資料1-7 シェアリングエコノミー検討会議 第1回 2016年7月8日 シェアリングエコノミーと 自主的ルール整備 生貝直人 東京大学大学院情報学環客員准教授 科学技術振興機構さきがけ研究員(ビッグデータ基盤領域) 東京藝術大学特別研究員 ThisworkislicensedunderaCrea8veCommonsA<ribu8on4.0JPlicense. 1 現代の情報経済における 直接的な「政府規制」の困難 • 技術的・ビジネス的イノベーションの速度 • 規制策定に必要な専門的知識 • 安全・安心やプライバシー等、法による画一的定 義が困難な領域の拡大 • 利用者への実質的規制能力(アーキテクチャ・利 用規約等)を有するプラットフォームの台頭 • グローバル環境での一国政府規制能力の限界 • 表現の自由への配慮 2 現代の情報経済における 純粋な「自主規制」の困難 • そもそも、ルールが作られない可能性 • ルール内容の不十分性、不公正性(スタート アップの排除や反競争性等) • 実効性(エンフォースメント)の不足 • ルールを継続的に運用・執行しうる安定的な 業界団体等の形成・維持の困難 • 消費者や利害関係者の参加不足(レジティマ シーの問題、「当事者」とは誰か) • 国際的な非整合性(ローカルルール化) 3 共同規制(co-regula8on)という概念 • 自主規制の持つ柔軟性等の利点と、政府規制が持つ確実性等の 利点を組み合わせ、イノベーション親和的な柔軟かつ確実なルー ル枠組を作り出す政策手法 • 市場環境や問題状況の推移に合わせ、ルール内容や政府関与度 合いは応答的に変化し続けることを念頭に置いた、動態的な概念 規制 なし 特に規制の必要なく、市場自身が問題の発生を抑 止あるいは解決している 自主 規制 業界団体等による自主的な規制によって当該問題 が適切に解決されている(政府による一般原則の 提示は存在し得る) 共同 規制 自主規制と政府規制の混合措置により問題が解決 されている(政府の自主規制補強措置が存在する) 規制弱 応 答 的 対 応 規制強 政府 規制 目的とプロセスが政府によって定義されており、政 府機関によるエンフォースメントが担保されている 4 英Ofcom[2008]Iden8fyingappropriateregulatorysolu8ons:principlesforanalysingself-andco-regula8on.より作成 自主規制・共同規制によるルール形成と 各国・各分野での実践 TheCommunityofPrac8ceforbe<erself-andcoregula8on(欧州委員会によるベストプラクティス共有組織) 直近の検討課題・検討事例:ビデオ共有サイト基準、SNS の青少年保護、クラウドサービスの品質保証(SLA)、RFID のプライバシー評価、オンライン広告の基準、ダイレクト マーケティング、オンラインゲームの青少年保護、フッ素化 合物の使用基準、ジュース品質、文化財修復士の行動規 範、スポーツ賭博、科学研究倫理、子供食料品広告、ボト ル水の衛生基準、データセンターの省エネ基準、、、、、 『情報社会と共同規制』勁草書房、2011年 第1章 自主規制から共同規制へ 第2章 共同規制のフレームワーク 第3章 通信・放送の融合とコンテンツ規制 第4章 モバイルコンテンツの青少年有害情報対策 第5章 行動ターゲティング広告のプライバシー保護 第6章 UGC・P2Pにおける著作権侵害への対応 第7章 SNS上での青少年保護とプライバシー問題 第8章 音楽配信プラットフォームとDRM 第9章 共同規制方法論の確立に向けて 5 欧州委員会 自主・共同規制実践共同体(CoP) 「より良い自主・共同規制のための原則」 • 形成段階(Concep8on) – 参加者:できうる限りの潜在的かつ有用な主体を含む形で構成されるべき。 – オープン性:アクション(訳注:自主規制・共同規制)の構想は、オープンかつ全ての利害関 係者を巻き込む形で準備されるべき。 – 誠実さ:参加者によって異なる能力を考慮し、アクションの範囲外で行われる諸活動につい ても当該アクションと一貫しているべきであり、参加者は成功に向けた真摯な努力へのコミッ トが期待される。 – 目的:明確かつ明瞭に設定され、達成目標と同時に評価指標を含むべき。 – 法令遵守:アクションは、適用される法や、EU法・各国法が定める基本権を遵守するよう設計 されていなければならない。 • 実施段階(Implementa8on) – 反復的な改善:迅速に開始すると共に、説明責任と「実行による学習(LearningbyDoing)の プロセス、全ての参加者の間での持続的なインタラクションを確保する。 – モニタリング:十分にオープンに、そして全ての利害関係者からの尊敬を集めるような自律的 な形で実施する。 – 評価:全ての参加者が、そのアクションを終了するのか、改善するのか、別のものに置き換 えるのかを評価する。 – 紛争解決:時宜を得た注目を得ることを確保する。ルールへの違反は段階的なスケールの 罰則の対象になる。 – 財政:参加者はコミットメントを満たすのに不可欠な手段を提供し、市民社会組織からの参加 に対しては、公的資金等による支援を行うことが考えられる。 ThePrinciplesforBe<erSelf-andco-Regula8on(2013) h<ps://ec.europa.eu/digital-single-market/best-prac8ce-principles-be<er-self-and-co-regula8on 6 自主的なルールに含まれるべき要素 ①ルール策定段階 • 明確な「目的」の設定 – そのルールは何のために作るのか、関係者の合意 – 消費者保護、サービス提供者(労働者)保護、法令遵 守、持続的イノベーション、解決すべき社会的課題、 国際性等 • マルチステイクホルダー性の担保 – ルールは、ルールの影響を受ける利害関係者(消費 者・サービス提供者・関連業界・政府機関等)が関与 して作られたものであることが必要 • 目的を達成するための具体的ルール – いわゆる狭義の「ルール」。参加者規模の相違など の要素を考慮し、実行可能なルールを定める 7 自主的なルールに含まれるべき要素 ②ルール実施段階 • ルールをいかに運用するかのルール – 一般論として、この段階で特に独立した「第三者委員会」 の役割が重要になる • エンフォースメントの仕組み – ルールが破られたときにどうするか(自律的に解決する か/放置するか/当局に任せるか) – 紛争解決手続=ルールの解釈と適用、異議申立 • その前提としてのモニタリングと評価基準・手法 • 定期的な枠組評価に基づく変更・撤廃手続き →これら要素の多くを政府が担えば政府規制、多くを当 事者が担えば自主規制、共同的であれば共同規制 8 例1:英国におけるネット動画サービスの共同規制 • 2007年、従来の放送メディア規制を部分的にネット分野(IPTV・ VOD)に拡大適用するEU視聴覚メディアサービス指令(AVMS指 令)への対応にあたり、英国は共同規制での国内実施を選択 • 基盤法を制定した上で、詳細ルール策定やエンフォースメントを業 界団体に明示的に委任し、政府は補強的関与を行う 政府(DCMS・Ofcom) 内容や時間帯での青少年保護、広告規制等の原則 共同規制組織 としての指名 規制強化の 歯止め ・ルールの評価 ・罰則権限の保持 ・継続的な対話・評 価と報告書受領等 業界団体(ATVOD・ASA) 詳細な自主規制ルールの構築 第三者委員会の設置によるルール運用、紛争解決等 ※ルール明確化や市場状況の変化に伴い、2016年にATVODの規制機能はOfcomに統合。さらに現在、AVMS指令の動画共有 サービスへの拡大適用改正に向け、同分野での自主規制・共同規制メカニズムの検討が進む。 9 例2:米国におけるプライバシー分野の「自主規制」 • 包括的な個人情報保護法を持たない米国では、ネット分野のプライバ シー保護において、議会や市民から高まる規制強化論を背景に、FTC(連 邦取引委員会)と業界の交渉に基づく「自主規制」での対応を強化 • FTCが提示する「配慮原則」を反映し、業界団体が自主規制ルールを策 定。エンフォースメントは原則として業界団体自身が担うが、深刻な消費 者被害等に対してはFTCが消費者保護法制に基づき罰則を課す 消費者団体 評価 評 価 提 言 FTCの配慮原則 (透明性、消費者からのアクセス、セキュリティ等) 評価 遵守 関連業界団体の自主規制ルール 加盟・遵守 PP違反や深刻な 消費者被害への 罰則(FTC法5条) 評価・罰則 各企業の活動とプライバシーポリシー(PP)への反映 10 ※ただしルールの実効性の不足への批判が高まり、包括法を作る形での規制強化が進行中 なぜ、ルールは自主的に作られ、守られるのか? =インセンティブ(動機)があるから • 消費者・社会からの評判確保 – 例:優良マークの策定・取得による競争優位 • 法的不確実性の縮減 – 何が合法かを自主的に明確化していく必要性 – 例:個人情報保護関連法制 • 必要以上に厳格な規制の抑止 – 当事者が自主的に作らなければ、政府などから必要 以上に厳格なルールが作られるリスク(いわゆる「規 制の影」理論とも呼ばれる) • 政府(法)による公式・非公式な要請 – 例:青少年保護関連法制 11 “CarrotorS8ck” 「振興策」に裏付けられた自主規制・共同規制 • 政府調達基準 – 例:米リハビリテーション法第508条では、連邦政府が調 達するソフトウェアや電子機器について、一定の基準に 基づく障害者対応(バリアフリー)機能の搭載を義務付け – 例:プライバシーマーク取得の公共調達要件化 • より直接的な財政支援 – 例:日本を含む各国において、公的資金を受けて作成さ れた論文や研究データをインターネット上で誰もがアクセ ス可能とする、オープンアクセス化の義務付けが進む • コスト構造調整(負の外部性の内部化) – 例:温室効果ガスの排出権取引市場を創設することによ り、環境配慮的企業のコスト優位性を高める 12 シェアリングエコノミーと 自主規制・共同規制? • 欧州経済社会評議会(ECSC)「シェアリングエコノミーと自 主規制」意見(2016年5月25日) – 「シェアリングエコノミーに向けた欧州アジェンダ」策定と並行し て検討。EUおよび各国政府は、シェアリングエコノミーに関して、 自主規制や共同規制の補完的な役割を明確に定義した、法的 枠組み(legalframework)の構築を急ぐべきである。 – 自主規制ルールの内容自体は、当事者からの要求がない限り EUや各国政府が決めるべきではないが、EUや各国政府は、自 主規制を評価するための明確な基準と、明確なガバナンス原 則(principles)を定めるべきである。 • 英国RSA(RoyalSocietyfortheencouragementofArts, ManufacturesandCommerce)とSharingEconomyUK – RSAは2016年1月にFairShare:Reclaimingpowerinthesharing economy報告書を公表し、“SharedRegula8on”の必要性を強調 – 業界団体のSharingEconomyUKは行動規範を公表しており、 オックスフォード大学と協力してトラストマークの策定を進める 13 終わりに:問題意識 • 新しい仕組みは、主として「制度(ハードローやソフト ロー)」、「技術」、「ビジネスモデル(お金の集め方)」の3要 素で作られる。 • 「技術」と「ビジネスモデル」については、常に市場から新 たなイノベーションが生み出されている。シェアリングエコ ノミーはその代表格。一方、それを支える「制度」を作るこ とは、全て政府に任せることが望ましいのだろうか。 • そうではなく、「制度」もイノベーションの当事者が自主的に 作っていくことが、持続的なイノベーションの実現に資する のではないか。自主的なルール整備、あるいは自主規制・ 共同規制は、そのための方法論と位置付けられる。 14
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