バングラデシュのオートバイ産業 輸入代替の実態とその課題 慶應義塾大学経済学部 三嶋恒平 mishima@econ.keio.ac.jp 2016年7月16日 第17回 アジア中古車流通研究会 @京都大学経済学部みずほホール(法経東館地下1階) 1 調査の概要 《調査の必要性》 • 先行研究がなく、公的な統計データが未整備であるため、現地の販売店、工場を訪問調査 する必要が生じた。 《調査の行程・スケジュール》 • 2014年2月2日~12日(2日羽田発インドコルカタ着、2日コルカタ、3日コルカタ、4日コルカタ から陸路バングラ入国、ジョソールへ、5日ジョソールからクルナへ、6日クルナ、7日クルナ からダッカへ、8日ダッカ、9日ダッカ、10日ダッカ、11日ダッカからバンコク経由で成田へ) 《調査の対象と方法》 • オートバイ関連企業(販売店、補修部品店、組立工場、生産工場、本社)や関連輪業(オート リキシャ販売店、自転車屋)を訪問し、聞き取りや見学を行った。事前にアポイントが確定で きないところが多く、アポなしで当日いきなり訪問したところがほとんどであった。 • 多様な階層の住民が集まる各都市の中心市場や鉄道駅、バスステーションにおける駐車 オートバイを観察し、保有動向を確認した。 • 関連企業や販売店では口頭により質疑応答を行った(使用言語は英語)。 《調査資金の出所》 • 平成25年度若手研究B(研究代表者;三嶋恒平) 「トランスナショナル化による競争優位構築:新興国のオートバイ産業と日本企業」 2 訪問先一覧 《2014年2月4日@ジョソール》 • ディーラー(Hero Honda(以下HHとする)、TVS、Bajaj、Dayang)4軒、 自転車屋2軒、オートリキシャディーラー 1軒 《2月5日@クルナ》 • ディーラー(Bajaj、併売(HH、Dayang)、併売(Jialing、EMMA)、TVS、Singer)5軒、オートリキシャディーラー3軒 《2月6日@クルナ》 • ディーラー(TVS、併売(TVS、Dayang、HH、Yamaha))2軒、その他(クルナ大学、EPZの水産加工会社(地場企 業)) 《2月7日@ダッカ》 • TVS Auto Bangladesh(インドメーカーTVSのバングラデシュでの組立・販売企業)での聞き取り(オフィスと工 場)、KARWAPHULI INDUSTRYS(ヤマハのバングラでの組立・販売企業)での聞き取り(オフィスのみ) 《2月9日@ダッカ》 • Atlas Bangladesh(インドメーカーHHのバングラでの組立・販売企業)での聞き取り(オフィスと工場)、MENOKA MOTORS(インドメーカーBajajのバングラでの組立・販売企業のUttar Motorsの委託生産企業)での聞き取り (工場)、Walton(中国から輸入した部材によるオートバイ生産・販売企業)への訪問(工場休業日で聞き取り なし)、Runner(中国メーカーDayang、Lifanから輸入した部材によるオートバイ生産・販売企業)での聞き取り (工場オフィスのみで生産ラインの見学なし)、その他(丸久バングラデシュ(日系繊維縫製企業)) 《2月10日@ダッカ》 • Runnerのオフィス、Uttar Motorsの二輪部門旧責任者への聞き取り。 *計 二輪ディーラー11軒、二輪組立・販売企業(アセンブラー)4社、二輪生産・販売企業 (マニュファクチャラー)2社 3 出所:左図Google Map、 右図国連のHP (http://www.un.org/Depts/Cartographic/map/profile/banglade.pdf; 2014年5月22日閲覧)より。 4 2 バングラデシュの経済指標(2014年) (出所:World Bank,ジェトロのHPより) • 人口:1億5360万人 • 面積:14万7570平方キロ *日本の約40%≒北海道+東北、人口密度は日本の3倍で世界トップ • GDP(名目):1163億ドル(前年比6%増) • 実質GDP成長率6.11% • 一人当たりGDP(名目):1171USD *一般にモータリゼーションはオートバイ1000ドル以上、四輪3000ドル以上で開始。さ らに近年、この開始金額が下がりつつあり。 • 消費者物価上昇率 7.01% • 失業率:5.9%(2009年) • 産業構成:農林水産業19.3%、鉱工業31.3%、サービス業49.5%(2013年) 5 第2回 調査スケジュール概要 • 2015年11月13日~11月18日 • 14日(土)ダカ市内にて市場調査 *バングラはイスラム暦を採用し、金曜休みで土曜も大体休み • 15日(日)Runner Office, Hero旗艦ディーラー,Uttra Motor Office, Karnaphuli Industries(Yamaha委託先) • 16日(月)Walton Office, Bangla Honda Office, Atlas Office&Factory • 17日(火)BOI(Board of Investment), Runner Office, NBR(National Board of Revenue) • 18日(水)Runner Factory, Dealers(TVS/Bajaj/Runner) 3 バングラデシュオートバイ産業の実態 • では、バングラの市場の現状 はいかなるものか? • 以下、バングラデシュの価格 を確認し、その背景を生産、 販売、輸入動向から確認する。 7 市場拡大のための施策は何か? 《国内市場の拡大にとっての課題》 ①価格、②販売金融、③売る特別な仕組み ①価格:安ければ売れる →安くするには現地生産なら一定の規模。輸入なら安い中国やインド製オート バイ →中国から輸入しつつ、現地生産の体制を整えること。 ②販売金融:支払い単位を下げれば売れる(販売金融の導入) →販売金融のためには中古オートバイの流通体制の整備が必要。なぜなら、 オートバイに資産価値がないと、すぐに現金化できず、流動性が低いままであ り、担保とならないから。 ③売るための特別な仕組み:頼母子講的販売形態の導入(ブラジルのコンソル シオ) 8 3-1 生産・販売・保有・輸入推移(2007年まで: 台数) 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 生産 7,625 10,681 9,641 9,682 14,967 23,029 30,066 35,186 40,500 56,522 67,520 80,000 90,500 販売 8,868 13,977 12,080 14,525 16,511 23,358 31,150 33,286 38,267 55,653 65,800 74,500 85,600 保有 178,257 188,669 200,749 215,274 231,785 147,205 178,000 200,264 225,164 254,685 396,461 448,461 510,467 輸入 8,387 11,700 10,605 10,660 16,500 25,300 33,072 38,700 44,500 61,200 72,300 80,900 92,000 注:数字は台数を示す。 出所:『世界二輪車概況』(各年版) • 生産(正確には組立)と販売と輸 入がほぼ一致。 • =CBU(完成車)を輸入するか、CKD セットを海外から輸入し組立に特化する かのいずれか • =2007年まで CKD以外の生産活動はほ とんどなかった。 *完成車組立工場の最小有効生産 規模は一般に20万台程度。 9 生産・販売・保有・輸入推移(2007年以降: 金額) インド 2007 2008 2009 2010 2011 2012 21,328,422 48,765,744 63,748,762 76,377,148 97,273,103 19,890,870 中国 2か国計 10,061,780 31,390,202 21,700,130 70,465,874 21,522,989 85,271,751 78,527,043 154,904,191 85,837,322 183,110,425 48,784,905 68,675,775 対 2007 (タイ) 注1:数字は金額(米ドル)を示 年比 す。 0 注2:GTAにはバングラデシュ主 2.2 0 体のデータがないため、インド、 2.7 0 中国、タイのバングラデシュへの 4.9 10,494 5.8 621 輸出金額をバングラデシュの輸入 2.2 19,404 金額とみなしている。 出所:Global Trade Atlas • 2007年以降、バングラデシュのオートバイ輸入台数は急増。 =販売市場の急拡大。2011年が最大でおよそ60万台規模にまで成長。 • しかし、その後、オートバイ市場の拡大ペースも緩んだ。 • (輸入の内訳)インド、中国からの輸入が大部分。タイ(=日系企業のタイ拠点)からの輸入はほと んどない。 =市場は東南アジアのスーパーカブタイプでなく、中国・インドのモーターサイクルタイプとなる。 10 補足:オートバイの種類 中国・インドで主流のモーターサイ クル(@デリー) 東南アジアで主流のカブタイプのオー トバイ(@ミャンマー・パテイン) 11 スクーター@デリー 足元が平らでありスカートの女性でも乗るこ バイクでなんでも運ぶ@ハノイ・ とができる。タイヤ径が小さく悪路は厳しい。 また、スクーターの流行は二輪市場の成熟期 VN に生じることが一般的。 12 販売、輸入統計から示されること • バングラデシュで販売されるオートバイはインドもしくは中国 から輸入されたCBUかCKDのいずれかである。 • バングラデシュでの販売モデルはインドや中国に近く、東南ア ジアと異なる。 • バングラデシュの輸入代替は完成車の段階にある。 • 販売市場の規模は20万台ほどである。1工場当たり20万台とさ れる採算ラインからすると完成車組立工場の輸入代替という初 歩段階ですら規模の経済性の点から厳しい。 13 3-2 販売市場の特徴 排気量別販売台数 2012 100㏄以下 125-135㏄ 150㏄以上 合計 台数 % 138,295 71.4% 14,512 7.5% 40,789 21.1% 193,596 2013 台数 % 119,009 60.3% 34,171 17.3% 44,078 22.3% 197,258 2014 台数 % 129,646 61.2% 37,768 17.8% 44,333 20.9% 212,013 1-10 2015 台数 % 93,173 55.9% 33,914 20.4% 39,539 23.7% 166,626 • 販売カテゴリーは100㏄以下が半数以上。 • 近年、125-135㏄クラスが成長中。 14 ブランド別販売台数の推移 2012 Bajaj TVS Hero Dayang Honda Suzuki Others Walton Yamaha Mahindra 台数 87,721 17,888 41,237 23,618 0 0 6,582 10,681 5,869 0 2013 % 45.3% 9.2% 21.3% 12.2% 0.0% 0.0% 3.4% 5.5% 3.0% 0.0% 台数 98,477 20,729 39,906 18,527 0 0 3,865 9,805 5,949 0 2014 % 49.9% 10.5% 20.2% 9.4% 0.0% 0.0% 2.0% 5.0% 3.0% 0.0% 台数 111,967 26,494 22,701 23,534 7,765 681 2,012 8,570 6,151 1,872 % 52.8% 12.5% 10.7% 11.1% 3.7% 0.3% 0.9% 4.0% 2.9% 0.9% 1-10 2015 台数 % 72,003 43.2% 24,992 15.0% 17,825 10.7% 15,286 9.2% 10,172 6.1% 7,369 4.4% 5,720 3.4% 5,598 3.4% 4,952 3.0% 2,709 1.6% • Bajajが圧倒的1位。 • TVS、Honda、Suzukiが成長中。Hero、Dayang、Waltonが減少。 • インドからの輸入企業がマジョリティを占め、中国からの輸入企業が苦戦中 15 ブランド×排気量の販売動向(1) 100㏄以下(縮小傾向) 2012 Bajaj Dayang TVS Hero Others Walton Honda Suzuki Mahindra Yamaha Total 台数 56,430 22,428 11,363 31,687 6,062 9,881 0 0 444 138,295 2013 % 40.8% 16.2% 8.2% 22.9% 4.4% 7.1% 0.0% 0.0% 0.0% 0.3% 台数 57,548 16,626 9,499 23,416 2,594 7,231 0 0 158 119,009 2014 % 48.4% 14.0% 8.0% 19.7% 2.2% 6.1% 0.0% 0.0% 0.0% 0.1% 台数 % 70,188 54.1% 22,071 17.0% 11,453 8.8% 13,077 10.1% 814 0.6% 6,184 4.8% 3,604 2.8% 354 0.3% 1,796 1.4% 105 0.1% 129,646 1-10 2015 台数 % 41,334 44.4% 14,548 15.6% 11,231 12.1% 9,016 9.7% 4,147 4.5% 3,784 4.1% 3,532 3.8% 3,000 3.2% 2,579 2.8% 2 0.0% 93,173 • Bajajが首位で、Dayangが2位。Heroのシェアが急落。 16 ブランド×排気量の販売動向(2) 125-135㏄(急成長) Bajaj Hero Honda TVS Walton Suzuki Others Mahindra Dayang Yamaha Total 台数 7,634 4,675 0 845 260 280 0 340 478 14,512 2014 2013 2012 % 52.6% 32.2% 0.0% 5.8% 1.8% 0.0% 1.9% 0.0% 2.3% 3.3% 台数 20,119 7,873 0 2,755 1,741 457 0 1,215 11 34,171 % 58.9% 23.0% 0.0% 8.1% 5.1% 0.0% 1.3% 0.0% 3.6% 0.0% 台数 23,434 6,096 2,515 2,593 1,678 163 181 76 1,029 3 37,768 % 62.0% 16.1% 6.7% 6.9% 4.4% 0.4% 0.5% 0.2% 2.7% 0.0% 1-10 2015 % 台数 51.4% 17,431 15.7% 5,335 12.8% 4,331 12.7% 4,303 4.0% 1,366 1.4% 486 1.4% 481 0.4% 130 0.2% 51 0.0% 0 33,914 • 125-135㏄でもBajajが首位。Honda、TVSが伸びた。 • Heroのシェアが急落。Yamahaはこのカテゴリーから撤退した。 Dayang、Waltonといった中国からの輸入企業シェアが低迷 17 ブランド×排気量の販売動向(3) 150㏄以上(変化なし) 2012 Bajaj TVS Yamaha Suzuki Hero Honda Others Dayang Walton Mahindra Total 台数 23,657 5,680 4,947 0 4,875 0 240 850 540 0 40,789 2013 % 58.0% 13.9% 12.1% 0.0% 12.0% 0.0% 0.6% 2.1% 1.3% 0.0% 台数 20,810 8,475 5,780 0 6,680 0 814 686 833 0 44,078 2014 % 47.2% 19.2% 13.1% 0.0% 15.2% 0.0% 1.8% 1.6% 1.9% 0.0% 台数 18,345 12,448 6,043 164 3,528 1,646 1,017 434 708 0 44,333 % 41.4% 28.1% 13.6% 0.4% 8.0% 3.7% 2.3% 1.0% 1.6% 0.0% 1-10 2015 台数 % 13,238 33.5% 9,458 23.9% 4,950 12.5% 3,883 9.8% 3,474 8.8% 2,309 5.8% 1,092 2.8% 687 1.7% 448 1.1% 0 0.0% 39,539 • Bajajが首位。しかし、20%以上シェアを落としている。 • TVSが2位でシェアも急上昇中。ヤマハが3位。Suzuki,Hondaが2014年から参 入し、4位、6位につける。 18 • Dayang、Waltonといった中国からの輸入企業はこのカテゴリーでは弱い。 3-3 価格 バングラデシュのオートバイ販売価格(2013年11月) 排気量 (㏄) 50 80 100 125 135 150 代表的モデル 販売価格@バングラ 販売価格@ 価格比 輸入元国 ブラン 輸入元 モデル (バングラ BDT USD (USD) /輸入元国) ド 国 名 Dayang 中国 DY50 72,000 926 300 309% Dayang 中国 Galaxy 85,000 1,093 350 312% Hero Splendor インド 125,000 1,607 821 196% Honda Plus Hero インド Glamour 156,000 2,006 1,029 195% Honda Bajaj インド Pulsar 170,000 2,186 1,087 201% TVS インド Apache 217,500 2,796 1,139 245% 注:1BDT=0.0129USD(2013年11月15日)で計算。 出所:インドの販売価格はBike India、2014年3月号に基づく。それ以外は筆者調査 に基づく。 • バングラの販売価格は2倍(インド比2倍、中国比3倍)と割高。 • 国際的には100㏄で1000ドルが相場であり、バングラは国際的にみても 販売価格は割高である。 19 なぜ、バングラデシュのオートバイは高いのか? 1. 輸入しているから 2. 関税が高いから 3. 乗り出し価格が高いから(登録税)。100万台以上のオート バイが無登録で保有されている(Financial Express, vol21, No.170, May 5, 2014)。登録手数料は高い。本体価格が10万 タカ前後であり、登録料が2万2000タカか購入価格の26%で ある。 20 3-4 販売金融 • ローン販売制度は存在する(Bajaj、TVS、HH、Runner)。 • 最多分割支払回数は24回(クルナ最大の併売ディーラー)、18回 (HH)と12回(Bajaj、TVS、Dayang)であった。 • ローンの利用率は、ディーラーによっては購入者の90%にも達して いた。 • ローン販売を担っているのは商業銀行であった。マイクロファイナ ンスを行う金融機関はオートバイのローン販売業務を行ってはいな かった。 • クレジットカード(Amex card)での販売を行っているディーラー (TVS)もあった。 • 中古車市場は整備されていなかった。新車購入時の顧客の下取りを ディーラーは行っていなかった。 21 • こうした特徴からオートバイ市場の勃興期にバングラデシュの 市場が位置づけられる • 125-135㏄(中国からの輸入企業は近年の市場変動でマイナス の影響を受けている) 22 タイにおけるローン販売制度 →合計支払金額に差があっても月々の支払金額で大差なし モペット カテゴリー 企業名 タイガー モデル名 一括 合計支払金額 頭金 頭金/支払い 金額 分割 月々の支払 金額と回数 合計支払金額 ATモデル ファミリー スポーツ スズキ ホンダ Nova STEP Sonic125 1,277 1,353 304 456 Smart 125 942 149 ホンダ ヤマハ Wave Mio WaveZ 100S fino 1,018 851 1,262 243 243 304 ホンダ Air Click Brade 1,313 1,566 304 365 15.8% 23.9% 28.6% 24.1% 23.1% 23.3% 23.8% 33.7% 46USD ×26回 1,335 46USD ×31回 1,517 1000B ×30回 1,155 46USD ×34回 1,854 46USD ×30回 1,900 56USD ×34回 2,277 46USD ×34回 1,854 49USD ×28回 1,818 出所:筆者調査より。データは2007年3月のタイ・シーサケットでの販売店。金 額はUSD。 23 3-5 特別な売り方 • クレジットカード(Amex card)での販売を行っているディーラー (TVS)もあった。 • Walton、Singerは日本でいう家電量販店のような業態であった。 オートバイのコモディティ化? • 地域特有のマイクロクレジットのありようはないか。グラミン銀 行的マイクロファイナンスの発祥のバングラデシュならではの何 かはないのか 24 市場拡大の3つの課題は実際どうだったのか? 《価格》 • 高い。市場拡大に向けた一番のハードルになっている。ボトルネッ クになっている。登録税が追い打ち。 《販売金融》 • 支払回数が少なくまだまだ未整備。中古車流通の整備が課題。 《独自の販売手法》 • あまり見ない。グラミン銀行的なBOP対象の少額融資制度のような 販売手法の開発可能性。 25 3-6 保有動向 • 2010年、109,110台のオートバイが登録されたが、2013年には 85,808台に減少した。 • 100万台以上のオートバイが無登録で保有されている (Financial Express, vol21, No.170, May 5, 2014)。 • 登録手数料は高い。本体価格が10万タカ前後であり、登録料が 2万2000タカか購入価格の26%である。 26 保有動向(都市別×オートバイタイプ) ジョソール クルナ ダッカ 計 モーター サイクル 台数 割合 169 88.0% 198 98.0% 244 97.2% 611 94.7% スクーター 台数 22 4 7 33 割合 11.5% 2.0% 2.8% 5.1% EV 台数 1 0 0 1 計 割合 0.5% 0.0% 0.0% 0.2% 192 202 251 645 • モーターサイクルが圧倒的であった。 • スクーターは旧式のスクーターが大部分で、新型はほとんどみな かった。 • EVはほとんどなかった。 27 保有動向(都市別×ブランド本国別) ジョソール クルナ ダッカ 計 中国 インド 日本 EV その他 計 台数 割合 台数 割合 台数 割合 台数 割合 台数 割合 台数 割合 32 16.7% 134 69.8% 25 13.0% 1 0.5% 0 0.0% 192 29.8% 40 19.8% 127 62.9% 35 17.3% 0 0.0% 0 0.0% 202 31.3% 35 13.9% 173 68.9% 42 16.7% 0 0.0% 1 0.4% 251 38.9% 107 16.6% 434 67.3% 102 15.8% 1 0.2% 1 0.2% 645 • インドブランドが60%~70%を占め、それに続き15~20%の中 国ブランドが、さらに日本ブランドが10~15%ほどを占めてい た。 28 保有動向(ブランド別の集中度) ジョソール(n=192) ブランド名 台数 割合 Bajaj 74 38.5% Hero Honda 32 16.7% LML 17 8.9% Dayang 11 5.7% CR4 134 69.8% HHI 1874 クルナ(n=202) ブランド名 台数 割合 Bajaj 63 31.2% Hero Honda 40 19.8% Yamaha 18 8.9% TVS 17 8.4% CR4 138 68.3% HHI 1515 ダッカ(n=251) ブランド名 台数 割合 Bajaj 90 35.9% Hero Honda 62 24.7% Honda 21 8.4% Walton 19 7.6% CR4 192 76.5% HHI 2023 計(n=645) ブランド名 台数 Bajaj 227 Hero Honda 134 Honda 48 Yamaha 46 CR4 455 HHI 割合 35.2% 20.8% 7.4% 7.1% 70.5% 1776 • Bajajが首位であり約35%のシェアを占め、続いてHHが約20%であった。 • CR4で70%ほど、HHIでも2000程度と、集中度はそれほど高くはない。 日系が寡占的な東南アジア(タイ、インドネシア等;CR4がほぼ100%、 HHIが8000程度)とも、中国ブランドが乱立する中国(CR4 が50%以下、 HHIが1000程度)とも異なる。インド市場に近い。 29 保有動向(都市別×排気量別) 150cc以上 135cc 125cc 110cc 100cc 60-90cc 50cc 不明 台数 割合 台数 割合 台数 割合 台数 割合 台数 割合 台数 割合 台数 割合 台数 割合 ジョソール 51 26.7% 12 6.3% 23 12.0% 27 14.1% 53 27.7% 12 6.3% 6 3.1% 8 4.2% クルナ 59 29.2% 12 5.9% 33 16.3% 30 14.9% 49 24.3% 13 6.4% 1 0.5% 5 2.5% ダッカ 87 34.7% 18 7.2% 35 13.9% 29 11.6% 69 27.5% 8 3.2% 2 0.8% 3 1.2% 計 197 30.6% 42 6.5% 91 14.1% 86 13.4% 171 26.6% 33 5.1% 9 1.4% 16 2.5% 都市 • 販売市場と同様、100㏄と150㏄のカテゴリーがメインとなって いた。 30 3-7 需要側からみたバングラデシュオートバイ産業の特徴 • 2010年頃までCKDを輸入し、バングラデシュの工場で組立を行うという形 態が主流だった。しかし、2008年以降、市場拡大が本格化すると、単なる 組立にとどまらず、生産(後に詳細を確認)を行う企業も出現してきた。 • バングラのオートバイの販売価格はインドの約2倍であり、高い。市場の更 なる拡大のためには販売価格の引き下げが必須であると考えられる。 • 現在、バングラデシュのオートバイ産業は、市場規模からすると、完成車の 現地組み立てが開始する段階に入ったといえる • さらにこうした現地化段階の進展に加え、2011年にインドにおいてヒーロ とホンダが合併を解消し分離したことは、バングラデシュオートバイ産業に 大きなインパクトをもたらした。というのも、これにより、業界一位であっ たAtlasが販売台数を急減させ、存立そのものが危ぶまれるようになったか らだ。 • Atlasに代わって首位となったのがBajajを販売するUttraであった。しかし、 Uttraの経営も盤石ではない。Bajajが自身でバングラに進出し、工場建設を 画策していると考えられるから。 31 4 供給企業の特徴 4-1 競争主体の整理 • バングラデシュで販売されるオートバイは次の2つの タイプの企業により供給されている。 (1)輸入したCKD部品セットの組立に特化した組立企業 (アセンブラー)(9社) e.g. Atlas、Uttra Motors (2)プレス・溶接・塗装工程をバングラの自社工場に有し、 一部部材の現地化を進めているマニュファクチュアラー メーカー(2社)。税金もアセンブラーに比べ安くなる e.g. Walton、Runner 32 4-2 組立企業と生産企業の定義 数 定義 代表的企業 (ブランド) 2012年度販売 台数(シェア) Assembler 組立企業 9 現地生産が30%未満 Uttra Motors(Bajaj)、 Atlas Bangladesh(Hero Honda)、 TVS Auto Bangladesh(TVS)等 152,384台(83%) Manufacturer 生産企業 2 現地生産で30%以上を創出し、10% 以上の指定部品を現地生産した企 業 Runner(Dayang, Runner)、 Walton(Walton) 30,380台(17%) 出所:The Daily Star, September 4, 2013および筆者調査 33 4-3 組立企業(Assembler)の事例1; Atlas Bangladesh • Atlasは出資割合が民間企業49%、政府(Ministory of Industry)51%の政府系企業であ る。Atlasは15から21のモデルを生産し、4万から6万台の生産能力がある。従業員は320 人である。 • AtlasはCBU(完成車)輸入からCKD輸入、組立へと発展してきた。政府が技術を蓄積 して発展するために支援してきた。 • Atlasは1966年にヒーロとともに操業を開始した。その後、日本のホンダが出ようとし たがヒーロが既にバングラに出ていたため進出はなかった。しかし、HHは分かれた。 • 1990年代、ホンダは100㏄のオートバイを日本で生産することをやめた。しかし、この カテゴリーはバングラデシュでは人気であった。そのため、バングラからホンダに100 ㏄クラスのモデルをバングラに引き続き投入してくれと頼んだ。そこで、HHから供給 するようにホンダからアドバイスされ、そこからHHとのビジネスが開始した。それが 1993年のことであった。 • 2010年HHは分離した。しかし、ヒーロがバングラでHHのオートバイを販売するロイヤ リティは契約上2014年6月までであったため、変わらずバングラではHHのオートバイが 販売されていた。 • 現在、次のブランドを探している(候補として、台湾のSYM)。 • なお、こうした契約問題はパキスタンでも生じている。 34 Atlasの生産現場 • 4つのラインがあり、各ラインに30人のワーカー(20人がメイン組 立ライン、10人がサブアッシー)がいた。組立ラインはベルトでは なく、動いていない。人力で仕掛を押すタイプであった。 • 現在、2500台の在庫を抱えている。 • 作業標準書はなかった。 • ゴミが散乱している。 • ワーカーはサンダル履き。 • 仕掛から生産ラインへはワーカー二人が人力で持ち上げていた。 • 敷地外は在庫の山でほこりをかぶっていた。CKDの木箱も積み上げ られていた。 35 完成車の組立ライン 手押し式。 サブアッシー。 モノの置き方、樹脂の扱い。 36 ハンドル周りのサブアッシー仕掛。 相互に接触している。 負荷の大きそうなすわり仕事。 仕掛、部材を直接床に置く。 37 床に直置きされる。仕掛。 ライン脇に工具、ビス、ワッシャー類。 雑然と置かれている。 38 工場建屋外部に相当数の野ざらしの完 成品在庫。ほこりをかぶっているもの も。 インドからの輸入CKDセットがまだ木 箱に入って置かれている。木箱という ことは海路による搬送。 39 4-4:生産企業(Manufacturer)の事例;Runner • Runnerは2000年に設立された。四輪と二輪の生産を行っている。 • CBU→CKD→Assemblyという流れで生産能力を拡大させてきた。具体的には以 下のような流れ。2000年から2003年はCBU工場であった。2003年からCKDとな り、2005年から生産工場が稼働した。2005年の工場稼働の際は、Lifan,Haojinの 支援があった。あわせて、2003年から2006年にはPiagioを生産するLMLのモデル も生産していたが、2006年にLML工場@ガジプルは閉鎖された。このLMLには 韓国が提携していた。LMLはその後2013年に再開した。韓国の企業とはHysung であり、ST&Tである。 • 12モデルある。ブランドはDayang,Rnner(6から7モデル)、Fredom(4モデル、 Lifanから)、Runner(Huoji)であり、LMLは1モデルである。社内のブランド のシェアは、Dayang45%、Lifan20-35%、Haojin25%である。 • モーターサイクルのみでスクーターの生産、販売は行っていない。 • 販売は2013年2万5000台、2012年が3万3000台、2011年が4万8000台であり、こ れが過去最高であった。2010年が3万6000台である。 • 販売網は、200のディーラーであり、4000人が働いている。専売ではなく、併売 性である。その5%200人が主となる専売ディーラーであり、10のディーラーがあ る。工場には400人から420人の従業員がいる。 40 4-5 • • • • • • • • • • • • • • Menoka Motors(Uttra Motorsの委託先) CKDはチッタゴンから海路インドより入ってきている。チッタゴンからダッカまではトラックを用いている。 Bajajの生産工場とのことだが、Runnerのトラックが出てきた。 BajajのボックスはIndia Puneと書かれていた。 CKDでインドから船をチッタゴンに入れ、チッタゴンからバスでダッカへ搬送するという。 HHはデリーからの出荷であった。 1990年に設立し、全従業員は100人である。ラインでは50人が働いている。サンダルばきで制服はない。 作業標準書あり。Product Vertification Cardという名称。 手押しで、メインのライン脇にサブアッシーがある。ここのモノの流れはこれまでの工場の中で最も悪そう。ラ イン脇にワッシャーやねじが置かれていて。上から工具がつりさげられている。 最終の検査ラインではバッテリーの番号を1つ1つ書いていた。 バングラ産の部材はない。 CKDは7つのモデルであり、1つのラインのキャパシティは1日200台とのこと(年産6万台規模)。 BajajはCKDで組み立てているが、バングラには2つの工場がある。もうひとつはUttraである。Bajajnoスタッフ がここの工場に来てチェック、指導を行っている。毎月来ている。5人ぐらいの単位で、3日から4日は滞在する。 ゴミ箱がライン脇に設置されていたのは驚いた。CKDの梱包材を捨てるため。 MENOKA MOTORSはUttraの委託生産を行っているといえる。Uttraは生産能力不足のため、Menokaに委託して いる。 4-6 TVS Bangladesh • インドからCKDセットを輸入し、バングラで組立、検査、販売を行っている。 • 2つの生産ラインがあり、各30mほどだ。1つのラインで100ccをもう1つのラインで100cc、125cc、 150ccを組み立てている。各ラインは10の工程から構成され、各工程には2名配置し、ラインの合 計スタッフは20人だ。このほかサブアッシーのラインがある。 • 2ストロークエンジンは10年前に禁止になった。現在、バングラの排ガス規制はEURO3であり、数 年以内にEURO4になると見られている。キャタライザーは不使用だ。キャブレターを使っている。 • 現調率は0%だ。 • 1直でやっていて、9:30-17:30だ。 • 月あたり6000台の生産能力がある。 • 2011年前からTVSのCKD組立を始めた。その前はCBU(SKD;半分完成済み)だった。 • この工場は1989年の設立であり、1989年から2000年までSuzukiのモーターサイクルの組立を行っ ていた。日本のスズキからも技術指導に来ていた。しかし、価格が高く、Suzukiの二輪はバングラ ではあまり売れなかった。そのため、2001年から2004年までTVS Suzukiにスイッチした。その後、 SuzukiとTVSが分離したため、この工場はTVSのみ組立を行うことになった。 • 1989年の設立当初から働く労働者は5-6人いて、リーダーとなっている。Suzukiのカンファレン スに出席するため、日本にいったものもいる。現在はインド人がこの工場にきて、技術支援を行っ ている。バングラ人ワーカーがインドに研修に行くこともある。 • • • • • • • • • • QCサークルはない。 キャパシティは1ライン日産100台で見込み生産を行っている。 サイクルタイムは4分だ。1時間以上かも CKDは15%の関税だが、CBU,SKDは35%であり、20%の佐賀ある。 サブアッシーするものは、ヘッドランプ、ハウジング、ハンドル、スイッチなどだ。 作業標準書は各工程にあった。 制服はあったが、サンダル履きの従業員も多かった。 治具はインドからの輸入であり、これまでバングラで治具を生産したことはない。 エンジンは既に組み上がったものを輸入する。 ラインは人が押す仕組みであり、両脇にベアリングがあり、スライダーシステムという。 バングラでこの方式は開発されたらしい。工具はライン上に吊り下げられている。 5 バングラデシュの二輪車産業の発展方策を探る • 上記の議論を踏まえるならば、バ ングラデシュのオートバイ産業の 発展はどのようにしたら実現でき るのか。 • 工業化プロセスをここで(タイ で?)。類推できるのは製品・工 程ライフサイクルが同じだから。 工程イノベーションから能力構築 競争の話。繰り返し、ルーチンが 大事なんです、と。ここからする と、塗装工程の現地化ってどうな んでしょうねえ。 44 バングラの特徴 • バングラのオートバイの年間販売台数は20万台から30万台規模にまで 成長した。しかし、政策により市場規模は減少期に入った。 • バングラのオートバイの販売価格は高かった(インドの2倍程度)。 • 高価格の理由の1つが高額な関税であった(Semi Finished Part59%、 CKD89%、CBUは131%)。 • こうした市場への供給は、①組立企業9社と②生産企業2社の2タイプに より行われていた。 • バングラデシュは市場の拡大に伴い現地生産化が進みつつある。 • 現地生産を担っているのは、中国から部材を輸入し、技術支援を受け る生産企業であった。 • 一方、CKDを輸入し、組立工程のみに特化していた組立企業は長期低 落傾向にあった。 45 競争構図の変化 • 市場規模が20万台から30万台程度に着目し、同規模にあった2000年頃のベトナム と比較すると、競争の構図が近年変化しつつあることが分かる。 《ベトナム(2000年代初頭》 ①日系企業の現地工場の生産による日本ブランドオートバイ VS②地場系企業の中国からの輸入CKD組立による中国ブランド(コピー)オートバイ 《バングラ》 ①日系企業の輸入CKD組立による日本ブランドオートバイ VS②地場系企業のインドからの輸入CKD組立によるインドブランドオートバイ VS③地場系企業の中国からの輸入部材に基づく現地生産による中国ブランド(非コピー)オー トバイ • 日系企業は従来の進出タイミング、現地生産化の進展タイミングに大きな変化は ない。 • 従来と異なる点は①インドブランドの輸出市場への本格参入と②中国系企業の海 外生産の本格化である。 46 • かつて新興国市場の萌芽期は海外から輸入された日本ブランド オートバイが高価格で売られた。それらのオートバイは故障が なく、メンテナンスフリーで長持ちしたため、日系ブランドへ の信頼が構築された。その後、当該新興国市場の成長が一定規 模に達すると工場を設立し量産開始し、その後、各種工程や部 材の現地化が進む、という段階的な進出が見られた。 • 今やこうした日系企業のブランド構築の期間がなくなりつつあ る。 • 中国オートバイ産業は2500万台で国内市場が頭打ちとなり、 2000万台規模へと縮小期に入った。今後は輸出だけでなく海外 生産を本格化させると考えられる。 • インド企業の海外展開は輸出が主流であり現地生産はインドネ シアでみられる程度。 47 バングラデシュオートバイ産業に対する政策 的なプッシュ 1. 発展途上国産業は複数存在するようになった後発性利益享受に向けたオプションを併用し て、それぞれが得意とする分野の成果を活用し、相互連関させることで、形成がなされ、 発展していく、ということ • バングラデシュでは中国、インド、日本という3つのオプションがあることが東南アジアと異なる。オプ ションはタイは1つ、ベトナムは2つだった。 • ベトナム政府は3つのオプションをうまく活用しながら競争の激化と多様化により、発展期間を圧縮させ ることを図るべき。 2. 価格競争を契機にイノベーションを生起させ、同時に能力構築競争と企業間分業関係を通 じてイノベーションの効果を産業全体へ普及させることによって、発展途上国産業は初め て持続的で裾野の広い産業形成を望めるようになること • 競争主体の多様性がバングラデシュの特徴であり、ベトナムのような急激な市場拡大の可能性は十分ある だろう。そのため、当初は完成車組立といった低付加価値で労働集約的な工程から現地化する。しかし、 市場拡大が続けば、順次、現地生産化が進展し、付加価値の高い工程や技術を要する部材の現地化が進展 するだろう。まずは、「一定の品質で、一定のコストで、納期通りに作り続ける」という量産能力の構築 が必要。 • 競争は単に価格だけでなく、それを達成する組織能力をも含めた競争となるような環境をバングラデシュ 政府は整備するべき。 • 能力構築において一足とびの飛躍はない。漸進的な改善努力や工程イノベーションへの注力が、深層の競 争力や組織能力の構築に結び付く。政策も長期を見据えたものが必要。 • 登録税や関税は短期の歳入増大は見込めるが、企業の組織能力や深層の競争力の構築には直結しないため、 長期の歳入増加は見込めない。それどころか、産業形成の機会を逃し、輸入代替が不可能となり、いつま でも輸入に依存することの契機となる危険性がある。 48
© Copyright 2025 ExpyDoc