昭和大学保健医療学 雑 誌 第 8号 2 0 1 1 .. 霊 ・ 体育系大学体操部における外傷・障害発生の特徴 棲 井 規 子 1) 2)、富樫りえ 1)、樋口毅史 1)、木村直人 3) !)日体柔整専門学校 2 )日本体育大学 スポーツ医学研究室 :>)日本体育大学 衛生学公衆衛生学研究室 表会等の作品作りのための身体トレーニングを実践 緒 日 している 。 体操には、「ラジオ体操」「健康体操j 「準備体操」 従来より、 一般体操を対象とした外傷 ・障害の発 などいろいろとあるが、日本体操協会では、健康や 生調査報告はほとんど見当たらず、 N体育大学体操 楽しみを目標とした競技をしないすべての体操であ 部を対象とした外傷・障害の実態を明らかにするこ る「一般体操」、ルーノレのもと器械(鉄棒、つり輪、 とは、大学体操選手における外傷・障害の予防や健 平均台など)を使って演技を行し、競い合う「体操競 康管理を計る上で、大変有意義で、ある と考える 。 技J、決められた手具(リボン、ボーノレなど)を使っ そこで、本研究では大学体操選手を対象に外傷・ て演技を行い競い合う「新体操」、トランポリンを使 障害の発生に関する調査を行い、その特徴を明らか って演技を行い競い合う「トランポリン J 、複数人数 にし発生予防に役立てることを目的とした。 方 ツアクロ体操J 、一人あるいは複数の人達が協力、協 土A が協力、協調し合って演技を行い競い合う「スポー 1.対象者 調し合って演技を行い競い合う「スポーツエアロビ クス」等に分類している 1)。平成20年度における選 本研究の対象は、 N体育大学体操部に所属する、 手としての登録人口は、園児から社会人まで、一般 あるいは所属していた選手 1 2 5 名(男子48名、女子 7 7 ,098 名、体操競技が 1 4 ,056 名、新体操が 1 2 , 7 8 3 体操が 4 名)、年齢 2 2 . 3士 2 . 0歳(男子 2 2 . 7±2. 6歳、女子 2 2 .1 名であった 2。 ) ±1.8歳)で、あった。被験者には調査の主旨や内容を 十分に説明し、同意を得た後 、それぞれのアンケー N体育大学体操部は「一般体操j に属し、跳躍や ト調査を実施した。 転回、複数での組体操、梶棒などを使った手具体操 など、様々な動きの要素を含んだ全身運動を行って 2 調査項目および方法 いるクラブである。 N体育大学に所属する体操選手 アンケート調査は、性別、年齢・学年、過去のス は、高校時まで他の運動クラブ(例えばサッカ一、 バスケッ トボールやバレーボール等)に所属してお ポーツ歴、既往歴、現病歴などの調査を自己記入法 り、その多くは大学入学後から上述した体操を始め、 にて行った。アンケートの回収率は 87.9%であった。 体操に関しては大半が初心者である。この N体育大 アンケート調査の結果は男女別および学年別に集計 学体操部は、その成果を年に数回の発表会(日本体 し、受傷率や受傷回数の平均、その傷病名や受傷部 操祭等)で発表し、その他多くの大会やイベントに 位などを求めた。なお、本損傷においては入部以降 参加している。そのため、 1日2∼ 3時間程度、週 の体操中に発症したものを対象とした。 4∼ 6日(全体練習が 4日、個人練習が 1∼ 2日 ) 、 徒手体操及び手具を用いた体操、マット運動など発 t 司 qぺd 昭和大学保健医療学雑誌第 8号 2 0 1 1 結 果 年次47.7%、3年次31.4%、4年次に24. 1%と 1年次 。 をピークにその後低下する傾向にあった(図 1) 1 過去のスポーツ歴について 男子ではサッカー( 1 3名)が最も多く、陸上( 6 3. 損傷の種類について 名)、体操競技( 6名)と続いていた。女子で、はバス 男女合わせて全 1 0 9件の発生のうち、男子では骨 ケットボール ( 1 5 名)が最も多く、次いでテニス ( 1 3 折 ・脱臼が 8件( 2 1 . 1%)、捻挫2 6件(68.4%)、打 名)、陸上( 1 2 名)、バレーボーノレ( 1 0名)と続いて 撲 2件(5.3%)、その他 2件(5.3%)であった。女 。 いた(表 1) 子では骨折 ・ 脱臼が 8件( 1 1 .8%)、捻挫3 9件(57.4% 、 ) 表 1 過去のスポーツ歴 男 子 1 2 3 4 5 女 打撲 9件 (13.2%)、挫傷 5件(7 . 4%に そ の他 7件 子 ( 1 0. 3%)であった(図 2) 。 パスケ(1 5 ) サッカー(1 3 ) 陸上(6 )、体操競技(6 ) テニス(1 3 ) 1 2 ) バレー(5 )、ハンドボール(5 )陸上( バレー( 1 0 ) 野球(4 ) 新体操(2 ) 体操(6 )新体操(6 ) 水泳(4 )、無所属(4 ) ダンス(3 )、スケート(3 ) 4. 捻挫発生部位について 男女ともに最も多く発生していた捻挫での発生部 位は、男女ともに足・足関節が最も多く 、男子では 9件(3 4. 6%)、女子では 1 5 件( 38.5%)であ った。 次 い で 、 男 子 は 体 幹 7件 ( 26.9%)、膝関節 3件 2. 平均受傷率について ( 11 .5%)、肩関節 3件( 11 .5%)、頚部 3件( 11.5% 、 ) 学年ごとの平均受傷率は、男子では学年を経るご とに上昇し、 1年次29.2%、 2年次5 0 .0弘 、 3年次 肘関節 1件(3.8%)と続いた。女子では、手関節 9 に最も高い値5 8. 8%を示し、 4年次に42.9%であっ 、 ) 件(2 3 . l% ) 、 体幹 9件(2 3. 1 %)、肘関節 4件( 10.3% た 。 一方、女子では 1年次に 54.4%と最も高く、 2 頚部 2件(5 .1 %)で、あった(図 3) 。 100 % 90 80 70 60 50 ・男 40 嗣女 30 20 。 10 1年次 3年次 2年 次 図 1 学年別平均受傷率 4年 次 A せ 可 t 昭和大学保健医療学雑 誌 第 8号 2011 25 20 圃①骨折・脱臼 ・②捻挫 15 ・③打撲 ・④挫傷 10 E ⑤その他 5 。 1年次 4年次 図 2 損傷種類 ( 件) 16 1 4 12 ' : t iは卜n ・男 a女 6 4 2 。 { 本幹 足・足関節 手関節 頚部 肘関節 肩関節 膝 関節 図 3 捻挫発生部位 けでなく、高校生における 一般体操選手の登録数も 考 察 他の体操と比べ非常に少ない 2) 。 岡端ら 3)は、体操競技において「自分の感覚」と 1.平均受傷率ついて 男子においては学年が経るごと発生率が上昇し、 実際の動きにずれが生じてしまうと動きの安定性が 3年次に最も多く発生していた。 また、女子では 1 向上しないと述べている。技や動きのイメージやそ 年次、 2年次に多く発生し、その後減少する傾向が のコツが動きの安定性に大きく関与するということ みられた。過去のスポーツ歴からも対象のほとんど から、男子においては学年が上がるにつれ難易度の は体操未経験者により構成されていた。先にも述べ 高い技(前方及び後方への宙返りなど)の習得を目 たように一般体操のクラブを有する大学が少ないだ 指すため、特に着地の際に足関節等への負担が大き -7 5- 昭 和 大 学 保 健 医 療 学 雑 誌 第 8号 2 0 1 1 くなり、結果として捻挫などの外傷発生が起こりや 体操の練習時においてジョギング\ンューズなどを すいのかもしれない。一方、女子では体操を行うの 履いて行うことは、体操の動作発揮におけるスキル に必要な体力および体操の動きに関わるスキノレが獲 の面や組体操等を実施する 上で好ましいことではな 得されていないことが原因のーっと思われる。女子 い。 したがって、体操用の薄いマット等を敷いて練 選手においては、男子ほどの激しい動き(宙返り等) 習を実施する等の施設面の改善や、選手自身が足関 は行わないものの、跳躍する動きが多く見られる。 節(足首や膝等)への負担が高いことを認識し、練 また組体操等においては土台となる 男子に持ち上げ 習後のケアに努めること等が傷害を防止する観点か られる、あるいは肩の上に立ち上がる等の動作が見 ら重要と思われる 。 られる。体操動作中においては、体操用の、ンューズ 文 を着用するものの、ジョギングシューズほど靴底は 厚くなく、足首のホールドもほとんどない。 したが 1 ) 献 日本体操協会広報委員会編.“体操を学ぶ( 1 )体 って、男子と同様に着地の際の脚への負担が高まり、 a p a nG y m n a s t i c 操の種類はつ” . 日本体操協会 J その繰り返しが外傷 ・障害の発生につながっている Associ a t i o n.20 04 0 91 5. ものと思われる。さらにこのことが、男女とも足 ・ ht t p : // www.j png y m . o r .j p/a s s o c i a t i o n/ r e p o r t/2 0 0 足関節のみならず体幹への負担を高めていると思わ 4/d a t a /04 l e a r n0 1. h t m l持02 , (参照 2 0 1 01 21 0) 年度登録人口 一覧 ” . 2 ) 日本体操協会編.“平成 20 れる。 a p a nGy mna st icA s s o c i a ti on. 2 00 8. 日本体操協会 J I d a t a h t t p :/ /www.jpn-gym. o r . j p/a s s o c i a t i o n/e nt r y 2 損傷の特徴について /08 t o r o k u . html ,(参照 2010 1 21 0 ) 本調査において、男女ともに足関節捻挫が最も多 く発生していた。岩噌 4)の体操競技選手を対象とし 3 ) 岡端隆、佐藤徹:体操競技選手のコツ・動 た損傷発生調査の報告では、腰痛症、膝前十字靭帯 き方に関するアンケー ト調査結果、 日本体育協 損傷と並び足関節捻挫が多く発生しており、また、 会 ス ポ ー ツ 医 ・ 科 学 研 究 報告 200 3 ( 3 ),2 43 0 , 夏山ら 5)の体操、新体操選手を対象とした損傷発生 200 3. 調査報告では、膝関節靭帯損傷が最も多く 、次いで 4 ) 岩噌弘志:“体操競技”種目別スポーツ障害の 診療,南江堂, 262-268'2007. 足関節捻挫の順に発生していた。体操競技、新体操 と同様に体操も跳躍や着地時の下肢、特に足首や膝 5 ) 夏山元伸、園部俊晴目足関節靭帯損傷、臨床ス 等の足関節に大きな負荷がかかることが原因と考え られた。 -7 6一 4,3 9 54 0 0 ,1 9 9 7. ポーツ医学 1
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