リサーチ TODAY 2016 年 7 月 12 日 見通し緊急改訂、最大の被害者は日本、再び通貨戦争敗者に 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 みずほ総合研究所は、四半期毎に発表している『内外経済見通し』の緊急改訂を行った1。これは、6月の 英国のEU離脱に伴う世界経済の変動を受けたものだ。5月に当社は日本経済新聞出版社より『中国発 世 界連鎖不況』を刊行した2。その表紙の帯に記したメッセージは「最大の被害者は日本」であった。これは、今 回の英国のEU離脱後の状況についても当てはまる。下記の図表は今回の世界経済見通しの総括表だが、 最も大きな下方修正をしたのは日本である。英国のEU離脱の直接的な影響を受けるユーロ地域も下方修正 したが、それ以上に下落するのは日本であり、まさに「最大の被害者は日本」である。結局、今回の英国の EU離脱が意味するものは英国発の通貨戦争に等しく、その最大の敗者は日本であったということだ。 ■図表:みずほ総合研究所の世界経済予測総括表(2016年7月) (前年比、%) 暦年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 (実績) (実績) (実績) (予測) (予測) (前年比、%) 2016年 2017年 (6月予測) (%ポイント) 2016年 2017年 (6月予測からの修正幅) 3.3 3.5 3.2 3.3 3.6 3.3 3.7 - ▲ 0.1 日米ユーロ圏 0.8 1.5 1.9 1.5 1.6 1.5 1.8 - ▲ 0.2 米国 1.5 2.4 2.4 1.8 2.3 1.8 2.3 - - 予測対象地域計 ユーロ圏 日本 ▲ 0.3 0.9 1.7 1.4 1.1 1.5 1.4 ▲ 0.1 ▲ 0.3 1.4 ▲ 0.0 0.5 0.3 0.5 0.5 0.9 ▲ 0.2 ▲ 0.4 6.4 6.3 6.1 6.0 6.0 6.0 6.0 - - 中国 7.7 7.3 6.9 6.6 6.5 6.6 6.5 - - NIEs 2.9 3.4 1.9 1.8 2.2 1.8 2.2 - - ASEAN5 5.0 4.6 4.8 4.6 4.5 4.6 4.5 - - インド 7.2 7.7 7.7 7.7 7.7 - - アジア 6.3 7.0 オーストラリア 2.0 2.7 2.5 2.7 2.5 2.7 2.5 - - ブラジル 3.0 0.1 ▲ 3.8 ▲ 3.4 0.8 ▲ 3.4 0.8 - - ロシア 1.3 0.7 ▲ 3.7 ▲ 1.2 1.0 ▲ 1.2 1.0 - - 日本(年度) 2.0 ▲ 0.9 0.8 0.4 0.7 0.6 1.0 ▲ 0.2 ▲ 0.3 原油価格(WTI,$/bbl) 98 93 49 44 46 44 46 - - (注)予測対象地域計は IMF による 2013 年 GDP シェア(PPP)により計算。 (資料)IMF よりみずほ総合研究所作成 次ページ図表はポンド/ドルの推移で、今日の水準は1985年以来35年ぶりの水準だ。35年前、筆者は 英国でポンド下落を体験しただけに感慨深い。当時は、サッチャー政権初期の混乱期で、炭鉱ストで英国 中が沈滞し、町にパンクスタイルの若者が闊歩していた。一方、今回の英国EU離脱は意図せざる究極のポ ンド安誘導だ。加えて、英国中央銀行カーニー総裁の緩和示唆によってポンドの下落は加速し、英国株は 年初来高値になった。中国人民元は5年ぶりの安値となり上海株を支えた。一方、日本はそのとばっちりで 株価の大幅なマイナスだ。カーニー総裁は今年2月に日本のマイナス金利策も視野に入れた通貨戦争を 1 リサーチTODAY 2016 年 7 月 12 日 最も強く批判した一人だったが、皮肉にもそのカーニー総裁が先鋭的な通貨安競争に自ら踏み出した。 ■図表:ポンド/ドル推移 2.6 (ポンド/ドル) 2.4 2.2 2.0 1.8 1.6 1.4 1.2 (暦年) 1.0 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 (資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 日本が通貨戦争の最大の敗者であることは下記の図表で明らかだ。しかも、日本だけが通貨高の状況 にあることに対し、世界のどこもこれを問題視しない。日本は四面楚歌の状況にある。これは昨年まで世界 各国が通貨安を志向するなか、米国が自国だけが引き受けていた通貨高の役割を放棄してドル安誘導の 政策に転じたからだ。ドル高是正から米国経済が安定したことで世界連鎖不況は回避され、年初の世界的 株安の悲観シナリオは後退した。今回は、米国の通貨安誘導に加え、英国発の通貨安誘導が生じ、連れ 安でユーロも安くなった。更に、中国も5年半振りの通貨安になっている。アベノミクスの最大の功績は為替 戦争の敗者から逃れたことだったが、その前提が今や大きく揺らいでいる状況にある。 ■図表:主要5通貨の為替動向 通貨高 (2016/1/1=100) 120 116 112 円(対ドル) ユーロ(対ドル) 元(対ドル) ドル ポンド(対ドル) 108 104 100 96 92 通貨安 88 15/1 15/4 15/7 15/10 16/1 16/4 16/7 (年/月) (注)図表上のドルは名目実効レート (資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 1 2 「2016・17 年度 内外経済見通し(2016 年 7 月緊急改訂)」(みずほ総合研究所 『内外経済見通し』 2016 年 7 月 8 日) 『中国発 世界連鎖不況』(みずほ総合研究所編著 日本経済新聞出版社 2016 年 5 月) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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