脱・都会! 地方に移住した若者たち 東京→岡山県真庭市 こ や の 小谷野 智恵さんの場合 Part3 AE 総務企画部 広報・情報システム室 TEL 082-224-5618 このコーナーでは、東京や大阪などの都会から、地方に移住し、充実した生活を送って おられる方をご紹介します。 連載第5回は、東京都から岡山県真庭市の勝山にIターンされ、カフェ「かぴばらこー ひー」を営む小谷野智恵さんにお話を伺いました。 小谷野さんは、生まれは北海道旭川市。ご両 親の仕事の関係で埼玉に移り住んでから、ご 結婚後、東京都に住まいを構えました。 ところが、東日本大震災をきっかけとして、 昔から考えていた自分のカフェを立ち上げた いという思いが膨らみ、これまで全く縁のな かった勝山への移住を思い立ちました。 そして今、町並み保存地区の古民家に小さな お店と、バリ舞踊の教室を開かれています。 今回は、移住や起業を考えている方へのアド バイス、そして小谷野さんの今後について語 左が小谷野さん って頂きました。 Part1、Part2 を読まれていない方は、旬レポ中国地域5月号「小谷野智恵さんの場合 Part1」、旬レポ中国地域6月号「小谷野智恵さんの場合 Part2」をごらんください。 相手が「してもらった」と感じるのが挨拶です --これから移住される方、起業される方へのアドバイスがあれば。 起業しようと思っている方には、自分にできるかできないか、を考えるではなく、自分がやるかやらな いか、だと思います。思っているだけでなく、実際に行動を起こすことがとても大事だと思います。やると 決めたら、行動をおこす。色々な理由を作って先延ばしにするのではなく、起業するためにどんなこと 旬レポ中国地域 2016 年 7 月号 1 が足りないのか、どんな支援が受けられそうか、実際に動き出すことが一番大切だと思います。 --移住して上手くゆくコツがありますか? 移住してどうやって地域に溶け込むのか、というのはとても難しい。私にも分からないです。言えるの は、地元の行事や自分の住んでいる自治会の集まりなどは積極的に参加した方がいいということです。 それが糸口になって、お互いがお互いを知ることが始まりだと思います。 そして、いきなり都会のルールを持ち込んでも絶対上手くいかないと思うので、郷に入れば、本当に 郷に従ったほうがいいと思います。それは開店を手伝ってくれた勝山の友人が教えてくれました。例え ば「お葬式は本当に大事なもので、町内みんなでお手伝いをして送り出すんだよ。だから絶対出た方 がいい」というようなことを教えてくれました。 私にはその地域のルールについて色々教えてくれる友人がいたので、本当に助かりました。地域や 自治会によって色々なルールや決め事があると思います。そしてそれは明確に紙に書いてあるとか、そ ういうものでない場合が多いです。だからこそ、同じ町内の方に聞くとか、地元の方に教えてもらうのが 一番だと思います。 そのためには、いつでも分からないことを聞ける人間関係が、とても大切ですよね。地元の方とお酒 を飲む機会や、地域の行事はとてもいい機会になると思います。 --その他にもありますか? 私の意見ですが、私は東京から勝山に移住してきました。それは勝山が素晴らしいところだと思っ たからこそ移住して来ているわけです。まずそこが根本ですよね。だから、移住してきた人が「私が地域 を良くしよう!町を変えよう!」といった気負いを持ちすぎてはむしろ障害になってしまうのでは。 その町に素晴らしい環境や温かい人間関係が元々あって、それを守ってきた人たちが居るからこそ、 いい町なのだと勝山に住んでから実感しました。だからこそ、感謝の気持ちしかありません。そこを移住 してきた人が「私が、私が」 と主張し始めると上手くい かなくなってしまうのではな いでしょうか。 私は、のれん作家の加 納さんに作っていただいたこ のお店ののれんのように、 自然とグラデーションのよう に地域に溶け込むというか、 町並みの景色の一部にな れたらいいなと思っています。 そしてそっと明かりを灯すよ うな温かい場所であれたら 旬レポ中国地域 2016 年 7 月号 「かぴばらこーひー」のカウンター 2 と。地域の方に「かぴばらさん遠くから勝山に来てがんばっているよね」と見守られるぐらいの位置づけ でありたいと思っています。実際私に町を変える力はありませんし、別に変える必要があるとは思いま せん。 --色々なトラブルを避ける為に大切なことは? とにかく大事なのは、挨拶だと思います。そしてここにポイントがあります! 挨拶は、自分が「した」だけではだめで、相手が「してもらった」と感じることが挨拶なんです。「あの 人は挨拶もしない」といったトラブルは必ず有りますよね。本人はしているかもしれないけれど、声が小 さかったり、相手に伝わらないと「あの人は挨拶もしない」となってしまう。 一方通行ではなく、相手が挨拶をして もらったと受け取ることが大切だと思います。 そこが人間関係の始まりですよね。まず 「ぺこり」と遠くから見ても分かるように頭を 下げるとか、すれ違う時にちゃんと目を見 て挨拶をする。きちんと挨拶ができていれ ば、ほとんど問題無いと思います。 勝山は道で出会った同士が見知らぬ 人でも、「こんにちは!」と挨拶する文化 があリます。挨拶ができれば、それをきっか カフェと自宅の間の中庭 けに会話ができる。とても気持ちのよいことですよね。知らない人でも、声をかけ合うことはとても大切 だと思います。悪い印象は持たれないと思いますし、だからちゃんと目をみて挨拶をします。 あと、田舎のいいところですが、人と人の距離が近いのでいつも誰かがそばにいるという良さがありま す。逆にそれは、どこに行っても誰かに逢うということでもあります。都会から移住して慣れない環境の 中、時にそれがしんどい時もありますよね。そういう時は、今いるコミュニティから少し離れて、外へ息抜 きに出かければいいと思います。一人になれる時間を作るのもとても大切かなと。私の場合、結局勝 山が恋しくなってしまうのですが…(笑) 暮らしと生業 --今後の目標を教えてください。 暮らしと事業をもっともっと濃く繋げたい と思っています。お店を充実させるために は、自分の普段の生き方、つまり暮らしを 充実させないといけない。オンとオフ、それ をどうやって繋げて行くかというのが今のテ ーマで、もがきながらやっています。 お手製の菓子「いちごのクラフティ」 旬レポ中国地域 2016 年 7 月号 3 それは別に売上を伸ばすというのではな く、今、暮らしの中で取り組んでいることに ついてホームページを使って外に発信して いきたい。食べ物に対してもそうですが、大 きな影響を受けているバリのことや、移住し た勝山でのこと、衣食住暮らし全体のこと を発信するなど徐々にやっていきたいです ね。 移住してから夫婦の形も変わってきて、 一緒の時間が激減しましたが、それも私たちにとっては新しい家族の形であり、挑戦です。 --というとは、お店の規模は大きくはされない? 2号店とかお店の規模を増やすことは全く考えていません。大きくするより、今あるものをもっと豊か に、もっと楽しく、もっともっとブラッシュアップしていきたいです。私が目指しているのは、自分が全て関 わりながら、自分の暮らしと生業が一体化するような生き方なので、規模を大きく拡大してゆくことで はないんです。 むしろIターンして女性が起業して働いてゆく一つの事例として見てもらえたらいいかなと思います。 店を出すのは簡単だけど続けることが大事です。今は子どもがいませんが、出産も考えているので、そ れが来たときにどうなるか。そういったことも含めて自分のビジネスモデルだと思っています。 寄り添うお店 --最後に、小谷野さんが大切にしていることを。 まず、「コーヒーは作り置きをしない」ということ。アイスコーヒーも氷の上に一杯一杯直接落としてい ます。さらに「一人一人のお客様の心に寄り添うようなコーヒーを淹れる」ということを大事にしていま す。 例えばカフェに三十人のお客様が来店したとします。それぞれのお客様は自分を「三十人のうちの 一人」とは思っていないですよね。 自分は世界に一人しか居ないから、お客様にと って自分は 1/30 ではなく、「一分の一」です。だか らこそ、「三十人のうちの一人」と思ってお客様に接 したら、そこからどんどんギャップが生まれていきます。 だからこそ、「一分の一」と思って接したいと思うか らこそ、コーヒーはその都度、その人のためだけに、 心に寄り添うようなコーヒーを入れたいと思って、い つもいつも神経を研ぎ澄ませています。 旬レポ中国地域 2016 年 7 月号 4 どんなに忙しくても、その方だけに寄り添う、真実の瞬間を大切にしています。 そして、私たちの元気な姿を見て、お客様が元気になってもらえるようなお店でありたいです。お店 に出している食材は、一個一個、自分が本当に大丈夫だと思ったものを使用しています。それは自 分の子ども、孫、先の世代にまで残って欲しいと思うモノで、 出来合いのものは使わない。シロップなどもお店で手作りしま すし、お店で提供するサンドイッチの味付けもシンプルに、質 の良いお醤油や油とかの素材を組み合わせるというところか ら大事にしたい。そして、知らなかったこと、自分が間違ってい たことがあったら柔軟に変えていくことも大切だと思います。 勝山に住み始めて、心細い事や大変なことがあったので すが、地域の皆さんのおかげで今ここにいます。色々な方の 支えや励ましで、勝山にこうして住んでいるんだと実感した時、 感謝の気持ちとともに、心に寄り添うようなコーヒーを淹れた いと思いました。 それが、ふっと自分の中から湧いてきたキーワードでした。 いつでもカフェでは、私たちの笑顔でお客様にそっと寄り添え るようなお店でありたいなと思います。 旭川を望みながら コーヒーが頂けます 3回にわたってお届けした小谷野さんのIターンはいかがでしたでしょうか。 「一分の一」と思って出されるコーヒー。私もアイスの「レモンコーヒー」をとても美 味しく頂きました。次回は個人的にお伺いして、そのときはホットを飲んでみようと思 っています。 勝山が好きだからこそ勝山を「変える必要がない」とおっしゃる小谷野さん。けれども、 静かに地域に溶け込みながらも、その明るい笑顔とバリ舞踏で周りの方を元気にされて おられるのではないでしょうか。 次回以降もこの連載は続きます。ご期待ください。 経済産業省 中国経済産業局 広報誌 旬レポ中国地域 2016 年 7 月号 Copyright 2016 Chugoku Bureau of Economy , Trade and Industry. 5
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