序 章 │ グローバルな品質向上競争で切磋琢磨 序章 グローバルな品質向上 競争で切磋琢磨 ─トヨタ自動車と豊田自動織機 2006 年 7 月、私は、豊田自動織機からの要請で、産業車両部門の品質 アドバイザーに就任することになりました。与えられた使命は、同社が 2000 年に買収したスウェーデン、イタリア、アメリカの産業車両製造会 社 3 社と、その仕入先への品質向上指導、併せて、日本、フランス、ア メリカの直営工場とその仕入先も指導してほしい、というものでした。 このような大役が私に回ってきたのは、オーストラリア・トヨタと、 南アフリカ・トヨタで品質向上のための指導をしてきた経験と、トヨタ 自動車・元町工場でのトヨタ生産方式に基づいた現場マネージメントの 経験を買われたからと思います。それがどのような経験であったのか、 以下にご紹介します。 豊田自動織機・高浜工場の全景 7 (1) オーストラリア・トヨタへの出向(1989 年 2 月〜 1991 年 12 月) 老朽化のため GM が閉鎖を決めたダンデノン工場(メルボルン市の郊 外に立地)を、従業員ともども引き継いで“新型カローラの増産プロ ジェクト”が始動することになり、私は、そのプロジェクトの製造の リーダーとして参加しました。GM の文化を引きずる従業員と古い設備 という厳しいコンディションの下、品質不良を 90%低減し、シェア拡 大を実現しました。 (2) 南アフリカ・トヨタへの出向(1997 年 4 月〜 2002 年 8 月) 当時、南ア・トヨタの生産車はほぼ全量が国内向けで、圧倒的な国内 シェアを誇っていました。しかし、同国に生産拠点を持つ BMW、メル セデスベンツ、VW のドイツメーカー 3 社は、アパルトヘイト(人種隔離 政策)廃止後に発足した、マンデラ政権が推進する輸出奨励策に乗って 急激に車両輸出を拡大し、それで得たインセンティブ(奨励金)を使っ て国内向け車両の販価を抑え、シェア拡大に乗り出してきました。この ため、南ア・トヨタのシェアはじりじりと低下し、経営状態も悪化。ド イツメーカー 3 社に対抗し、経営を立て直すためには、輸出が必須とな りますが、当時の南ア・トヨタ車の品質は、トヨタの海外工場の中では 最悪の評価で、トヨタ本社から輸出許可が下りないような状態でした。 そこで選ばれたのが私で、“品質を改善し、輸出を実現”という使命 を帯びて南ア・トヨタに出向することになったのです。5 年半の時間が かかったものの、目標を達成し、南ア・トヨタをグローバルな輸出の拠 点とすることに成功しました(詳細は第 15 章を参照)。 以上の 2 例とも、対象は 1 つの会社の 1 つの工場での改善活動です。 数年間、その会社の一員として中に入りこみ、同じ釜の飯を食べ、苦楽 をともにすることで人間関係を築き、目標を達成していく。どうしても 進まない場合は、最後の手段として、自分でやってしまうことも可能で した。 しかし、豊田自動織機では、「アドバイザー」という何の権限もない 8 序 章 │ グローバルな品質向上競争で切磋琢磨 図表 -1 豊田自動織機の産業車両工場 BT社 TIESA (スウェーデン) (フランス) レイモンド社(2工場) (アメリカ) 豊田自動織機 高浜工場 CESAB社 (イタリア) TIEM (アメリカ) 印 2000年に買収した3社 印 直営3工場 図表 -2 フォークリフトのメーカー別世界シェア(2014 年) 豊田自動織機 22% その他 41% キオン (ドイツ) 16% ユング ハインリッヒ (ドイツ) 8% クラウン (アメリカ) 6% ハイスター・エール (ナコ社、 アメリカ) 7% 出典:dhf INTRALOGISTIK 9 豊田自動織機・高浜工場の組立ライン 立場で、5 カ国に点在する 6 社(7 つの車両製造工場)と多数の部品メー カーを同時に指導し、結果を出すことを期待されています。至難の技と 思われました。それでも、サラリーマン人生の締めくくりに、このよう な大きな仕事にチャレンジできるのは幸運なこと、とも思いました。 何はともあれ現状把握からと考え、各社を巡回訪問してわかったの は、どの会社も品質不良の多さに悩んでおり、皆が“何か良い方法があ れば教えてほしい”という気持ちでいたことです。 そこで、私が気付いた問題点とその対策方法を、A3 判の紙 1 枚に書 き出し、わかるように説明し、宿題として残すことから始めました。書 き残した内容は、シンプルなもので、かつ、やれば必ず効果が出ること であり、その有効性はトヨタの各工場で確認済みのものばかりです。 ところが 3 ∼ 4 カ月後に再訪問してみると、まったく前回と変わりな し。相変わらず不良が山のように発生しているのに、どこで何が起き て、どんな対策が行われたのかすらわかりません。そこで、再び同じよ うなことを英文にして渡し、「今度こそやるように」と念押しをして帰 ります。しかし、3 回目に行っても同じ状態が繰り返されるだけで、 1 年が過ぎました。 10 序 章 │ グローバルな品質向上競争で切磋琢磨 2007 年 6 月、これ以上同じことを繰り返しても無意味と判断し、方針 を大きく変更することにしました。品質を良くする方法を考えていたと しても、やる気と実行がなければ品質は決して良くなりません。人の意 識と行動を変えるために、豊田自動織機のグローバル品質会議で“ダン トツ品質活動”の開始を提案し、承認してもらいました。そのポイント を以下で説明します。 豊田自動織機「ダントツ品質活動」のキックオフ (1)品質の位置付け "メーカーにとって品質は原点" "品質でライバルよりも先行していることが一番大事" (2)品質の現状認識 ● 品質不良の市場流出が止まらず、お客様に大きな迷惑をかけている ● 車両製造工場および仕入先の品質不良が減らず、大きなムダが続いてい る。よって、 "ものづくりの原点に立ち返った仕切りなおし"が必要 (3)品質活動方針 ● 品質はすぐには良くならないので、3 年間の継続活動とし、結果につな げて、競合他社との優位性を最大化する ● 名称は"ダントツ品質活動"とする (4)品質目標 ベースは 2006 年実績とし、 車両製造工場/仕入先:半減/年× 3 年=△ 88% 市場クレーム:3 年で半減=△ 50% 市場クレームを「3 年で半減」とするのは、すでに不具合車が市場 へ流出しており、クレーム請求が収まるまで長期間を要するため 11 図表 -3 ダントツ品質活動の品質目標 件/台 車両製造工場 仕入先 指標:完成車検査不良件数/台 納入不良件数 件 △ 50% △ 50% 06 △88% △88% △ 50% △50% △ 50% △50% 07 08 09 06 (年) 07 全 社 市場クレーム費 円 △50% 06 07 08 09 (年) (5) 進捗のフォローアップ 年 1 回のグローバル品質会議でグループ全体の進捗を確認 (各社持ち回りで開催し、現地現物での確認も実施) 12 08 09 (年)
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