脆弱な欧州銀行株が示唆するもの - 三菱UFJモルガン・スタンレー証券

藤戸レポート
脆弱な欧州銀行株が示唆するもの
「論理よりも感情が勝った」
英国のEU離脱
(グラフ1)
世代間格差が鮮明だった
英国国民投票
2016 年 7 月 4 日
「論理よりも感情が勝った」・・・英国の EU(欧州連合)離脱決定は、その
典型的な例と言えよう。世界のポートフォリオ・マネージャーの多くは、「英国
民は自傷行為とも言える離脱を選ぶことはない」とロジカルに考えていた。と
ころが、結果は「離脱」51.9%、「残留」48.1%となった。英調査会社ロード・ア
シュクロフトによると、年齢別の投票行動は、18~24 歳が「残留」73%と最も
高かったが、45 歳以上では「離脱」が多数派となり、65 歳以上では「離脱」
が 60%に達している(グラフ 1)。やはり、若年層は、景気後退や失業率の上
昇といった直接的な実態悪を恐れ、高齢層は英国全盛期の政治的理念
「光栄ある孤立」(Splendid Isolation)に憧憬を抱いていることが鮮明となっ
た。今や世界に冠たる大英帝国ではなく、欧州構成の一国となった現実
を、高齢層は受け入れ難かったのだ。もう一つは、「EU への拠出金を社会
保障に回せば、充実した老後生活が可能」との離脱派の主張が、高齢層を
惑乱させたのかもしれない。しかし、この社会保障への転用説を唱えていた
英国独立党のナイジェル・ファラージュ党首は、住民投票後に「間違いだっ
た」と掌を返している。一部では、「再国民投票」との運動もあるが、デンマ
ークのような小国ではあっても、英国のような大国では想定し難い。古代ロ
ーマのユリウス・カエサルは、国法を犯して軍団と共にルビコン川を超える
際に、「賽は投げられた」と語った。英国民も同様に、「賽を投げた」のだ。今
さら後戻りはできない。
英国国民投票:年齢層別の投票行動
合計
離脱
52
65歳~
60
残留
48
40
55~64
57
43
45~54
56
44
35~44
48
25~34
52
38
18~24
62
27
73
(%)
0
20
40
60
80
100
出所:英ロード・アシュクロフト(1万2369人の投票行動を調査)のデータをもとにMUMSS作成
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
2016 年 7 月 4 日
ストラテジー
マーケット分析
この英国離脱を受けて市場は混乱状態となったが、投資家に冷静さが戻
ってくると同時に、興味深い反応が浮かび上がってきた。まずは、「離脱」決
定直前の 6/23 から 6/30 までの株価パフォーマンスを比較してみよう
(6/30 時点の株価。ブルームバーグ・データ。為替考慮なし)(表 1)。
(表1)
Brexitを挟んで
株価パフォーマンスに格差
Brexit(英国 EU 離脱)と各国の株価指数
株価指数
インドネシア・ジャカルタ
英・FT100
シンガポール・ST
中国・上海
フィリピン総合
タイ・セット
スイス・SMI
ブラジル・ボペスパ
台湾・加権
米・ダウ工業株30種
離脱後騰落率(%) 年初来騰落率(%)
2.9
2.6
1.7
1.3
0.9
0.6
▲0.0
▲0.1
▲0.1
▲0.5
9.2
4.2
▲1.5
▲17.2
12.1
12.2
▲9.1
18.9
3.9
2.9
株価指数
ギリシャ・アテネ総合
アイルランド・全株
イタリア・MIB
スペイン・IBEX
ドイツ・DAX
ポーランド・ワルシャワ
フランス・CAC
ポルトガル・PSI
ベルギー・BEL
日経平均
離脱後騰落率(%) 年初来騰落率(%)
▲12.2
▲11.4
▲9.8
▲8.1
▲5.6
▲5.6
▲5.1
▲5.0
▲4.4
▲4.1
▲14.1
▲16.9
▲24.4
▲14.5
▲9.9
▲5.8
▲8.6
▲16.2
▲9.6
▲18.2
(出所)ブルームバーグ・データをもとにMUMSS作成
相対的には、欧州の混乱と遠いアジア株の中に、良好なパフォーマンス
を見せるものが多いようだ。インドネシア、シンガポール、フィリピン、タイ等
は、年初来の上昇率も高く、堅調展開だ。台湾もそれに次いでいる。
震源地の英国は大幅アウトパ
フォームの怪現象
ところが、今回の騒動の震源地である英国は、国民投票前の水準を奪回
し、上昇に転じている。カーニー英中銀総裁が、今夏にも利下げを示唆し
たこともあり、年初来でも+4.2%だ。投資家の肌感覚とは最も異なる成果と言
えよう(グラフ 2)。国民投票で「離脱」と読んで英国株を空売りしたとすれば、
利益獲得どころかショート・カバーに必死の展開だ。空売り筋は、「何でこう
なる!?」との思いが強いだろう。この背景には、FT100 指数のやや特殊な
性格がある。銘柄別の指数構成ウェイトを見ると、①HSBC(金融)5.5%、②
ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(タバコ)5.3%、③ロイヤル・ダッチ・シェル A
株(オイル・メジャー)5.1%、④BP(オイル・メジャー)4.8%、⑤グラクソ・スミスク
ライン(医薬品)4.6%、⑥ロイヤル・ダッチ・シェル B 株(オイル・メジャー)
4.6%、⑦ボーダフォン・グループ(通信)3.6%、⑧アストラゼネカ(医薬品)
3.3%、⑨ディアジオ(飲料。ジョニーウォーカー、ギネス、スミノフ等のブラン
ドを持つ)3.1%、⑩レキット・ベンキーザー・グループ(家庭用品・医薬品)
2.8%が、ベスト 10 銘柄である(6/30 時点。ブルームバーグ・データ)。HSBC
は、さすがに世界的な金融株安の影響を受けて冴えない。しかし、他の構
成上位銘柄を見ても分かる通り、FT100 指数は、「コモディティ・ディフェン
シブ指数」の性格が極めて濃厚なのだ。先行きに不透明感が高まればディ
フェンシブ株が選好され、米国利上げ後退でコモディティ堅調となれば、
FT100 指数の相対パフォーマンスは良好になる。しかも、ブリティッシュ・ア
メリカン・タバコ、ロイヤル・ダッチ・シェル、グラクソ(グラフ 3)、ディアジオ、レ
キット・ベンキーザーは 52 週高値を更新している。国民投票「離脱」の大騒
ぎをよそに、FT100 指数が堅調なのも、ある意味当然なのだ。ムードでの安
易な空売りは、エライ目に合うことになる。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
2
2016 年 7 月 4 日
ストラテジー
マーケット分析
(グラフ2)
欧米主要国を凌駕する
FT100のパフォーマンス
世界主要株価指数のパフォーマンス(2015年末~6/30)
ボベスパ(ブラジル)
18.9
ジャカルタ総合
9.2
FT100(英)
4.2
NYダウ
2.9
CAC40(仏)
-8.6
DAX(独)
-9.9
IBEX(スペイン)
-14.5
上海総合
-17.2
日経平均
MIB指数(伊)
-18.2
(出所)BloombergのデータよりMUMSS作成
-24.4
-30.0
(グラフ3)
52週間高値を更新する英国株
-20.0
(P)
-10.0
0.0
10.0
20.0
(%)
(P)
英国株の株価推移(過去1年)
1,800
3,000
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
1604
(6/30)
1,600
2,800
2,600
グラクソ・スミスクライン(左)
1,400
2,400
2062
(6/30)
1,200
2,200
2,000
1,000
1,800
1,600
800
1,400
ロイヤル・ダッチ・シェル(右)
600
2015/7
FRB利上げの消失が資源国に
追い風
1,200
2015/8
2015/10
2015/12
2016/2
2016/4
2016/6
FT100 指数の堅調さと同様に、コモディティ指数としての性格が強いブラ
ジル・ボベスパ指数も好調だ。政治的不透明感は継続しているが、年初来
で 18.9%の上昇は目を引く。最大の要因は、FRB(米連邦準備制度理事会)
の利上げが消失し、利上げどころか利下げや QE4(第 4 次量的緩和政策)
さえ想定される状況なのだ。フェデラルファンド・レート(短期の政策金利)
先物は、利上げ確率を、7 月、9 月、11 月の会合でゼロ%、12 月でも 9.2%、
来年 2 月でさえ 9.2%に過ぎない。逆に利下げの可能性が、9 月、11 月で
8%と浮上している(6/30 時点)。イエレン議長がリスクとして指摘していたよう
に、英国の EU 離脱が現実化し、利上げどころではなくなってしまったのだ
(グラフ 4)。FRB の利上げが遠のいたとなれば、コモディティ価格は反発傾向
を強める。代表的なコモディティ指数である CRB 指数の反騰トレンドは崩
れていない。また、対ドルの年初来通貨パフォーマンスは、円の+16.5%を凌
いで、レアルが+23.4%と第 1 位をマークしている(6/30 時点)。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
3
2016 年 7 月 4 日
ストラテジー
マーケット分析
(グラフ4)
年内の利下げ確率が
復活した米国
米利上げ・利下げ確率と円ドル推移
(円ドル)
260.0
130.0
(出所)BloombergのデータよりMUMSS作成
240.0
雇用統計
(6/3)
220.0
英国民投票
(6/23)
200.0
180.0
円ドル(右)
111.45(5/30)
160.0
125.0
120.0
115.0
110.0
140.0
105.0
120.0
(%)
利上げ確率(12月・左)
利下げ確率(左)
100.0
100.0
80.0
95.0
60.0
40.0
90.0
利上げ開始
(12/16)
85.0
20.0
0.0
11/2
12/1
12/30
1/28
2/26
3/28
4/26
5/25
6/23
80.0
一方、ワースト・パフォーマーが欧州株に多いのは当然である。英国と経
済的紐帯が強いアイルランドの不振は理解できる。しかし、ギリシャ、スペイ
ン、イタリアと続く不振メンバーを見れば、どうしても 2011~12 年の「南欧重
債務国危機」という言葉を想起してしまう。つまり、英国の国民投票後の混
乱では、張本人の英国の株価が上昇しているのにもかかわらず、「南欧重
債務国」の株価が厳しい洗礼を受けているのだ。特に、イタリアの年初来下
落率▲24.4%は、世界の主要 94 株価指数の中でワーストである。この事実
は、EU の枠組みが不安定化して、一番ダメージを受けるのが「南欧重債務
国」であることを示唆している。イタリアの世論調査では、既に 48%が EU 離
脱を選択している(グラフ 5)。古代ローマ以来、初のローマ女性市長になっ
たビルジニア・ラッジ氏も、反 EU・反移民を掲げる政党「五つ星運動」に属
している。フランスも離脱が 41%であり、今後の政治情勢によっては、「離脱
ドミノ」が起こる可能性を否定できない。フランスのエラベ社が実施した世論
調査では、英国の EU 離脱が「良かったこと」と回答したのは 48%、「悪かっ
た」が 52%の僅差だった。英国離脱後、EU 構成の主要ラテン国であるイタリ
ア、フランスがこの有様なのだ。EU、IMF(国際通貨基金)、ECB(欧州中
銀)の支援で、かろうじて息をしているギリシャにとっても、先行きは五里霧
中の展開である。
欧州銀行株の危機的様相
こうした「南欧重債務国」の国債の CDS スプレッドを見ると、ギリシャの
999 ベーシス・ポイント(bp)は別にしても、イタリア 143bp、スペイン 104bp
と、信用リスク面での問題は僅少である(6/30 時点。ブルームバーグ・デー
タ)。2011 年のイタリアが 594bp、2012 年のスペインが 642bp という過去最
高をマークしていることを考えると、現時点でクレジット市場は楽観的に見て
いるようだ。ただし、注意を要するのは銀行株の動きだ。英国離脱を受けた
6/24、27 両日の株価の動きで、英銀ではバークレイズ▲32.0%、RBS▲
30.4%、ロイズ▲29.1%の急落となった。今までのビジネス環境が維持できな
くなるリスクを考えれば、当然であろう。しかし、イタリアのウニクレディートも
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
4
2016 年 7 月 4 日
ストラテジー
マーケット分析
(グラフ5)
離脱ドミノを示唆する
欧州の世論調査結果
自国でもEU離脱を問う国民投票をすべきかについての世論調査
58
イタリア
48
55
フランス
41
43
スウェーデン
39
42
ベルギー
29
41
ポーランド
22
国民投票をすべき
40
ドイツ
あれば離脱に投票
34
40
スペイン
26
38
ハンガリー
29
0
10
20
(%)
30
40
※調査期間は2016/3/25~4/8
50
60
70
出所:Ipsos MORIの資料をもとにMUMSS作成
▲30.0%と英銀に匹敵している。フランスでは、BNP パリバ▲20.3%、ソジェン
▲27.2%、スイス勢ではクレディスイス・グループ▲21.8%、UBS グループ▲
18.4%、またメルケル首相の御膝元ではドイツ銀行も▲19.4%だった。ユーロ
STOXX の銀行株指数は▲23.1%であり、これが平均点と見れば、英銀、ウ
ニクレディートは困難に直面すると、投資家が見ていることになる(グラフ 6)。
ロイズ、RBS、ウニクレディートは、リーマン・ショック後に公的資金の注入が
実施され、その後も相対的に財務体質は脆弱である。今はまだ国債のクレ
ジット問題は僅少だが、今後も銀行株の動揺が続くことになれば、いずれ波
及する恐れもある。「南欧重債務国」には要注意だ。
(グラフ6)
英国、イタリアの銀行株
下落率大
欧州の銀行株下落率(6/23~6/27)
バークレイズ
-32.0
RBS
-30.4
ウニクレディート
-30.0
ロイズ
-29.1
ソジェン
-27.3
ユーロSTOXX(銀行)
-23.1
クレディスイス・グループ
-21.8
BNPパリバ
-20.3
ドイツ銀行
UBSグループ
-19.4
(出所)Bloombergのデータより
MUMSS作成
(%) -40.0
-35.0
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
5
-30.0
-25.0
-18.4
-20.0
-15.0
-10.0
-5.0
0.0
2016 年 7 月 4 日
ストラテジー
マーケット分析
長期化するポンド安
(グラフ7)
ポンドの長期下落に警戒
FT100指数の反発に対して、カーニー発言もあってポンドの下落基調が続
いている。与党のみならず、野党の中でも非難合戦が継続しており、英国の
政治的混乱が長期化するのは避けられない。また、ブルームバーグのエコノ
ミスト・アンケートでは、英国がリセッションに陥る可能性は71%に達している。
イングランド銀行の金融緩和策も、段階的に強化されることになろう。これは、
明らかなポンド安要因である。①1975年のEEC(欧州経済共同体)残留の可
否を問う国民投票、②1992年の「ポンド危機」に際しても、ポンドはいずれも
対ドルで3割以上の下落を演じている(グラフ7)。その下落幅もさることながら、
下落が長期化している点に注意しなければならない。今回は、6/24高値1ポン
ド=1.501ドルから6/27安値1.312ドルで、12.6%の下落となっている。その後は
若干の反発も見せているが、いかにも上値が重い。過去のパターンのように3
割以上の下落となれば、パリティ(1ポンド=1ドルの等価)の恐れも台頭しよう。
興味深いのは、英国民投票以後のポンドの動きと、銀行株の動きが、ほとんど
パラレルな点だ。比較対象とすべきは、ポンド相場とFT100指数ではなく、欧州
銀行株指数なのだ。この事実は、投資家の懸念がポンド相場と、「南欧重債
務国」、特に脆弱な銀行の財務体質に集中していることを意味している。おり
しも、FRBのストレス・テストで、スペイン・サンタンデールの米子会社が3年連
続、ドイツ銀行の米子会社も2年連続で不合格となったのは象徴的である。
過去のドル/ポンド相場の動き
115
(100営業日前=100)
EEC(欧州経済共同体)残留を問う国民投票
(1975年6月)
ERM(欧州為替メカニズム)脱退(1992年9月)
110
EU離脱を問う国民投票(2016年6月)
105
100
95
ポンド高
90
85
ポンド安
ドイツ銀行の空売りに情熱を
見せるジョージ・ソロス
100日
80日
60日
40日
20日
当日
▲20日
▲40日
▲60日
▲80日
▲100日
出所:BloombergのデータをもとにMUMSS作成
80
また、IMF は 6/29 の報告で、「ドイツ銀行は世界の大手銀行の中で、シ
ステミックリスクに影響する度合いが最も大きい可能性がある」と警戒感を露
わにしている。「G-SIB」(グローバルなシステム上重要な銀行)の中で、名
指しでリスクの高さを指摘されたのだ。これは異例のことである。昨年ドイツ
銀行は、リーマン・ショック以来の赤字決算に陥った。その後も、監査役会メ
ンバー内での対立や、幹部の辞職、職員のリストラ、店舗閉鎖といった冴え
ない報道が続いている。ドイツ銀行の株価は、昨年 4/14 高値 33.4 ユーロ
から今年 6/30 安値 12.0 ユーロまで、▲64%の下落となっている。ドイツ銀行
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
6
2016 年 7 月 4 日
ストラテジー
マーケット分析
の CDS スプレッドは、今年 2 月には 271bp まで上昇する局面もあったが、
足下は 200bp 台前半で小康状態である。絶対水準としては、直ちに信用リ
スクが心配される状況ではない。ただし、2011 年の「ユーロ危機」当時の高
値が 316bp であることを考えると、やはり今後の動向に注意せざるを得ない
(グラフ 8)。1992 年の「ポンド危機」は、ジョージ・ソロス氏の大量のポンド売り
がトリガーとなった。今年の 8 月で 86 歳となるソロス氏は、「英国の EU 離
脱は、金融市場危機を解き放った」と、なお意気軒高である。そのソロス氏
が、「ドイツ銀行の空売りに約 1 億ユーロ投入」と独紙ウェルトが報じてい
る。老いたりと雖も、なお投資の「冴え」を見せているようだ。
(グラフ8)
ドイツ銀行CDSスプレッド
ユーロ危機時以来の高水準
(bp)
ドイツ銀行の株価とCDSスプレッド推移
(ユーロ)
450
60.0
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
400
50.0
350
316
(2011/11)
ドイツ銀行株価(右)
300
271
(2016/2)
40.0
250
30.0
200
150
20.0
100
10.0
50
0
2010/1
「参院選挙後の株価パフォー
マンスは悪い」
ドイツ銀行CDSスプレッド(左)
0.0
2011/1
2012/1
2013/1
2014/1
2015/2
2016/2
日経平均は、堅調な米英株に浮揚される形で戻りを演じた。6/24 ザラ場
安値 14,864 円は、2/12 安値 14,865 円の「一文新値」であり、日経平均の
BPS(一株当り純資産・6/30 時点で約 14,700 円)も株価サポートに寄与し
たものと思われる(グラフ 9)。多くの投資家も、ホッと胸を撫で下ろしたことだ
ろう。ただし、欧米のファンドは、「6 月中間決算・12 月本決算」制度を採用
しているものが多く、6 月末は極めて株価意識が高くなることも留意する必
要がある。特に、今回のような英国離脱の混乱があった後には、大規模な
「ウィンドウ・ドレッシング」(御化粧買い)の可能性を否定できない。年初来
パフォーマンスが良好な市場であれば、敢えて「ウィンドウ・ドレッシング」を
行う必要はない。しかし、世界 94 株価指数の年初来パフォーマンスでは、
ワースト 2 位 TOPIX▲19.5%、同 3 位日経平均▲18.2%という惨状だ(既述
の条件)。つまり、ワースト株価五輪では、1 位イタリア、2 位 TOPIX、3 位日
経平均で、日本株の劣悪さが目立っている。もちろん、ドル・ベースで見た
場合には円高進行もあって、59 位日経平均▲4.4%、65 位 TOPIX▲5.9%
と、ややマシに見えるが、冴えない状況には変化がない。したがって、中間
決算を越えたとなれば、自然体に戻って反落するリスクが台頭しよう。「参院
選挙後の株価パフォーマンスが悪い」という過去の経験則もあり(グラフ 10)、
このまま V 字型反騰を望むのは難しい。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
7
2016 年 7 月 4 日
ストラテジー
マーケット分析
(グラフ9)
PBR 1倍が支持線となった
日経平均
日経平均と実績PBR
(円)
3.00
23,000
(出所)AstraManagerのデータよりMUMSS作成
英国
EU離脱へ
(6/23)
20952(6/24)
2.80
2.60
日経平均(右)
2.40
21,000
19,000
16320
(12/30)
17,000
2.20
15,000
2.00
14865
(2/12)
(倍)
1.80
14864
(6/24)
13,000
実績PBR(左)
1.60
11,000
1.40
9,000
1.20
1.20
(6/13)
1.00
0.80
2013/1
(グラフ10)
「参院選挙後の
株価パフォーマンスが悪い」
という過去の経験則
1.16
(5/21)
7,000
0.99(2/12)
1.03(6/24)
5,000
2013/7
2014/2
2014/8
2015/3
2015/10
2016/4
参議院選挙年における株式市場のアノマリー
104
19000
(4/25)
102
日経平均の推移
サ
ミ
ッ
ト
100
(円)
参議院選挙年の平均(左メモリ)
18000
2016年(右メモリ)
17000
(7/10)
参議院選挙
98
16000
本決算発表
経済対策
96
(6/23) 1Q決算発表
英国民
投票
94
92
※参議院選挙年は1992年以降8回分。
年初株価を100として指数化。
(8/18)
90
1/4
2/17
3/31
5/18
6/29
8/12
9/27
15000
中間決算発表
14000
(11/8)
米大統領
選挙
13000
11/10
12000
12/26
(出所)AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成
海外要因による急落局面を見ると、①ショック安による「一番底」、②ファ
ンドのポジション調整一巡による反発、③実体経済・企業業績の悪化による
底」形成、④反騰相場、のメカ
「二番底」形成、④その後に反発トレンドへ、といったパターンを辿ることが
ニズム
多い(グラフ11)。記憶に新しい2013年5/23の「バーナンキ・ショック」(FRBの
量的緩和策の段階的縮小表明)では、
① 日経平均は5/23高値15,942円から6/13安値12,415円まで▲22.1%
の下落。5/23には1日で1,143円安の急落もあった。
② 7/19高値14,953円まで2,538円高・+20.4%の反発。
③ 8/28安値13,188円まで1,765円安・▲11.8%の反落。「二番底」。
④ 秋には緩慢な反発に転じ、11月以降に鋭角的な反騰を見せた。
12/30大納会に高値16,320円をマーク。安倍総理の東証訪問。
といった経緯を辿っている。
古くは1987年10月の「ブラックマンデー暴落」も、同様な軌跡だ。
①日経平均は10/14高値26,646円から11/11安値20,513円まで▲23.0%
の暴落。
①「一番底」、②反発、③「二番
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
8
2016 年 7 月 4 日
ストラテジー
マーケット分析
(グラフ11)
短期急落後の展開は
二番底パターンへ
(円)
急落後の日経平均推移
140.0
19,000
(出所)AstraManagerのデータよりMUMSS作成
英国
国民投票
(6/23)
130.0
18,000
①1987年
ブラックマンデー
③2015年
中国元切り下げ
120.0
110.0
②2013年
バーナンキショック
2016年
Brexit(右)
17,000
16,000
100.0
15,000
90.0
14,000
80.0
13,000
70.0
12,000
①、②、③は、直前の高値=100で指数化
2016年(Brexit)のみ右メモリ
60.0
2016/2
11,000
2016/4
2016/6
2016/8
2016/10
2016/12
2017/2
② 11/27戻り高値23,313円まで+13.6%の反騰。
③ 12/28安値20,936円まで▲10.2%の反落。「二番底」形成。
④ 翌年から反発に転じ、4/7高値26,780円で高値奪回となる。
8月末から9月に「二番底」か
今回も、まだ確定したわけではないが、6/24 の日経平均安値 14,864 円
が「一番底」の可能性が高い。ただし、今回は同日の高値が 16,389 円であ
り、下落率は▲9.3%に過ぎない。4/25 高値 17,613 円からの下落率で、よう
やく▲15.6%だ。「バーナンキ・ショック」や「ブラックマンデー」といった激しい
価格変動に比較すると、スケールが小さな調整だ。日経平均の VI も、6/24
の 43.6%がピークであり、足下では 20%台にまで低下している。どうも、激烈な
価格変動というよりは、「ジリ貧」の展開と見た方が良いかもしれない(グラフ
12)。米国の利上げ消滅、場合によっては「利下げ」や「QE4」が視野に入る
とすれば、円高のプレッシャーも長期化するのが避けられない。英国の政
治動向も混乱を極めており、EU の離脱問題はロングランの悪材料となろ
う。戻り一巡後は、株価の上値が重くなることも十分想定できる。おそらく、
その後には③の局面が到来しよう。「一番底」から「二番底」までの間隔が約
2 ヵ月との経験則からすれば、8 月末から 9 月の初秋にかけて、今回も「二
番底」シナリオを念頭に置いたスタンスが妥当と思われる。
政府・日銀の政策対応が株価
の方向性を決する
その後の株価の方向性を決するのが、日本政府・日銀の政策対応である
ことは間違いない。補正予算の規模は、稲田政調会長が「10 兆円超」と発
言し始めている。1~3 月期の GDP ギャップが約 6 兆円の需要不足、熊本
震災の影響が最大で 4.6 兆円(いずれも内閣府試算)で、今回の英国 EU
離脱リスクを勘案すれば、「10 兆円+α」が望ましい所だ。これに、日銀の追
加緩和が加わって「総合景気対策」のフル・メニューとなる。危惧されるの
は、政府が補正予算の策定に手間取って、日銀の追加緩和策単発になっ
た場合だ。既に、金融政策は限界に近い。新発 10 年国債利回りが▲
0.260%にまで沈むに至った局面で、これ以上何を望むのか?ETF(上場投
信)の買い枠増は、それなりの株価サポート機能があるが、中央銀行が株
式市場にここまで関与するのは異常である。ECB(欧州中銀)のように、買入
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
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2016 年 7 月 4 日
ストラテジー
マーケット分析
(グラフ12)
VIは20%台に低下
日経平均は「ジリ貧」の展開か
(%)
日経平均とボラティリティ・インデックス
(円)
130.0
24,000
20952
(2015/6)
(出所)AstraManagerのデータよりMUMSS作成
120.0
日経平均(右)
110.0
100.0
90.0
80.0
70.0
ギリシャ
ショック
(2010/5)
15942
(2013/5)
東日本
大震災
(2011/3)
16,000
69.8
バーナンキ
ショック
(2013/5)
60.0
50.0
48.3
44.0
20,000
42.6
Brexit
(2016/6)
チャイナ
ショック
(2015/8)
50.2
48.9
43.6
ユーロ危機
(2011/8)
40.0
12,000
30.0
8,000
4,000
20.0
10.0
2010/1
ボラティリティ・インデックス(左)
2010/11
2011/9
2012/7
2013/6
2014/4
0
2015/2
2015/12
最大の悪夢「マイナス金利拡 対象資産の多様化も考えられるが、マイナス金利幅の拡大だけは避けなけ
ればならない。少なくとも、株式担当者の立場からは、それを強く望む。欧
大」
州銀行株の疲弊は、1 日で訪れたものではない。都合 4 回の中銀預金金
利引き下げが、本業たる融資業務の利鞘を潰したことに遠因があったのだ
(グラフ 13)。リスク・テイクした投資銀行業務やトレーディング業務が成果を
獲得できなければ、金融機関は何に収益を求めればよいのか?欧州銀行
株の厳しい状況は、直ちに日本の銀行に及ぶものではない。しかし、「理論
的には▲0.5%まで可能」との黒田総裁の発言が実現されれば、銀行株の大
幅下落は避けられない。「逆資産効果」は強まり、個人消費の低迷は継続
することだろう。イエレン議長も、「マイナス金利には大幅な欠点がある」と述
べている。最大の悪夢は、「マイナス金利の拡大」である。
(グラフ13)
マイナス金利拡大がもたらした
欧州銀行株の疲弊
(%)
ユーロストックス銀行株指数とECBの政策金利
1.00
(p)
180.0
中銀預金金利
⇒▲0.1%(2014/6/5)
⇒▲0.2%(2014/9/4)
⇒▲0.3%(2015/12/3)
⇒▲0.4%(2016/3/10)
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
0.80
C
0.60
160.0
140.0
0.40
120.0
0.20
ユーロストックス銀行株指数(右)
100.0
0.00
80.0
-0.20
中銀預金金利(左)
60.0
-0.40
藤戸 則弘
投資情報部長
-0.60
2014/1
40.0
2014/5
2014/9
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10
2015/1
2015/6
2015/10
2016/2
2016/6
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