p < 0.05 (n = 7 groups, Wilcoxon signed-rank test; Preference index = 0 との比較)。
-19-
第3章
PGF2α 嗅覚受容体の同定
PGF2α により引き起こされる行動を司る神経回路を解明するためには、匂いを
認識する受容体を同定することが重要である。本章では、まず PGF2α 匂い刺激
をした嗅上皮で活性化される嗅細胞が繊毛嗅細胞であることを明らかにし、
PGF2α の嗅覚受容体が OR であると考えた。続いて OR のスクリーニングを行い、
PGF2α により活性化される繊毛嗅細胞が OR114-1 もしくは OR114-2 を発現して
いることを見出した。この 2 つの嗅覚受容体を培養細胞に発現させて機能的な
解析を行った結果、感受性は異なるが、どちらも特異性の高い PGF2α の嗅覚受
容体であることがわかった。
3.1
緒言
ある匂いに対する嗅覚受容体を同定することは、その匂いにより引き起こさ
れる行動や内分泌系の変化を司る嗅覚神経回路を解析するうえで非常に重要で
ある。今日では標的遺伝子操作技術が発展し、特定の嗅覚受容体遺伝子を改変
したトランスジェニック生物系統の作製が容易になってきた(第 5 章 5.1 緒言)。
嗅覚受容体の変異体を作製することで、特定の匂いが嗅げなくなったことによ
る行動や内分泌系変化への影響を調べることができる。
ゼブラフィッシュは水中のアミノ酸や胆汁酸、核酸、ステロイド、プロスタ
グランジンなどを匂いとして認識し、これらの匂いは嗅球の特定の糸球体群を
活性化することがわかっている(Friedrich and Korsching, 1997, 1998; Koide et al.,
2009; Yoshihara, 2014)。しかしながら、リガンドがわかっている嗅覚受容体はま
だ 4 つしかない。
ゼブラフィッシュにおいて初めてリガンドが同定された嗅覚受容体は V2R の
-20-
1 つ、OlfCa1 である。OlfCa1 は、魚類で初めてリガンドが同定されたキンギョ
の嗅覚受容体 5.24 のオーソログである。5.24 は主にエサの匂いであるアミノ酸、
特にアルギニン・リジンに対して高い応答性を示すのに対し、OlfCa1 はグルタ
ミン酸に高い応答性を示す(Speca et al., 1999; Luu et al., 2004)。このほか、V2R で
は OlfCc1 がバリン、ロイシン、イソロイシンに強く応答する(DeMaria et al., 2013)。
2013 年には TAAR13c がカダベリン(cadaverine)の受容体として同定された
(Hussain et al., 2013)。カダベリンは腐敗した死骸から発生する炭素鎖 5 のジアミ
ンで、ゼブラフィッシュはこの匂いを避ける行動をとる。V1R では ORA1 がタ
イロシン代謝関連分子 4-hydroxyphenylacetic acid に応答する(Behrens et al., 2014)。
この匂いにゼブラフィッシュのオス・メスのペアを曝露すると産卵が誘発され
たことから、4-hydroxyphenylacetic acid は産卵に関わるフェロモンである可能性
があると考えられている。一方で、ゼブラフィッシュの嗅覚受容体で最も多く
の遺伝子の種類がある OR について、リガンドはまだ 1 つもわかっていない。ま
た匂い分子として作用するステロイドホルモンや核酸、胆汁酸、プロスタグラ
ンジンの嗅覚受容体もまだ同定されていない。
嗅細胞に発現する嗅覚受容体の種類は、嗅細胞の種類によって決まっている
(Yoshihara, 2014)。したがって、匂いによって活性化される嗅細胞の種類を特定
することができれば、その匂いを認識する嗅覚受容体の種類を予想することが
できる。本章では PGF2α 刺激をした嗅上皮における嗅細胞の ERK のリン酸化を
免疫染色により検出し(Watt & Storm, 2001)、PGF2α に応答する嗅細胞の種類を特
定した。続いて PGF2α の嗅覚受容体候補となる遺伝子の cRNA プローブを作製
し、c-fos との蛍光二重 in situ hybridization (ISH)を行い、PGF2α 刺激により活性化
した嗅細胞に発現する嗅覚受容体を特定した。そして、その受容体を培養細胞
に発現させて機能的な解析を行い、実際に PGF2α として機能するかどうかを確
-21-
かめた。
3.2
材料と方法
3.2.1 嗅上皮切片作製
野生型ゼブラフィッシュ成魚(5-9 ヶ月齢)1 匹を、0.03%人工海水(TetraMarin
Salt Pro, Tetra)を含む逆浸透水 600 ml が入った水槽(15×9×10 cm)に少なくとも 1
時間順化させた。順化したゼブラフィッシュに 600 µl の匂い分子[10-3-10-5M
PGF2α (Cayman Chemical)、5×10-2M アミノ酸混合溶液(Ala, Cys, His, Lys, Met, Phe,
Trp, Val, Sigma)、DMSO (純正化学)]を投与した。免疫染色の場合は 10 分間、ISH
の場合は 30 分間匂いに曝露した後、氷水で速やかに屠殺し嗅上皮を摘出した。
摘出した嗅上皮は、組成 4% パラホルムアルデヒド(PFA, Millipore) / 0.1M リ
ン酸緩衝液(PB)の固定液中で 4°C にて一晩固定した後、30% スクロース/PB で
凍結保護処理を施し O.C.T. Compound (Sakura)に包埋した。免疫染色用切片の場
合は固定液に 15%の飽和ピクリン酸を加えた。クライオスタット (HM500,
Microm)を用いて厚さ 10 µm の凍結切片を作製し、MAS コートスライドガラス
(松浪硝子工業)に貼りつけた。
3.2.2 嗅上皮切片の免疫染色
切片に対し HistoVT One (ナカライテスク)による抗原賦活化を行った。続いて
正常ヤギ血清(NGS)/0.01% Triton X-100/PBS でブロッキング処理をし、一次抗体
としてウサギ由来 anti-pERK1/2 抗体(1:500, Cell Signaling Technology, 4370)に一晩
反応させた。洗浄後、二次抗体としてロバ由来 Cy3-conjugated anti-rabbit IgG 抗
体(1:300, Jackson ImmunoResearch, 711-165-152)を 4’,6-diamidino-2-phenylindole
-22-
(DAPI, 0.2 µg/ml)とともに 2 時間反応させ、一次抗体および細胞核の検出を行っ
た。
3.2.3
ISH プローブ作製
ゼブラフィッシュの OR プローブ作製のためのプライマーは、Alioto & Ngai
(2005)により報告され GenBank データベース (National Center for Biotechnology
Information: NCBI)に登録されている配列情報を元に、各遺伝子の全長を増幅で
きるよう設計した(表 3-1)。ゼブラフィッシュ成魚の尾ヒレから抽出したゲノム
DNA を鋳型として FastStart High Fidelity System (Roche)を用いた PCR を行い、産
物は pGEM-T easy ベクター (Promega)に組み込んだ。
最初期遺伝子 c-fos は、ゼブラフィッシュ脳由来の cDNA を鋳型とし Expand
High Fidelity PRC System (Roche)を用いた PCR により、全長および上流~100 bp、
下流~150 bp を含む合計~1.3 kbp を増幅した。PCR 産物は pGEM-T easy ベクター
に組み込んだ。
ゼブラフィッシュのホルモン PGF2α 受容体である zFP1、zFP2 (Iwasaki et al.,
2014)遺伝子を含んだベクター(HA-zFP1/pcDNA3, HA-zFP2/pcDNA3)は、熊本大学
大学院 生命科学研究部
杉本幸彦教授より分与いただいた。
上述の受容体および c-fos 遺伝子を組み込んだベクターは、適切な制限酵素で
直鎖状にした。cRNA プローブは T7 または SP6 polymerase (Promega)と、受容体
遺伝子は digoxigenin-labeled UTP (Roche)、c-fos は fluorescein-labeled UTP (Roche)
を用いて合成した。
なお OR プローブのうち一部は、シナプス分子機構研究チームで作製されたも
のを使用した(Sato et al., 2007)。
-23-
3.2.4 蛍光二重 ISH
蛍光二重 ISH は Sato et al. (2005)の手法に改変を加えて実施した。
嗅上皮の凍結切片に Proteinase K 処理(20 µg/ml, 37°C, 10 分, Invitrogen)、無水
酢酸/トリエタノールアミン(ナカライテスク)によるアセチル化処理を施し、
3.2.3 に述べた digoxigenin 標識受容体プローブと fluorescein 標識 c-fos プローブを
60°C で 22 時間ハイブリダイズさせた。洗浄、ブロッキング処理(Blocking Reagent,
PerkinElmer; Avidin/Biotin Blocking Kit, Vector)を施した後、fluorescein をビオチン
標 識 さ れ た ヤ ギ 由 来 anti-fluorescein 抗 体 (1:500, Vector, BA-0601) 、
avidin/biotin/peroxidase complex (Vectastain Elite ABC Kit, Vector)、ビオチン標識チ
ラ ミ ド(TSA Biotin Tyramide Reagent Pack, PerkinElmer) 、Alexa488-conjugated
streptavidin (1:300, Molecular Probes, S11223)で検出した。また digoxigenin はヒツ
ジ 由 来 alkaline phosphatase-conjugated anti-digoxigenin 抗 体 (1:500, Roche,
11093274910)に反応させた後、HNPP/Fast Red Detection Set (Roche)を用いて検出
した。
3.2.5 PGF2α 嗅覚受容体の同一性、相同性検索
同 一 性 検 索 は NCBI に 登 録 さ れ て い る OR114-1 (accession number:
NP_001122054)のアミノ酸配列全長をクエリーに、ゲノムデータベース ensembl
(http://www.ensembl.org/)内のゼブラフィッシュゲノムデータベース 9th zebrafish
genome assembly (Zv9)に対して TBLASTN 検索プログラムを実行した。
相同性検索は上述の OR114-1 アミノ酸配列、または OR114-2 のアミノ酸配列
全長(図 3-4a)をクエリーに、ゲノムデータベース ensembl、NCBI、DNA Data Bank
of Japan に登録されている魚種に対して TBLASTN 検索プログラムを実行した。
-24-
3.2.6 HEK293 細胞を用いた嗅覚受容体の機能解析
HEK293 細胞を用いた嗅覚受容体の機能解析は Shirasu et al (2014)のルシフェ
ラーゼアッセイ法に倣い実施した。
嗅覚受容体形質移入のためのベクター(FLAG-Rho-pME18S)は、東京大学大学院
農学生命科学研究科
東原和成教授より分与いただいた。OR114-1、OR114-2 の
cDNA をそれぞれ FLAG-Rho-pME18S に組み込み、cAMP-reponsive element 結合
のホタル luciferase をコードした pGL4.29 (Promega)、thymidine-kinase プロモータ
ー結合のウミシイタケ luciferase をコードした pGL4.74 (Promega)とともに
Lipofectamine2000 (Invitrogen)を用いて HEK293 細胞に形質移入を行った。形質
移入をしてから 36 時間後に 3 時間の匂い刺激を行い、Dual-Glo Luciferase Assay
System (Promega)を用いて luciferase activity を測定した。
OR114-1/2 の応答特異性の測定には以下の匂い分子を全て 10-5M(混合溶液の
場合はそれぞれ 10-5M)で用いた:
PGF2α、15KPGF2α、PGF3α、PGD2 、PGE2 (Cayman Chemical)、17,20PS (Toronto
Research Chemicals)、アミノ酸混合溶液(Ala, Cys, His, Lys, Met, Phe, Trp, Val;
Sigma)、胆汁酸混合溶液(taurocholic acid, taurodeoxycholic acid, glycocholic acid;
Sigma)、アミン混合溶液(pentylamine, histamine, methylpentylamine, cadaverine,
adrenaline, trimethylamine, 2-phenylethylamine; Sigma、ナカライテスク)、核酸混合
溶液(AMP, IMP, TTP; Sigma)。
3.2.7 受容体系統樹の作成
ゼブラフィッシュの OR とプロスタグランジン受容体の系統樹は、NCBI に登
録されている各アミノ酸配列を元に、ソフトウェア MEGA6 (Tamura et al., 2013)
を用いて近接結合法により作成した。
-25-
3.3
結果
3.3.1 PGF2α に応答する嗅細胞
ゼブラフィッシュの嗅細胞は、その形状や細胞体の位置により 4 種類 (繊毛嗅
細胞、微絨毛嗅細胞、Crypt 嗅細胞、Kappe 嗅細胞)のどれに該当するかを判断す
ることができる。著者はまず PGF2α に応答する嗅細胞の種類を特定するため、
10-4M PGF2α 刺激をしたゼブラフィッシュの嗅上皮切片に対し抗リン酸化 ERK
(pERK)抗体を用いた免疫染色を行い、活性化された嗅細胞の種類の特定を試み
た(図 3-1)。
ポジティブコントロールとして用いたアミノ酸混合液で刺激をしたゼブラフ
ィッシュの嗅上皮では、多くの pERK 陽性細胞が嗅上皮の浅層に観察された(図
3-1b)。一方で PGF2α 刺激をしたゼブラフィッシュの嗅上皮では、樹状突起が長
く嗅上皮の深層にある細胞に pERK シグナルが観察された(図 3-1c)。溶媒(DMSO)
刺激では pERK シグナルはほとんど観察されなかった(図 3-1a)。この結果から、
PGF2α 刺激により繊毛嗅細胞が活性化されることが明らかとなった。
3.3.2 PGF2α 応答細胞に発現する受容体
ゼブラフィッシュではホルモン PGF2α の受容体が 2 つ(zFP1, zFP2)同定されて
いる(Iwasaki et al., 2013)。嗅上皮でこれらの受容体の発現が見られるかどうかを
調べるため、嗅上皮切片に対して zFP1、zFP2 の cRNA プローブを用いた ISH を
行った。その結果、どちらの受容体も発現は見られなかった(データ未掲載)。
3.3.1 の免疫染色の結果から、PGF2α に応答する嗅細胞が繊毛嗅細胞であるこ
とがわかった。繊毛嗅細胞は OR あるいは TAAR を発現するが(Yoshihara, 2014)、
-26-
PGF2α はアミノ基をもたないことから、PGF2α の嗅覚受容体が TAAR である可能
性は考えにくい。したがって、PGF2α の嗅覚受容体が OR であると予想し、ゼブ
ラフィッシュの全ての OR に対する cRNA プローブを作製した。これを用いて
PGF2α 刺激をした嗅上皮における c-fos との蛍光二重 ISH を行い、PGF2α の嗅覚受
容体候補となる遺伝子の絞り込みを行った。
絞り込みの第一段階として、報告されている OR グループ(Alioto and Ngai,
2005)を基準に 3~7 の OR プローブを混ぜて ISH に用いた。その結果、グループ
β の OR プローブ群(OR112-1, OR113-1, OR113-2, OR114-1)に c-fos シグナルとの重
なりが観察された(図 3-2)。次に第二段階としてグループ β に属する 4 つの OR
をそれぞれ単独で ISH に用いて c-fos との重なりを観察した。その結果、OR114-1
のみで c-fos との共発現が観察された(図 3-3)。以上のことから PGF2α に応答する
繊毛嗅細胞には OR114-1 が発現していることがわかった。
3.3.3 OR114-1 嗅覚受容体に類似した新規 OR 遺伝子
ゼブラフィッシュの OR グループ β は 4 つの嗅覚受容体が属しており、これら
の受容体遺伝子群は第 15 染色体上でクラスターを形成している。各受容体の類
似性や非翻訳領域の遺伝子配列を調べる過程で、PGF2α 嗅覚受容体候補である
OR114-1 に最も同一性が高い(DNA: 61%, アミノ酸: 57%; 図 3-4a)、未同定の OR
がグループ β OR クラスター中に存在することがわかった(図 3-4b)。この新規 OR
の嗅上皮での発現を OR114-1 との蛍光二重 ISH により確認した結果、OR114-1
を発現する細胞とは異なる細胞に発現していることが明らかとなった(図 3-4c)。
著者はこの新規 OR を OR114-2 と名付け、全コーディング配列を NCBI GenBank
に登録した(accession number: KT893706)。
-27-
3.3.4 OR114-1、OR114-2 の機能解析
PGF2α 刺激により活性化された嗅細胞に発現していた OR114-1、そして
OR114-1 に類似の受容体 OR114-2 をそれぞれ HEK293 細胞に発現させ、ルシフ
ェラーゼアッセイ法により応答特性を解析した(図 3-5a, b)。
OR114-1 は PGF2α、およびその代謝産物であり性フェロモンとしての働きが示
唆されている 15KPGF2α に対し強い応答が観察された。一方で PGF2α に分子構造
が似た他のプロスタグランジン(PGF3α, PGD2, PGE2)や、17,20PS、アミノ酸、胆
汁酸、アミン、核酸の各混合液に対してはどれも応答しなかった(図 3-5a)。また
OR114-2 も、OR114-1 よりも弱いながら PGF2α と 15KPGF2α に特異的な応答が見
られた(図 3-5a)。これら 2 つの受容体が応答する PGF2α の濃度を解析した結果、
OR114-1 は OR114-2 に比べ高い親和性をもつことが明らかとなった(図 3-5b)。
実際に高濃度の PGF2α (10-3M を投与、終濃度 10-6M)で匂い刺激をしたゼブラ
フィッシュの嗅上皮では、OR114-1、OR114-2 のどちらを発現している嗅細胞で
も c-fos シグナルが観察されたが、低濃度の PGF2α (10-5M を投与、終濃度 10-8M)
では OR114-1 発現嗅細胞のみに c-fos シグナルが見られた(図 3-5c, d)。各濃度に
おいて OR114-1 シグナルと重なる c-fos シグナルの割合と OR114-2 シグナルと重
なる c-fos シグナルの割合の合計はおおよそ 100%になることから(図 3-5e)、PGF2α
に応答する繊毛嗅細胞は OR114-1、OR114-2 のどちらかを発現し、これ以外の嗅
覚受容体は PGF2α の認識には関与していないと考えられる。
3.3.5 OR114-1、OR114-2 の発現数の比較
PGF2α はメスが放出しオスの性行動を誘起するフェロモンであると考えられ
ているため、その嗅覚受容体である OR114-1、OR114-2 の発現数には性差がある
-28-
可能性がある。これを検証するため、オス・メスそれぞれ 6 匹ずつの嗅上皮に
対し OR114-1、OR114-2 の cRNA プローブを用いた ISH を行った(図 3-6)。
嗅上皮 1 つにおける OR114-1 を発現する嗅細胞は、オスが 833±83 個、メスが
695±122 個で、雌雄間に有意な差はなかった(p = 0.37)。一方、OR114-2 を発現す
る嗅細胞はオスが 895±226 個であったのに対し、メスは 322±24 個と少ない傾向
が見られた(p = 0.053)。また 1 匹あたりの OR114-1 発現細胞数に対する OR114-2
発現細胞数の比は、オスが 1.07±0.21、メスが 0.51±0.06 であった(p = 0.042)。こ
の結果から、OR114-1 は雌雄で発現の差は見られないが、OR114-2 はオスでは
OR114-1 と同じくらいの発現数であるのに対し、メスではおよそ半分であること
がわかった。
3.4
考察
本章ではまず抗リン酸化 ERK 抗体を用いた免疫染色により、PGF2α が繊毛嗅
細胞を活性化することを明らかにした。続いて c-fos との二重 ISH により、PGF2α
により活性化された嗅細胞が OR114-1、OR114-2 を発現することを示した。また
ホルモン PGF2α の受容体である zFP1、zFP2 は、嗅上皮に発現が見られないこと
を確認した。次に OR114-1、OR114-2 をそれぞれ HEK293 細胞に発現させて PGF2α
およびその他の匂いへの応答性を確認した結果、どちらの受容体も PGF2α とそ
の代謝物 15KPGF2α に高い特異性を示し、さらに OR114-1 は OR114-2 よりも親
和性が高いことが明らかとなった。以上のことから OR114-1、OR114-2 はゼブラ
フィッシュ嗅上皮において PGF2α を特異的に認識する嗅覚受容体であることが
示された。OR114-1、OR114-2、zFP1、zFP2 はどれも 7 回膜貫通型 G タンパク
質共役受容体であるが、アミノ酸配列をベースに系統樹(図 3-7)を作製すると、
-29-
OR114-1/2 は zFP1/2 とは大きく異なる受容体であることがわかった。
PGF2α はメスの体内でホルモンとして、体外で性フェロモンとして、2 つの異
なる作用があることが示唆されていた(Kobayashi et al., 2002; Stacey and Sorensen,
2009)。本研究で PGF2α の嗅覚受容体の存在が明らかになったことにより、PGF2α
がもつ 2 つの作用はそれぞれ異なった受容体を介していることが示された。
OR114-1/2 のアミノ酸配列をクエリーとした相同性検索を行うと、コイ、キン
ギョ、ブラインドケーブ・カラシンで相同性の高い(60~86%)嗅覚受容体遺伝子
が存在していることがわかった(図 3-8)。これらの嗅覚受容体遺伝子はそれぞれ
の魚種において OR114-1/2 のオーソログである可能性が考えられる。特にコイ、
キンギョでは嗅上皮や嗅球での PGF2α に対する応答が電気生理学的手法により
確認されていることからも(Stacey and Cardwell, 1995; Stacey and Sorensen, 2009)、
OR114-1/2 のオーソログがコイやキンギョにも存在し PGF2α を認識していること
が強く示唆される。多くの魚種で PGF2α がホルモン様フェロモンとして作用す
ると考えられてきたが、フェロモンとして PGF2α を認識する機構は魚類に普遍
的なものなのかもしれない。しかしながら、1 つの分子を複数種の魚が性フェロ
モンとして捉えているということは、それらの魚種が共存している環境では異
種交雑が起こってしまう危険性がある。これを避けるために、第 2 章で考察し
たように PGF2α 以外の情報が同時に入らないと行動の発現に至らないように、
情報を処理する神経回路が存在していると考えられる。特に匂いは視覚や聴覚
とは異なり、発信源がその場になくなった後でも近隣に残るため、性行動のよ
うにタイミングが重要な行動を発現させるためには、複数の匂いや感覚情報の
統合が必須であるのかもしれない。最近のシナプス分子機構研究チームによる
ゼブラフィッシュの忌避行動の実験の結果から、魚類には魚種固有の匂いがあ
り、行動の発現に必須である可能性が示唆されている(データ未発表)。もしゼ
-30-
ブラフィッシュ特有の匂いの受容体を同定できれば、その受容体を変異させた
ゼブラフィッシュを用いて実験を行うことで、種固有の匂いがどのような行動
に影響を与えているのかを観察することができる。
OR114-1 と OR114-2 の発現細胞数を雌雄で比較した結果、OR114-1 では差が見
られなかったが、OR114-2 はオスが OR114-1 と同程度の数であったのに対し、
メスではおよそ半数であり、雌雄で差が見られた。これら 2 つの OR は PGF2α
に対し異なる親和性をもっていることを合わせて考えると、OR114-1 と OR114-2
は同じ匂いを異なる意味を持った情報として捉え、それぞれ異なる行動に関与
している可能性が考えられる。OR の発現細胞数のカウントには、それぞれ同じ
水槽で飼育していた 6 匹のオス、6 匹のメスのゼブラフィッシュを使用した。
OR114-2 ついてはオスでの発現細胞数のばらつきが大きかったため、もしかした
ら群内での強さによって発現の量に差が出るのかもしれない。これについて検
証するためにはより多くの群からサンプルをとり、体の大きさなどの情報とも
比較して解析を行う必要がある。
-31-
図 3-1. PGF2α 匂い刺激は繊毛嗅細胞を活性化する
各匂い刺激をしたゼブラフィッシュ嗅上皮切片に対し、抗リン酸化 ERK
(pERK)抗体を用いた免疫染色を行った。図 a, b, c 中の黄色の四角は、それぞれ
a’, b’, c’の領域を示す。(a, a’) DMSO 刺激。(b, b’) アミノ酸混合溶液刺激。(c, c’)
PGF2α 刺激。スケールバー: (a, b, c) 100 µm、(a’, b’, c’) 50 µm。
-32-
図 3-2. PGF2α 刺激により活性化する嗅細胞は Group β に属する OR を発現する
PGF2α 刺激をしたゼブラフィッシュの嗅上皮切片に対し、いくつかの OR プロ
ーブ(マゼンタ)と c-fos プローブ(緑)を用いた in situ hybridization を行った。矢頭
は OR と c-fos との重なりを示す。スケールバー: 20 µm。
-33-
図 3-3. PGF2α 刺激に応答する細胞は OR114-1 を発現する
(a-d) PGF2α 刺激をしたゼブラフィッシュの嗅上皮切片に対し、c-fos プローブと
group β に属する OR のプローブを用いた ISH を行った。矢頭は OR と c-fos の
重なりを示す(a, a’, a”)。スケールバー: 20 µm。
(e) 切片 1 枚当たりの OR 陽性細胞数、c-fos 陽性細胞数、両陽性細胞数。
-34-
図 3-4. OR114-2 は OR114-1 に最も同一性が高い新規嗅覚受容体である
(a) OR114-1 と OR114-2 のアミノ酸配列比較。両者は 57%のアミノ酸同一性を
もつ。TM は予測される膜貫通領域、黒背景は二つの受容体に共通のアミノ酸
残基を示す。
(b) OR114-1 と OR114-2 の遺伝子座。Group β OR 群は第 15 染色体上に存在して
いる。三角は各遺伝子の位置と方向を示す。
(c) 嗅上皮での OR114-1 と OR114-2 の mRNA 発現。両遺伝子は異なる嗅細胞に
発現している。スケールバー: 20 µm。
-35-
図 3-5. OR114-1 と OR114-2 は PGF2α に特異的な嗅覚受容体である。
(a, b) HEK293 に発現させた OR114-1(赤)、OR114-2(青)のリガンド特異性(a)、感
受性(b)。グラフは 3 回の実験の平均値±SEM を表す。*: p < 0.01、**: p < 0.001
(unpaired t-test、mock 細胞との比較)。
(c-e) 10 µM、1 mM での PGF2α 刺激をした嗅上皮に対し c-fos (緑)、OR (マゼン
タ)プローブを用いて in situ hybridization を行った(c)。矢頭は c-fos と OR の重な
りを示す。スケールバー: 20 µm。OR のうち c-fos との重なりが見られた割合(d)、
c-fos のうち OR との重なりが見られた割合(e)を、それぞれグラフに示す。
-36-
図 3-6. OR114-1 と OR114-2 の発現数の比較
(a-d) オス、メスの嗅上皮切片に対し OR114-1、OR114-2 の cRNA プローブを
用いた ISH を行った。スケールバー: 100µm。
(e) オス、メスそれぞれにおいて、嗅上皮 1 つあたりの OR シグナルの数。グ
ラフはオス、メスそれぞれ 6 匹の平均値±SEM を表す。OR114-1: p = 0.37,
OR114-2: p = 0.053, two-tailed t-test。
(f) OR114-1 と OR114-2 の発現数の比の比較。*: p = 0.042, two-tailed t-test。
-37-
図 3-7. OR114-1 と OR114-2 はホルモン PGF2α 受容体 FP1、FP2 とは異なる
ゼブラフィッシュ OR とプロスタグランジン受容体のアミノ酸配列をベースに、
近隣結合法により系統樹を作製した。ギリシャ文字は OR グループを表す。
-38-
図 3-8. OR114-1/2 のオーソログ遺伝子は他の魚類にも見られる
-39-
PGF2α 受容体 OR114-1/2 のアミノ酸配列をクエリーに、他の魚種における相同
遺伝子検索を行った。Common carp: コイ(Cyprinus carpio)、Cavefish: ブライン
ドケーブ・カラシン(Astyanax mexicanus)、Goldfish: キンギョ(Carassius auratus)。
(a) 近接結合法による、ゼブラフィッシュのグループ β OR とコイ、ブラインド
ケーブ・カラシンの OR114 オーソログの系統樹。数字は Bootstrap 値(1000
replications)を表す。なお、キンギョにも相同性の高い OR114 オーソログがあ
ると考えられるが、遺伝子情報が断片的であるため系統樹からは除外した。
(b) ゼブラフィッシュ OR114-1、OR114-2 と、他の魚種におけるそれらのオー
ソログのアミノ酸配列比較。黒背景は 100%、灰背景は 50%以上の塩基同一性
を表す。
-40-
表 3-1. ゼブラフィッシュ OR の ISH プローブ作製用プライマー
OR
112-1
Forward primer (5' -> 3')
Reverse primer (5' -> 3')
previously designed in Yoshihara Lab. (Sato et al, 2007)
ATGAAGGATCTTACCGCACAAAATACCTCATTCA
113-1
TTATTTTTCCAAAGGAAATATATGTGCTTTGTGTA
C
ATGATGAACCTTACTGTACAAAATACTTCATTCA
113-2
TCATTTTTTTAAAGGGAAGACATTTGCACTGTTTA
A
ATGGAGGACAAAACGTTCAACATCTCTTATCAGG
114-1
TTAATATGAACCAACCTTGTTTTTGGATAAATATT
A
TCAATATGAAGTAATTTTATTACATTTGAAGCTTT
114-2
ATGGCTGACCAACAAAATAACTCTCTTCTGG
TCAC
101-1
previously designed
102-1
previously designed
102-2
previously designed
102-3
previously designed
102-4
ATGGCAAACTCTGTTACTCCTAGAGTC
102-5
previously designed
103-1
previously designed
103-2
previously designed
TCATTTTACTGGCATGCTGACTATCTTGTG
ATGTCAGTGGGAAACACCAGCTTTGTAAAGGATT
TTAGAGTAGCTGTAATGGAAAGCCAATAAGCTTA
T
T
103-3
103-4
previously designed
103-5
previously designed
104-1
previously designed
ATGTCACAGGAGGGAAATGAAACCAGAGCTTTT
CTAACCCTTTAAGTTAATCATGATCCTCTGAGTG
GT
C
ATGCTATCGAAGAACTGGACGACAATCAGTGAG
TCAGAGCGTGATGACATTAATTTTGCAAGCTACT
TT
C
104-2
105-1
ATGGGAAATTATACTGTTAATAATGTTGACAGCT
106-1
TTATGCTAAAACCTTTAAATTATTTGGTGCAACTT
T
106-2
previously designed
106-3
previously designed
ATGGCAAATGAAACTTATTTTGTGAAAAATGTTG
TTAAAAATTACTTGGTGAAATCTTTTTGCGCATC
A
A
106-4
106-5
previously designed
106-6
ATGGCAAATGCAACTTATTTTGTGAAAAATGTTG
-41-
TTAAGATGATAAAGTGTTTGGAAAAGATTTAAAA
A
106-7
T
previously designed
ATGGCAAATGTAACTTATTTTGTGAAAAATGTTG
106-8
TTACTTGGTTATTTTTTGTGTGTACAAGAATATAT
A
106-9
previously designed
ATGGCAAATGAAACTTTTGTGAAAAATGTTGACA
106-10
TTACTTGGTTATTTTTTGTGTGTACAAGAATATAT
G
106-11
previously designed
106-12
previously designed
107-1
previously designed
ATGCAAAACATCAACAGCTCCATCATACAGCCTG
TTAATGTACATTTTTAAGAGGATGAACAGACAAT
C
C
ATGCAAAACGCCATCAGTTCTGGTCAAAACAGCT
TTATTGTGCACTTTTGAGAGGATGAACAGAGAGT
C
C
ATGCAGAACAACATCGCTTCTTCAAACAGCACCC
TTAATGCCCATTCTTTAGAGGATGAACAAATAGT
T
C
108-1
108-2
108-3
ATGAGCTCCCATCCTGCAAACCTGACCTTTGTTC
109-1
TTAATTTACCATACTGGCAAATTTCATTTGTCTTT
G
109-2
previously designed
109-3
ATGAGCTCCATACAGTCAAACTCTTCTG
TCATTTCTGTTTTGAATATCTCCTTGTACATTTCA
TCTG
ATGAGCTTCATACAGTCAAACTCTTCTGCAAACG
109-4
TTAAACCTGTATTTTTTGTTTAGAGTTTCTACTGT
A
ATGCAGTCAAACTCTTCTGCAAACACGACCTTTG
109-5
TTAATTTCCCCTTTCACATTTCATTTTTCTTTCTA
T
ATGAGCTCCATACAGACAAATCCTTCAGCAAATC
109-6
TCAAATTCTTTTTATAGCTGTGTTAATTTTTCTTC
T
109-7
previously designed
109-8
"OR109-11"
109-9
previously designed
109-10
ATGGATTCCAACTCTTCTGCAAATGTGG
TCAGCATTTTGTTTTACTTACTCTAATTGTGTTCA
TTCTAC
ATGAACTCCATACAGTCAAACTCTTCTGCAAATG
109-11
TCATTTTCTTCCATGGCATTTCCTATTCCGTTCCA
T
109-12
"OR109-13"
109-13
ACCTCTGCAAGTGTGACCTATTTTCGTCCTGCAA
-42-
TTATTTTCTCTGTTTCACATTTTGTTCCATAATAG
C
ATGAATCAAGATTTTGTTGGAAATGGGAATGTTT
110-1
TTATTTCCAGGACGGGAATATGTTTCTTCTCTTAA
C
ATGAATGATTTCGCCGAAAACAGGAATATTTCTA
110-2
TTATTTTAGATATGGGAATATGATTTTCCGTTTCA
T
111-1
previously designed
111-2
previously designed
111-3
previously designed
ATGAATTCTGTAAATGCAAGTTTTTACCAGAATA
TCATTTGGAAATATTCCCACCAACCGGTGTCAAT
T
C
111-4
111-5
previously designed
111-6
previously designed
111-7
previously designed
111-8
previously designed
111-9
previously designed
111-10
previously designed
111-11
previously designed
ATGGATAATCTGACAATCACAAACTATACTCTCC
115-1
CTATTTTCTGCACAAATATTTTACAAACTTCTGTC
T
115-2
TCACTTTGCATTTACTTGATTTCTAAATAGTTTAA
GAATCTTTTG
ATGGACAACCAGACATTCCAGTACAGC
ATGGACAACCTGACATTCACAAATGACTTTCTCC
115-5
TCACAATTTGTCAACTGCATTTTTCCACCAGCGTT
T
ATGGATAACTTGACAATCACAAACAGAATTCTCC
115-6
TTAATTTGACATTAACCTTTTTGTGCTACGGCAAA
T
ATGGACAATCTGACATTCACAAACAGCATTCTCC
115-7
CTATGTTATCATTGACTTCTTTCTGCACCAGAGTT
T
ATGGACAACCTGACATTGACAAACAACGTTGTCC
115-8
TTACTTTACATTAACCTTGTTTCTAGAGCAAAGTT
T
ATGGACAACCTGACATTCAGACACAGCGTTCTAC
TTACATTAAAGAAGTACTTGTTTTTCTGCGGCAG
T
A
115-9
ATGGATAACCAGACATTCAGATCCAGCACACTAT
115-10
TCACATGAAGTTCACTTTACTTTTGGAAATCAGTT
T
ATGGACAACCTTACCCTCAGATACAGTGTACTAT
115-11
TTATTTGCAAAACTTGAAAAGCTTTTGTCTTATTT
T
115-12
ATGGATAACCGGACGTTCAGATACAGCACACTTC
-43-
TCATGAAGGATTAACCTTTTTTACACAAAGCTTT
T
A
ATGGACAACCAGACATTCCAATACAGCAAACTAT
115-13
TCACTTTGCATTTAAGTCATTTCTAAATAGTTTAA
T
ATGGACAACCAGACATTCCAGTACAGCAAACTAT
115-14
TCACTTTGCATTTATTTGATTTCTAAATAGTTTAA
T
ATGGAGAATTACACATTCAACAGCATCATTTTGC
115-15
TCAAACATCTTTCACAGCTCTACGCTTTTTAAAGC
A
ATGGAAAATTTATCCATCATAGTAAGTTTTGAGC
116-1
TTACACTGAAGTTTTTCTGTGAAATGTTTTCAGGA
T
ATGGAAAATTTATCCATCATAGTTAGTTTTGAGC
116-2
TTACATATGAGCTATTTTCCTGTGTATGACTTTAA
T
117-1
previously designed
118-1
ATGTATCCAAATGAATCTGTCTTCTCACTGGTGTT
118-2
ATGTATCCAAATGGATCTGTTTTTCCTTTAGTGTT
TCAGATACTGTTTATCTTGCTTTTAAAACTGTTAA
TCAGAGGCTGGTCATCTTCCTCTTGAAACAGGTC
A
118-3
ATGTATCCTAATGAATCTGTCCTTTCAGTGGTTTT
119-1
ATGTCTTCGGCAGTCGACGTCTACAATG
TCAATGCACTCTGATAATCTTTCTCTTATAAAAGT
TCATGACACAAAAACTTTTCTGTGGAAAAATTTG
ATCC
119-2
previously designed
120-1
ATGAGTCTTTCTAGCCTGAACATTACTCTGTTTTT
TTATTTTGAAGTAATAAACAGTGCTTCATTACAC
C
ATGGAAAACGGTGCAAATTTTACATTCATCAGAT
121-1
TTATGCAATACCTATTTTTGATAAAACAAAGTTTT
T
ATGGATAATTCAACATATTTCACAACGGTTATTT
122-1
CTACATGCAAATCATTTTTTTAAGTGCCTTTTTTA
T
ATGGATAATTCAACATATTTCACAACGGTTATTT
122-2
CTACACGCCAATACATTTTTTGAGTGCCTTTTTTA
T
TTAATCAATATGTTTTGGTCTAAAGCTTTGGAAT
123-1
ATGGACAACAATTCCTCTTTCTCCATGTTCTCTCT
A
124-1
previously designed
124-2
ATGGAAAACATCTCCTCTTCCCATATTCTCATTGT
124-3
previously designed
TTACAAGTTATTAATCCTCAATTTTCTGAAAATAT
ATGGAAAATATCTCCACTTCCCACATTCTCACTG
CTACAAAGTACTAATACTTAAATGATGGAAAATA
T
T
ATGGATAACATGTCTTATCCTGTGATACTGACAC
TTAATGCATAATAAATTTGTGGACTTTTTCCAAA
T
A
124-4
125-1
-44-
TTATCTTCCTGCATTACATGAAGTAAAAGCTAAT
125-2
ATGGATAACATGTCTTATCCTGTGATATTAACTCT
T
125-3
ATGGGTAATATTACCTATTTTGATTCTTACACCCT
TCATGATTTTTTCAAAATATTTGTACATAATTTCA
ATGGATAATCAGACTGTTTTTGCAAGCTACACCC
125-4
TTATTTTTTTATTTGAACAAAAGATTTAAAGATTT
T
ATGGATAATATGACACATTTTGAAACCTACACTC
125-5
TCATTGTTTTGTAACTTTCATAAATTTTTTAAATA
T
125-6
previously designed
125-7
previously designed
125-8
previously designed
ATGCTGCCACTACTAAAGAATGAGACTATCGTAG
126-1
TTATTTTTTTAAAAAGCACCTCATGACTTCCCTCC
T
ATGCAGCCAGCACTGAAGAATGAGTCCAGCGTCT
126-2
TCACATTTGTCTCTTGGAAAACAGTCTCATAACTT
T
ATGCAGTCACCATTGAAGAATGAATCAAATGTAT
TCACTTAGATATCTCCAGTTGTTTTCTGGAAAAC
T
A
126-3
ATGCAGTCACTGTGGAAGAATGAGTCCAGCGTCT
126-4
TTAGATATTCTCTGTTGTTTTCCTGAAAAACATGT
C
126-5
previously designed
ATGCCCGTGGAAAACATGACGCAGCTATCGCTGG
126-7
TTATATTCCTACTTTATTTTTAGAAAAGAGTTTAA
A
TTATTCAATAAAATGGCCAATTTTTGACCTTCGA
127-1
ATGGAAAATGGGACCATGTCTTCTTCTTTTTATTT
A
128-1
previously designed
ATGGAAAATAATACCAGTTTTAACTTCATGTTGT
128-2
CTATCTCAATGGTTTTATAAGGCTGACCATTTTTT
T
128-3
ATGGAAAATTATACCAGTTTTAACTTCATGTTGTT
TGAAAATC
128-4
previously designed
CTATGGTTTTACAAGGCTGATCATTTTTTTGCG
ATGGAAAACAATACCAATTTTAACTTCATGTGGT
128-5
TCAAAATTTCACTGGTTTTATAAGGCTGATCATTT
T
128-6
previously designed
128-7
ATGGATAATGGAACATACTTTTACTTCATGTTGTT
TGAAAATC
128-8
ATGGATAATGGAACATACTTTTACTTCATGTTGTT
CTACCTGCATACATTTCTGAGGCAAATATTTTTC
CTACACCTTGAGTAATCTACATGGATACCTTGCT
G
128-9
ATGGATAATGGAACATACTTTTACTTCATGCTGT
-45-
CTACCTGCATCCATTTCTGAGGCAAATATTTTTCT
T
ATGGAAAATGGAACAACTTTTTACTTGATGTTGT
128-10
TCATTTACATGTTTTTACAATGCACATAATTTTTT
T
128-11
"OR128-5"
128-12
previously designed
128-13
pseudogene
ATGCAGAACCTGACCGAACTCCCGGCCAATGCG
TCACTTAGTTTCTAGTTTATGTGGGTCAACACGA
AC
G
129-1
ATGTCCAGTTATAACAGCAGTGGCGATGAGCAG
130-1
TTATTCATGTAATTGAGAGATTGTGTTGTTTTTGC
AT
ATGAACTCCACATCGAACAGCAGTCTGAGCAAC
131-1
TTAACATCTTTTCCTTCGGGAGATTTTAATATCTC
AC
131-2
previously designed
132-1
previously designed
ATGGACTCCAATGGCACAAGTGGTGATGTGTCTT
TTAATGGACATTAACAGATGGTTTTATGCTGCCT
T
G
132-2
TTAATGCACATTAACAAAAGGCTTTACTTTGCCT
132-3
ATGGACTCCAATGGCACAAGTGGTGATG
G
ATGGACTCCAATGGCACAAGTGGTGATGCGTCCT
TTAATGCACATTAACAGAGGGCTTTACTTTGCCT
T
G
ATGGCAGGATCCAATGGCACAGCAGAGGACTCA
TTAATGCACATTAACAGAGGGCTTTACTTTGCCT
TC
G
132-4
132-5
133-1
previously designed
133-2
pseudogene
ATGTCTCATTTGAATGAATCTACATCTAAATTAA
133-3
CTAATTTTCTGTGGTAGCTGGTTTAACTGTACCAC
C
ATGTCTACTTTGAATGGATCTACATCTAACAACA
CTAGGCATGTTGCTTTTTGATAACTGGATTAACT
C
G
133-4
TTAAATGATTGCTACTAAGCATTGCTCTATGATA
133-5
ATGTCTTCTTTGAATGGATCTTCATCTAACAACAC
A
133-6
ATGTCTAATTTGAATGAATCTACATCTAACAACA
CTCAAAG
CTATGCATGTTGCTCTTTAATAACTGGATTAACTG
133-7
ATGTCTAATTTAAATGCATCTGCATCTAACCTTAC
TTAAACATGTAACTCTATGGTAACTGGTTTGATTT
133-8
ATGTCTAATTTTAATGAATCTGCATCTAACCTTAC
TTAAACGTGTAGCTCTATTATAACTGGTTTGACTT
ATGAAAATGTCTAATTTTAATGAATCTGCATCTA
ACCTCAC
TTACACATGTAGCTCTATTAAAACTGGTTTGACTT
133-9
-46-
TAC
133-10
ATCTCTCGCTATATTCTGTTTGGTCAGATGCTTTG
CTATTTTTCAATTTTTGCGACTAAGCATTGCTCTA
ATGAATTCAACAGCAGGCCAGCAGCTCCTCCTGA
134-1
TTAATCTCCATCTTTACACTCAACTCTTGTTTCCA
G
ATGAATAGTTCAAACAATAAGCAAGATTTTTTGG
CTATTTTTCAGGAGACACAAAAGTCTTAGTGGAA
G
C
135-1
135-2
pseudogene
136-1
ATGTGCAGTTGTCTGTTTTCTTCAACAGAAATG
137-1
previously designed
TTATGACGGCACAATCTTTAGAAATATAACTTTA
CAAGTAAAG
ATGACCGCAACGAACTCTACAAGGTTTCTATATA
TCATCGTTTGACTGATCCAACCTTTACAGCGTGC
G
A
ATGAATTCTACAATGTTTACGTACACTAATGTAG
TCATGATTTGGCTGGTTGAACTTTTACATGAAAT
A
A
137-2
137-3
ATGAACTCCACGATGCTTCAGTATAATGCACAGG
137-4
TTATCCTTTAGTTGATTCAACCTTTACAATAACTA
A
137-5
ATGAACTCCACTATGCTTCAGGTTAATGC
137-6
pseudogene
137-7
pseudogene
137-8
pseudogene
TTATTGTTTGGTTGATTCAACCTTTACAATAACTA
ATTTACATGC
ATGAACTCCACAGTGCTTCAGGTTAATGCACAAG
137-9
TTATTGTTTGGTTGATTCAACCTTTACAATAACTA
A
-47-
第4章
PGF2α により活性化される神経回路
匂いの情報は脳で処理され、適切な行動が出力される。その神経回路メカニズ
ムを解明するため、本章では PGF2α 刺激により活性化される脳の領域を調べた。
その結果、嗅球では vmG の 2 つの糸球体が活性化され、さらに高次嗅覚中枢で
は終脳や視床下部に神経活動が見られた。嗅上皮を除去したゼブラフィッシュ
では活性が見られなかったことから、フェロモンとしての PGF2α がこれらの領
域を活性化していることが明らかとなった。
4.1
緒言
嗅上皮で認識された匂いの情報は、まず嗅細胞軸索を通じて 1 次嗅覚中枢で
ある嗅球へと伝わる。ゼブラフィッシュの嗅球では匂いの化学構造に基づいて
応答する糸球体群が決まっており、匂いの情報が匂い地図として表現されてい
る(第 1 章)。その情報はさらに高次の中枢へと伝達され、入力された匂いに対し
適切な応答が出力される。匂いの情報がどのように処理され行動として出力さ
れるのか、その神経回路メカニズムを解明するためには、脳のどの領域に情報
が伝わっているのかを把握することが重要である。
嗅球から高次嗅覚中枢への情報伝達は、二次嗅覚ニューロンである僧帽細胞
や房飾細胞が担っている。二次嗅覚ニューロンの樹状突起は糸球体で嗅細胞の
軸索末端とシナプスを形成して匂いの情報を受け取り、軸索は高次嗅覚中枢へ
と投射している。近年、シナプス分子機構研究チームの宮坂博士らは、ゼブラ
フィッシュ稚魚の単一の僧帽細胞に蛍光タンパク質を発現させてその軸索をト
レースし、糸球体群と高次嗅覚中枢をつなぐ僧帽細胞の軸索投射パターンを解
明した(Miyasaka et al., 2014)。嗅球からの情報は主に 4 つの領域:posterior zone of
-48-
dorsal telencephalon (Dp)、posterior tuberculum (PT)、ventral nucleus of ventral
telencephalon (Vv)、right habenula (rHb)に伝わる。
終脳の神経核である Dp は全ての糸球体群からの投射が混在しており、匂いの
情報は匂い地図のような決まった活性パターンではなく、Dp 内の様々なニュー
ロンの組み合わせによって表現されている(Yaksi et al., 2009)。これらの解剖学的、
機能的な知見から、Dp はマウスにおいて匂いの識別や記憶を司る piriform cortex
に相当すると考えられている(Uchida et al., 2014)。
また間脳の神経核である PT も全ての糸球体群からの軸索投射が見られ、PT
内ではドーパミン作動性ニューロンとコンタクトしている。匂いの情報が視床
下部へと伝達され、情動や内分泌変化に関与していると考えられる。
Vv は遺伝子の発現様相から線条体や中隔核ではないかと推測されている
(Ganz et al., 2012)。嗅球の maG、vaG、vmG、dG からの情報入力を受けるが、こ
れらは全て OR や TAAR が発現する繊毛嗅細胞が投射する糸球体群である。ま
た Vv は視床下部との情報伝達経路が報告されており(Rink and Wullimann, 2004)、
社会性行動に関連のある匂い情報が伝達される可能性が考えられている
(Yoshihara, 2014)。
手綱核(Habenulae, Hb)は危険予測や恐怖反応を司る神経核であり、嗅球の mdG、
vmG から右側手綱核(rHb)だけに投射が見られる(Miyasaka et al., 2009; Amo et al.,
2014)。どのような匂いに対して rHb が応答するかはまだわかっていないが、恐
怖反応を生得的に起こすような匂いの情報が伝達されているのかもしれない。
本章では PGF2α 刺激により活性化される嗅球糸球体群、高次嗅覚中枢を調べ
るため、PGF2α 刺激をしたゼブラフィッシュのホールマウント嗅球、および脳切
片に対し抗リン酸化 ERK 抗体を用いた免疫染色を行った。さらに嗅球において
は蛍光カルシウムセンサーG-CaMP を用いて糸球体の応答をリアルタイムで観
-49-
察し、嗅覚応答が見られる PGF2α の限界濃度を調べた。また実際の産卵時に水
槽中にどのくらいの PGF2α が存在するのかを検討し、嗅覚応答が見られる限界
の濃度との比較を行った。
4.2
材料と方法
4.2.1 ゼブラフィッシュ系統
第 4 章では以下のゼブラフィッシュ系統を使用した。
OMP:GFP:Tg(OMP6k:GFP)rw033 系統は、シナプス分子機構研究チームにおけ
る先行研究(Miyasaka et al., 2005)で確立された。
OMP:Gal4FF;UAS:GFP:OMP:Gal4FF 系統は、シナプス分子機構研究チームに
おける先行研究(Koide et al., 2009)で確立された。UAS:GFP 系統(Asakawa et al.,
2008)は、遺伝学研究所・川上浩一教授より分与していただいた。これら 2 系統
の掛け合わせで得られた個体のうち蛍光顕微鏡下で OMP 発現部位(嗅上皮、嗅
球)に GFP の発現が観察されたものを OMP:Gal4FF;UAS:GFP 系統として育成・
継代し確立された。
OMP:Gal4FF;UAS:G-CaMP7、OMP:Gal4FF;UAS:G-CaMP-HS:蛍光カルシウム
センサーG-CaMP7 または G-CaMP-HS をエンコードした cDNA は、埼玉大学・
脳科学融合研究センター・中井淳一教授より分与していただいた(Ohkura et al.,
2012)。G-CaMP7 または G-CaMP-HS cDNA を導入した Tol2 トランスポゾンベク
ターpT2MUASMCS (Asakawa et al., 2008)を OMP:Gal4FF 系統の 1 細胞期胚に注入
し 、 G-CaMP の 発 現 が 蛍 光 顕 微 鏡 下 で 確 認 さ れ た 個 体 を そ れ ぞ れ
OMP:Gal4FF;UAS:G-CaMP7 系統、OMP:Gal4FF;UAS:G-CaMP-HS 系統として育
成・継代し確立された。
-50-
4.2.2 ホールマウント嗅球の免疫染色
第 3 章 3.2.1 と同様の手順で 10-4M PGF2α を水槽に投与し 10 分間曝露したゼブ
ラフィッシュから脳を摘出し、4°C にて 4% PFA/15% 飽和ピクリン酸/0.1M PB
中で 3 時間固定した後、PhosSTOP (Roche)処理を一晩施した。次に HistoVT One
処理、4°C メタノールシリーズによる脱水処理をし、Avidin/Biotin Blocking kit
(Vector)と NGS/0.1% Triton X-100/PBS でブロッキングを行った。一次抗体として
ウサギ由来 anti-pERK1/2 抗体(1:500)、ラット由来 anti-GFP 抗体(1:1000)、ネズミ
由来 anti-SV2 抗体(1:3000, deposited to the Developmental Studies Hybridoma Bank
by Buckley, K.M.)を 4°C にて 4 日間反応させた。続いて二次抗体としてヤギ由来
biotin-SP-conjugated anti-rabbit IgG 抗 体 (1:500, Jackson ImmunoResearch,
111-065-144)、ロバ由来 Alexa488-conjugated anti-rat IgG 抗体(1:300)、ロバ由来
CF633 anti-mouse IgG 抗 体 (1:300, Biotium, 20124) 、 さ ら に Cy3-conjugated
streptavidin (1:300, Jackson ImmunoResearch, 016-160-084)に反応させた。
4.2.3 嗅球エクスプラントのカルシウムイメージング
嗅球エクスプラントのカルシウムイメージングは Friedrich and Korsching
(1997)の手法を参照し、以下の手順で実施した。
OMP:Gal4FF;UAS:G-CaMP7 または OMP:Gal4FF;UAS:G-CaMP-HS 系統の成魚
を氷水で麻酔した後断頭し、嗅球の腹側が観察できるように頭蓋を取り除いて
灌流チャンバーにセットした。イメージングはチャンバー内に人工脳脊髄液
(Artificial cerebrospinal fluid: ACSF)を流速~3 ml/min で流し続けた状態で行った。
匂い刺激は直接鼻腔に当たるよう、HPLC injection valve (V-451 injection valve,
Chrom Tech Inc.)を用いてチャンバー内を流れる ACSF 中に投与した。
-51-
G-CaMP の蛍光画像は Metafluor software (Molecular Devices)による操作の元、
10x 水浸レンズ(NA 0.30, Olympus)、EM-CCD カメラ(iXon+, Andor Technology)を
用いて 2-3 Hz の速度で取りこんだ。Metamorph software (Molecular Devices)を用
いて G-CaMP 蛍光強度のベースライン(F)は匂い刺激投与前 20 フレームの平均値
から算出し、F に対する蛍光強度の変化率(ΔF/F)を解析した。
4.2.4 脳切片作製・免疫染色
匂い刺激に非依存的な神経細胞の活動を減らすため、ゼブラフィッシュ成魚
(5-9 ヶ月齢)1 匹を、0.03%人工海水を含んだ逆浸透水 600 ml が入ったすりガラス
様壁面の水槽(25 × 6 × 16.5 cm)に少なくとも 1 時間順化した。順化したゼブラフ
ィッシュに 60 µl の匂い分子(10-4M PGF2α、10-2M アラニン、DMSO)を投与し 10
分間曝露後、氷水で速やかに屠殺し脳を摘出した。
摘出した脳は嗅上皮切片作製(免疫組織用)と同様の手順(第 3 章、3.2.1)で固定、
包埋し、厚さ 20 µm の凍結切片を作製した。
免疫染色は嗅上皮切片の免疫染色と同様の手順(第 3 章、3.2.2)で行った。
4.2.5 嗅上皮除去手術
嗅上皮の除去は Koide ら(2009)の手法に倣い実施した。実験には施術後 7 日以
降のゼブラフィッシュを用いた。
4.2.6 飼育水中の PGF2α 濃度測定
PGF2α の濃度測定は Powell (1999)の手法を参照し、以下の手順で実施した。
オス 1 匹、メス 1 匹のゼブラフィッシュ成魚を飼育水 1 リットル中で一晩(21:00
- 10:00)飼育した。飼っていた飼育水から 50 ml を 10:00 に採水し、0.45 µm フィ
-52-
ルター(ナカライテスク)に通した。終濃度 15%となるようメタノール(ナカライ
テスク)を加えて Sep-Pac C18 カートリッジ(Waters)に通した後、15%メタノール、
Milli-Q 水、ヘキサン(ナカライテスク)で洗浄し、5 ml 酢酸エチル(ナカライテス
ク)に溶出した。続いて窒素ガスで溶媒を蒸発させた後、500 µl ELISA バッファ
ー (Cayman Chemical) に 再 び 溶 か し 、 Prostaglandin F2α ELISA Kit (Cayman
Chemical)のプロトコルに従い PGF2α 量を測定した。
4.3
結果
4.3.1 PGF2α 刺激により活性化される嗅球糸球体
本研究では PGF2α により活性化される糸球体を、ホールマウント嗅球の免疫
染色、嗅球エクスプラントのカルシウムイメージングの 2 種類の方法で解析し
た。前者は嗅球全体を観察でき、活性化される糸球体の詳細な位置を知ること
ができる。また後者は同一個体において異なる種類や濃度の匂いに対する応答
をリアルタイムで観察し比較することができる。
PGF2α 刺激をした OMP:GFP トランスジェニックゼブラフィッシュのホールマ
ウント嗅球に対し抗 pERK 抗体を用いて免疫染色を行った結果、vmG に属する
2 つの糸球体にのみ pERK シグナルが観察された(図 4-2a)。この結果は、
voltage-sensitive dye を用いて PGF2α 刺激に応答する糸球体群を観察した先行研究
の結果に一致する(Friedrich & Korsching, 1998)。またこの糸球体は GFP シグナル
陽性であることから、繊毛嗅細胞からの軸索投射がある(図 4-2b)。
同じトランスジェニックゼブラフィッシュの嗅球切片の免疫染色で糸球体内
での様子を観察すると、GFP と pERK のシグナルは相補的になっている(図 4-3)。
このトランスジェニック系統では GFP は繊毛嗅細胞に発現しており、嗅球で見
-53-
られる GFP シグナルは嗅細胞の軸索末端である。したがって pERK は活性化し
た二次嗅覚神経の樹状突起に見られることがわかる。
応答が見られた 2 つの糸球体の PGF2α 濃度感受性を調べるため、繊毛嗅細胞
に蛍光カルシウムセンサーG-CaMP を発現する OMP:Gal4FF;UAS:G-CaMP7 また
は OMP:Gal4FF;UAS:G-CaMP-HS トランスジェニックゼブラフィッシュを用い
たカルシウムイメージングを行った。低濃度(10-9M)の PGF2α 刺激では 2 つの糸
球体のうち片方だけに応答が観察されたが、濃度を上げると(10-8M、10-7M)両方
の糸球体に活性が見られた(図 4-4)。
4.3.2 PGF2α 嗅覚刺激により活性化される神経回路
PGF2α 嗅覚刺激により活性化される高次嗅覚中枢を調べるため、匂い刺激をし
たゼブラフィッシュ成魚の全脳切片に対し抗 pERK 抗体を用いた免疫染色を行
った。
PGF2α 刺激により、Vv、parvocellular preoptic nucleus, anterior part (PPa)、lateral
hypothalamic nucleus (LH)、caudal zone of periventricular hypothalamus (Hc)の 4 つの
領域で溶媒刺激よりも有意に多い pERK 陽性細胞数が見られた(図 4-5)。これら
の活性領域は、PGF2α と同じく誘引応答を示すエサの匂いであるアラニンで刺激
をした際に活性化する領域とは異なっている(図 4-6)。さらに嗅上皮を外科的に
除去したゼブラフィッシュでは、PGF2α 刺激に対する Vv、PPa、LH、Hc での pERK
陽性細胞数の上昇は見られなかった(図 4-7)。これらの結果から、PGF2α 刺激は嗅
覚を通じて Vv、PPa、LH、Hc の細胞を活性化することが明らかとなった。
4.4
考察
-54-
ホールマウント嗅球の免疫染色により、嗅球では PGF2α 刺激により vmG に属
する 2 つの糸球体のみが活性化されることがわかった。さらに、
OMP:Gal4FF;UAS:G-CaMP7/HS トランスジェニックゼブラフィッシュを用いた
カルシウムイメージングにより、2 つの糸球体は応答する濃度に違いがあること
が示された。PGF2α の嗅覚受容体 OR114-1 と OR114-2 はそれぞれ異なる繊毛嗅
細胞に発現しており、さらに OR114-1 は OR114-2 よりも高い親和性をもってい
る(第 3 章)。このことから、低濃度(10-9M)の PGF2α 刺激で活性が見られた糸球体
は OR114-1 を発現する繊毛嗅細胞から、高濃度(10-8M, 10-7M)で活性が見られた
糸球体は OR114-2 を発現する繊毛嗅細胞からの軸索投射をそれぞれ受けている
ことが示唆される。
カルシウムイメージングにより、感受性の高い方の糸球体は 10-9M PGF2α に対
し応答が見られることが明らかとなった。この PGF2α 濃度は実際に自然環境下
で存在し得るのだろうか。著者がオス 1 匹、メス 1 匹のゼブラフィッシュペア
を一晩(13 時間)飼育していた水中の PGF2α 量を測定した結果、1.0 ± 0.4 pmol の
PGF2α が水中に放出されていることがわかった(n = 4)。PGF2α は尿中に混ざって
排出すると考えられいる(Appelt and Sorensen, 1999; Stacey and Sorensen, 2009)。淡
水魚では 2-6 ml/kg/hr の尿が排出されると報告されており(Greenwell et al., 2003)、
メスのゼブラフィッシュ(およそ 200 mg)が 13 時間で排出する尿は 5-15 µl である
と考えられる。この中に 1 pmol の PGF2α が含まれているとすると、その濃度は
67-200 nM (67-200 × 10-9M)となる。また、メスから排出された PGF2α を含む尿は
プルーム状になり、すぐには拡散しないと考えられている(Appelt & Sorensen,
1999, 2007)。したがって、本実験の結果で得られた PGF2α の検出限界濃度は自然
環境下においてメスから排出されるフェロモン PGF2α の濃度よりも低く、ゼブ
ラフィッシュはその匂いを認識できると考えられる。実際の産卵時には、オス
-55-
は泳いでいるメスに対し追尾、回り込み、タッチの行動をとる(第 5 章)。メスが
泳ぎながら PGF2α を放出しているとすると、プルーム状になるとはいえ少しは
拡散し、濃度が薄まる。嗅球の応答を見ると OR114-1 は放出される PGF2α の濃
度の 100 分の 1 ほどでも認識できることから、追尾中などメスが比較的近い位
置にいれば活性化されると考えられる。一方で OR114-2 は 10 分の 1 程度の濃度
までしか認識することができないと考えられ、タッチのようにメスに限りなく
近い状況でないと活性化されない可能性がある。したがって、 OR114-1 と
OR114-2 は同じ匂い分子を認識するが、OR114-1 はメスへのアプローチに、
OR114-2 は放精やタッチなどにそれぞれ関わっているのかもしれない。
高次嗅覚中枢では PGF2α 刺激により Vv、PPa、LH、Hc の 4 つの領域が活性化
された。これらの領域は稚魚において vmG からの軸索投射が見られた領域と一
致している(Miyasaka et al., 2014)。Vv はマウスの線条体や中隔核に相当すると考
えられており、特に中隔核は快感や報酬に由来するモチベーションに関与して
いる(Olds and Milner, 1954; Nishijo et al., 1997; Liu et al., 2001)。また PPa (preoptic
area: 視 索 前 野 ) は マ ウ ス や ラ ッ ト に お い て 交 尾 行 動 を 司 る 神 経 核 で あ る
(Malsbury 1971; Paredes, 2003; Sakuma, 2008)。キンギョでは Vv、PPa を損傷する
と産卵行動が著しく阻害され(Kyle and Peter, 1982; Koyama et al., 1984)、一方でブ
ルーギルやグリーン・サンフィッシュでは PPa に電気刺激することでオスの求
愛行動や放精が起こる(Demski and Knigge, 1971; Demski et al., 1975)。LH、Hc が
哺乳類の脳のどの領域に相当するかはまだわかっていないが、視床下部も生殖
行動や内分泌系に関連の深い領域である(Tirindelli et al., 2009)。これらのことか
ら、PGF2α 刺激により産卵行動に関わりの深い領域が活性化されていると考えら
れる(第 5 章)。
-56-
図 4-2. PGF2α は vmG の 2 つの糸球体を活性化する
PGF2α 匂い刺激をした OMP:GFP トランスジェニックゼブラフィッシュのホー
ルマウント嗅球の免疫染色。抗 SV2 抗体は糸球体可視化のために用いた。
(a) PGF2α は vmG の糸球体を特異的に活性化する。四角は図 b の範囲を表す。
スケールバー: 100 µm。
(b) vmG では GFP 陽性な 2 つの糸球体が PGF2α により活性化される。スケール
バー: 50 µm。
-57-
図 4-3. 嗅球では pERK シグナルは 2 次嗅覚神経細胞に見られる
PGF2α 匂い刺激をした OMP:GFP トランスジェニックゼブラフィッシュ嗅球切
片の免疫染色。
(a) GFP 陽性の vmG 糸球体の 1 つに pERK シグナルが見られる。四角は図 b に
示した拡大領域を表す。スケールバー: 100 µm。
(b) GFP、pERK 両陽性の糸球体では、それぞれのシグナルが入れ子状に見られ
る(右から 2 枚目)。また糸球体の周りのいくつかの細胞にも pERK シグナルが
確認できる(矢頭)。スケールバー: 20 µm。
-58-
図 4-4. PGF2α に応答する 2 つの糸球体は感受性が異なる
OMP:Gal4FF;UAS:G-CaMP7 トランスジェニックゼブラフィッシュ嗅球のカル
シウムイメージング。
(a) 嗅球を腹側から観察し、赤、緑で示す糸球体でのカルシウム応答を観察し
た。四角は下、および図 b に示した拡大領域を表す。
(b) 濃度の異なる PGF2α 匂い刺激に対する vmG の 2 つの糸球体のカルシウム応
答。下段は縦軸に蛍光変化率、横軸に時間をとり、匂い刺激のタイミングを黒
のバーで示す。
-59-
図 4-5. PGF2α 匂い刺激は Vv、PPa、LH、Hc を活性化する
PGF2α 匂い刺激をしたオスの野生型ゼブラフィッシュ脳切片の免疫染色。
(a) ゼブラフィッシュ脳の模式図。OB: 嗅球、Tel: 終脳、TeO: 視蓋、Hy: 視床
下部、CCe: 小脳。
(b) 溶媒刺激(DMSO)と比較し pERK 陽性細胞数が有意に多く見られた領域。
Vv: Ventral nucleus of ventral telencephalic area、PPa: Parvocellular preoptic nucleus,
anterior part、LH: Lateral hypothalamic nucleus、Hc: Caudal zone of periventricular
hypothalamus。スケールバー: 500 µm (上段)、50 µm (下段)。
(c) 各脳領域における溶媒刺激と PGF2α 刺激に対する単位面積当たりの pERK
-60-
陽 性 細 胞 数 の 比 較 。 Vd: Dorsal nucleus of ventral telencephalic area 、 Vs:
Supracommissural nucleus of ventral telencephalic area 、 Hv: Ventral zone of
periventricular hypothalamus、Hd: Dorsal zone of periventricular hypothalamus。*: p
< 0.05, **: p < 0.01 (unpaired t-test, n = 4 fish)
-61-
図 4-6. PGF2α で活性化する脳領域はアラニンで活性化する脳領域とは異なる
(a) ゼブラフィッシュ脳の模式図、および図 b-f に示す切片の位置。
(b-k) PGF2α あるいはアラニン刺激により pERK 陽性細胞のが見られた脳領域。
図 b-f 中の黄色の四角は、それぞれ図 g-k に示す拡大の範囲を表す。図 g-k 中の
黄色の囲いは DMSO と比較して pERK 陽性細胞数が多い神経核を表す。
スケールバー: 500 µm (f), 200µm (k”)。
-62-
図 4-7. 嗅上皮を除去した個体では PGF2α 刺激により活性化する細胞がほとんど
見られない
(a) PGF2α 刺激をした未施術個体(上)と嗅上皮除去個体(下)の脳切片の免疫染色。
スケールバー: 50µm
(b) 各脳領域における単位面積あたりの pERK 陽性細胞数の比較。*: p < 0.05
(unpaired t-test, n = 3)。
-63-
第5章
OR114-1 変異ゼブラフィッシュの表現型
近年の標的遺伝子改変技術の発展により、単一の OR 遺伝子を変異させたゼブ
ラフィッシュの作製ができるようになった。本章では本研究で同定した PGF2α
の 2 つの嗅覚受容体のうち親和性の高い OR114-1 をノックアウトしたゼブラフ
ィッシュ系統を作製し、その表現型を調べた。その結果、OR114-1 をノックア
ウトすると PGF2α への誘引応答がなくなり、嗅球では応答する糸球体が 1 つに、
さらに高次嗅覚中枢では Vv の活性が見られなくなった。さらに野生型に比べメ
スへの求愛行動の時間や回数が減少した。このことから PGF2α は OR114-1 に認
識されオスの求愛行動を促進すること、そして Vv が求愛行動の促進に深く関連
していることが明らかとなった。
5.1
緒言
本論文では第 4 章までに PGF2α の嗅覚受容体 OR114-1、OR114-2 を同定し、さ
らに PGF2α によって活性化される糸球体や脳領域、PGF2α への行動応答を明らか
にしてきた。しかしながら、これらの受容体や中枢が実際のゼブラフィッシュ
の産卵時においてどのような役割を担っているのかは確かめられていない。嗅
覚受容体を特異的に変異させ、その影響について解析を行うことで、PGF2α が実
際の生殖行動にどれほど重要であるかを考察することができる。
標的遺伝子の変異・改変技術はその遺伝子の生体内での機能を調べるための
強力な手段であり、生物学分野の研究に非常に重要である。近年、その技術は
目覚ましい進歩を遂げており、簡便で標的特異性に優れた技術が開発されてい
る。ゼブラフィッシュでは 2008 年に zinc-finger nucleases (ZFNs)による標的遺伝
子の改変が報告された(Doyon et al., 2008; Meng et al., 2008)。その後、より簡便で
-64-
低 コ ス トな手法として transcription activator-like effector nucleases (TALENs)
(Huang et al., 2011; Sander et al., 2011) 、 clustered regularly interspaced short
palindromic repeats / CRISPR associated proteins (CRISPR/Cas9) (Hwang et al., 2013)
が報告され、現在の主流となっている。
TALENs は 植 物 病 原 菌 Xanthomonas 属 に 由 来 す る DNA 結 合 ド メ イ ン
transcription activator-like effectors (TALEs)と、制限酵素 FokI 由来の DNA 切断ド
メインをもつ人工制限酵素である。TALEs は 18 塩基の標的配列を認識して結合
し、アミノ酸組成を変えることにより 1 塩基単位で認識配列を変えることがで
きる。センス鎖、アンチセンス鎖の適切な部位に TALENs を結合させて FokI 二
量体が形成されると、DNA の二本鎖切断が起こる(図 5-1a)。そのため、標的毎
に複雑なベクターを構築する必要はあるが、標的自由度・標的特異性ともに高
い遺伝子の改変が可能である。
CRISPR/Cas9 は化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)の適応免疫システムを
応用した手法である。この免疫システムは外来 DNA を認識して結合する
CRISPR RNA (crRNA)と、crRNA に相補的に結合する trans-activating crRNA
(tracrRNA)、そして tracrRNA にガイドされて複合体を形成し DNA を切断する
Cas9 酵素からなるが、CRISPR/Cas9 によるノックアウト法では crRNA と
tracrRNA を融合させた single guide RNA (sgRNA)を Cas9 とともに用いる(図 5-1b)。
gRNA は protospacer adjacent motif 配列(5’-NGG-3’)上流の 20 塩基を認識し結合す
るため、標的配列に対応する DNA オリゴマーを gRNA 転写ベクターに組み込む
ことで容易に標的を変更できる。そのため、TALENs よりも簡便で低コストでは
あるが、標的自由度や特異性は劣る。
切断された DNA は修復が起こるが、そのメカニズムには non-homologous end
joining (NHEJ)と homology-directed repair (HDR)の 2 通りがある(図 5-1c)。NHEJ
-65-
は修復される際にエラーや数塩基の欠損あるいは挿入が起こることがあり、こ
れにより標的遺伝子に変異が入る。また 2 ヶ所以上の DNA 切断が同時に起こる
ことで、修復の際にその間の DNA がそのまま欠損する場合もある。一方、HDR
は切断箇所に応じた homology arm をもったドナーDNA 断片が存在する場合に、
その断片が相同的組み換えにより欠損部位に挿入される。これにより標的遺伝
子のノックイン個体の作製が可能である。
本章では、同定した 2 つの PGF2α 嗅覚受容体のうち親和性の高い OR114-1 を
TALEN により特異的に変異させた OR114-1 ノックアウト(KO)ゼブラフィッシ
ュ系統の作製、および OR114-1 KO 個体の PGF2α への嗅覚応答について述べた。
さらに OR114-1 KO のオスを用いた行動実験の結果より、性フェロモンとしての
PGF2α がオスの性行動に及ぼす影響、および活性化される嗅覚神経回路との関連
について考察した。
5.2
材料と方法
5.2.1 TALEN による OR114-1 変異ゼブラフィッシュ系統作製
TALEN ターゲット配列設計のため野生型ゼブラフィッシュの OR114-1 開始コ
ドン前後 200 bp の DNA 配列を読み、これをクエリーとした TALEN Hit search
(Cellectis Inc.)プログラムにより OR114-1 の TALEN ターゲットを決定した。また
この配列をクエリーとして Zv9 で BALSTN 検索を行い、オフターゲット領域が
ゼブラフィッシュゲノム中にないことを確認した。
Cellectis Inc.から購入した OR114-1 TALEN プラスミド(pTAL.CMV-T7.016260,
pTAL.CMV-T7.016381)を制限酵素 XbaI (New England BioLabs)で処理して直鎖状
にし、
mMESSAGE mMACHINE T7 Ultra Kit (Ambion)を用いた in vitro transcription
により TALEN mRNA を合成した。
-66-
OR114-1 TALEN ターゲット中に一塩基多型が入っていないことを確認した野
生型ゼブラフィッシュ同士を掛け合わせ、得られた 1 細胞期胚に TALEN mRNA
(それぞれ 150 ng/µl)を注入した。mRNA を注入したゼブラフィッシュ(F0 世代)
を野生型ゼブラフィッシュと交配させ、得られた稚魚(F1 世代)の TALEN ターゲ
ット領域周辺の DNA 配列を読み、変異が入っているかどうかを確認した。変異
が確認できた個体のうち 1 塩基の欠損が見られた個体を選別し、OR114-1 変異
系統とした(図 5-2)。実験には F3 世代以降を使用した。
5.2.2 嗅上皮切片の ISH
OR114-1 変異系統を用いて、第 3 章と同条件の実験を行った。
5.2.3 ホールマウント嗅球、脳切片の免疫染色
OR114-1 変異系統を用いて、第 4 章と同条件の実験を行った。
5.2.4 PGF2α への嗜好度テスト
OR114-1 変異系統を用いて、第 2 章で行った集団での嗜好性テストを以下の
ように改変し実験を行った。
雌雄混合で飼育していた OR114-1 変異、あるいは野生型ゼブラフィッシュを、
実験実施 1 週間前にオス 4 匹/グループに分けた。嗜好性テストは、まず 8 リッ
トルの飼育水を入れた実験水槽(30×20×23 cm)にグループを移し、極端な偏りが
なく水槽内を泳ぐよう少なくとも 50 分の順化を行った。その後、水槽の片側か
ら 80 µl の 10-5M PGF2α を投与した。全ての個体の長軸方向の位置を 0.5 秒毎に
記録し、preference index [第 2 章 2.2.4、式(2)]による定量的な解析を行った。
-67-
5.2.5 産卵効率の解析
交配経験のない 5-7 ヶ月齢のオス(野生型、OR114-1 変異系統)と、産卵経験の
ある 5-8 ヶ月のメスの野生型ゼブラフィッシュを 1 リットルの飼育水を入れた採
卵用水槽(15×9×10 cm、底面が網状)に一晩飼育した。翌朝 9:00 に電気をつけ、
10:00 に産卵の有無を確認した。
5.2.6 求愛行動の解析
交配経験のない 5 ヶ月齢のオスのゼブラフィッシュ(野生型、OR114-1 変異系
統)と、産卵経験のある 5 ヶ月齢のメスの野生型ゼブラフィッシュを実験に用い
た。実験前日、飼育水 150 ml を入れた 300 ml ガラスビーカーにメスを移し、そ
のビーカーを、850 ml の飼育水とオスを入れた実験水槽(すりガラス様壁面、
25×10×16 cm)内に置いた。実験当日、ビーカー内のメスを実験水槽に水ごと移し
てから点灯し、1 時間の行動を水槽の上からビデオカメラ(50 frames/sec, GE-60,
Library)で録画した。
点灯してから 1 時間内におけるオスの求愛行動(chase, touch, encircle; Darrow &
Harris, 2004)を 1 秒毎に Microsoft Office Excel 2013 (Microsoft)に記録した。なお
求愛行動については以下の判断基準を設けた。
Chase:オスがメスの方に向かい 5 Hz を超えるストロークで泳ぐ。
Touch:オスが頭部でメスの腹部に触れる。
Encircle:オスがメスを後ろから 5 Hz を超えるストロークで泳いで追い越し、
そのままメスの周りを円を描くように泳ぐ。
これらの行動が途切れず続いた場合を求愛行動 1 回として数え、その回数と持
続時間を野生型と OR114-1 KO とで比較した。
-68-
5.3
結果
5.3.1 嗅上皮・嗅球での表現型
PGF2α 刺激をした OR114-1 KO ゼブラフィッシュのオスの嗅上皮切片に対し、
c-fos と OR114-1 プローブを用いて in situ hybridization を行った(図 5-3a)。その結
果、OR114-1 KO ゼブラフィッシュの嗅上皮では OR114-1 の発現はほとんど観察
されなかった。また c-fos 陽性細胞数も野生型に比べ非常に少なかった(野生型:
片側の嗅上皮あたり 859±78 個; OR114-1 KO: 同 53±23 個)。
続いて PGF2α 刺激をした OR114-1 KO ゼブラフィッシュのホールマウント嗅球
の免疫染色を行った。野生型では PGF2α 刺激により腹内側糸球体群の 2 つの糸
球体が活性化したが(図 5-3b, 左)、OR114-1 KO ゼブラフィッシュでは 1 つの糸
球体でしか応答が見られなかった(図 5-3b, 右)。
以上の結果より、作製した OR114-1 KO ゼブラフィッシュでは OR114-1 の機
能が失われていることが確認された。
5.3.2 高次嗅覚中枢での表現型
野生型ゼブラフィッシュでは、PGF2α 刺激により Vv、PPa、LH、Hc の 4 つの
領域で pERK 陽性細胞の上昇が見られた(第 4 章)。この 4 つの領域について、PGF2α
刺激をした OR114-1 KO ゼブラフィッシュでの pERK 陽性細胞数を数え、同条件
で刺激した野生型ゼブラフィッシュの pERK 陽性細胞数と比較した。
OR114-1 KO ゼブラフィッシュでは PPa、LH、Hc においては野生型と同程度
の pERK 陽性細胞が見られたが、Vv における pERK 陽性細胞数は野生型に比べ
有意に少なかった(図 5-4)。この結果から、OR114-1 が機能しなくなると PGF2α
による Vv の活性が落ちることが明らかとなった。
-69-
5.3.3 嗜好度の解析
野生型ゼブラフィッシュのオスは 8 匹の集団状況下で PGF2α に対し誘引応答
を示した(第 2 章)。この誘引応答は 4 匹の集団においても失われないことが確認
された(図 5-5, 左)。しかし OR114-1 KO 4 匹の集団では PGF2α への誘引応答は観
察されなかった(図 5-5, 右)。この結果から、野生型ゼブラフィッシュの PGF2α
への誘引応答は OR114-1 に大きく依存していることが示された。
5.3.4
産卵行動への影響
作製した OR114-1 KO 系統はホモ接合体でも産卵が可能であった。しかしなが
ら交配未経験のオスの OR114-1 KO 系統は、同条件の野生型ゼブラフィッシュに
くらべ産卵の成功率が低い傾向が見られた(野生型:59%、OR114-1 KO:38%、
それぞれ n = 32、p = 0.080、χ2 検定)。オスのゼブラフィッシュは産卵時にメスに
対して chase、touch、encircle (図 5-6a, b, c)をランダムに行うが、これらの求愛行
動が産卵の成功率に影響している可能性を考え、産卵行動開始から 1 時間の
OR114-1 KO ゼブラフィッシュのオスの求愛行動を観察し、野生型のものと比較
した(図 5-6d)。
その結果、野生型ゼブラフィッシュに比べ、OR114-1 KO ゼブラフィッシュの
オスはメスへの求愛行動時間や数が少ないことが観察された(図 5-7a, b, c)。定量
的な解析をした結果、電気をつけてから 1 時間内の chase の累積時間と touch の
回数が有意に少なく、encircle も少ない傾向(p = 0.055)が見られた(図 5-7d, e, f)。
さらに、1 時間内の求愛行動の回数には有意差は認められなかったものの(図
5-7g)、1 回あたりの求愛行動の持続時間は野生型に比べ OR114-1 KO の方が有意
に短かった(図 5-7h)。また、OR114-1 KO のオスに見られた求愛行動の異変は嗅
-70-
上皮を除去したオスでも観察された(図 5-8)。
以上のことから、フェロモン PGF2α 刺激がなくなるとオスの求愛行動の持続
時間が短くなることが明らかとなった。
5.4
考察
TALEN を用いて OR114-1 特異的な遺伝子変異ゼブラフィッシュ、OR114-1 KO
系統を作製することができた。この OR114-1 KO ホモ接合体は産卵可能ではあっ
たが、PGF2α に対する応答性が顕著に低下していることが確認され、集団状況下
でも PGF2α に対する誘引応答は見られなくなった。さらに産卵時にメスへの求
愛行動に異常が観察された。
蛍光二重 ISH の結果、PGF2α 刺激をした OR114-1 KO ゼブラフィッシュの嗅上
皮では野生型と比較し OR114-1 シグナルおよび c-fos シグナルの著しい減少が見
られた(図 5-3)。本実験に使用した OR114-1 プローブは OR114-1 コーディング領
域 945 base を開始コドンから終止コドンまで全て含めて設計されており、1 塩基
の欠損であればほとんど影響なくハイブリダイズすると考えられる。ところが
OR114-1 KO の嗅上皮ではプローブのハイブリダイズがほとんど起こらなかっ
たことから、OR114-1 の発現数そのものが大きく減少したことが示唆される。
嗅細胞は数ある嗅覚受容体レパートリーの中からまず遺伝子座調節領域が 1 つ
選ばれ、続いてその制御下にある嗅覚受容体が選ばれる。さらに選ばれた嗅覚
受容体は同一の遺伝子座調節領域制御下にある他の受容体遺伝子の発現を抑制
している(Serizawa et al., 2003; Sato et al., 2007)。この機構が OR114-1 KO に適用さ
れ、他の嗅覚受容体が OR114-1 に代わって発現したために OR114-1 の発現が抑
制されたものと考えられる。OR114-1 を含むグループ β の OR 遺伝子はクラスタ
-71-
ーを形成しており、共通の遺伝子座調節領域制御下にある可能性が高い。した
がって、もしかしたら OR114-1 KO ではグループ β の別の受容体の発現が増えて
いるかもしれない。
OR114-1 KO ゼブラフィッシュでは 1 回の求愛行動の持続時間が野生型に比べ
短いことが示されたが、求愛行動の回数については有意な減少は見られなかっ
た。さらに嗅上皮を除去したオスでも求愛行動の重篤な阻害が観察されたが、
求愛行動そのものが完全になくなることはなかった(図 5-7, 8)。したがって、
OR114-1 を介した PGF2α の匂い入力は求愛行動のトリガーとなるのではなく、求
愛行動のモチベーションを上げ行動を持続させるために重要であることが示唆
される。また、静止したメスに対しては野生型のオスのゼブラフィッシュでも
求愛行動を示さなかった。これについては 2 つの可能性が考えられる。一つ目
は求愛行動の発現に PGF2α 以外の感覚情報入力としてメスが泳いでいるという
視覚情報が必要であること、二つ目は静止しているメスが PGF2α を放出してい
ないことである。一つ目については麻酔等で動けなくしたメスを水槽に入れて
PGF2α を投与する(あるいはメスに塗布する)ことで、二つ目についてはメスの
静止時間とメスを入れていた水中の PGF2α 量の相関を調べることで、それぞれ
検証できるかもしれない。
高次中枢では PGF2α 刺激により活性が見られた Vv、PPa、LH、Hc の 4 つの領
域のうち、OR114-1 KO ゼブラフィッシュでは Vv の活性化が見られなくなった。
高次中枢の活性を見る実験は単独の状況で PGF2α 刺激を行っているが、第 2 章
の結果からは PGF2α 以外の情報入力が行動の発現に必要であることが示唆され
ており、実際に求愛行動が起こっている際はより多くの脳の領域が活性されて
いると考えられる。しかしながら OR114-1 による PGF2α の匂い情報入力をなく
しただけで Vv の活性が落ち、行動にも変化が見られたことから、PGF2α 刺激に
-72-
より活性化される Vv 領域は産卵行動のモチベーションに深く関与している可
能性が高いと考えられる。この仮説はキンギョにおいて Vv を含む領域を除去す
ると性行動が見られなくなることとも矛盾しない(Kyle and Peter, 1982; Koyama
et al., 1984)。
本研究により、PGF2α は性フェロモンとして特定の嗅覚受容体で検知され、特
異的な糸球体へと情報が伝達し、限られた脳領域が活性化して求愛行動に影響
を与えていることが明らかとなった。すなわちゼブラフィッシュにおける性フ
ェロモンの情報は、特定の神経回路(labeled-line):受容体(嗅細胞)-糸球体-神
経核を介して生得的な応答を引き起こしている。他の動物種の性フェロモンと
行動を繋ぐ神経回路、例えばマウスにおける ESP1 やショウジョウバエの cVA
も同様に labeled-line であることから、生物の生存に大きく関わるような本能的
な行動に関連する匂いの情報は、どの生物においても決められた神経回路を通
じて特定の行動を出力するようになっているのかもしれない。
-73-
図 5-1. TALEN、CRISPR/Cas9 による標的遺伝子変異・改変
(a) TALEN による標的遺伝子切断。センス鎖・アンチセンス鎖にそれぞれ
TALEN が結合することで FokI 二量体が形成され、切断が起こる。
(b) CRISPR/Cas9 による標的遺伝子切断。PAM 配列直前の 20 塩基を guideRNA
(gRNA)が認識して結合し、Cas9 による切断が起こる。
(c) 標的遺伝子の変異・改変メカニズム。TALEN や CRISPR/Cas9 によって切断
された DNA が non-homologous end joining (左)により修復される際、数塩基の
欠損(deletion)や挿入(insertion)が起こることがある。これにより遺伝子の変異が
生じる。また、標的配列近傍の homologous arm をもつ donor DNA があること
で、homology-directed repair (右)により遺伝子の改変が起こる。
-74-
図 5-2. TALEN による OR114-1 KO ゼブラフィッシュ作製
OR114-1 に対する TALEN 標的配列と、OR114-1 KO ゼブラフィッシュの
OR114-1 遺伝子配列。本研究で作製した OR114-1 KO ゼブラフィッシュでは
TALEN により 1 塩基の欠損が起こり、コドンにフレームシフトが生じて終止
コドン(赤字 TGA)が現れる。図中、大文字は OR114-1 コーディング配列もしく
はアミノ酸、小文字は 5’非翻訳領域、青文字下線は TALEN 認識配列、黄色は
OR114-1 開始コドン、赤文字はフレームシフトにより変更されたアミノ酸。
-75-
図 5-3. OR114-1 KO では OR114-1 の発現が見られず、機能が損なわれている
(a) PGF2α 刺激をした野生型(左)と OR114-1 KO (右)の嗅上皮切片に対し、
OR114-1 と c-fos プローブを用いて in situ hybridization を行った。スケールバー:
50 µm。
(b) PGF2α 刺激をした野生型(左)と OR114-1 KO (右)のホールマウント嗅球の免
疫染色。最上段図中の四角は、2 段目以下に示した拡大領域を表す。また点線
は活性化された糸球体を示す。スケールバー: 100 µm (上段)、20 µm (下段)。
-76-
図 5-4. OR114-1 KO は PGF2α 刺激による Vv の活性が落ちる
PGF2α 刺激をした野生型(WT)、OR114-1 KO ゼブラフィッシュ脳切片を pERK
抗体を用いて免疫染色し、PGF2α により活性が見られる領域での pERK 陽性細
胞数を比較した。*: p < 0.05, unpaired t-test, n = 5。
-77-
図 5-5. OR114-1 KO は PGF2α に対する誘引応答を示さない
4 匹/グループの野生型(左)または OR114-1 KO (右)ゼブラフィッシュを入れた
水槽に PGF2α を投与し、嗜好性を解析した。黄背景は水槽中に PGF2α が存在し
ている状態を表す。
(a) 0.5 秒毎の全個体の長軸位置のプロット。
(b) グループの平均位置(それぞれ n = 7)。
(c) 30 秒毎の preference index。*: p < 0.05, Wilcoxon signed-rank test, n = 7,
preference index を 0 に対して有意差検定。
-78-
図 5-6. 野生型と OR114-1 KO ゼブラフィッシュのオスの求愛行動の比較
(a-c) ゼブラフィッシュの産卵時に見られる代表的な求愛行動。青はオスを、
橙色はメスを表す。また色の濃淡は時間経過を表す(a, c: 0.1 秒/scene; b: 0.04
秒/scene)。
(d) 野生型または OR114-1 KO のオスと野生型メス 1 匹ずつのペアの 1 時間内
の求愛行動。メスがフリーズしている時間をグレー(immobile)で示す。
-79-
図 5-7. OR114-1 KO は求愛行動持続時間が減少する
(a-c) 1 時間の求愛行動実験におけるオスの求愛行動の積算時間(a, chase; b,
touch; c, enciecle)。濃色の実線は平均値を、淡色は SEM をそれぞれ示す(n = 6)。
(d-f) 求愛行動実験開始から 1 時間後の野生型(青)と OR114-1 KO (赤)のオスの
求愛行動累積時間の比較(d, chase; e, touch; f, encircle)。*: p < 0.05, **: p < 0.01,
unpaired t-test, n = 6。箱ひげ図は下から最小値、第 1 四分位、中央値、第 3 四分
位、最大値を示す。
(g) 1 回の求愛行動の持続時間の比較。
(h) 求愛行動の回数。
-80-
図 5-8. 嗅上皮を除去したオスは求愛行動の頻度と持続時間が減少する
(a) 未施術(Intact)または嗅上皮除去(OE-removed)オスと野生型メス 1 匹ずつの
ペアの 1 時間内の求愛行動。
(b-d) 1 時間の求愛行動実験におけるオスの求愛行動の積算時間(b, chase; c,
touch; d, enciecle)。濃色の実線は平均値を、淡色は SEM をそれぞれ示す(n = 6)。
(e-g) 求愛行動実験開始から 1 時間後の未施術(緑)と嗅上皮除去(マゼンタ)のオ
スの求愛行動累積時間の比較(e, chase; f, touch; g, encircle)。*: p < 0.05, **: p <
0.01, unpaired t-test, n = 6。箱ひげ図は下から最小値、第 1 四分位、中央値、第 3
四分位、最大値を示す。
(g) 1 回の求愛行動の持続時間の比較。
(h) 求愛行動の回数。
-81-
総括
著者はゼブラフィッシュを用いて性フェロモン PGF2α により誘起されるオス
の性行動発現の嗅覚メカニズム解明に向けた研究を行い、以下の新しい知見を
得た。
1) 集団のゼブラフィッシュは水槽に投与された PGF2α に対して誘引応答を示
す。単独ではこの応答が見られないことから、他個体に由来する PGF2α 以外
の感覚情報も PGF2α がフェロモンとしての作用するために重要ではないかと
推測される。さらにオスだけでなくメスも誘引されることから、PGF2α は集合
フェロモンとしての役割も果たしているのかもしれない。
2) OR114-1、OR114-2 はどちらも性フェロモン PGF2α の嗅覚受容体である。ま
た、これらはゼブラフィッシュで初めてリガンドが同定された OR でもある。
OR114-1 と OR114-2 は別々の繊毛嗅細胞に発現しており、OR114-1 の方が
PGF2α への感受性が高い。実際の産卵時では OR114-1 は追尾中などでも PGF2α
を認識できるが、OR114-2 はタッチなどメスと近接しているときでないと
PGF2α を認識できないと考えられる。このことから、この 2 つの嗅覚受容体は
それぞれ違った行動に関連している可能性が考えられる。
3) PGF2α 嗅覚刺激により嗅球では vmG に属する 2 つの糸球体が、高次中枢 Vv、
PPa、LH、Hc が活性化する。vmG の 2 つの糸球体はそれぞれ応答する濃度に
差が見られることから、感受性が高い方の糸球体は OR114-1 を、低い方の糸
球体は OR114-2 を発現した嗅細胞からの軸索投射を受けていることが示唆さ
-82-
れる。Vv はマウスにおいて快感や報酬に由来するモチベーションを司る中隔
核に、PPa は交尾行動を司る視索前野に、LH、Hc は生殖行動や内分泌変化に
関連の深い視床下部の一部に、それぞれ相当すると考えられており、PGF2α
は生殖行動に関連の深い領域を活性化することが明らかとなった。
4) OR114-1 変異個体のオスはメスへの求愛行動持続時間が野生型よりも短く、
高次中枢における Vv の活性細胞数が野生型よりも少ない。OR114-1 を変異し
た個体でも求愛行動そのものは見られるため、PGF2α は求愛行動のトリガーで
はなく求愛行動のモチベーションを上げる作用があると考えられる。また知
見 3)と合わせ、Vv は性フェロモン PGF2α の情報を受け求愛行動のモチベーシ
ョンに深く関与する神経核であることが示唆される。
これらの知見はゼブラフィッシュにおいて PGF2α にホルモン様フェロモンと
しての作用があることを強く支持でき、性フェロモンによって誘起される性行
動発現の嗅覚神経回路メカニズム解明の一端を担うものと考える(図 6-1)。
本研究では受容体の変異個体を作製し、OR114-1 が求愛行動のモチベーショ
ンに関与している可能性を示すことができた。しかし OR114-2 がどのような行
動に繋がっているのかはまだわかっていない。これを調べるためには OR114-1
と同様に変異個体を作製するか、もしくは OR114-2 発現細胞にチャネルロドプ
シンを発現させて光刺激を与え、行動の変化を観察する方法が考えられる。
また、性行動の発現には PGF2α とそれ以外の感覚入力が必要であることが示
唆されたことから、複数の感覚情報を統合するメカニズムの解明へと繋がるこ
とが期待される。さらに PGF2α はオスだけでなくメスをも誘引することから、
PGF2α やステロイドなどのホルモン様フェロモンがオスにだけに作用するので
-83-
はなく、他のメスの性周期を同調させる作用がある可能性が考えられた。ヒト
でも同居している女性の性周期が一致することがあると言われているが、ゼブ
ラフィッシュをモデルとしたホルモン様フェロモンのメスへの作用を検証する
ことで、ヒトの性周期一致のメカニズム解明に貢献できるかもしれない。
-84-
図 6-1. PGF2α は特異的な神経回路を活性化させ、ゼブラフィッシュの求愛行動を
持続させる
メスから放出される性フェロモン PGF2α は嗅上皮において OR114-1 または
OR114-2 を発現する繊毛嗅細胞によって認識される。次いで、PGF2α の匂い情
報は嗅球の腹内側糸球体(vmG)に伝達され、さらに高次の嗅覚中枢である終脳
腹側核(Vv)、視索前野(PPa)、視床下部(LH、Hc)が活性化される。OR114-1 で認
識される PGF2α は集団のゼブラフィッシュを誘引し、さらにオスの求愛行動を
促進する。
-85-
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公表論文
矢吹陽一, 小出哲也, 宮坂信彦, 増田美和, 脇阪紀子, 吉原良浩:”性フェロモン
PGF2α への雄ゼブラフィッシュの誘引行動:単一 vs. 集団状況における応答性の
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(参考)
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-95-
謝辞
本研究および論文作成を進めるにあたり終始懇切丁寧なご指導を賜りました、
理化学研究所
脳科学総合研究センター
シナプス分子機構研究チーム
ア・チームリーダーの吉原良浩先生、長岡技術科学大学
学研究室の渡邉和忠先生(現・長岡工業高等専門学校
生物系
シニ
神経機能工
校長)、霜田靖先生に深
く感謝いたします。そして理化学研究所での研究をサポートして頂きご鞭撻賜
りました、生物系
糖鎖生命工学研究室の古川清先生、分子生理工学研究室の
滝本浩一先生、生体運動機能研究室の本多元先生に深く感謝いたします。
本研究はシナプス分子機構研究チームにて多大なサポートを頂きながら進め
てきました。日常の議論を通じ多くの知識や示唆を頂きました副チームリーダ
ーの宮坂信彦博士、熱く優しくご指導頂き、カルシウムイメージング実験も行
って下さいました小出哲也博士、的確なご助言を多く頂き匂い刺激や組織化学
実験を行って下さいました脇阪紀子博士、増田美和様に深謝いたします。また
組織化学実験において切片作製をして下さいました塩﨑桃子様、行動実験や変
異ゼブラフィッシュ作製において適切なご助言を頂きました梶山十和子博士に
厚く御礼申し上げます。そして 8 年もの長い間、本当に様々な面で著者を支え
て下さった研究チームの皆様に感謝いたします。
OR114-1/2 同定にあたり、熊本大学
大学院生命科学研究部
薬学生化学分野
の杉本幸彦先生、土屋創健先生、告恭史郎様には受容体の機能解析および zFP1、
zFP2 遺伝子の提供、プロスタグランジンに関する大変有益なご助言を頂きまし
た。また埼玉大学
脳末梢科学研究センターの中井淳一先生、大倉正道先生に
-96-
は未発表の G-CaMP 遺伝子を提供して頂きました。厚く御礼申し上げます。
トランスジェニックゼブラフィッシュ作製にあたり、UAS:GFP 系統は国立遺
伝学研究所
初期発生研究部門の川上浩一先生より分与していただきました。
OR114-1/2 機能解析に用いた heterologous expression vector は東京大学
学生命科学研究科
大学院農
生物化学研究室の東原和成先生より分与していただきまし
た。ここに感謝の意を表します。
最後に、充実した学生生活を支え励まし続けてくれた著者の家族・友人に御
礼申し上げます。
-97-