新たな園地で 地域の発展にかける

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新たな園地で
地域の発展にかける
柴田篤郎
静岡県JAしみず 代表理事組合長
高速道路の開通を契機にJAしみずは大規模な畑地の造
成や他JAとの交流など、10年、20年先を見通した農
業の確立を目指しています。
◆JAの強みを生かしてミカン園を造成
ります。一緒に話し合い、地権者の気持ちを
――新東名高速道から、造成したばかりの農
うまくまとめることができます。
地が見えますが……。
県営事業では、山地をならして平坦な農地
県営畑地帯総合整備事業で造成した畑地で
を造成しました。この事業では、改良した土地
す。JAしみずは土地改良区の事務局を持っ
の 3 割を非農用地として売却できます。この
ています。全国でも例がないでしょう。開発部
売却金で地権者の負担をゼロにしました。
の職員10人ほどが、この職務に当たっていま
また売却地を、ナショナルトレーニングセ
す。
ンターや、県や国の試験場あるいは工業用地
土地改良事業は、地権者の気持ちがひとつ
として利用することで、地域や社会への貢献
にならないとうまくいきません。この点、地域
にもつながっています。
に密着した事業を行っているJAには強みが
これまで10か所の畑地が造成完了しまし
あります。普段から営農指導などを通じて、農
た。最近では、茶の価格が下がり、今はほと
家の実情をよく知っており、人のつながりもあ
んどミカンを植えています。この 4 ~ 5 年、毎
年1万5,000本から2 万本を新植しました。
傾斜地が多いミカン園は、車での出入りが
難しく、重い荷物を人力で運搬するなど、非
効率で厳しい作業環境にあります。このため
農作物の品質低下や、高齢化に伴う後継者不
足などを招いています。
平坦なミカン園を造ることで作業がしやす
くなり、こうした問題を解決できます。今で
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は、ミカン農家の後継者も何とか確保でき、
しばた・とくろう
昭和52年就農、平成11年JAし
みず市非常勤監事、14年同非常勤
理事を経て、20年JAしみず代表
理事専務、23年代表理事組合長。
26年 J A 静 岡 中 央 会 副 会 長 に 就
任、現在に至る。
撮影・JAしみず総務部広報課課長 伊藤公一
販売量も増え、出荷量1万 t を目指すところま
要があります。
でになりました。単位面積当たりの生産量も、
各地で減少傾向にある中、JAしみずでは少
◆枝豆の周年出荷で「協同の力」
しずつ上がっています。
――ミカン以外では、どのような作目を考え
ていますか。
◆改良区単位で1つの経営体を
唄にもうたわれているように、清水は伝統
――造成地ではどのような経営体を想定して
のある茶の産地です。例年、新茶初取引で最
いますか。
高値がつく両河内を筆頭に小島、庵原、日本
生産者の高齢化が進む中、課題はどのよう
平と南北に産地が広がっています。このところ
にして持続できる経営体を育てるかです。そ
価格が下がり、厳しい状況が続いています
のひとつとして、ブロックごとに1つの経営体
が、清水のお茶ブランド化戦略を推し進め
をつくり、法人化することも考えています。か
るべく、統一ロゴを作成し、新商品開発や既
つてミカン農家は、共同で大型タンクを設置
存商品の見直しに取り組んでいます。
し、共同作業で防除していました。そのような
「フィルターインボトル・一煎パックセット」
ところから取り組み始められたらと思っていま
はそのひとつで、ペットボトルのお茶しか飲ん
す。それにはブロックのリーダーを育てる必
だことがないという人のため、水と茶葉を入れ
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JAトップインタビュー JAしみず
県営事業で造成したミカン園
周年出荷している枝豆
ておくだけで簡単に飲める冷茶のセットとして
けでも時間がかかるものです。この点、JAし
販売しています。
みずでは、やることはやってきたと自負してい
もうひとつ、枝豆も歴史のある作目です。地
ます。
温が上がりやすく、保温性に優れた砂地と豊
日ごろ営農指導員に言っていることです
かな日照を生かし、三保・駒越地区を中心に
が、近くには国や県の果樹に関する試験場が
古くから促成栽培が盛んです。一年中出荷で
2 つもあります。もっと頻繁に出入りしてほし
きる体制を整え、鮮度を保つため枝付きで出
いですね。
こ ま め
荷します。特に駒越産は「駒豆」
(コマメ)と
農家は個人経営者です。何でもひとつひと
して、
「フジエス」ブランドで販売し、料亭な
つ自分で決断し、片付けないと前に進みませ
どで珍重されています。
ん。その点でJAの職員にはもっと経営者感
また、通年出荷のため、重油価格が高騰し
覚を身に付けてほしいと思っています。それ
たときには、部会員が加温する農家のために
にはもっと頻繁に農家と話をするようにしてほ
お金を出し合って、燃料代を補助しました。
しいですね。
力を合わせて周年出荷のブランドを維持す
特に営農指導の職員は、農家がどのような
る。これこそまさしく「協同の力」ではないで
経営を望んでいるのかを聞き出し、それに対
しょうか。
して提案する能力をつけることが求められて
いると思います。
――営農面では、どのような支援をしてい
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ますか。
――これからJAにはどのような職員を求め
営農指導には最も力を入れています。経営
ますか。
資源を十分に投じて、営農経済事業に取り組
個人個人が向上心を持つこと。これが第一
んでいます。
だと思います。要はその人のやる気の問題で
JAグループはJA改革で、農業所得の向
す。それには職場の環境が大事で、環境が悪
上、生産の拡大、地域貢献の 3 つを掲げてい
いと、それに流されてしまいます。みんながや
ますが、これらは布石があってこそ実現でき
る気を起こす職場の雰囲気づくりのため、経
るもの。何年以内に達成するという目標を設
営理念でも「組合員満足と職員のやりがいが
ければいいというのではなく、種をまく準備だ
好循環する活力ある職場づくりを進める」と
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JAしみずの 2 大特産、お茶とミカンとその加工品
いうことを基本目標に掲げています。
るJAは残ることができると思っています。
JAトップインタビュー JAしみず
山間部で活躍する移動金融店舗
それには管理職もしっかりしなければなり
ません。何でも判断を上司に仰ぐのではなく、
◆中部横断自動車道で長野県のJAと交流
業務権限表をしっかり見て、決めることは責
――どのような地域の将来構想を描いていま
任を持って決めるということです。
すか。
広く職員に望むことは、人の気持ちを察す
中部横断自動車道が平成29年に開通しま
ることのできるような職員であってほしいとい
す。長野県の小諸市と清水をつなぐ高速道路
うことです。
「あなたのために一生懸命」
。これ
で、長野県との交通が格段によくなります。中
がJAしみずのキャッチフレーズです。
央自動車道の山梨県の双葉ジャンクションを
こ もろ
過ぎて、最初のサービスエリアがJAしみずの
◆営農経済中心のJAの方向づけを
すぐ近くにできる予定で、直売所などの施設
――JAしみずは発足以来、40年余り。これ
を考えています。また長野県とはJA大北と
からのJAの役割をどう考えますか。
姉妹JAになっていますが、こうした他県のJ
JAの神髄は営農指導、経済事業にありま
A同士の交流を増やし、観光客の誘致も進め
す。金融共済事業の安定も必要ですが、それ
たいと思っています。
だけでなく、今必要なのは営農指導、経済事
業であり、そのためのJAの方向づけです。
信共分離の動きなどを考えると、10年、20年
(写真は全てJAしみず提供)
◎JAしみずの概況
静岡県の旧清水市内の9農協が合併し、昭和47年清水市農
協が誕生。平成15年、清水市と静岡市の合併に伴いJAしみ
先、JAはどうなるか心配です。
ずと改称。平成24年、旧JAするが路の一部を継承する。
3 年前、民間のスーパーが撤退して困って
静岡県
いた地区に、JAの子会社が購買店舗を作り、
地域の人に大変喜ばれました。当初は、赤字
か、よくてとんとんと考えていたところ、地域
の人に支えられ、今では黒字です。金融面で
も移動金融車を配置し、山間部の高齢者に喜
ばれています。規模が小さくても、このように
組合員から「JAがあってよかった」と言われ
JAしみず
▽組合員数
2万5,161人
(うち正組合員7,015人)
▽貯金残高
2,680億6,374万円
▽長期共済契約高
7,108億5,449万円
▽購買品取扱高
39億3,548万円
▽販売品販売高
40億6,401万円
▽職員数
454人(うち正職員386人)
(平成27年度末)
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