国公立大学医学科 2016 年入試状況分析

国公立大学医学科 2016 年入試状況分析
概況
ター試験の問題が難化して平均点が低下す
れば医学科の志願者は減少する。2016 年の
センター試験は、数学ⅠA、物理、化学、英
語などが難化した。また、後期日程について
は実施大学が減少して募集人員も減ってい
るから志願者が減少するのは当然であると
も言える。
しかし今回は、センター試験実施以前に出願をす
人
20000
る推薦・AOでも 4%ほどの志願者減となっている。
また、右のグラフでわかるように、前期・後期の志願
15000
者数は、2012 年をピークとして、減少傾向にある。
このことから、国公立大学医学科志願者は漸減期に
入っているのであり、今回の志願者減少もその傾向
志願者数
10000
のうちにあると言える。
医学科の入学定員は漸増が続いてきた。2016 年も
国公立医学科前期志願者数等
18331
17092
17240
17041
17177
19023
20483
19676
19919
18999
18342
者数(のべ数)は減少した。一般論ではセン
国公立医学科の入試総計の年度比較
募集
志願
受験
合格
志願
実質
区分 年度
人員
者数
者数
者数
倍率
倍率
3,639 18,999 15,395
3,770 5.2倍 4.1倍
前期 2015年
3,661 18,342 15,290
3,790 5.0倍 4.0倍
日程 2016年
+22
-657
-105
+20 -0.2倍 -0.0倍
増減
100.6 96.5 99.3 100.5
指数
586 11,047 3,248
636 18.9倍 5.1倍
後期 2015年
556 10,073 3,043
631 18.1倍 4.8倍
日程 2016年
-30
-974
-205
-5 -0.7倍 -0.3倍
増減
94.9 91.2 93.7
99.2
指数
1,319 5,156 4,441
1,266 3.9倍 3.5倍
推薦 2015年
1,337 4,957 4,315
1,278 3.7倍 3.4倍
・AO 2016年
+18
-199
-126
+12 -0.2倍 -0.1倍
増減
101.4 96.1 97.2 100.9
指数
5000
倍率(志÷合)
3061
3037
3189
3503
3711
3656
3668
3695
3705
3770
3790
2016 年の国公立大学医学部医学科の志願
5.5
5.0
4.5
合格者数
国立 2 大学で合計 11 人の増員があった。加えて、後
期日程廃止により前期の募集人員が増加するケース
倍
6.0
0
4.0
もあるため、前期日程倍率(志願者÷合格者。右グ
ラフ参照)は 5 倍を切る水準まで低下した。
人
15000
国公立医学科後期志願者数等 倍
20
個別大学医学科の志願者数や倍率は、他系統と異
なり毎年大きく変動する。2016 年前期日程の志願者
10000
動向は「東高西低」と言える。北海道~中部の 24 大
学を「東」
、近畿以西の 26 大学を「西」とすると、
「東」24 大学中で志願者減は 4 大学のみ(札幌医
5000
18
17
16
926
911
789
775
736
714
718
695
653
636
631
合格者数
った(他に、前年同数が 1、前期募集なしが 1)。
「西」
0
―1―
19
倍率(志÷合)
科、東北、福島県立医科、信州)で、18 大学が増だ
では増加 9 大学、減少 17 大学だった。
14500
13262
13269
12651
12693
13717
14103
12813
12586
11047
10073
志願者数
前期日程の入試状況
15
14
これは前年の 2015 年入試の出願傾向が「西高東低」だったことの反動である。
「西」で
は増減がほぼ同数だったのに対し「東」では 4 増、18 減だった(同数 1、募集なし 1)
。
医学科に限らず前年の倍率・難易度は次年度の出願動向を大きく左右する。難易度が高く、
募集枠の小さい、更に志望者が全国的な広範囲で移動する医学科入試は特に前年データに
敏感になる。
右図は前期日
程の2年分の志
願倍率の関係を
示したものであ
る。横軸が 2015
年の倍率、縦軸が
2016 年の倍率で
ある。
2015 年の倍
率が 4 倍以下だっ
た大学は、
2016 年
の倍率は上昇し
たところが多い
(図のⒶ)
。𝑦 = 𝑥
の直線の上方に
プロットされて
いる。下方にプロ
ットされた(倍率
低下した)大学は
東北大学、大阪大学、九州大学と大都市部の難関医学科である。
2015 年に 4 倍を超えた大学では直線の下方にある(倍率低下した)大学が多い。前年 6
倍超だった香川大学、高知大学、長崎大学、熊本大学が志願者を大きく減らし倍率低下した
(図のⒷ)
。
増減の著しい大学
人数でも、率でも、今回最も増加したのは富山大学である(図のⒸ)
。
(15 年)164 人→
(16 年)321 人と倍近い増え方だった。2015 年の志願倍率は 2.7 倍で、大阪大学とともに
全国最下位の倍率だった反動である。大阪大学のような難関大学では反動は起こりにくい
が、一般的大学では、低倍率の翌年は要注意である。
逆に最も減少したのは徳島大学である(図のⒹ)
。
(15 年)588 人→(16 年)174 人と7
割の減である。前年は志願倍率が高く、通過率 62%の厳しい2段階選抜が行われた。その
反動に加えて、第1段階選抜が、倍率によるだけでなく「センター試験 900 点中 600 点」
―2―
という基準点も設けられた。さした高い基準ではないが、これもマイナスに働いた。
徳島大学の2次試験(個別試験)には理科がない。医学科の2次試験は、
「英、数、理 2
科目」という型の大学が圧倒的に多い(これを医学科の「スタンダード型」と呼ぼう)が、
中には理科 1 科目や、理科がない大学もある。徳島大学同様の「英、数」型2次試験の大学
は 2016 年入試では他に5大学あった(旭川医科、秋田、鳥取、島根、宮崎)。鳥取大学を除
くすべてが志願者増になっているのは、徳島大学の大幅減に連動したものであろう。
選抜方法の変更も大きな変動要因になることはもちろんである。徳島大学に次いで減少
数第2位の信州大学(図のⒺ)は選抜方法を3年連続で変更してきた。2 次試験の学科試験
はかつては数学だけで、
「ほんどセンター試験で決まり」という入試だったのが、2014 年に
英語を追加、翌年は化学を追加、そして 2016 年は理科を 2 科目選択として医学科スタンダ
ード型になった。2015 年には2段階選抜が設定されて、実際に第1段階選抜が実施された。
2016 年は、2次試験科目増と、第1段階選抜回避の2点によって志願者は大きく減り、さ
らに後期廃止で前期募集人員が増えた(85 人→100 人)ため倍率は大きく低下した。これ
が富山大学など周辺の医学科の志願者増加にもつながっていると見られる。
2017 年は弘前大学、高知大学で2次試験科目の大きな変更がある。当該大学とその周辺
大学の志望者の動向に変化がでてくるだろう。
高倍率が続く大学
それでは図の右上のエリア(図のⒻ)にある、高倍率が続く大学はどういう大学だろうか。
これらの医学科には共通した特徴がある。
まずは、第1段階選抜の予告倍率が大きいということ。2段階選抜の設定がないのが、弘
前、山口、名古屋市立、浜松医科である。岐阜、奈良県立医科は予告倍率が 15 倍、広島、
旭川医科は 10 倍、島根は 8 倍である。岐阜、奈良県立医科は募集人員が少ないのでそれだ
けでも高倍率になりやすい。
2次試験科目が少ない大学も多い。理科が課されないのが旭川医科、島根。理科が 1 科目
だけなのが奈良県立医科、山口である。
愛媛大学は、2次試験科目は英、数、理2科目のスタンダード型であり、第1段階予告倍
率は6倍であるが高倍率が続いているのは、2次試験の配点が大きいからと思われる(セン
ター550 点、2次 700 点)
。2014 年入試での合格者のセンター最低点は 77%と、一般的に
医学科合格の「底」と言われる8割を切ったため 2015 年に志願者が増えて 10 倍の志願倍
率となった。その 2015 年合格者のセンター最低点は 79%とまだ低めだったため 2016 年の
志願者は微減だった。しかし 2016 年合格者のセンター最低点は 82%に上昇した。2017 年
は志願者が大きく減る可能性がでてきた。
後期日程の状況
後期日程については毎年の変動が大きい。前期同様の、2015 年/2016 年の志願倍率の関
―3―
係図(次ページ)を見れば、各大学を示す点は前期と異なり、𝑦 = 𝑥の直線から遠く離れた
ところに散らばっている。募集人員が少ないので、倍率は毎年変化が大きい。募集人員の比
較的大きい山梨、岐阜、奈良県立医科は倍率変化が小さい。人数として多くの志願者を集め
るのは上記 3 大学と旭川医科である。4大学に共通するのは、2次試験で学科試験を行う
こと。広島と愛媛も多くの志願者を集めるが、こちらは2段階選抜を設定していないためで
ある。
冒頭で見たように、後期日程試験の志
願者数は減少が続いている。全体として
は募集枠が狭まっているから志願者も
減っていると言えるのだが、個別の大
学、例えば募集人員の大きい山梨、岐阜、
奈良県立医科では、募集人員は変わらな
いのに志願者数の減少が続いている。後
期全体としては後期廃止の大学が相次
いだため、2012 年間からの5年間で募
集人員は 17%減ったが、後期志願者総数
はこの率を上回る 29%減なのである。
前期医学科、後期医学科という受験の
仕方が減っているのである。後期は別の系統に出願する、あるいは後期出願を断念するとい
う傾向が続いているようだ。
2016 年の後期実質倍率は 4.8 倍だった。
2017 年は大阪大学の後期が廃止される。
―4―