『よ だ か の 星 』

『
よだかの星』
よだかはもうすっかり力を落してしまっ
て、はねを閉じて、地に落ちて行きました。そしてもう一尺
にわ
で地面にその弱い足がつくというとき、よだかは俄かにのろしのようにそらへとびあがりました。そらの
おそ
なかほどへ来て、よだかはまるで鷲が熊を襲うときするように、ぶるっとからだをゆすっ
て毛をさかだて
ました。
それからキシキシキシキシキシッと高く高く叫びました。その声はまるで鷹でした。野原や林にねむっ
ていたほかのとりは、みんな目をさまして、ぶるぶるふるえながら、いぶかしそうにほしぞらを見あげま
した。
夜 だかは、どこまでも、どこまでも、まっす ぐに空 へのぼって行きました。もう 山焼 けの火 はたばこの
す いがら
吸殻のくらいにしか見えません。よだかはのぼっ
てのぼっ
て行きました。
こお
寒さにいきはむねに白く凍りました。空気がうすくなった為に、はねをそれはそれはせわしくうごか
さなければなりませんでした。
しも
それだのに、ほしの大きさは、さっ
きと少しも変りません。つくいきはふいごのようです。寒さや霜がま
さ
るで剣のようによだかを刺しました。よだかははねがすっ
かりしびれてしまいました。そしてなみだぐん
だ目をあげてもう一ぺんそらを見ました。そうです。これがよだかの最後でした。もうよだかは落ちて
いるのか、のぼっ
ているのか、さかさになっているのか、上を向いているのかも、わかりませんでした。ただこ
ころもちはやすらかに、その血のついた大きなくちばしは、横にまがっては居ましたが、たしかに少しわ
お
らっ
て居りました。
りん
それからしばらくたっ
てよだかははっ
きりまなこをひらきました。そして自分のからだがいま燐の火の
ような青い美しい光になっ
て、しずかに燃えているのを見ました。
すぐとなりは、カシオピア座でした。天の川の青じろいひかりが、すぐうしろになっ
ていました。
そしてよだかの星は燃えつづけました。いつまでもいつまでも燃えつづけました。
今でもまだ燃えています。