アナリティクス で変わる世界

Japan Special Edition 2016
Magazine
Analytics of Everything
アナリティクスで変わる世界
・ Unified Data Architecture、Teradata、Aster、Teradata ロゴは米国テラデータコーポレーションの米国およびその他国における商標または登録商標です。
その他本文中に記載された会社名、製品名などは該当する各社の商標または登録商標です。
・ 本文中に記載されている製品情報は、予告なく変更する場合がありますのでご了承下さい。 ・このカタログの記載情報は、2016年5月現在のものです。 ・このカタログで使用されている製品の写真は、出荷時のものと一部異なる場合があります。
2016 日本テラデータ株式会社 All Rights Reserved
データと分析を中心に
据えたアプローチを
ディスカバリー分析が
マーケティング・キャンペーン
を賢くする
進化する
金融ビジネスモデルに
新世代のデータ分析
IoTを
有効活用する方法
3
6
11
15
CONTENTS
Magazine
Japan Special Edition 2016
ANALY TIC S O F
SPECIAL SECTION
IoTを
有効活用する方法
15
DATA & ANALYTICS
DIGITAL MARKETING
と分析を
03 データ
中心に据えたアプローチを
FINTECH
11
06
ディスカバリー分析が
マーケティング・キャンペーンを賢くする
INTERVIEW
進化する金融ビジネスモデルに
新世代のデータ分析
23
すべてを分析しよう
13 データサイエンティストの第一人者から見た金融ビジネスにおけるアナリティクスの重要性
05 今すべきアナリティクスとは?
08 デジタルマーケティングで何を考慮すべきか?
14 進化する金融ビジネスモデルへいかにして対応するか?
21 IoTで変わるデータ活用
22 アナリティクスの潮流
02
Editor s note
表紙について
「素晴らしい洞察は、科学を超えて芸術となる」 − アートオブアナリティクスはテラデータのデータサイエンティストが
ビッグデータ分析結果を視覚化したものである。その印象的なイメージは、美しい現代的なアート作品のようだが、
アートオブアナリティクス
同時に私たちの日常生活から生成されるデータの意味や新しい洞察を伝えている。表紙の作品は、Yurui Zhangが不動産
の保障リスクの関係性をTeradata Asterで解析し、視覚化した。詳しい解説は www.teradata.com/ArtofAnalytics/ で。
ITproでもアートオブアナリティクスを掲載中
ITpro アートオブアナリティクス で検索
TERADATA Magazine Japan Special Edition Q2/2016
1
DATA & ANALYTICS
S p e c ia l T h a n k s
今回、下記のTeradata PartnerNetworkに加入
するパートナー各社へのインタビューを元に、
最新のアナリティクス事情についてご紹介しま
した。あらためまして、
ご協力いただきました皆
様に御礼申し上げます。
(以下、企業名順)
アクセンチュア株式会社
デジタルコンサルティング本部
Accenture Data Science Center of Excellence
北米地域統括 兼
アクセンチュア アナリティクス 日本統括
マネジング・ディレクター
工藤 卓哉 様
https://www.accenture.com/jp-ja/
Ed i t o r s n o t e
ウイングアーク1st株式会社
営業本部 マーケティング部 部長
色あせないアナリティクスの価値
深尾 茂 様
営業本部 GTM推進部 副部長
大畠 幸男 様
http://www.wingarc.com/
今、
AI(人工知能)
が注目の的だ。AIが囲碁でプロ棋士に勝利し一気
に注目度が増した。様々な企業が「AIを活用した」ソリューションを発
表し、毎日AIに関連したニュースが巷にあふれている。私はAIという
と、
アーサー・C・クラーク原作、
スタンリー・キューブリックが映画化した
「2001年宇宙の旅」
(原題:2001: A Space Odyssey)
に出てくる
(出演
https://www.scsk.jp/
株式会社NTTデータ
ビジネスソリューション事業本部
ビッグデータビジネス推進室 課長代理
鍋谷 昴一 様
http://www.nttdata.com/jp/
している?)人工知能HAL9000をまず思い出してしまう。
「彼」は木星
NTTデータフォース株式会社
探査に向かう宇宙船のすべてを制御し、
乗組員と自然な会話をしなが
小松 正人 様
http://www.nttdata-force.co.jp/
ら任務を遂行する。
この映画の中で、
彼は、
通信装置の故障を予知し、
乗組員に警告をするシーンがある。子供の頃にこの映画を観たときに
は「未来では、故障は事前に分かるのか、
すごいなぁ」
と思ったもので
代表取締役社長 株式会社クニエ
井出 昌浩 様
http://www.qunie.com/
株式会社ジール
念ながら未だにHAL9000は登場していないが、鉄道や自動車などの
小川 淳一 様
https://www.zdh.co.jp/
はテラデータを活用して、
アナリティクスで故障予測を可能としている。
HAL9000が本当に登場したとしても、彼はマジシャンでも預言者でも
ない。必ず、
データを集め、
アナリティクスにより様々な結論を導き出すこ
データと分析を
中心に据えたアプローチを
ディレクター 博士(数理情報学) ある。
(このシーンには続きがあるがここでは割愛する)2016年現在、
残
故障予測は現実のものになっている。
シーメンスやボルボなどの企業
営業本部 ビジネスデベロップメント部 リーダー
株式会社JSOL
流通・サービスビジネス事業部
営業グループ シニアマネージャー
小畑 康弘 様
https://www.jsol.co.jp/
株式会社システムフロンティア
企業は既存のビジネス課題のみならず、
デジタル化する市場でディスラプター(既存サービスの破壊者)にも対処しなければならない。
この両方に対処する解は、
データと分析を中心に据えたアプローチにある。
15世紀にグーテンベルクが発明した活版
うになった。
こうなると、
インターネットが分散
ではディスラプターが自社の顧客を奪おうと
印刷は、
聖書というキラーコンテンツと相まっ
して蓄積しているデータは、地球上の様々
しているということがある。
では、
このような
てくれる時代がくるかもしれない。
しかし、
そこには回答を導き出すため
上釜 隆志 様
http://www.sfrontier.co.jp/
て、一つの情報を広く社会に普及させると
な事象に関する記憶であるとも言える。
環境下で、企業はどのようにデータ活用を
に必要なデータの蓄積とAIが使うアナリティクスが存在する。
そのとき
TIS株式会社
いうイノベーションを引き起こした。
テレビや
中村 知人 様
同部 シニアエキスパート
上條 元道 様
http://www.tis.jp/
ラジオといったマスメディアがそれに続き、
とになる。
もしかすると、
近い将来AIに問いかければ何でも回答を返し
「AIに質問する会話術」がビジネスの差別化要因になるのかもしれな
い。
いずれにしても、
アナリティクスとデータの蓄積は今までもこれからも
ビジネスにも社会にも必要な要素であり、形は変われど、色あせること
はないのだろう。
第五事業部 部長
産業事業本部 IT戦略コンサルティング部 部長
株式会社デジタルスフィア
代表取締役社長
進めるべきだろうか。
デジタリゼーション
今は一対多のコミュニケーションを実現して
いる。
企業は、従来から企業内で発生するデー
そしてインターネットによって、
今度は多対多
タ、
そして顧客や取引先といった外部接点
のコミュニケーションがもたらされた。
さらに
で発生するデータを蓄積し、
分析することに
トップダウンと
ボトムアップ・アプローチ
との融合
というところまで、
書き終えたとき、
アナリティクスに投げ込む的確な質問
宮野 浩一 様
http://www.digital-sphere.co.jp/
が非常に重要なのだと改めて納得した。
テラデータではこれを
「ビジネ
日本NCR株式会社
無線技術とその上で動くメッセージング、決
より競争力の強化に役立ててきた。
しかし、
企業が従来から実施してきたデータ活用
スクエスチョン」
という。読者の方に本誌を読んでいただき、
IoTが可能
佐藤 裕俊 様
http://www.ncr.co.jp/
済、検索やソーシャルメディアに代表される
上述したようなインターネットの世界が膨張
は、次頁の図のピンク色で示した部分だ。
サービスは、
デバイスの側に人間が集うの
するにつれ、分析対象にインターネット上に
課題や取組施策に対して、複数の分析手
にした全てのデータを分析する
「Analytics of Everything」の世界
の可能性を感じ、
ビジネスクエスチョンを1つでも多くアナリティクスに投
げ込み、
1つでも多くの新たな洞察を得てもらえればと思う。
編集責任者
日本テラデータ株式会社 マーケティング統括部
佐藤 克彦
2
SCSK株式会社
ソリューション営業部 シニアコンサルタント
日本ユニシス株式会社
サービス企画部
共通PaaS企画室 チーフスペシャリスト
萩原 喜武 様
柿島 容子 様
http://www.unisys.co.jp/
ニューソン株式会社
執行役員 第1ソリューション事業部
第2ソリューション事業部 グローバル推進 所掌
横塚 志行 様
http://www.newson.co.jp/
ではなく、人間の側にデバイスが寄り添うこ
ある新種のデータを追加することを考えは
法が適用でき、
それぞれの分析手法に対し
とにより、多対多コミュニケーションの時間と
じめ、一方でデジタリゼーションの名のもと、
て複数のデータを組み合わせ、
洞察を獲得
濃度を飛躍的に拡大させている。
自社サービスの一部、
または全てをインター
するというトップダウン型のアプローチであ
加えてこのインターネットのアドレスであるIP
ネット技術に置き換えることが進んでいる。
る。ただ、その対象となるデータの多くは
アドレスは、様々なモノや環境にも割り振ら
その背景には顧客がすでにそちら側の世
ERPやCRMシステムを流入源とする構造
れ、
多対多の中には人間以外も内包するよ
界で多くの時間を過ごし、
そちら側の世界
化されたデータだった。
TERADATA Magazine Japan Special Edition Q2/2016
3
今すべきアナリティクスとは?
統合データ分析を行う上での技術ギャップ
データ
顧客属性
分析
解約確率予測
利用明細
エンタープライズ技術
課題・取組
利益性分析
構造化データ
RDBMS, SQL
デジタルマーケティングだ。蓄積したデータから顧客像をモデル化し
せる時代が到来している。
そのためのデータ分析も従来のような統
もデータ活用のリアルタイム性が、従来のマーケティングとの決定的
計解析だけでなく、
パターン分析という新たな手法を適用することで
な違いとして注目を集めている。
だが、上條氏はその「リアルタイム」
様々な知見を得ることもできるようになってきた。人工知能(AI)
や機
への勘違いを指摘する。
「デジタルマーケティングにおけるリアルタイ
械学習、
ディープラーニング
(深層学習)
といったキーワードが新たな
ムとは本来、
施策の実行がタイムリーであることであり、
即反応するこ
可能性を切り開く技術としてビジネスの場で語られている。
とを意味するものではない」
グラフ分析
こうした現状に対し、TISのIT戦略コンサルティング部シニアエキス
例えば、
ある行動特性を持つセグメントに対しては、
ファストフードの
パート 上條元道氏は「AIも
(その技術的要素である)
ディープラー
広告は、朝の通勤時に打つのが効果的であることや、ECサイトのリ
テキスト分析
ニングも、
貯えたデータがあってのこと。
しかし、
自社でデータをもたな
コメンドは、就寝直前の時間帯が購買に直結するといったことは、
顧客単価増
関連性分析
提案個別化
接触履歴
経路分析
新規サービス
アクセスログ
苦情・質問
ソーシャル
い企業がいまも少なくない」
と語る。
また、蓄積データをもつ企業で
様々なデータを集め、
分析することで明らかになった例だ。
リアルタイ
あっても、
それを何の目的にどのように活用するかが定まっていない
ム
(タイムリーなアクション)
を強みとするデジタルマーケティングも、
ケースが多いという。
データ分析が肝心ということだ。
例えば「解約率の低減」
という課題・分析テーマに
に至る顧客との接触イベントをシーケンスで理解
一方でボトムアップ型の、データドリブンな探索
対し、顧客属性や利用明細データから説明変数
でき、典型的な解約パターンを発見できる。
これ
型アプローチもこの枠組みで採用できる。例え
を用意し、
そこからパターンを学習することによっ
は「解約率の低減」
という課題に対して異なる分
ば、
ソーシャルネットワークの投稿やコールセン
AIを導入しさえすれば、
業務が改善するのではないかといった期待
データ活用に求められる現場の 腹落ち感
「日本の企業の特徴として、
テクノロジー主導の傾向がある。例えば、
て、解約確率を予測することは今までも行われて
析手法からアプローチできることを意味する。加
ターのメモ情報から、自社のサービス改善や、新
が高い。
コンピュータが世界チャンピオンに勝った囲碁戦などでAIや
IoTもデジタルマーケティングも、集めたデータを分析し、
そこで得た
きた。
これに対して新種のデータ、例えばWebサ
えて、
この手法にもアクセスログのような多構造
しいサービスのアイデア発見につなげることが考
イトのアクセスログやコールセンターのメモ情報
化データだけでなく、そのほかのチャネルにおけ
えられる。
ディープラーニングがトピックとして最近よく取り上げられるが、
あれは
知見を次のアクションにつなげることに価値がある。
その点で上條氏
を説明変数として追加すれば、予測精度を改善
る構造化された接触履歴を組み合わせることが
蓄積された膨大なデータ基づく、一定ルールやパターンが決まって
は、
データの分析結果に、実際に行動する人間にとっての 腹落ち
することが出来る。
また、経路分析の手法は、解約
できれば、
より包括的な理解が可能となる。
これに対して新 種のデータは多 構 造 化
データと呼ばれ、
またグラフ分析やテキスト、
経路の分析に代表される、
多構造化データ
特有の分析手法も採用されるようになって
すべてのデータと
分析を中心に据える
アーキテクチャー像
いる世界での適用例である。国や地域で多様なルールが適用され、
感 が不可欠と語る。
経営環境の移り変わりも激しいビジネスにおいて汎用的に成果を挙
「今後AIがさらに進歩してデータ収集から分析までが自動化された
げるには、
まだ時間を要する。AI以前に、
現在のテクノロジーで可能
としても、
そこで得る知見に納得がいかなければ、人は動けない。
日
なアナリティクス
(データ分析)
でやれることが十分にある」
(上條氏)
本でも、
人の行動分析が着目されるようになってきた。米発のテクノロ
テラデータでは、
このような環境に呼応しつ
これまでデータ分析に取り組んでいない顧客企業に対し、
同社がク
ジーであっても、
日本仕様のデータ分析により行動を促す 腹落ち感
つ、ギャップを埋める形で、従来型のエン
イック・データ・アセスメントのサービスを提供するのも、
1、
2か月の短
は増す。
そのためにも、
まずは蓄積データの分析が欠かせないと考
期で企業がもつデータを分析し、
その結果得られるものを実際に確
える」
(上條氏)
まずは今社内にあるデータの棚卸とその価値の選
認してもらい、
蓄積してきたデータの価値を理解してもらうためだとい
定
(データ分析)
を早期に行うべきだろう。
タープライズ技術とオープンソース技術を
融合させた、分散エコシステム
(生態系)
を
提唱しており、
その総称をTeradata UDA:
きている
(図内青色部分)。
これにより企業
は、従来型のアプローチをより強化できるよ
では、
このようなアプローチのために、
どのよ
Unified Data Architectureと呼んでい
うになる。既存の課題や取組に対して、
より
うなアーキテクチャーが採用されるべきか。
る。加えてこの実現に向け技術開発を集中
多くの分析手法とデータ、
そしてその組み
残念ながら従来からのデータと新種のデー
させており、
また一方で顧客企業のニーズ
合わせを適用できれば、
より多くの洞察を獲
タは、それぞれ異なるプラットフォームで管
に合わせた実装に注力している。
ここ数年
得できる。
理されている。前者がRDBMSを中心とし
で各業界における構造・多構造を問わない
そしてこの枠組みは逆方向の、
ボトムアップ
たエンタープライズ技術、
後者がHadoopを
データ分析・活用支援の経験も多く積んで
型のアプローチにも適用可能だ。構造化・
中心としたオープンソース技術だ。
データ構
きている。是非、
データと分析を中心に据え
多構造化の区別なく、
あらゆるデータに対し
造や分析処理の特性を鑑みた場合、異な
たアプローチに、
テラデータの技術、
そして
て探索的・発見的に分析を進めていくこと
るプラットフォームが採用されること自体は
経験を役立ててほしい。
が、
データに立脚した、新規サービスの萌
合理的だ。
しかしながらあらゆるデータ、
あ
芽(新たな市場機会や顧客利便性向上の
らゆる分析手法を縦横無尽に活用したいと
可能性)
を見つけるための、網羅的で漏れ
考えたとき、
このギャップはデータ活用の障
のないアプローチとなる。
壁となる。
4
ところで、収集した膨大なデータの活用先として期待される一つが
たり、
キャッチしたデータを速やかに施策に反映させたりする。
なかで
請求・経費
多構造化データ
Hadoop, MapReduce
IoTの実現により、
モノや人の位置・動き・特性などに関するデータを
大し、
これらを業務改善やサービス向上、
マーケティングなどに活か
顧客分類
オープンソース技術
デジタルマーケティングの「リアルタイム」の勘違い
時間軸に沿って収集できるようになった。蓄積されたデータは日々増
解約率低減
申込・解約
ギャップ
AIに期待する以前に現状のテクノロジーの活用を
う。上條氏は「必ずしも期待の結果が出るとは限らない」
とし、蓄積
データに、
次のビジネスに活かせる 鉱脈なし と見極め、
取得出来て
いないデータ
(アナログデータを含む)
の必要性を探ることも、
データ
分析の重要な過程でもあると語る。
TERADATA Magazine Japan Special Edition Q2/2016
5
DIGITAL MARKETING
ディスカバリー分析が
マーケティング・キャンペーンを賢くする
マーケティング・オートメーションとオムニチャネルの整備に伴い、
チャネルを横断して顧客を理解し、
アプローチできる環境が整ってきたが、
どのような案内を行うべきかという
「洞察」は欠落したままだ。
ディスカバリー分析がキャンペーン立案にこの洞察を注入する。
全ての企業にとって売上は重要な指標で
あり、
あらゆる企業にとって売上をもたらして
マーケティング・オートメーション
技術の台頭
くれる唯一の存在は顧客である。一方でこ
優良会員(月間支払額>N円)へのカスタマージャーニー
(線の太さ=経路通過顧客数、顧客数>N件以上で絞り込み)
バナー
広告表示
フォロー
メール
商品C
契約
商品B
契約
検索サイト
から流入
商品紹介
ページ
商品B
契約
商品C
契約
特設
ページ
FAQ
ページ
窓口訪問
商品A
契約
電子メール
案内
窓口訪問
フォロー
メール
料金試算
実施
料金試算
実施
優良
会員化
姿でしかない。顧客との接触イベントを試行錯誤
この図から、優良会員に至るには商品A、
もしくは
ローアップが効いていることを理解でき、商品A
商品CとBが必要であることが分かる。
そして商品
のリード育成に重要な洞察を与えてくれる。
的にグルーピング、
または分解しながら主要経路
BとCの契約順序も重要だ。商品Cを利用する顧客
商品Cの契約に至る経路も特徴的だ。いくつかの
を見つけ出していく。例えばここでは商品紹介ペー
に商品Bを提案するときの訴求力と、その反対で
デジタル施策のうち、検索サイトからの流入が多
ジがグルーピングされているが、個別商品ページ
は雲泥の差がある。
また商品Aは検討に時間がか
く、SEOが重要であること、バナー広告や特設ペー
ごとに分けた方が良いかもしれない。
このような試
かり、幾度もの窓口訪問や料金試算を経て契約
ジには改善が必要であることを伝えてくれる。
行錯誤を行うには、条件を変更しながら何度も分
に至っていること、きっかけの電子メールとフォ
また、
この図で表現されているチャートは一時的な
析できる柔軟性が分析環境に必要となる。
ることによってキャンペーン構成要素を適切
に並べ、
そこから学習し、
重みづけによって傾
データでは、
ディスカバリー分析プラットフォー
に選定するものである。例えばあるサービス
向を導き出していく。
これに対してディスカバ
ムとしてTeradata Asterを提供している。
の解約者に高年齢層が多いという事実が
リー分析では、
事象(顧客、
イベント、
キーワー
分かれば打つべき手がわかる。
ある商品の
ドなど)
のシーケンスや関係が注目され、
その
購入確率を顧客ごとに予測できれば、確率
関係から重要な洞察を見つけ出していく。
の高い顧客から案内できる。
ディスカバリー
ここではその一例として、
経路分析を紹介し
そして、
このディスカバリー分析をうまく進め
Fail Fast, Succeed Faster
分析は、
これらの分析手法に続く、第三の
たい。上図は優良会員化した顧客に絞り込
るためのファクターが「手数」だ。
様々に見方
きか、
いつ案内すべきか、
どのチャネルを通
分析手法の総称である。
診断型分析とも呼
み、
その前段階でどのような自社との接触・
を変えながら、数多く分析の試行錯誤を行
じて案内すべきか、
誰に案内すべきか、
とい
ばれ、様々な事象間の関係を探索によって
取引イベントを経たのかを示したチャートで
い、
より多くの洞察を発見する。時には得ら
う知識だ。
キャンペーンのアイデアを導き出
解き明かし、
事象の原因や洞察を発見して
ある。
これにより、
顧客との関係を強化し、
商
れた洞察を実際のマーケットで試すことも必
の売上は最も不確実性が高い指標であり、
顧客に働きかける単位量を増大させるた
し、構成要素を適切に選択するための洞
いく手法である。誤解のないよう申し添える
品が契約されるために、
どのような接触や接
要になる。
ディスカバリー分析があっても顧
それはとどのつまり
「顧客の心を動かすこと
め、
キャンペーン管理、
リコメンデーションと
察が欠落しているのである。
と、
記述型分析や予測型分析を置き換える
触の順番が有効だったかを発見できる。
ま
客の心を動かすことの難しさは変わらない。
は難しい」
ということに他ならない。
しかしな
いったマーケティング・オートメーション技術
ものではなく、
相互補完の関係にある。
た、
これらの接触をマーケティング活動と捉え
しかしながらFail Fast=結果的に失敗に終
がら顧客の心を動かすことができなけれ
は生み出された。
これらの技術により、数多
ると、
それぞれの直接的・間接的な貢献度も
わる多くの試行錯誤を軽微に済ませること
ば、売上はもたらされず、
そのためには何ら
くのキャンペーンを同時並列で実行するこ
定量化できる。
このような手法はアトリビュー
ができれば、
Succeed Faster=成功へ到達
かの形で顧客に働きかけることが必要にな
とが可能となった。
タイミング、
チャネル、
提案
ション分析とも呼ばれ、
デジタル広告の世界
するまでの距離と時間を短縮することはでき
る。
マーケティング・キャンペーンは、
この、顧
内容といったいずれのキャンペーン構成要
従来、
このような洞察を獲得するために、
レ
ディスカバリー分析の代表的な手法として挙
では採用されているが、
この分析例はそれ
る。百発百中は無理かもしれない。
だが、
テ
客に働きかける単位である。
素も個別化可能だ。各顧客の欲しい瞬間、
ポーティングや基礎統計、
データマイニング
げられるのが、
グラフ
(ネットワーク)分析、
アソ
にとどまらない。識別可能な顧客であれば、
クノロジーと分析の力で手数を千発、一万
欲しい場所で、欲しいメッセージを送ること
といった分析手法が利用されてきた。前者
シエーション分析、経路分析、
テキスト分析と
支店窓口やコールセンターといったアナログ
発にすることはできる。
これにより効くキャン
ができる。
しかし、
ここには、重要な点が欠
は記述型分析、後者は予測型分析と呼ば
いった手法だ。予測分析では分析対象(顧
チャネル含め、
ありとあらゆる顧客との接触の
ペーンの総量を、
そして心を動かせる顧客
落している。
どんなキャンペーンを案内すべ
れ、
事実を把握する、
そして予測スコアを得
客、部品、店舗など)
を特徴づける変数を横
貢献度を把握することが可能となる。
テラ
の総量を増加させることは可能なのである。
6
分析手法の拡大
∼第三の分析手法∼
ディスカバリー分析
TERADATA Magazine Japan Special Edition Q2/2016
7
5
オムニチャネル
デジタルマーケティングで何を考慮すべきか?
プラットフォームとプロファイル
デジタルマーケティングに必要なリアルタイム性
テンプレートとして提供している。
ビッグデータを分析することで、
顧客一人
ひとりについて各メトリクスの値を算出し、
評価することができる。
日本でも、
デジタルマーケティングの活用が進んでいる。
しかし、
いち早く
すでに海外銀行のデジタルマーケティングでその効果を実証している。
踏み込んだ企業が成功できていないケースもあるという。
「日本では顧
蓄積していた顧客データに加え、
ATM利用やインターネットバンキング
客をマスで捉えようとする考え方が根強い。
ライフスタイルが多様化し
での利用動向などのリアルタイム・データを逐次分析し、
その結果に基
たいま、顧客一人ひとりを理解し他社よりも一歩先を行くサービスを他
づきデジタルチャネルを用いて新しい金融商品の拡販を行ったところ、
社よりも早く提案することの重要性が増している」
とNTTデータ ビジネ
顧客の25%を対象に試行した段階で、実施3か月で残り75%の顧客の
スソリューション事業本部の鍋谷昴一氏は語る。
1年分の売り上げを獲得しているという。
「データを貯めてからデータ分析をバッチで処理すると、
施策への反映
が翌日以降になる。
これでは一日の中
(ECサイトを見ているような時に
は数分)
で趣味嗜好や興味が変化する顧客に向け、
適切なオファーを
既存顧客が分かれば新規顧客が見える
「まず既存客を正しく理解しようということが、
マーケティングの最初のス
届けられない」
(鍋谷氏)
この課題を解決するためには、
データを蓄積
テップであることはデジタルマーケティングでも同じ」
(鍋谷氏)
であり、
しつつ、平行してリアルタイムにデータ分析する必要がある。
そこで、蓄
データ分析により顧客を数値化し、既存顧客のうちロイヤリティが高い
積した数百億件に及ぶビッグデータを分析(顧客のプロファイルを理
顧客の属性を把握することが必要不可欠である。詳細に理解すること
解)
し、
リアルタイム処理のルール
(その人にあったリコメンデーション内
ができれば、
未知の顧客から自社に合う顧客を選別することができるよ
容)
を導き出し、適宜処理のルールを変更する
『大規模・リアルタイム
うになる。
「カスタマーDNAはこの作業を効率化できる。顧客理解の深
データ分析プラットフォーム』が必要となる。技術の進歩で、
さまざまな
化に取り組むマーケティングや営業などがそれぞれの基準で分析した
アーキテクチャがシームレスにつながるようになってきたため、
このような
結果を、数値化 という同一の尺度で見られるようにすることで、
異なる
プラットフォームの構築が可能だと鍋谷氏は言う。
部署が分析結果と意思決定の方向性を共有してアクションにつなげる
顧客一人ひとりを理解するカスタマーDNA
ことがより短期間でできるようになる。」
と鍋谷氏は説明する。
このアプ
ローチにより、
メディア企業でセールスキャンペーンの収益率300−400%
大規模・
リアルタイムデータ分析プラットフォームを構築することで、従来
向上などの成功事例がでている。
大規模リアルタイム・データ分析プラッ
のデモグラフィックデータ
(年齢、性別などの属性データ)やトランザク
トフォームをベースとしたビッグデータ活用で、
デジタルマーケティングに
ションデータ
(取引履歴など)
だけではなく、
インタラクションデータ
(Web
新たな
「変革」
とビジネスの成長が実現できそうだ。
ログなど)
といった大量かつリアルタイムに発生するデータを継続的に
分析し、
ユーザの行動・意図・嗜好に対する洞察を元に、
プロアクティブ
なサービスを提供することができるようになる。
ここで重要なことは顧客のプロファイルをどう定義し、分析・評価するか
である。NTTデータでは「カスタマーDNA」
として顧客のプロファイル
音声データ
いまだに実現が難しいオムニチャネル
サービス向上にはコールセンターのデータの活用を
スマートフォンやタブレットの普及を受け、流通業界では数年前か
顧客とのコンタクトは、
コールセンター、
メール、
SNS、
店舗などで行
らオムニチャネルに熱い視線が注がれている。
しかし、
各企業の取
われる。今、すべてのコンタクトはデジタル化し、顧客とのコミュニ
り組みについて「ECサイトの機能拡張や情報発信の強化など、
大
ケーションは可視化することができるようになった。
そんな中、
「サー
半が局所的な対処に終始し、
本格的なオムニチャネルの実現とビ
ビス向上には、
コールセンターに電話をかけてくる顧客を重視すべ
ジネスの成功につなげられていない」
と指摘するのはJSOLの流
きだ」
とコールセンター向けソリューションで多くの実績がある
通・サービスビジネス事業部 小畑康弘氏だ。
SCSK社は提案する。 同社では音声のテキスト化や各種テキスト
オムニチャネルによる個々の消費ニーズにトータルに対応するため
データをテキストマイニング技術により構造化し、
分析するソリュー
には、
「ビジネス全体を見直す必要がある」
(小畑氏)
と言う。例え
ションなどを提供している。
「なぜなら電話をかけるというアクション
ば、
アパレル業界では、
消費者が実店舗で接客を受けながら試着
には強い動機があるからだ。
そちらへの手当を優先しなければ、
し、
ECサイトで購入するという購買パターンが増えている。現実の
その声はSNSなど対処が難しいほうへ流れる可能性が高い」
と
売り上げに実店舗は大きく貢献しているが、
従来の売上評価では
注意を喚起する。
ECサイトのみの実績として認識されるのが一般的だ。
これでは、
店舗の接客モチベーションが低下してしまう。
「オムニチャネルのビ
顧客の感情も含めて理解する
ジネスを推進することを前提とした企業戦略とそのために必要な
コールセンターに寄せられるのは、
商品や対応に対する不満の声
基幹業務、
人事評価制度、
顧客接点の最適化などをトータルで考
が多い。例えば製造業の場合、
商品によって問い合わせやクレー
える必要がある」
(小畑氏)JSOLではトータルコンサルティング
ムの内容が異なる。不具合の場合にはより専門的なキーワードが
サービスを提供しているという。
並ぶことが多い。
「コールセンターに届く声を分析し、
正確に理解し
オムニチャネルに必要な
デジタルマーケティングの「塩梅」
適切なアクションを取ることで、
サービス向上だけでなく品質改善、
商品開発を実現している企業もある」
とも指摘する。
当然、
品質改
善や商品開発には、
声以外のデータ
(在庫、
売上、
会員情報など)
このオムニチャネルにおいてデジタルマーケティングによる積極的
と組み合わせてさらに深い分析が必要だ。
同社によるとテキストマ
な顧客とコミュニケーションは重要だが、気を付けるべき点がある
イニングを活用して、
自社商品に関するポジティブ/ネガティブ判定
と小畑氏は言う。
それは押し売りと思われない、
「いい塩梅」での
や、
顧客の感情分析も可能で、
マーケティングへフィードバックして
コミュニケーション頻度・方法を適用すること。例えば、
ショッピング
いく事例もあるという。音声データも分析対象の一つとして収集す
センターがセールやイベントの情報を会員に頻繁にメールしても、
べきだろう。
大半は無視されてしまう。他方、
店舗での支払やGPSデータをリア
ルタイムに検知し、
ショッピングセンター内にいる間に欲しい製品
クーポンをスマホに届けるなど、消費ニーズが発生するタイミング
や嗜好にフィットしたコミュニケーションは歓迎される。
この「いい塩梅」
を設定するためには、
顧客一人ひとりを理解する
必要がある。
そこであらゆるデータを集め、分析し、何に興味があ
るのか、
どういった方法(電話、DM、
メール)
でコンタクトされること
を希望しているのか、
何曜日のいつ
(朝、
日中、
晩、
イベント発生時)
外部データの取り込みが
分析の価値を高める
政府や自治体により公開されているパブリックデータに加
コンタクトして欲しいのか、
などを見極めていくことになる。
アナリ
え、民間企業からも各種オープンデータが提供されてい
ティクスとデジタルマーケティングは切っても切れない関係と言える
る。
このような第三者データをデータ分析に加えることで、
だろう。
新たな軸での分析や新しい洞察が得られる。
国内BI市場でシェアトップ(出荷本数ベース)のウイング
アーク1stでは下記のような第三者データを提供しており、
データ分析を活用している企業ほど需要があるという。
●国勢調査/住民基本台帳による人口統計
●携帯電話会社により提供される人口統計
●年収階級別世帯推計
●貯蓄階級別世帯推計
●気象履歴データ
●消費支出推計データなど
を判断するためのメトリクス
(プロファイル項目)
をすでに1000項目以上
8
TERADATA Magazine Japan Special Edition Q2/2016
9
F I N TEC H
セールス連携
テキストデータ
マーケティングが強いアメリカ
営業が強い日本
テキストマイニングで
消費者の思いを捉える
セールスフォース・
ドットコム
(SFDC)
による顧客管理システムの導
社内外の非定型・定型データを分析するためのソリューションを提
入を数多く支援しているデジタルスフィアの代表取締役社長 宮野
供している日本ユニシスによると、
これまで活用できていなかった
浩一氏は、SFDCとマーケティング管理ソリューションを連携する
多くの社内データや、社外のSNS、
オープンデータなどを活用し、
導入支援も多く行ってきた。
そんな、宮野氏によると収益につなが
戦略策定やマーケティングに生かすことを検討している企業が増
るマーケティング管理ソリューションを構築できる企業は、営業部
加しているという。
門主導で進めるケースが多いという。
「データ分析を通して、既存
マーケティングを効果的にするために消費者の声は重要だ。消費
顧客に接している営業が必要としているマーケティングを徹底的
者の声を数多く、
迅速かつ正確に捕捉することが成否を左右する
に理解し、
マーケティングのPDCAサイクルをまわすことで、
潜在顧
ポイントの一つとなる。消費者の 思い は様々なテキスト情報に詰
客へのマーケティングアプローチをより効果的なものにしていく」
まっている。
日本ユニシスのテキストマイニングソリューション
(宮野氏)
のだという。
マーケティングの力が強いアメリカ式に対し、
「TopicExplorer」
「TopicStation」はテキストを単語やフレーズ
営業部門の発言力が強い日本式のマーケティングと言えるのでは
ないだろうか。
分析あってのマーケティング管理ソリューション
に分割することで、
頻度や相関関係から文章の意味を定量化し、
消費者の思いを可視化することが可能だ。
デジタルマーケティン
グおいても活用すべきデータ分析技術と言えるだろう。
テキストマイニングはその活用領域を拡大し続けている。
「我々は
潜在顧客とは、既存顧客と同様の行動パターンや志向性をもつ
テキストマイニング技術で、企業のリスク管理や業務効率化も支
人や企業のことだ。つまり既存顧客のパターンを分析し理解する
援している」
と日本ユニシスの柿島容子氏は語る。
ことが売上への第一歩となる。近年、
ビッグデータというワードが当
たり前のように使われるようになり、技術的には多種多様なデータ
を収集できるようになっている。
しかし、集めただけでは意味をなさ
マイニングはテキスト以外でも
ない。
「いま求められているのは、
そうして集めた膨大なデータから
同社は小売業における商品のリコメンドや、機械学習による異常
既存顧客像を描き出せる
(理解できる)分析力だ」
(宮野氏)
検知など、幅広い業務に活用できる、情報システム部門以外の
例えば、
自動車メーカーのWebサイトのアクセスログデータからア
ユーザーにも使いやすいデータマイニングツール「MiningPro21」
クセス数が増えたことが分かっても、購入する可能性のある人が
も提供する。
予測、
分類、
判別、
相関といったデータマイニングの基
アクセスしているのか、
( 10年後に買ってくれるかもしれないが直
本分析、
データを複数の変動要素に分解して予測精度を高める
近では収益にならない)
自動車が好きな中学生がアクセスしてい
需要予測、文書を自動的に分類・判別・類似検索を行う文書マイ
るのか分からないのであれば、
マーケティングが成功しているの
ニングや、
お客様のアプリケーションに組み込んでエンジンとして利
か判断できない。
しかし、購入する可能性がある人を選別できれ
用できるC#ライブラリが活用されているという。製品を担当する
ば、
マーケティングキャンペーンが成功しているか判断できるし、
新
チーフスペシャリストの萩原喜武氏によると、
「自社開発製品であ
しいキャンペーンを設計できるかもしれない。
「顧客となった人の
るため、
お客様の要望に柔軟に対応している」
という。
データから行動の法則性を探しだせれば、
マーケティングはその
法則が最大化する施策とすれば売上への寄与が期待できる」
金融業界で注目の「フィンテック」。
家計簿アプリからクラウドファンディング、
ビットコインまで、
様々なサービスが展開されている。
彼らの強みは、
モバイル、
ソーシャルそしてデータ分析を実にスマートに活用することだろう。
既存の金融機関も新世代のデータ分析に取り組む時がやってきている。
新興企業から大企業まで
フィンテック企業が金融を変える
IT技術を活用した利便性の高い金融サー
ビスを生み出しているフィンテック。
プレイ
ヤーとしてスタートアップと呼ばれる規模の
り、
Amazonはすでに融資ビジネスを行って
業務を再定義し構築されたものが多い。
いる。
フィンテックの登場は、既存の金融機
1990年にビル・ゲイツが語った「Banking
関の脅威なのだろうか。
is necessary, banks are not(銀行業務
フィンテックが
銀行への不満の受け皿に
小さなIT新興企業や、GoogleやApple、
は必要だが、銀行は必要ない)」
というひと
言が、
現実味を帯びてきたといえる。
フィンテック時代の
既存金融機関の選択肢
Facebook、AmazonといったIT業界の大
「日本の消費者は銀行のサービスに満足し
マーケティング管理ソリューションの導入を図る企業の中には、導
企業が名を連ねる。IT技術をもって金融以
ていない。
あるコンサルティング会社が行っ
入の目的やそもそもの現状に対する理解が曖昧なケースを散見
外の異業種から参入してきたフィンテック企
た2015年の調査では、銀行がニーズを理
欧米ではフィンテック企業が、
すでに伝統的
業が提供するサービスは、決済・送金、預
解していないと考えている人が4割以上、
な金融機関に取って代わり決済や資産運
金、融資など金融機関がすでに提供して
銀行が資産運用を助けてくれないと考え
用のサービスを提供している。
日本のフィン
いる業務やビットコインの仮想通貨プラット
ている人が5割以上と他の先進国と比べ
テック企業は現状、金融情報サービスの提
フォームのような新しいプラットフォームがあ
ても悪い数字だ。
フィンテックへの注目は、
供にとどまっているものが多い。今後、欧米
る。
いずれも最新のIT技術や高度なデータ
消費者のこうした潜在的不満を解消する
と同様のことが日本でも起こり得るだろうか。
分析が原動力となっている。彼らの金融
受け皿として期待されている面がある」
と
起こるとするならば、
フィンテックは間違いな
サービスを、既存の金融機関を経ることなく
指摘するのは、
日本テラデータで金融機関
く金融機関の脅威となる。
とはいえ、
「 脅威
顧客が利用し、使い勝手の良さで高い評
向けのコンサルティングを担当する石井 一
ではあるが、融合や連携、
あるいは棲み分
価を得ている。GoogleやFacebookは銀行
君だ。
なかでもスタートアップ企業が提供す
けにより双方の発展を促すと考えられる」
と
に準ずる免許
(e-money license)
を申請お
るサービスは、顧客満足の視点から金融
石井は指摘する。
(宮野氏)
されると宮野氏は言う。
コストをかけて導入さえすれば、業績が好
転するという楽観視は、効果につながりにくい。
「目的を明確にし、
さらに目的に到達するための過程となる指標(KPI)
を定めること
が必要だ。
そのためにもデータ分析は重要な要素である」
と宮野
氏はアドバイスする。
10
進化する金融ビジネスモデルに
新世代のデータ分析
TERADATA Magazine Japan Special Edition Q2/2016
11
日本の金融機関が誇る、
信用というブランド
フィンテック企業が開発した
力と、その信用に基づいて蓄積した顧客
革新的な商品やサービスとの融合
データの規模は絶大である。
さらに日本で
フィンテック企業は、
ビッグデータやその
は銀行法をはじめ、
金融関連の厳しい法規
分析技術の活用により新たな金融商品
制が異業種の参入に対し高い障壁を築い
やサービスを開発する。
これらと金融機
ている。
フィンテック企業の柔軟性をもってし
関がすでにもつ商品を融合させること
ても、金融業務のコアな領域に容易に参入
で革新的な商品開発を実現する。
できるものではない。
欧米のフィンテック先進国においても、新興
インターネット経済の取り込み
企業が勢力を伸ばす主な領域は、
コア業
フィンテック企業はネット上にバーチャル
務の周辺部。見方を変えれば、
既存の金融
な経済圏を構築する。
これをリアルな金
機関の手当が不十分な領域といえる。
その
融市場と融合させ、
市場の拡大を図る。
周辺領域において、IT技術に強みを発揮
データサイエンティストの第一人者から見た
金融ビジネスにおけるアナリティクスの重要性
フィンテック企業の多くはインターネットを
金融ビジネスモデルが大きく変化している。
「フィンテック」ブームが
ベースにサービスを提供し、
データ分析を
競争の源泉とする。それらはテラデータが
創業以来取り組んできた領域でもある。人
新たな顧客層の流入
客の利便性向上につながる。金融機関が
今後、
「ミレニアル」
と呼ばれる、生まれ
ブランド力を損なうことなく新たな収益モデ
た時からインターネットを使って育った
ルを考えるならば、
「フィンテック企業との融
世代が客層となる。利便性の追求を第
合・連携を目指すべき」
(石井)その道は、
一義とする新顧客層に、
フィンテックを
ビッグデータとフィンテック企業を成長戦略
通して接点を作ることができる。
に盛り込む国の方針とも合致する。
フィンテック企業と金融機関は、IoT、
デジタ
ルマーケティング、
ビッグデータなどのデータ
活用の領域で、双方の融合・連携を促すと
考えられる。
その際、既存の金融機関が主
フィンテック企業との協業は、単なる顧客満
導権を握るためには、
フィンテック企業が得
足の向上にとどまらず、金融機関に次のよ
意とするビッグデータや分析手法を、
自らの
うなメリットをもたらすと考えられる。
強みとその背景にあるデータ分析に取り込
んでいくことが不可欠である。金融機関は、
いままでなかった顧客満足の補完
これまで取り組んできたデータ活用の延長
フィンテック企業によるサービスが、顧
線に、現在着目していない大量のデータ
客満足度の低い領域を補完すること
(フィンテックではそこに着目している)
や新
で、金融のマーケットに新たな広がりを
たな分析手法を載せることで、すでにもつ
期待できる。
強みを拡大できる。
到来する中、金融とデジタルの垣根はかつてないほど低くなっている。
アクセンチュア 工藤卓哉氏。今回、
その重要性を語ってもらった。
想ではないが、
コストやテクノロジーの限界
によりこれまで成し得なかった。
それが今日
独壇場だった市場で拡大する
フィンテックの新勢力
金融市場で勝ち残るのは
アルゴリズムとアナリティクスの勝者
歩に伴うデータ収集と保存能力の向上、機
2015年はフィンテック元年と呼ばれている。
アク
現在フィンテックの主役は、
ITベンチャーだ。従来
得意とする事業者を選択し、
そこに投資するとい
センチュアが同年11月に発表した調査結果でも、
の金融手法をもつ銀行や証券会社、
保険会社な
う共存の仕方もある。
もちろん、
自社で対応できる
械学習など分析能力と分析結果をビジュア
アジア・パシフィック地域におけるフィンテック投資
どは、
これを迎え撃つ勢力図としてよく描かれる。
技術をもちたいのであれば内製してもいいが、
人
ル化して直感的に理解できるようにした分
額は急増しており、
それを裏付けている
(図1)。
しかし、
結局のところ、
「実ビジネスではデジタル技
材の採用、育成含めて、すべて自前で対応する
このグラフで、2015年の約35億ドルは1月から9月
術を活用し、
より良いサービスを提供できた方が
のは、
スピード感がなく現実的ではない」
までの実績のみ、9か月間の投資額だけでも、
勝者になる」
というのが、
工藤氏の考えである。
これまでのように各金融グループ内での統廃合
2014年の約4倍に達していることがわかる。
この
「たとえば、
ゲートウェイ
(接続ポイント)
を押さえた
にとどまらず、異業種と連携して新しいサービス
傾向は今年も継続すると予想されるが、重要な
者が多くの顧客タッチポイントを獲得でき有利にな
や顧客を創造することが、金融機関に求められ
のは、
投資規模のみならずその中身や、
この動向
りますし、一方、
サーバー側においては、
いかにし
る。肝心なことは取引データだけでなく顧客の
が金融ビジネス全体にもたらす構造的変化であ
てサービスの差別化につながるアルゴリズムを構
いま が分かるWebやモバイルアプリケーション
る。
アクセンチュアで日本のアナリティクス部隊を
築できるかが重要。
既存の金融機関とフィンテック
のログなど様々な「 生きた顧客データ の収集と
に至り、計算機能力の向上によるデータ処
析ツールの発展、
そしてそれらを駆使してビ
ジネスに活用するノウハウの蓄積などによ
り、大量のデータを分析して活用することに
新たな価値を創出するとともに、使い勝手
の良さも実現した。
その過程は、
テラデータ
の歴史と軌を一にする。
金融機関もビッグデータを事業展開に活用
できる時代となった。欧米の金融機関では、
できると考える。例えばデジタル事業を、
金融機関
がすべて自前で対応するのではなく、
デジタルを
率いる工藤 卓哉マネジング・ディレクターは、
フィン
事業者は、
とにかくアルゴリズムを活用したサービ
分析、そしてその結果を次のビジネスに活かす
テックの投資先セグメント
(図2)
に注目し、
「 決済
スの勝負をすることになる。
その点で、
(アルゴリズ
道筋をつけること」
(工藤氏)
だという。すでに通
すでにマーケティングに活用し、
新たな顧客
や融資など、従来銀行が独擅場としてきた業務
ムを構築するための)
アナリティクスの重要性がこ
販業のリコメンド(お薦め商品の提案)や外食業
に、異業種の参入が進みつつある。既存の金融
れまで以上に増すだろう」
(工藤氏)
という。
の出店計画に顧客データが活用されるように、
金
を生み出している。
リスク評価や不正検知
機関は、
フィンテック拡大に何らかの対応を決断
さらに、ゲートウェイに接続するモバイルアプリ
融機関にも、
アナリティクスを駆使して適切なタイ
すべき必要がある」
と語る。
ケーションの使い勝手も重要だ。
たとえば、
顧客の
ミングで適切な提案をする 攻め の意識が求め
金融ポートフォリオが分かりやすく可視化され、
そ
られる時代になっていると言える。
の分野でもより一層活用されるだろう。
デー
タ活用によるサービス向上と新たな収益モ
デルの構築に、
テラデータのソリューション
やコンサルティングサービスなどを活用して
いただきたい。
図1
アジア・パシフィック地域における
フィンテック分野への投資の上昇傾向
投資額
(百万ドル)
案件数
(件)
4000
$3,464
3000
122
117
本記事は2016年3月に日本テラデータが開催したメディ
アワークショップの講演内容を基に構成したものです。
2000
1000
81
21
10 $149
$103
2010
案件数
(件)
2011
47
$399
2012
図2
$879
50
2013
2014
2015
投資額
(百万ドル)
アジア・パシフィック地域における
セグメント別のフィンテック投資
ウェブサイトのアクセスログ、コールセンターの音声デー
き審査していた。これに犯罪捜査などで効果を発揮してい
タ、スマートフォンなどから取得する場所情報などのモバイ
るが、高コストにより活用できなかったネットワーク分析と
ルデータなど、各種のデジタルデータから、人の行動パター
いう手法を、ハード・ソフト・ネットワークの普及の後押しに
ンや関心・嗜好を分析し、住宅ローンへの関心が高い顧客に
より導入。膨大なデータを機械学習させ、不正検知率を2倍
のみ、
タイムリーに商品を紹介するとともに、成約の可能性を
に高めた。
あらかじめ判断する。膨大なデータを瞬時に集計・分析し、そ
の結果を担当者に返せるようになったことで実現した。
決済
融資
資産管理
リスク・セキュリティ
保険
その他
150
$434
出展:アクセンチュアによるCB Insightsデータの分析
個人向けローンのマーケティング
200
100
2015年の合計案件数:122件
2%
2%
16%
40%
16%
24%
「その他」
は、会計・財務、それ以外の分野を含む
出展:アクセンチュアによるCB Insightsデータの分析
12
デジタルコンサルティング本部
Accenture Data Science Center of Excellence
北米地域統括 兼
アクセンチュア アナリティクス 日本統括
マネジング・ディレクター
スに活かす考え方自体は、決して新しい発
金融機関のビッグデータ活用例
従来は請求があった案件のみを、過去の不正事例に基づ
工藤 卓哉 氏
の活用」と話すのは、
データサイエンティスト第一人者として活躍する
0
保険料請求の不正検知
アクセンチュア株式会社
この状況下で「金融ビジネスに必要なものは、アナリティクス
(分析)
やモノに関する多種多様なデータをビジネ
理の高速度化、
センサーやネットワークの進
するフィンテック企業と協業することは、顧
フィンテック企業との協業で
主導権を握るために
金融機関のこれからの
データ活用を支援
0
の顧客にあった金融商品の提案ができているこ
となどが必要になる。
ここでも、
蓄積された詳細な
足元を固めてこそのイノベーション
顧客データを活用したアナリティクスが差別化要
デジタル技術は、
フィンテックという新勢力を生ん
因となる。
だだけでなく、銀行本来の業務も変えるチャンス
アクセンチュアでは、金融機関がこうした総合的
でもある。
な仕組みを構築するのを支援している。2013年
アクセンチュアとMIT(マサチューセッツ工科大
にデジタル領域の事業を統合したアクセンチュア
学)
は共同で、
振り込め詐欺の抑止モデルなど社
デジタルを発足させ、
工藤氏が率いるアナリティク
会的な影響が大きい不正を防ぐことを目的に、
AI
ス専門集団に加え、
モバイル活用の専門家、
デジ
(人工知能)
やアナリティクスの活用法を研究して
タルマーケティングの専門家がタッグを組み、企
いる。
ここで求められるのも、膨大なデータをリア
業がデジタル時代の新たなビジネスモデルを実
ルタイムに分析し、
その結果を活かすことだ。
「データの分析と評価を月次から日次に変えるだ
現する支援をしている。
外部との連携による共存共栄の道
けで大きな変化が起こることは、
すでに私どものお
客様である金融機関で実証されている。
果たして
既存の金融機関とフィンテック企業の共存共栄
現在、何行の頭取が日次の推移を把握できてい
の道も、
工藤氏は示唆する。
るか。金融機関の内部でもやるべきことは山積し
「多くのスタートアップ系フィンテック事業者は、従
ている。
フィンテックへの対応と併せて、足元を固
来の枠を超えた新規性やイノベーションに富む反
めていく支援も行い、
金融機関のイノベーションを
面、規模が小さく、事業のスケール化という点で
サポートすることが我々の仕事」
と工藤氏。金融
課題を抱える。
また、
クレディビリティ
(信頼性)
やセ
業界が、
次の発展を保証してくれる正解を持たな
キュリティの面でも、
既存の金融機関が優位。
そう
い過渡期を迎えていることは間違いないが、
アナ
した点を互いに補完し合えば、両者は共存共栄
リティクスは確かな足がかりになりそうだ。
TERADATA Magazine Japan Special Edition Q2/2016
13
SPEC I A L SEC TI O N
進化する金融ビジネスモデルへいかにして対応するか?
ANALY TIC S OF
地方銀行
あり、
ビジネスプロセスのリエンジニアリングが必要そうだ。
「端的に言えば、
バックオフィスの低コスト運用を実現することが必要
フィンテック時代に何もやらないという選択肢はない
規制緩和やマイナス金利などの国内事情に加え、
金融+ITの申し子
であると認識している。
そのためのソリューションを、
各金融機関の戦
略に合わせて提案している」
(小松氏)
という。
として現出したフィンテックは、
従来の金融の枠組みにないIT業界が
担い手の中心となって、新たに金融事業を展開。
日本の金融市場に
も低コストと手軽さが受け、浸透始めてきた。
こうした状況に対し、
「フィンテックの潮流を脅威とだけ位置づけたり、
あるいは背を向けた
りせず、多様なテクノロジーを取り入れて金融事業を変革するきっか
けと考えるならば、
この流れは、
日本の金融機関が変化する絶好の
クレジットカード
チャンスになる」
と、
有力な地方銀行のITシステム構築と運用に実績
のあるNTTデータフォースの代表取締役社長 小松正人氏は語る。
そのためフィンテック関連も含めた使えるテクノロジーの積極的な活
用を考え、
自行になければそれを持つ企業と提携や連携していく判
断を金融機関が行うことが重要であるという。
「地方銀行も何もやら
増加の一途をたどるクレジットカードの不正利用
ないという選択肢はない」
(小松氏)
。
昨今の日本の金融市場では、少額・多件数のリテール・バンキングが
ネットショッピングでの利用増加もあって、
クレジットカードの不正利用も
辿る。
地方銀行も、以前からトップライン
(経常収益)
を伸ばすために、ITを
2006年あたりから急増している。
クレジットカード発行会社の経営を
マーケティングに活用している。MCIF(マーケティング用の顧客情報
左右するほど、被害は、深刻化している。
もちろん各社何もしていな
データベース)
を活用したイベント主導型マーケティング
(EBM)
が代
いわけではない。今までの不正防止策だけでは、防ぎきれなくなって
表的だ。小松氏は「金融機関が 受けの姿勢 で業績を伸ばせる時
いるのだ。不正検知システムのコンサルティングを行っている日本
代は終わっている。地方金融ならではの使い勝手を高め、
かつその
NCRのシニアコンサルタント 佐藤裕俊氏は「犯罪の手法も日進月歩。
使い勝手の良さをOne to Oneで直接お客様に発信できる仕組みを
大量の事例を蓄積して対策を考案する、従来の手法では追いつか
構築していく必要がある」
と強調する。
日本においては、既存の金融
ない」
と警鐘を鳴らす。
機関に対する安心感が強いことから、
その信頼に応えるためにも、
てもユーザーエクスペリエンスを大幅に改善していくことが重要」
(小
犯罪パターンの変化に対応する
スピーディな不正検知
松氏)
で、
究極的には「スマートフォンで窓口と同じ体験
(手続き)
がで
クレジットカードが不正に使われるケースは、盗難や紛失によりカード
き、
かつ、
どのチャネルでもパーソナライズされた便利さや、
その金融
自体が犯罪者の手に渡る、
カードから決済に必要な情報を抜き取る
機関ならではのベネフィットを提供できなければならない」
と続ける。
スキミング、
ネット上でカード情報がハッキングされるなどが主なもの。
このような顧客との多種多様なチャネル・コミュニケーションを統合す
さらに、
カードで買い物ができる加盟店が不正に関与するケースも
るオムニチャネル戦略を強化し、
トップラインを伸ばすためには、顧客
加わる。
「今後は窓口やコールセンターだけではなく、
スマートフォン上におい
一人ひとりのニーズを理解し、
マーケティングを展開することが極めて
通常、
不正検知はあらかじめ定めたルールを適用し、
不正を割り出し
重要といえ、
EBMで活用している金融取引系のデータに加え、
対面
ていた。
しかし多種多様化した不正の手口に対応する膨大なルール
IoTを有効活用する方法
IoTがずば抜けた新たな分析、
洞察、
利益をもたらす。
by John Edwards
での交渉履歴やインターネットバンキングでの閲覧履歴、
コールセン
の策定は担当者にもシステムに負荷が高い上、
ある程度自動化でき
ターでのやり取りなどあらゆるデータを集め、分析することで顧客一
たとしても抜け道も多い。抜け道ができてしまう理由は、
頻度確率によ
IoT(モノのインターネット)
によって、企業は
年には250億個に達するであろうと予測し
「生活のあらゆる面でIoTの影響を受け
人ひとりの行動やニーズを可視化していく必要が大いにありそうだ。
り不正利用のパターンをモデル化するからであるという。
このモデル
ハイパーコネクトな世界へと押し出された。
てる。
ネットに接続され相互作用する、
人、
企
ないものなど、
もう考えられない」
と、米国
では、
ある程度データが蓄積されないと精度が上がらない。
「NCRで
そこには利用可能なデータがかつてないほ
業、
マシン、
センサーが増えるにつれて、新
アクセンチュアでシカゴを拠点に活躍する、
ど大量に存在し、
あらゆる関心分野につい
たなタイプのデータが生成されるようになる。
デジタルアナリティクスのマネージング・ディ
ての洞察をかつてないほどの高精度で獲
かつてこれほどの機会が訪れたことはな
レクター、Paul J. Kruk氏は述べる。
得できる。
かった。
つまり様々なソースから発生する大
Gartnerは、2015年1月のニュースリリース
量のデータを統合し分析することによって、
あらゆるデータを分析する
「Analytics of
Everything(AoE)」の世界にようこそ。
ボトムライン を改善する
プロセスのリエンジニアリングも
14
成長著しい。同時に、不正決済の被害件数と金額も増加の一途を
トップライン を伸ばすために
マーケティングを強化すべき
は、
ベイジアンモデリング
(ベイズ確率)
を採用した「Fractals」で、
他の
理論に基づくモデルに比べ、不正検出率を大幅に向上させている」
とはいえ低金利時代にあっては、
「トップラインの伸張にも限界があ
(佐藤氏)
という。実際にある金融機関でベイジアンモデリング
(ベイ
る」
と小松氏は指摘。融資と預金の金利差で収益を上げるビジネス
ズ確率)
により他のモデルと比較して、不正検出率を47%から87%に
モデル自体が成り立たない時代になり、
しかもフィンテックの領域では、
向上させ、誤検知率(正しい利用を不正と判断してしまう率)
も改善
貸したい人と借りたい人を低コストで直につなぐ手法が現実化してい
することを実証したという。様々な分析手法を駆使することで、
データ
で、
ネットに接続された「モノ」の数が2015
すぐにでも使える洞察を生み出せる可能性
る。
つまりトップラインを伸ばすとともに、
ボトムラインの改善も不可欠で
からより多くのことを知ることができるのだ。
年には前年から30%上昇して49億個、
2020
が非常に大きくなっている。
TERADATA Magazine Japan Special Edition Q2/2016
15
データから価値を獲得する
分析はさまざまな「スマート」デバイスに投
する要素である。IoTでは、単にマシン対マ
めているのは、
以前は独立していたジェット
・
入でき、
それらのデバイスに人間の介入な
シンのインタラクションが行なわれるだけで
エンジンから自動販売機にまで至る各種の
しで利用者のニーズの予測や対処をさせ
あるが、AoEは、以前は不可能であったレ
モノや、
モバイル決済サービスの利用のよう
ることが可能である。例えば、サーモスタッ
ベルの高精度かつ大量の洞察をもたらし、
な人々の行動がすべてつながるようになり、
ト、洗濯機、冷蔵庫などの次世代の家電製
人が次の行動を起こしたり、
より良い決定を
潜在的に洞察に満ちた新たな情報が膨大
品には、家人の行動を学習し、
自動調整を
下すことを可能にする。
同時に、
人の動き̶
に生成されているという事実だ。
「分析とは、
しながら同時に省エネもすることで利用者
私たちの心臓の鼓動までも̶をIoTの中に
データに意味を与えることである」
と、
市場調
のニーズを満たすことができる。
送り込んで広範囲の分析に利用することも
査会社Ventana Researchでビジネスアナリ
データの収集と分析は、一部のプロセスや
可能になる。
ティクスを担当する副社長兼リサーチ・ディ
意思決定が自動で行なわれることを可能に
レクターのTony Cosentino氏は述べる。
するが、
AoEで大きく異なる点は、
人が介在
昨今のアナリティクス
(分析)革命を推し進
センサーデータに他の情報を統合して
新たな洞察を獲得
一部の業界は、自動化や遠隔制御
オフィス勤務の人たちは、センサー
の用途で「スマート」デバイスや組
のデータを他の情報と統合して分
み込みデバイスを10年以上前から
析し、現場で起きていることに対し
利用している。例えば、石油・ガス業
て理解を深め、対処が必要な場合
界では、人が安全に働ける現場への
には、十分な情報に基づいて、
とる
改善、環境へのリスク低減を目標に
べき処置を決定することができる。
IoTデータが活用されている。
この目
センサーデータ単独では測定値が
標は、水中の設備やパイプラインの
示しているのが潜在的問題なのか
点検と監視にダイバーの代わりに
真の緊急事態なのかが意思決定者
遠隔操作探査機(ROV)を使用した
にわからない場合がある。
しかし、
り、漏れや汚染を検査するモニター
センサーデータを特定の部分の履
システムを導入したりすることで実
歴データや他の油田からの情報と
現されている。
共に統合して分析すれば、事象への
この業界では、水中の圧力、温度、水
理解を深めることができる。予測、
流、設備状態その他に関するデータ
計画、財務およびロジスティクス情
を現場から送信するセンサーも導
報などの他のデータを追加すると、
入されている。センサーとウェブカ
センサーデータに文脈が生まれる。
メラで、遠隔地のオフィスで仕事を
そこで分析者は、パターンや異常値
している人たちは洋上基地や地下
を発見し、ガス・石油操業の全体像
数マイルの地点の状況を把握する
を把握できるようになるのだ。
ことができる。
インタラクションと変革
IoTの活用は拡大しているが、そこには
うことを指摘している。
「分析にフィルタリン
あり、
製品デザイン、
サプライ・チェーン業務、
データをすべて抽出して利用するという課
グをきめ細かく適用すれば、企業はデータ
新たな顧客の収益性などを短期間で発展
題が残っている。今や生成されている情
全体を捕らえることができるだろう」
と、述べ
させることができるだろう」
と述べている。
報があまりにも多いため、膨大な量がエン
ている。それでもなお、分析フィルタを適切
「例えば、通信会社の場合、
ネットワークの
ジン排気のように漏れている。McKinsey
に設定するためには、
企業は自分たちが一
パフォーマンスが顧客の維持/離反の一因
& Companyの調査によると、一般的な石
体何を探し求めているのかを認識する必
となっていることが立証される前は、
ネット
油掘削装置1台に搭載された30,000個の
要がある。
ワーク業務の部外者は誰も、携帯電話網
センサーから生成されるデータのうち、利
適切なデータを活用すれば、
ビジネスチャ
が原因の『異常な終了』
など気にしていな
用されているのはわずか1%で、それさえ
ンスが生まれ、市場が変わる可能性があ
かった」
とMyers氏は指摘する。
「しかし、
最適化や予測、
データ主導型意思決定の
る。ITおよびデータ管理関連の調査、業
通話が切断されてしまうことを理由に顧客
ためには活用されていないという。
界分析コンサルティング会社Enterprise
が解約していることに顧客ケア部門が気付
注目すべきは、
その例が決して際立ってい
Management Associatesでビジネスイン
いてからは、
ネットワーク品質の情報が顧客
るわけではないことである。Cosentino氏
テリジェンスを担当するマネージング・
リサー
情報に追加されるようになり、顧客離反の
は、使用可能なデータにはほぼ必ず、何の
チ・ディレクターJohn L. Myers氏は、
「確固
候補者を判別できるようになっている」
価値もない無関係の「ノイズ」が一定量伴
たる戦略を持った企業では、
情報に厚みが
世界中にあるすべてのデータは、
結果として何らかの行動を引き起こすまでは意味を持たない。
データの収集は、
最終地点ではなく、
ほんの一歩に過ぎない。
テクノロジー市場調査会社 Ovum Software Group
主任アナリスト Gary Barnett氏
16
TERADATA Magazine Japan Special Edition Q2/2016
17
分析主導型の意思決定
(自動車メーカーのケース)
ある自動車メーカーの分析担当者は、月次トレン
ド・レポート作成の際、
保証コストが増加しているこ
とに気が付いた。そこで、その問題を深く掘り下げ
るため、保証に関する詳細な情報を調べたところ、
バッテリー交換のコスト急増が発覚する。
その 原 因を探るた め に、次 に大 量 の 車 載セン
常に最終目標を
意識すること
サー・データを保証、整備記録、車両登録番号など
のビジネス・データと組み合わせて分析した結果
には、特定のバッテリーが過熱していたことが示
された。次のステップは、
どの車両に当該のバッ
テリーが搭載されているのかを突き止めること
SIEMENSはテレマティクスデータで
鉄道の運行と信頼性を改善
データの分析は、
最終的にはその活用者に利益をもたら
だった。そして、車両の所有者が問題を報告して
せるように行なう必要がある。
そのためには、
目的を持っ
きていない場合も対象に含め、該当する全車両を
てデータを収集し、
情報を活用し、
データを時間やお金が
列挙したレポートを作成した。
節約できる便利なものへと変えることが必要となる。
さらに厳密な調査を行なったところ、その問題は
「世界中にあるすべてのデータは、
結果として何らかの行
特定のバッテリー組み立て工場の1つのロット番
動を引き起こすまでは意味を持たない。
このことに注意し
号に分離できることが判明。そして、センサーの生
なければならない」
と、
テクノロジー市場調査会社Ovum
データにビジネスデータを追加して分析すること
のSoftware Groupで主任アナリストのGary Barnett
により、
リスクのあるバッテリーは、バッテリーの
氏は述べている。
「データの収集は、最終地点ではなく、
ロット番号、車両所有者の所在地の温度、バッテ
ほんの一歩に過ぎない」
という。
リーの正常温度範囲などのいくつかの要素に基
「収集できる可能性のある新たなデータだけに焦点を合
づいてさらに数量化されていった。
総合エンジニアリング企業として有名な
損する前に修理できるようにするために
わせるのではなく、
どのような決断を下すべきか、
どう対処
グローバル企業Siemensは、テレマティ
はどうすべきかを把握するために、関連
このような深い洞察に基づき、この自動車メー
するのかを重視しなければならない」
と、
コンサルティング
クスと列車搭載センサー数万個から生成
性のあるさまざまな構成部品を調べる
カーでは、十分な情報を得た上で業務上の判断
会社Decision Management SolutionsのCEOである
されるデータを利用して、部品の故障を
分析を行っている」
を下すことができた。そして、即時のリコールが必
James Taylor氏は助言する。
「IoTの流行的な側面に
予測し、信頼性を高め、列車を予定どおり
機械学習により、Siemensのデータサイ
高速列車と夏季にスペイン全土を走行
要なバッテリーはどれか、次回点検時の交換で間
気を取られ、
利用できないデータを大量に収集してしまい
に走らせている。
エンティストとエンジニアは、誤検出を迅
する高速列車を対比させ、故障する可能
に合うものはどれか、監視が必要なものはどれか
がちだ。
IoTが今後どのようなものになっていくのかに注目
速に特定し、部品の故障をさらに正確に
性がより高い部品を見分けることに活用
を判別したのである。
するのは構わないが、今必要な意思決定を推進するた
「一つはっきりしているのは、お客様が必
予測することができるという。
アラームは
している。それに基づいて修理の計画を
一式のデータだけが使われていたとしたら、
この
めのデータの収集と分析に力を注ぐことが重要である」
要とする時にはいつでも確実に車両を
正しく作動するよりも間違って作動する
立てることが可能になっているという。
会社がリコール対象にするバッテリーの数は遥か
利用できる状態にすべきであり、車両を
ことの方が多いため、同社では、作業指
Siemensは、人々がマドリード-バルセロ
故障させてはならないということである」
示、連番、列車および運行データの履歴、
ナ間の移動に選択する交通手段を変え
と、SiemensでMobility Data Services部
診断情報、センサー・データ、修理過程、
た。以前は、旅行者の80%は飛行機に
門のディレクターを務めるGerhard Kress
サプライ・チェーン・データを調べること
乗っていたが、現在では、Siemensの高
氏は述べている。
「それこそ、私たちがま
で、部品が本当に故障している状態の特
速鉄道が速度と信頼性を高め、列車で
さに行なっていることである。私たちは、
定と修理に役立てている。Siemensでは
の移動における遅延の発生が2,000回
部品がどのように劣化していくのか、故
気象情報も活用しており、冬季にモスク
に1回にまで抑えられたため、飛行機を
障のリスクはあるのか、そして何かが破
ワ-サンクト・ペテルブルク間を走行する
選ぶ人はわずか30%になっている。
18
に多くなっていただろう。
しかし、センサーデータ
とビジネスデータを併せて分析したことがより良
い戦略策定につながり、費用を節約し、対応すべ
き顧客の数を抑え、
リコールの影響を受ける車両
所有者に積極的に対応することができたのだ。
TERADATA Magazine Japan Special Edition Q2/2016
19
データを活用する
新しい方法
IoTが絶え間ない拡大を続け、
あらゆるビジネスや
市場、消費者に影響する変化をもたらしている中、
新たな方法でデータを測定および加工してビジネ
ス価値を実現するためには、
「すべてを分析するこ
と(AoE: Analytics of Everything)」が必要とされる。
最新のデータがつながれば、新たな洞察が引き出
され、行動に対する理解がさらに深まる。
AoEは、人をビジネスプロセスの一部とする点が
ユニークである。分析から得られた洞察を確認し、
今こそが未来
AoEによって実現する変革は、製品だけでなくバリュー
チェーンやプロセスにも影響を及ぼす可能性がある。つ
まり、
AoEを実践すれば企業は競争優位に立つことがで
き、
そのような機会を掴むことが企業にとって必要不可欠
となっている。Cosentino氏は、
「AoEの活用次第で、確
実に競争優位性が生み出される」
と述べている。
「テクノ
ロジーによる差別化は、
市場の成熟に応じて重要度が増
すことも忘れてはいけない」
Barnett氏は、IoTのデータを十分に活用する能力が非
常に重要であると指摘している。
「待っていてはいけな
い。分析を今日実施しなければ、
明日にはビジネス界にい
られなくなるかもしれないのだから」
IoTで変わるデータ活用
IoT時代には
リアルタイムの 見える化
タの見える化はまだ途上にあるという。
例えば製造現場では、生産量、不良数の割
データは蓄積と分析により
価値を高める
あらゆるモノがインターネットでつながり、
モバ
合といったデータが、一日を終えた段階でも
データの見える化が進めば、蓄積したデータ
イルデバイス、
パソコン、
センサー、
タグなどの
見えてないケースが多い。
リアルタイムな見え
の価値も高まる。大きな傾向を探ることや、根
その上で適切なアクションをとることができるよう
各種装置から多様なデータを収集することで
る化ができれば、生産量の予測値と実測値
本的な課題を抽出することは、貯めたデータ
になる。AoEは、企業が大量の情報をリアルタイム
John Edwards氏は、
実現するIoT。すべてをデジタル化すること
を、現場で比較しながら操業させることも可
を分析してこそ可能だ。先の例でいえば、
ト
やニア・リアルタイムで精査することも可能とす
20年以上ハイテク業界を取材している。
る。データが生成されるのに応じて分析できるよ
うになることで、予測が正確になり、
どのデータ・
セットに最も高い価値があるのかを迅速に特定す
ることが可能となる。
「何百羽ものペンギンがいて、その中の1羽だけが
パーティー用の帽子を被っているとする」 テクノ
で、いま起きていることをリアルタイムに把握
能になるだろう。
ラックの配車データを蓄積することで、
ベテラ
し、
分析・改善につなげられるようになった。
物流の現場では、車載センサーやドライバー
ンと新人のルートを比較して最適ルートを探
「従来のBI(ビジネス・インテリジェンス)
とIoT
のスマートフォンから位置情報を集め、
トラック
り、
コスト削減や物流量の増加につなげられ
時代のBIの違いは、
リアルタイムの 見える
が走ったルート情報を地図上にマッピング
(図
る。
また、来店者の性別、年齢層変化を見つ
化 にある。
つまり、
いま流れてきたデータや変
1)
し、見える化ができる。
これにより各車の位
つ、
タイミングを計って店内放送を流すなどの
化を即座に見られるようになったことで、現場
置情報を把握し、保安要員の配置や突然の
広告宣伝を実施したり、来店者のデータと購
でのデータ活用がさらに広がるだろう」
と語る
集荷依頼に対応することが可能になる。
買データ、天候などの外部データを合わせて
のは、国内BI市場でシェアトップ(出荷本数
また、
流通小売りでは、
店舗に設置したカメラ
分析することで、店舗に応じたキャンペーン
ロジー市場調査会社OvumのSoftware Groupに
ベース)
のウイングアーク1s
tのGTM推進部
の映像データから来店者の性別、年齢層な
計画の立案に活用できる。
おいてロンドンを拠点として主任アナリストを務め
副部長 大畠幸男氏。
どを特定し、
その変化をリアルタイムにビジュ
同社マーケティング部 部長の深尾茂氏は「リ
アル化(図2)
し、今どのフロアにどういった客
アルタイムのデータを受け取り、見たい人に
るGary Barnett氏は、
このように例えている。
「その
1羽のペンギンを見つけるということは、そのペン
ギン固有の特徴点が分かるということである。そ
れを発見することが、差別化を図れる点である」
本記事はTERADATA Magazine 2016年第1四半期号に掲載
された記事の日本語訳です。
This article was originally published in the Q1 2016 issue of
TERADATA Magazine.
リアルタイムな 見える化 が
データ活用を促進する
層が何名いるか把握し、接客対応に活かす
ダッシュボード的に情報を提供すると同時に
こともできる。
データを貯めていく。蓄積したデータは時間
「当社が見える化のツールとして展開する
データの見える化は、各担当者の仕事に対
をかけて、
さまざまな分析に活用することが理
『MotionBoard』
も、
データを現場でビジュア
する意識を高める。
これを基盤としてPDCA
想的だ」
と語る。
データをリアルタイムに見て、
ル化することを第一の目的としている」
(大畠
サイクルをまわすことで、
実態に即した業務改
貯めて、分析して次のビジネスにつなげるな
氏)
こうした見える化ツールにより、現場主導
善をスピーディに実現できるだろう。
ど、
多面的に活用することこそが、
データの価
でデータを活用する環境や仕組みづくりを進
値を最大限に高めるといえるだろう。
めることが、
IoTを効果的に活かすことになる
だろう。
しかし、現実には、現場におけるデー
図1
20
図2
TERADATA Magazine Japan Special Edition Q2/2016
21
INTERVIEW
アナリティクスの潮流
クラウド時代のアナリティクス
クラウド時代はデータの集約が課題
多様なクラウドサービスの充実に伴い、多くの企業がクラウド化を推進している。
AI時代のアナリティクス
AIがアナリティクスを効率化する
コンピュータが囲碁のプロ棋士に勝利し、AI( 人工知能)やその要素技術となるディープ
ラーニング
(深層学習)
に注目が集まっている。
それは基礎研究にとどまらず、
ビジネスにおい
ても注目されている。AIをはじめとする最新技術のビジネスへの活用についてコンサルティン
グを行っているクニエのディレクター 井出昌浩氏は、
「新しいサービスやビジネスの創出など
「同じ企業内であっても、
各部署が個々に業務に即したクラウドサービスを導入して
にアナリティクスの活用は重要であるが、
データサイエンティスト不足など課題がある。AIや
いるケースが多い。
それぞれ推奨するプラットフォームが異なるため、
データの分散
ディープラーニングはこの課題解決に役立つだろう」
と指摘し、活用例として2点を挙げる。
が進んでいる」分析システム構築で多くの実績を持つシステムフロンティアの上釜
一つは従来、
データサイエンティストが手がけてきた分析モデルづくりをAIが代替するこ
隆志氏は課題を指摘する。
と。
「最近はAIを使って分析モデルを量産したいというニーズが増えてきた」
(井出氏)
と
全データを同一のデータウェアハウス
(DWH)
に集約することが理想だが、
技術的
いう。
アナリティクスを活用して効率的にビジネスのPDCAサイクルを回すためだ。
もう一
課題やコスト面の制約から実現に至っていないのが現状。
「これを簡単に解決する
つは、
データの前処理。IoTを使って集められた多種多様で膨大なデータを分析する
ソリューションはまだない。
今後、
新たにクラウドサービスを導入する際は、
将来データ
際、
分析で利用できる形に成形する作業が煩雑になっている。AIを活用し前処理・加工
を分析のために集約することを想定した上で、
サービスを取捨選択するべき」
(上釜
をすることで、
この処理を
「劇的に短縮」
(井出氏)
することができる。
いずれも、
すでに実
氏)
逆を言うと、
データをデータウェアハウスに集約できている企業はそのデータを活
行可能な域に達しつつあるという。
用し、
競争で優位に立てる可能性が大いにあると言える。
クラウドでレポーティングだけでなくデータを集約してアナリティクスを
AI時代でもデータの蓄積は競争優位の源泉
のリアルタイム分析を意味し、
データの蓄積は不要になるだろうか?この疑問に対し、
井出
成されたデータを活用できる可能性は広がった。
ただし、
そのメリットを十分に活用
氏は「あらかじめつくったモデルを使い続けられる、
環境変化が少ない業務であれば、
可
できている企業は少ない。
「BIツールやクラウドサービスの標準BI機能によってデー
能かもしれない」
と語る。2020年の実用に向け、
AIを使った自動運転の開発が進む自動
タを集計して可視化するところまでは実現していても、
ビジネス戦略立案は経営者
車は時々刻々と流れ込むストリーミング
(センサー)
データをリアルタイムで分析し、
自動運
の勘や経験に頼っているというケースが今なお多い」
(上釜氏)
という。
転に必要な判断をする必要がある。
一方、
例えばエンターテイメント業界や流通業界は、
データを集約することができれば、
そのデータを分析し、
自社のビジネス状況や市場
常に変化する顧客の嗜好を把握、
予測し、
新しいビジネスモデルを構築し続けなければ
を理解できる。競争優位性を確保するためには、
データ分析に基づく戦略立案が
ならない。AIが分析に活用できたとしても、
データの蓄積がなければ嗜好の変化を把握
必要だ。
しかし、
そのためにはデータサイエンティストの存在が重要だと上釜氏は言
することが難しい。
「日々のコンサルティングを通じて感じるのは、
データを継続的に蓄積
う。
自社にデータサイエンティストがいなくとも、優れたデータサイエンティストがいる
することの重要性を認識していない企業がいまだに多いということ。過去に遡ってデータ
会社に分析を依頼する、
データサイエンティストが構築した優れたデータモデルを
収集はできない。
データを蓄積してきた期間や種類が、
ビジネスにおける競争優位獲得
活用できる業種特化型の分析ソリューションを活用するなどの方法がある。上釜氏
の源泉になる」
と井出氏は指摘する。
はさらに社外のデータサイエンティストやソリューションベンダーとスムーズに意思疎
AIと蓄積されたデータを活用したアナリティクスは、
これから適用範囲が広がっていくこと
通がするためにビジネス、
データ分析その両方を理解している担当者を社内に置く
は間違いなさそうだ。
「AIをすでに稼働する工場の生産ラインへの導入など、
いまある業
べきだという。
そのためには「レポーティング
(集計・帳票)
で満足している社内にア
務を単純に代替させるのは投資対効果の点で疑問。AIは、
ビジネスモデルの根本的な変
ナリティクス
(分析)
の重要性を認識させることが必要」
(上釜氏)
とのこと。
革や新しいサービスの創出などで活用が先行して進むのではないか」
(井出氏)
という。
IoTを活用する際の処理パフォーマンスに注意
企業の経営戦略におけるデータ活用の潮流は、
従来のエンタープライズBIから、
セルフ
サービスBIへとシフトしつつある。
担う経営企画セクションなどに限られていた。
こうした現状に対し、
IT部門の負荷を軽減
②ディープラーニングなどのプログラムを働かせるライブラリと分析システム
させつつ、
BIをフル活用したいというニーズが生まれ、
各現場で自由にデータ活用できる
③ユーザーが情報処理を操作するアプリケーション
セルフサービスBIに注目が集まっている。
エンタープライズBIを導入した企業も、
セルフ
現状、集められたデータは、
そのまま①のエッジから②の分析システムに送られる。
サービスBIをアドオンしようという要望が増えてきている」
とジールのビジネスディベロップ
②では分析が可能となる形にデータが成形され、
ディープラーニングなどを活用し、
メント部リーダー 小川淳一氏は現状を解説する。
ではIoTソリューションの一つとしてNTTデータと共同でスマートグラスの開発も
セルフサービスBIで解決すべき2つの問題
行っているニューソンの執行役員 横塚志行氏は、
今後のIoTの発展に考慮すべき
セルフサービスBIで大きな課題は「分析するデータの鮮度」
(小川氏)
だという。
誰でも最新
問題点を指摘する。
「今後もデバイス数が増え、
デバイスの機能や分析をより高度
のデータをスピーディに入手できる環境が整えられていないケースが少なくない。
エンタープ
化さていくことになる。
通信トラフィックや分析にかかるコストや時間の増大が予測さ
ライズBIでもデータのサイロ化などで問題になる場合があるが、
セルフサービスBIの場合
れ、
将来、
求める処理パフォーマンスが維持できなく可能性がある」
(横塚氏)
は、
それ用のデータウェアハウス
(DWH)
の構築方法や、
データ・ガバナンスの問題により最
新データへのアクセスが制限されることが原因で発生するという。
各部門がバラバラに導
入するセルフサービスBIであっても全社的な指針は必要といえる。
この問題の解決には、
「エッジがデータを取捨選択する機能を担い、
有効なデータ
もう一つは「結局、活用しきれない」
(小川氏)
ことだ。実際には、BIを導入しているのに
のみをシステムに転送することだ」
と、
横塚氏は提案する。簡単に思えるがエッジに
活用しきれていない場合とコストを投入しても
「活用しきれないのでは・
・
・」
という懸念か
データの取捨選択をさせるためには、
「有効」の基準があらかじめ設定しなければ
ら、BI導入に踏み切れない場合があるという。
「BIの活用を指南できるBIスペシャリスト
ならない。
そのためにもIoTを活用する
(IoTのデータを分析する)
目的――例えば
的な担当者がいることがこの問題を解決することになる」
(小川氏)。
ジール社では、
『 BI
現状理解か、
新たなビジネスの創出かを、
明確にすることが求められる。
「当社では
導入定着支援サービス』
によりBIスペシャリストを派遣し、
BI活用が軌道に乗るまで支援
コンサルティングサービスとしてお客様の目的の明確化を支援している」
(横塚氏)
こ
するサービスを展開している。
れはエッジだけの話ではない。
分析においても目的の明確化は重要だ。
工場の仕掛
「BIというのは、
日常的に活用する中で、各現場からさまざまなリクエストの声が上がってくる
在庫のリアルタイム把握と歩留りの改善では、
(IoTが必須かどうかも含め)必要な
ことで、
その企業ならではの 理想のBI実現 の道筋が顕在化していくもの」
(小川氏)
だとい
データの種類や分析方法は大きく異なる。IoTの活用は、
目的を実現するための一
う。エンタープライズBIでもセルフサービスBIであっても的確な分析結果を得られる環境整備
つの手段
(一つのデータの種類)
であることを改めて認識する必要があるだろう。
と、全従業員の活用推進を並行することで初めて、BI本来の真価が発揮されるのだ。
22
30%から50%改善できる。
「これまでBIを活用するのは、専門知識を有しているIT部門や、全社的な予算管理を
①デバイスやセンサーなど、
ネットワークの末端でデータと集めるエッジ
IoT活用の目的の明確化で問題を解決する
最初の1年だけでも全体的なビジネスの効率を
エンタープライズBIからセルフサービスBIへ
集め、
分析することができるIoT。
このシステムは一般に以下の3層に分けて考えら
分析、
予測が行われている。分析プラットフォームの開発で多くの実績があり、
最近
十分に利用するようになれば、
BIの現状
各種のデバイスやセンサにより収集された多種多様で膨大なデータをサーバーに
れる。
企業が自社のデータを
AIが前処理したデータをAIがリアルタイムに分析する世界。
それはストリーミングデータ
課題はあるものの、
クラウド化により様々なビジネスの情報はデジタル化が進み、生
IoTの未来
すべてを分析しよう
データが戦略資産となりビジネスを強化する、
次のステップへ
by Oliver Ratzesberger Teradata Labs プレジデント
ワークが必要になる。
識している。業務データや人の行動データ
Things)」は、
データの送信と交換を行なう
そこで重要なのが、
「すべてを分析すること
を統合する場合は尚更である。
しかし、今
モノやセンサーの巨大なネットワークを表わ
(AoE: Analytics of Everything)
」であ
やこれまで以上に、
そのような情報すべてを
「モノのインターネット
(IoT: Internet of
す言葉として使われてきた。IoTからビジネ
る。AoEは、
さまざまな意味で、
データの有
フル活用して、業務や意思決定のためのよ
ス価値がもたらされるようにするためには、
効利用という最大の挑戦、
そして機会を表
り良い、
より効率的な方法を見つけることが
スマートなネットワーク、すなわち、増え続け
わしている。
テクノロジーに最も精通した企
不可欠になっていると言える。
る人、
プロセス、
モノの数々をサポートするだ
業でさえ、
データから価値を引き出すことは
けの十分なインテリジェンスを備えたネット
困難でスキルを要するプロセスであると認
TERADATA Magazine Japan Special Edition Q2/2016
23
AoEから利益を得る
4つの方法
が不足している。
この状況は、
専門家でなく
行、
より良い意思決定、
顧客へのアピールを
ても簡単に使用できる形式やツールでデー
実現している。
良好な企業経営には、従来型のデータに
タを扱えるようにすることで変ることができ
留まらず、
あらゆるものを測定して、
ビジネス
る。
それによって初めて、大きな規模での有
の効率を改善する必要がある。企業は、利
意義な分析を達成できるようになるだろう。
用可能なすべてのデータを使用してビジネ
あらゆるレベルでの
大幅な改善
分析を幅広く応用すれば、
ビジネスにおい
対象は、
例えば水やエネルギーの使用量な
より多くのデータを分析し、
より多くの利益を享受
ルでの変化をもたらすことができる。
また、
どを含む、
データセンターの効率性から建
AoEで生まれるビジネス上の可能性は計り
AoEでは人とのつながりを見ることもできる
築費にまで至る。
知れない。現時点では、
どの産業を見ても
のだ。例えば、住宅内に設置されたスマー
企業が自社のデータを十分に利用するよう
その多くは、収集したデータのごく一部しか
トデバイスやセンサーが、私たちの行動を
になれば、
最初の1年だけでも全体的なビジ
使用しておらず、
その割合はわずか1%に
学習し、省エネを達成しながら私たちが望
ネスの効率を30%から50%改善できるだろ
留まる。
この数字を10%、20%に上げるだけ
む体験を提供してくれるようになる。
スマー
う。そのような利益を享受しようというのな
で、
どれだけの改善ができるだろう。
ビジネ
トハウスは、天候パターンを分析し、必要な
ら、
次の4つを実行すべきである。
スの効率だけでなく、
安全、
危機管理、
その
時にのみ芝への水やりをすることができる。
他の領域においても改善が可能だ。
これにより、水の使用量が最大58%削減可
現在の企業システムの多くは複雑に構成さ
能となる。
れており、
1人の人間が理解したり予測した
異なる時間帯での電力コストなどの追加の
スのあらゆる面を分析すべきである。その
1. データに対する見方を変える
現在のビジネス環境において、
データは、
コ
ても、
さらには社会においても、個人のレベ
ストセンターとして見るべきではなく、
ビジネ
データを取り込むことにより、
スマートハウス
スに有用な情報の宝庫として見る必要が
ではエネルギー消費の最適化もできる。住
ある。
あなたの会社がデータをフルに活用し
ないのなら、
ライバル会社が活用することに
なるだろう。
2. より機敏になる
世界最高のデータであっても、
そのデータ
が知らせてくれていることに対して反応でき
現時点では、
どの産業を見てもその多くは、
収集したデータの
ごく一部しか使用しておらず、
その割合はわずか1%に留まる
̶ Oliver Ratzesberger
で実践しているから何が起こるかよく知っ
ている。
そして、同じことがビジネスでもでき
3. データのサイロ化をなくす
新たな方法を探し続けることになるだろう。
が突如として私たちの味方となる。データ
が、新しい鋭敏なツールへと姿を変え、
日々
はなく、すべてのプラットフォームにわたって
の業務に対する前例のない洞察の獲得を
完全に統合する必要がある。そうして、分
助け、
ビジネスにより賢明でより収益性の高
析者やそれ以外のユーザーが数千人に
い方法を示してくれるだろう。
及んだとしても必要に応じて大量の情報か
ら容易に価値を引き出せるようにしなけれ
AoEは、企業を競争優位に導くこともでき
ばならない。
る。例えば、
現在では高速鉄道が航空機に
4. より深いデータプールから
より多くの人が洞察を
獲得できるようにする
対抗できるようになってきている。鉄道の大
きな強みは予定どおりに運行できる能力で
あるが、
これは航空会社が苦労している分
野である。鉄道会社では、部品とメンテナン
多くの企業では、
データの中から洞察を見
スのデータを動的価格設定やGPSデータな
つけ出すのに必要なスキルを持った人材
どの他の情報と統合して、予定どおりの運
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2016年: 9月11-15日(アトランタ)
2017年: 10月22-26日(アナハイム)
AoEにはまだ、
分析していない未知の領域
ムを利用すれば、
それらの複雑なシステム
データは、
分野や部門の間で分割すべきで
日々増加するデータのビジネスへの活用に取り組む参加者が集まり、闊達な議論が行われます。
が残っている。活用および理解するための
人やビジネス、
そして社会が恩恵を受ける
用可能になったデータと各種のアルゴリズ
世界各国から、IT部門だけでなく、マネジメント、
ビジネス部門、マーケティング部門など、
るはずである。
短い時間で、
より多くの洞察をより実用的な
がある。
ユーザーによる、ユーザーの為のTeradata世界最大規模のカンファレンスです。
に気付くこともないだろう。私はこれを自宅
新たなデータソースを探し続けることは、個
りできる範囲を超えている。AoEを通じて使
PARTNERSは、Teradata ユーザー企業が主体となって組織するPARTNERS委員会が運営する、
人は、電気料金が下がったこと以外、違い
ないのであれば、何の役にも立たない。
より
ものとして活用する方法を見つけ出す必要
カンファレンス
「PARTNERS 」
のご案内
本記事はTERADATA Magazine 2016年第1
四半期号に掲載された記事の日本語訳です。
This article was originally published in the Q1
2016 issue of TERADATA Magazine.
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