資料11(2016年7月7日)

2016 年度 商法第 3 部
2016 年 7 月 7 日
資料 11
Ⅵ.保険
1.総論
1.1.保険の意義・機能と仕組み(江頭 407-409 頁)
1.1.1.保険による危険への対処
「保険契約」(保険法 2 条 1 号)と「保険業」(保険業法 2 条 1 項)
「保険」の定義(江頭 407 頁)
「同種の危険(財産上の需要(入用)が発生する可能性)に曝された多数の経済主体(企
業・家計)を一つの団体と見ると、そこには大数の法則が成り立つことを応用して、それ
に属する各経済主体がそれぞれの危険率に相応した出損をなすことにより共同的備蓄を形
成し、現実に需要が発生した経済主体がそこから支払を受ける方法で需要を充足する制度」
リスク回避性と保険加入によるリスクの移転
大量のリスクの集積による大数の法則の利用
保険料による共同のファンドの形成
給付反対給付均等の原則:保険料=保険事故発生確率×保険金額
収支相等の原則:受取保険料の総額=支払保険金の総額
保険契約の有償・双務契約性
保険契約者による保険料の支払と保険者による危険の負担
1.1.2.貯蓄・投資機能
平準保険料と保険料積立金
Cf.解約返戻金
保険会社による保険料積立金の運用と予定利率
順ザヤと逆ザヤ
Cf.変額保険
「掛け捨て」の定期保険と無事故戻し
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1.2.保険の分類(江頭 409-415 頁)
1.2.1.保険契約の種類
保険金額の決定方法:損害保険と定額保険
保険事故の客体:財産保険と人保険
財産
人・死亡
人・傷害疾病(第三分野)
損害
損害保険(6 号)
損害保険?
傷害疾病損害保険(7 号)
定額
なし
生命保険(8 号)
傷害疾病定額保険(9 号)
生命保険業免許(3 条 4 項)と損害保険業免許(3 条 5 項)の区分
第三分野についての調整(保険業法 3 条 4 項 2 号、5 項 2 号)
元受保険と再保険
1.2.2.生命保険業と損害保険業の違いと生損保兼営禁止
生保:時間の経過によるリスクの増加→平準保険料、貯蓄性、再加入困難性
長期契約→運用の重要性
損保:短期契約、貯蓄性は低い
リスク測定の重要性
生損保の兼営禁止(保険業法 3 条 3 項)
子会社・持株会社による相互参入(保険業法 106 条、271 条の 22)
生保の再加入困難性
1.2.3.営利保険と相互保険
相互会社:保険契約者=相互会社の社員
社員間の相互扶助、商法の準用(保険業法 21 条 2 項)
社員への剰余金配当(保険業法 55 条の 2)
Cf.株式会社における契約者配当(保険業法 114 条)
総代会(保険業法 42 条)による取締役等の選任(保険業法 52 条 1 項)
相互会社の株式会社化(保険業法 85 条以下)
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1.3.保険契約の当事者(江頭 415-417 頁)
損害保険
保険者(2 条 2 号)
保険契約者(2 条 3 号)
被保険者(2 条 4 号イ:保険事故の発生により損害を受ける者)
生命保険・傷害疾病定額保険
保険者(2 条 2 号)、保険契約者(2 条 3 号)
被保険者(2 条 4 号ロ・ハ:その生存または死亡が保険事故である者)
保険金受取人(2 条 5 号)
他人のための保険契約
損保:保険契約者≠被保険者
生保:保険契約者≠保険金受取人
他人の生命の生命保険契約:保険契約者≠被保険者
1.4.保険法の規律の特徴
1.4.1.契約者側への情報の偏在への対処
(1)事前の非対称
逆選択
告知義務(4 条、37 条、66 条)
(2)事後の非対称
モラル・ハザード(moral hazard)
モラール・ハザード(morale hazard)と狭義のモラル・ハザード
保険者の免責(17 条、51 条、80 条)
重大事由解除(30 条、57 条、86 条)
利得禁止原則・被保険利益(3 条)
被保険者の同意(38 条、67 条)
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1.4.2.保険者側への情報の偏在への対処
約款規制
保険者の説明義務・助言義務?
1.4.3.契約締結後の事情の変動への対処
危険の減少による保険料の減額(11 条、48 条、77 条)
危険増加による解除(29 条、56 条、85 条)
保険契約者の任意解約権(27 条、54 条、83 条)
1.4.4.片面的強行規定性
片面的強行規定のリスト(7・12・26・33・36・41・49・53・65・70・78・82・94 条)
企業保険の適用除外(36 条)
1.4.5.保険経営学上の原則と保険法の関係
収支相等の原則
約款による担保範囲の明確化・限定
給付反対給付均等の原則
逆選択と告知義務
危険の減少による保険料の減額
危険増加による解除
1.5.保険業法の規律の概要
1.5.1.保険業法による監督の目的
(1)保険者の支払能力確保の必要性
(2)情報劣位にある保険契約者等の保護
保険約款の複雑性・附合契約性
不適切な募集行為の恐れ
(3)保険金の支払いの確保
保険金不払い問題
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1.5.2.保険業法による監督
(1)規制主体とエンフォースメント手段
免許制(保険業法 3 条 1 項)
一定の組織(保険業法 5 の 2)と一定の規模(保険業法 6、同法施行令 2 の 2)
申請手続(保険業法 4 条)と審査基準(5 条)
事業方法書・普通保険約款・保険料及び責任準備金の算出方法書等の提出
保険会社の業務及び財産の状況の把握
業務報告書等の提出義務(保険業法 110 条)
報告又は資料の提出命令(保険業法 128 条)
立入検査(保険業法 129 条)
是正権限
普通保険約款等の記載事項の変更命令(保険業法 131 条)
業務改善命令・業務停止命令・免許取消等(保険業法 132-134 条)
内閣総理大臣から金融庁長官への委任(保険業法 313 条)
金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」
(2)保険会社の財務の健全性の確保
資産運用規制(保険業法 97 条 2 項、97 条の 2)
業務範囲規制
他業禁止(保険業法 100 条)と子会社範囲規制(保険業法 106 条)
ソルベンシー・マージン比率規制(保険業法 130 条・同法施行規則 86 条)
早期是正措置(132 条 2 項→保険業法第 132 条第 2 項に規定する区分等を定める命令)
(3)約款と募集行為のコントロール
普通保険約款の認可制
普通保険約款を免許申請の際に提出(保険業法 4 条 2 項 3 号)
普通保険約款の記載事項の変更も認可の対象(保険業法 123 条 1 項)
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保険募集規制(保険業法 275 条以下)
(4)保険会社の破綻処理に関する規制
破綻時点での回収ではなく保険契約の移転・存続と契約条件の変更が目的
保険業法上の手続(保険業法 241 条以下)
会社更生手続(金融機関等の更生手続の特例等に関する法律 168 条以下・357 条以下)
受皿保険会社・保険契約者保護機構への包括的な契約移転
保険契約者保護機構による資金援助制度(保険業法 259 条以下)
1.6.保険約款と約款規制(江頭 418-420 頁)
1.6.1.総説
大数の法則→約款による画一的取扱いが必須
普通保険約款と特約
損害保険会社の共同行為(保険業法 102 条)と独占禁止法の適用除外(保険業法 101 条)
1.6.2.保険約款の拘束力
意思推定説:大判大正 4 年 12 月 24 日民録 21 輯 2182 頁(Ⅱ-1、百選 2)
法規説
白地商慣習説
約款の拘束力から内容規制・説明義務へ
Cf. 民法改正案 548 条の 2:定型約款の合意
第 1 項:定型約款の拘束力
第 2 項:不当条項についての拘束力の否定
1.6.3.保険約款の解釈
保険約款の客観的解釈の原則
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約款作成者不利の原則
1.6.4.保険約款の内容規制
保険法の片面的強行規定性
普通保険約款の認可制
未認可約款の有効性(最判昭和 45 年 12 月 24 日民集 24 巻 13 号 2187 頁)
行政の審査能力の限界
司法による内容規制
「解釈」による内容規制
Ex.最判昭和 62 年 2 月 20 日民集 41 巻 1 号 159 頁(Ⅳ-6)
消費者契約法 10 条
Ex.東京高決平成 21 年 9 月 30 日判タ 1317 号 72 頁
最判平成 24 年 3 月 16 日金判 1389 号 14 頁(IV-10)
公序良俗・信義則
1.7.保険と類似する他の制度・取引について
1.7.1.保険の特徴の一部を欠くもの
Ex.ある者が 1 年以内に死亡したら 1 億円を支払う旨を 1 万円と引換えに約束
ある者の所有家屋が 1 年以内に焼失したら 1 億円を支払う旨を 1 万円と引換えに約束
「損害保険契約」(2 条 6 号)、「生命保険契約」(2 条 8 号)、「保険契約」(2 条 1 号)
保険業法による監督の必要性
モラルハザードへの対処の必要性
1.7.2.保険の特徴を備えているが「保険」とは異なると考えられているもの
(1)共済
保険法の適用(2 条 1 号参照)
「根拠法のない共済」と平成 17 年保険業法改正
Cf.少額短期保険業者(保険業法 272 条以下)
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(2)代替的リスク移転手法(ART: alternative risk transfer)
クレジットデリバティブ、天候デリバティブ、CAT ボンド等
保険会社の業務範囲内(保険業法 98 条 1 項 6 号・8 号)
Cf. 銀行法 10 条 2 項 12 号・14 号
モラルハザードへの対処の必要性?
(3)その他
故障・事故発生率に応じた料金設定による会員制の自動車救援サービス
故障・事故発生率に応じた料金設定による家電販売業者による製品保証 等
リスク移転のみを行う取引かどうか
保険会社による独占のコストと事業者に対する監督の必要性
(4)保険・デリバティブ・賭博の有効性
【参考文献】
山下友信=竹濱修=洲崎博史=山本哲生『保険法(第 3 版補訂版)』(有斐閣、2015 年)
山下友信『保険法』(有斐閣、2005 年)
米山高生『リスクと保険の基礎理論』(同文館出版、2012 年)
安居孝啓『最新保険業法の解説【改訂版】』(大成出版社、2010 年)
金融審議会・保険商品・サービスの提供等の在り方に関するワーキング・グループ「新
しい保険商品・サービス及び募集ルールのあり方について」(平成 25 年 6 月 7 日)
http://www.fsa.go.jp/news/24/singi/20130611-2/01.pdf
山下友信「消費者契約法と保険約款」生命保険論集 139 号 1 頁(2002 年)
後藤元「法律の適用・解釈における保険概念の役割」保険学雑誌 609 号 49 頁(2010 年)
森田果「射倖契約はなぜ違法なのか?」NBL849 号 35 頁(2007 年)
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