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SCIENTIFIC INSTRUMENT NEWS
2016
Te c h n i c a l m a g a z i n e o f E l e c t ro n M i c ro s c o p e a n d A n a l y t i c a l I n s t r u m e n t s .
技術解説
Vol.
59
No. 1
M A R C H
高性能集束イオンビーム装置 MI4050
Focused Ion Beam system MI4050
黒田 靖*1,大石 喜久*2,中谷 郁子*3,酉川 翔太*3
1. はじめに
集束イオンビーム装置(Focused Ion Beam,FIB)は,半導体デバイス,金属,セラミックスなど幅広い分野における故障解析
に用いられているが,近年は高精度かつ短時間での解析が求められている。日立ハイテクは独自の技術に基づくプログラム加工や
連続自動加工を用いることにより,解析効率を飛躍的に高め,短時間で極めて高いレベルでの解析を可能にする FIB 装置を開発
し続けている。また最近は,故障解析のサイズや分布,異物欠陥の核の特定や全体との位置関係を三次元的に把握しようという
動きが活発化している。これを実現するためのツールとして,FIB-SEM 複合装置による三次元解析手法が広く用いられている。日
立ハイテクの集束イオンビーム装置 MI4050(図 1)では Cut&See 機能を搭載し,自動で三次元解析が可能となっている。この装
置では,走査イオン顕微鏡(Scanning Ion Microscope,SIM)像の観察が可能であるため,チャネリングや帯電の影響を受けや
すいサンプルでも明瞭な画像を得ることができる(図 2)
。今回は,MI4050 について,Cut&See 機能と応用例を解説する。
図 1 高性能集束イオンビーム装置 MI4050 の外観
THE HITACHI SCIENTIFIC INSTRUMENT NEWS 2016 Vol.59 No.1
© Hitachi High-Technologies Corporation All rights reserved. 2016[5112]
(a)
(b)
5 μm
5 μm
図 2 プリント基板銅箔配線部 SEM 像 (a) と SIM 像 (b) の比較
(a) 加速電圧:3 kV 観察倍率:4,000 倍,(b) 加速電圧:30 kV FOV:20 μm
2. MI4050の自動Cut&See機能
Cut&See 機能は加工と観察を繰り返して行う三次元解析の手法であるが,従来の FIB 装置では,加工,ステージ傾斜,断面観
察を手動で繰り返す必要があった。MI4050 の自動 Cut&See 機能ではスライス加工,
ステージ傾斜,
観察位置補正,
断面 SIM 観察,
ステージ傾斜を戻す,加工位置補正の一連の加工フローの繰り返しが自動化されている。ユーセントリック位置でステージ傾斜を
行うため,加工位置と観察位置がずれることはほとんどない。ステージ傾斜は最大 60 度,画像取得枚数は 1 スライスで低倍率と
高倍率や二次電子像と二次イオン像など 2 画像取得可能で,最大合計 1,000 枚取得できる。加工ステップは 1 nm ~ 1 μm で設
定できる。
その他,MI4050 の主な仕様を表1に示す。
表 1 MI4050 の主な仕様
加速電圧
1.0 ~ 30 kV 0.5 ~ 30 kV ※
分解能
4 nm @ 30 kV 最大ビーム電流
90 nA 以上
最大ビーム電流密度
50 A/cm3
検出器
二次電子検出器 二次イオン検出器※
試料ステージ
5 軸電動ユーセントリックステージ
試料サイズ
50(W)×50(D)
×12
(H)mm
※オプション
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3. 応用例
自動 Cut & See 機能をプリント基板銅箔配線部の三次元加工に応用した。
図 3 はプリント基板銅箔配線部の連続 FIB スライス像である。チャネリングコントラストにより,銅箔配線部の結晶方位を反映
した濃淡の異なる SIM 像が鮮明に観察できている。このことから,FIB 加工断面の方向には,結晶の配向性は認められないとい
うことが分かる。
Slice No.25
Slice No.50
Slice No.75
Slice No.100
奥行き:1.25 μm
奥行き:2.50 μm
奥行き:3.75 μm
奥行き:5.00 μm
Slice No.125
Slice No.150
Slice No.175
Slice No.200
奥行き:6.25 μm
奥行き:7.50 μm
奥行き:8.75 μm
奥行き:10.00 μm
5 μm
図 3 プリント基板銅箔配線部の連続 FIB スライス像
【加工条件】
加速電圧:30 kV ビーム電流:12 nA 加工サイズ:20×20×10 μm
加工ステップ:50 nm スライス枚数:200 枚 【観察条件】
加速電圧:30 kV ビーム電流:100 pA 検出信号:SIM 像
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図 4 は,
連続スライスの三次元再構成結果で,
結晶の濃淡に対応して疑似カラー表示したものである。ここでは,
グリーン,
ブルー,
ピンク,紫で色分けした 4 種類の結晶について分布やサイズを見てみると,結晶の大きさは,約 1 μm から 10 μm であり,ほぼ同
じ割合で存在することが分かる。
これらの結果から,チャネリングコントラストによる SIM 像と FIB によるフラット加工を利用して,実装部品の性能評価への適用
が期待できる。
5 μm
図 4 プリント基板銅箔配線部連続スライスの三次元再構成
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4. まとめ
今回は,シングルビーム FIB 装置での三次元解析を容易にする自動 Cut&See について解説した。ますます高精度かつ高効率な
解析技術が求められる中,本装置の基本性能は勿論,プログラム加工や自動加工とのコンビネーションが重要な役割を担うことが
できる。
参考文献
1)
黒田 靖他,
日本顕微鏡学会第71回学術講演会予稿集(2015).
2)
酉川 翔太他,
第32回LSIテスティングシンポジウム予稿集(2012).
3)
原 徹他,SI NEWS,Vol.57 No.2(2014).
著者所属
黒田 靖
(株)日立ハイテクノロジーズ 科学・医用システム事業統括本部 科学システム設計開発本部 アプリケーション開発部
*1
大石 喜久
(株)日立ハイテクマニファクチャ&サービス サービス本部ラボ技術センタ
*2
中谷 郁子,酉川 翔太
(株)日立ハイテクサイエンス 小山事業所 技術本部BT技術部BT応用技術課
*3
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