緊急リポート:Brexit で100円で GDP は0.6%下押し

リサーチ TODAY
2016 年 7 月 8 日
緊急リポート:Brexit で100円で GDP は0.6%下押し
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
みずほ総合研究所は、英国のEU離脱に関する緊急リポートを発表した1。ここでは投資家のリスク選好度
低下に伴う不確実性の高まりにより為替は5円程度の円高、つまり100円台にもなることに留意の必要があ
ると述べた。6月23日のEU残留・離脱を問う国民投票の結果、Brexitが決まり、為替は一時的に1ドル100
円を割った。その後、為替相場はやや戻す状況にあるが、100円を視野にした現実的な議論が急務な状況
にある。そこで、当社は、為替の100円を視野にした緊急リポートを発表している2。下記の図表はリポートで
示したBrexitによる日本経済への影響の試算であり、2016年度に0.6%の下方圧力が生じるとした。今後、
株安、企業収益の悪化にとどまらず、実物経済にも、輸出の下押し、設備投資の下振れが起き、その結果
として、国内空洞化懸念の再燃、さらにデフレ圧力の高まりが生じることに警戒する必要がある。
■図表:Brexitによる日本経済への影響試算(2016年度)
実質GDP成長率への影響
▲ 0.3%Pt
▲ 0.2%Pt
円高ショック
株安ショック
英国GDP下振れ
(OECDベース)
合計
▲ 0.1%Pt
▲ 0.6%Pt
ショックの前提
105円/ドル⇒100円/ドル
16,200円⇒14,900円
円高ショック
株安ショック
英国GDP下振れ(OECDベース)
英国成長率0.3%Pt低下
(注)グローバルモデル(Global VAR)による試算。円高ショック、株安ショックは、6 月 23 日の為替相場(中心相場)、
株価(終値)をベースに、為替相場が 100 円/ドル、株価が約 14,900 円になるショックが発生したと想定。英国
GDP 下振れの影響は、OECD 試算による英国の GDP 下振れ幅に合致するように構造ショック(英国 GDP)を設
定して試算。
(資料)みずほ総合研究所作成
当社は急激な円高の場合、通常の為替変動に比べ輸出への影響が大きくなることに警鐘を鳴らしてき
たが3、今回のケースはまさにその場合にあてはまる。次ページの図表は為替レートと海外生産比率の変化
を示す。100円を割る円高水準が定着すれば、国内空洞化の懸念が再燃する可能性がある。
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2016 年 7 月 8 日
■図表:為替レートと海外生産比率の関係
(海外生産比率の変化、過去2年平均・2年ラグ、%Pt)
3.0
均衡レートを上回る円高が定着すれば、
国内空洞化懸念が再燃する恐れも
2.5
y = -0.06 x - 0.36
R² = 0.41
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
-0.5
-35
円高
-30
-25
-20
-15
円安
-10
-5
0
(市場レートの購買力平価からのかい離、%)
(注)動学的因子モデルから抽出される 13 の金融指標の共変動が投資家のリスク許容度を表すとした
(資料)Datastream、Bloomberg 等よりみずほ総合研究所作成
下記の図表は、金融市場での不確実性の高まりによる設備投資への影響を示す。日本の株式市場のボ
ラティリティが英国民投票後に大きく上昇したことによる影響を試算すると、約1年後に設備投資の水準が
0.7~0.8%押し下げられるとの結果となった。
■図表:金融市場での不確実性の高まりによる設備投資への影響(累積)
(%)
0.0
-0.1
-0.2
-0.3
-0.4
-0.5
-0.6
-0.7
-0.8
-0.9
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15 (カ月後)
(注) 1.6 月 1 日~23 日までの株価のボラティリティ(過去 20 日間のヒストリカル・ボラティリティ)をベースとし、
24 日以降のボラティリティの高まり(28 日以降は 27 日から横ばいと想定)による月間ボラティリティの上昇
による設備投資への影響を試算。
2.試算の詳細は、市川雄介「不確実性の増大と景気への影響」 (2015 年 9 月 11 日)を参照。
(資料)経済産業省、日経 NEEDS などより、みずほ総合研究所作成
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「Brexit で何が起こるか?」(みずほ総合研究所 『緊急リポート』 2016 年 6 月 9 日)
「英国の EU 離脱による金融市場、経済への影響」(みずほ総合研究所 『緊急リポート』 2016 年 6 月 28 日)
円高の『非対称性』、急激な円高の輸出への悪影響」(みずほ総合研究所 『リサーチ TODAY』 2016 年 6 月 21 日)
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