鉄筋引張計測システムの導入について

業務紹介
鉄筋引張計測システムの導入について
工事材料試験所
1.はじめに
同様,試験機製造会社である株式会社前川試験機製作所に
依頼した。
工事材料試験所では,コンクリートの圧縮計測システム
を 2010 年 7 月に導入し,運用を開始した。その後,同システ
ムに改良を加え,モルタルの圧縮強度試験にも対応可能と
3.鉄筋引張計測システムの概要
した。現在,圧縮計測システムは,連日フル稼働し,業務の
鉄筋引張計測システムの概要について,特に検討ワーキ
効率化が図られている。圧縮計測システムの導入による効
ングで審議を行った事項を中心に,その概要を以下に示す。
果は以下のとおりである。
①対象とする試験体の種類(工法)
・報告書作成の効率化および発行の迅速化
・事務担当者の負担軽減,省力化
・写真撮影時の手書き黒板からシステム連動の電子黒板化
工事材料試験所の鉄筋・鋼材試験の内,7 割程度は建設現
場からの依頼による鉄筋ガス圧接継手の引張試験である。
当該試験は,前述の工材システムにより報告書の作成がシ
等々,画期的な業務の効率化が図られた。
ステム化されており,鉄筋引張計測システムの対象とする
この度,工事材料試験所では,主軸試験であるコンクリー
のは必須であった。その他の継手や素材(生材)については,
トの圧縮強度試験と同様に,鉄筋の引張試験についても,
現状では工材システムとの連携はできていないが,将来的
「鉄筋引張計測システム」を 2016 年 3 月に導入し,運用を開
には連携を視野に入れている。また,試験結果をテキスト
始した。本稿では,鉄筋引張計測システム導入までの経緯や
データとして扱えれば,そのまま報告書作成ソフトに貼り付
同システムの概要を紹介する。
けが可能となるため,事務担当者の負担が軽減される。
これらの審議を踏まえ,本計測システムの対象とする試
2.鉄筋引張計測システム導入までの経緯
鉄筋引張計測システムは,既製の引張計測ソフトをベー
スとして,各試験室の要望を取り入れる形で検討を開始し
験体は表 1 に示すものとした。また,実際の計測システムの
試験設定画面を図 1 に示す。
②試験の受付方法
鉄筋・鋼材類の試験は,コンクリートやモルタルのよう
た。また,工事材料試験所では,業務管理システム(以下,
な材齢試験(=試験日指定)ではないため,受付から試験実
工材システムと称す。
)が整備されており,定型試験は工材
施までに時間的な余裕がない。特に建設現場から持ち込ま
システムで受付・報告書作成・請求を行っていた。鉄筋引
張計測システムは,工材システムとの連携により更なる事
務作業の省力化,報告書の迅速な発行が可能となるため,双
方システムの連携に向けた検討も行った。
2.1 検討ワーキングの設置
鉄筋引張計測システムの検討にあたり平成 26 年 1 月に「鉄
表 1 鉄筋引張計測システムの対象とする試験体
区分
素材
( 生材 )
検討ワーキングでは,全体会議を 6 回開催し,その他進捗状
況に応じて担当者別の打合せを随時行った。
なお,鉄筋引張計測システムの製作は,圧縮計測システム
20 建材試験情報 2016 年 7月号
金属材料( 板状 )
金属材料( 棒状 )
筋引張計測システム検討ワーキング」を設置した。ワーキン
ム導入を担当したオブザーバ 3 名の計 11 名での構成とした。
鉄筋コンクリート用棒鋼( 丸鋼 )
ガス圧接( 抜取 )
ガス圧接( 技量 )
グのメンバーは,工事材料試験所 4 試験室,管理課,品質管
理室の各担当者から選出された 8 名に加え,圧縮計測システ
試験体の種類
鉄筋コンクリート用棒鋼( 異形 )
エンクローズ溶接
継手
( 溶接 )
フレア溶接
スポット溶接
アップセット溶接
機械式
突合せ溶接
写真 1 1000kN 万能試験機と鉄筋引張計測システム
図 1 鉄筋引張計測システム( 試験設定画面 )
れる鉄筋ガス圧接継手の引張試験は,コンクリートの打設
予定が近ければ受付の即日に結果が求められる。
原則としては,依頼内容を工材システムで受付入力を行
い,その内容を工材システムから計測システムに転送する
ことになる。電送受付を行っている一部顧客を除き,工材シ
ステムへの依頼内容入力時間が,試験実施の遅れとなるこ
とが懸念された。従って,試験の実施を急ぐ場合には,計測
システム側で簡易受付を可能とし,依頼内容の入力は試験
後でも可能とした。将来的にインターネットでの受付が可
能となれば,事前の依頼内容入力の問題は解消されること
になる。
図 2 鉄筋引張計測システム( 試験計測画面 )
③仕様に関する検討
・素材(生材)引張試験では,本計測システムのパソコンに
ノギス,マイクロメータおよびはかりを接続し,寸法,伸
び,絞り,単位質量等を直接測定出来るようにした。
・J IS の規格等で機械的性質が規定されている試験に関し
ては,規格外の結果に対してセルを赤色表示する機能を
設けた。試験計測画面の例を図 2 に示す。
・すべての引張試験において,グラフ表示(荷重−ストロー
ク曲線)を可能とし,グラフからでも降伏点等を読み取れ
るようにした。グラフ画面の例を図 3 に示す。
・本 計測システムに撮影用モニターを接続することで,電
子黒板を可能とした。電子黒板には,自由に記載ができる
図 3 鉄筋引張計測システム( グラフ画面 )
欄を広く設け,多種多様な試験にも対応可能とした。電子
黒板の例を図 4 に示す。
4.クラウドサービスへの展開
工事材料試験所では,主軸となるコンクリートの圧縮強
度試験および鉄筋の引張試験について,各々計測システム
の導入が完了した。今後は,両計測システムを最大限に活用
し,クラウドサービス提供に向け検討中である。更なる業務
の効率化を目指し,正確かつ迅速な試験結果の報告体制を
構築していきたい。
図 4 鉄筋引張計測システム( 電子黒板 )
(文責:工事材料試験所 浦和試験室 室長 藤巻敏之)
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