道路管理に関する内外の動向について

道路管理に関する内外の動向について
はじめに
我が国の道路管理においては、インフラの老朽化の進行に伴い、その維持、修繕及び
補修のあり方が重要な課題となっている。欧米においても同様に道路の管理は大きな問
題となっており、その対応状況は我が国の道路管理を考える上で大いに参考になるもの
と考えられる。また国内においても、道路の適正な維持管理、ライフサイクルを考慮し
た社会資本のメンテナンスのあり方や民間活力を活かした効率的な管理方策について、
検討が進められているところである。
一般財団法人道路開発振興センターでは、過去二カ年にわたり道路管理に関する内外
の最新動向に係る調査を実施した。平成 26 年度においては、米国及び英国における道
路管理を巡る最近の状況を取りまとめるとともに、民間資金を活用した道路整備の状況
について調査を行った。続いて平成 27 年度には、EU 及びドイツにおける道路課金制
度を巡る最新動向について調査し、さらには我が国における道路管理を巡る状況として、
道路管理業務の包括管理委託の事例調査及び道路維持管理サイクルの構築に向けた取
り組みについて取りまとめを行なった。
以下では、それぞれに調査結果の概要について説明し、次に全体をとおしての道路管
理のあり方についての考察をまとめた。本レポートが我が国の今後の道路管理方策を検
討するうえで手かがりになれば幸いである。
(1)米国における民間資金を活用した道路管理
米国においては、基幹的高速道路網はほぼ完成しているが、近年では幹線道路インフ
ラの老朽化が進行し、更新・修繕を含めた既存インフラの適正な管理が重要課題として
浮上してきている。
一方、道路整備のための特定財源として、自動車燃料税(揮発油およびディーゼル燃
料税)が充てられており、毎年 320 億ドル~340 億ドルの収入があるが、道路インフラ
の老朽化対策を含めた道路整備のためにはこの特定財源だけでは不足し、2008 年から
2014 年までで計 520 億ドルが一般会計から繰り入れられている。この必要財源の確保
については、与野党の対立等もあって難航し、陸上交通法の期限切れをつなぐ立法を繰
り返して当座の予算を確保するといった状況が続いていたが、最終的に 2015 年 12 月
上旬に与野党が合意に至って新陸上交通法(Fixing America’s Surface Transportation
Act)が成立し、今後 5 年間の財源が確保されることとなった。しかしながら、特定財
源である自動車燃料税(揮発油およびディーゼル燃料税)の税率は据え置かれることと
なり、必要財源の不足をおぎなう一般財源からの投入が今後とも継続して必要となる見
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込みである。
こうした状況を背景として、米国連邦高速道路庁(FHWA)では、民間資金を活用し
た道路事業の促進に努めてきているが、中でも有効な方策として期待されているのが、
PPP(P3)手法による事業執行である。
米国における高速道路網の管理は、各州の管轄であり、官民パートナーシップ(PPP)
を公共調達手法として認めるかどうかは、各州の法律に委ねられている。連邦政府では、
2012 年に制定された陸上交通法において民間資金を活用した事業手法を検討すること
を各州に奨励するとともに、各州の道路部局が PPP 手法を利用しやすくするためのさ
まざまなツールキットを作成してその利用の促進を図ってきたところである。
PPP を利用した高速道路分野でのプロジェクトは 1989 年に開始し、2013 年までで
計 98 件となっているが、契約金額ベースでは 610 億ドルにとどまり、同期間の政府に
よる高速道路に対する総支出約 4 兆ドルの約 1.5%に過ぎない規模である。このように
米国における道路分野での PPP の採用実績はまだ日が浅く、事業の成否についての評
価はこれからといえる。ただ、そうした中においても、2014 年 3 月に発表された議会
予算局 (CBO)の報告では、1995 年に開通したバージニア州におけるダレス・グリーン
ウェイ等の供用済みのプロジェクトにおいて、プロジェクトの供用までの所要期間がわ
ずかに短縮されたと評価している。
各州の道路担当部局においても、PPP 手法を採用する動きが広がりつつあり、道路
整備に PPP の活用を可能とする授権法が 34 の州で制定されている。また、連邦政府に
おいてもリスクの適正な分担や資金調達コストの軽減に向けて、支援を強化している。
(2)英国の道路管理における最新状況
英国においては、最近、道路庁の民営化(独立法人化)が進められたところである。
英国では 1980 年代後半に執行機関(Executive Agency)制度が打ち出され、道路につ
いては道路庁が設立された。しかし、その後、さらに道路網のより良いマネジメントが
求められるようになり、2011 年の交通省の専門委員会による提言(クック報告書)に
おいて、説明責任を充実し、独立した裁量権限を発揮できるようにするために、道路庁
の組織形態を再構築すべき、との提言がなされた。これを受けて、政府は 2013 年 7 月
に道路整備アクションプランを策定するとともに、道路庁再編のための法律整備を進め、
2015 年 4 月に新組織イングランド高速道路(Highways England)への移行が行われたと
ころである。これにより、交通省の執行機関であった道路庁よりさらに独立性を高め、
より効率的なマネジメントが行えるようになった。
交通省は、この組織再編に合わせて、2014 年 12 月に今後 5 カ年間の「道路投資戦略」
を策定している。そこでは、新組織が単年度予算の制約から脱却し、今後 5 カ年間に必
要となる道路事業を計画的に執行できることを担保するとしており、全国各地の重点的
なプロジェクトを取りまとめるとともに、所要事業費を明記した内容となっている。こ
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れにより、計画的な道路予算の確保が可能となり、道路分野への投資の安定性が高まっ
たといえる。
英国の PFI の公共投資全体に占める割合は、2006 年の 18.4%をピークに、2013 年
には 2.2%まで低下している。道路事業においてはそもそも PFI の事例は多くないが、
その殆どが DBFO 方式による無料道路区間の PFI であり、これは、道路の設計・建設
とその後の長期間にわたる一定のサービス水準による維持管理業務、および必要な資金
調達を包括的に発注する方式であって、運営会社の収入は国から税金を財源として支払
われる。2011 年時点で供用されているこの方式によるものは 11 区間である。これに加
えて、有料道路区間における PFI も M6 を含め 3 区間あるが、これらを合わせても、
道路事業における PFI は 14 件にしか過ぎない。
なお、
それらの道路 PFI 事業に対して、
会計検査院は、既存のプロジェクトの抱える課題を分析して改善を求める報告を発表し
ている。そこでの指摘事項を受ける形で、財務省が中心となって、2012 年に PF2 と呼
ばれる透明性の向上や適切なリスク分担などを目指した PFI の改善方策を打ち出して
おり、今後、
改善された新たな方式により value for money の向上を目指すとしている。
(3)EU 及びドイツの道路課金を巡る最近の動向
EU では、域内経済の一体化が進みつつあり、域内の道路交通の増大に伴い重量貨物
車の通過交通の増加が顕著となっている。この結果、高速道路無料国において、外国の
通過交通車両が道路整備費用を負担していないのは不公平との不満が強くなり 1995 年
にドイツやベネルクス諸国が先行する形で、ビニエット方式による課金制度が導入され
た。ビニエットとは、一定期間分の課金を先払いしていることを表示する、フロントガ
ラスなどに貼り付けられるシール型の証票のことである。その後、域内各国における道
路利用者の負担の公平を求める声が高まるにつれ、EU 全体で統一的な政策を講じるべ
きとの動きが生じ、1999 年に、加盟各国に重量貨物車に対しての課金制度のための立
法を促すユーロビニエット指令が制定され、域内における道路課金制度の整合が図られ
ることとなった。なお、加盟国は、課金の方法について、期間制であるビニエット方式
だけではなく対距離課金方式も選択できることとなっている。
その後、このユーロビニエット指令は、2006 年の改正により課金の対象貨物車両が
総重量 12t以上から同 3.5t超に拡大され、さらには 2011 年の改正により、それまで
は原則として当該インフラの建設・運営・維持管理等に係る費用に限られていた課金対
象費用を拡大し、大気汚染や騒音などの外部費用も含めることとされた。このように、
EUの課金政策においては、外部費用を含め原因者負担の原則がより広く適応される方
向にある。
ドイツにおいては、特に外国の交通車両が多くアウトバーンを中心とした高速道路網
の老朽化が著しく進行する一方、その維持管理予算は不十分で老朽化対策を含む相当量
の修繕工事が積み残しとなっているという問題を抱えており、前述のとおり、1995 年
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にベネルクス諸国とともに他国に先行してビニエット方式による課金制度を導入した。
こうして無料開放というアウトバーン利用の原則は大きく変更されることとなった
が、その後も、2005 年に、期間制であるビニエット方式から対距離制課金制度
(LKW-Maut)に移行するとともに、低公害車への転換の促進のために排気ガス等級
と車軸数により課金額を変化させる体系を導入し、さらには、2015 年 7 月に連邦道路
1,100km を新たに課金対象に加え、同年 10 月からは課金の対象貨物車両を総重量 12
t以上から 7.5t以上に拡大した。
以上のようにドイツにおいては、課金対象車両や道路の拡大、さらには大気汚染等の
外部費用にも課金するという流れが定着しており、道路維持財源の充実に向けた動きが
進みつつある。
(4)我が国における道路管理に関する最近の動向
我が国においても、戦後の経済成長の中で整備された道路が更新期を迎えようとして
いる一方で、本格的な人口減少期を迎え、財政は依然として厳しい状況にあり、それら
に対応した道路管理のあり方が示されつつある。
平成 25 年には点検整備の法定化や国による修繕等代行制度の創設を定めた道路法の
改正がなされ、平成 26 年 4 月には社会資本整備審議会道路分科会の「道路の老朽化対
策の本格実施に関する提言」がなされところである。また、同年 5 月には、「国土交通
省インフラ長寿命化計画(行動計画)」が策定され、社会資本全般にわたるメンテナンス
サイクルの構築を進めるとされた。さらに平成 27 年 9 月には、道路を含む社会本整備
の今後の方向性を示した「第4次社会本整備重点計画」が閣議決定されている。
こうした大きな流れの中で、さまざまな新しい試みがなされているが、その中で①府
中市における包括管理委託や②各県ごとに設立された道路メンテナンス会議の実際に
ついて、以下のように調査したところである。
① 府中市における道路管理業務の包括管理委託
府中市においては、平成 26 年度から市の中心部にある「けやき並木通り地区」
において、複数の道路管理業務を包括して異種JVに委託する試みが行われている。
具体的には、道路点検業務、植栽管理・清掃、街灯等の施設の点検といった道路管
理に係る複数の業務を包括的に委託することにより、維持管理業務の向上を図って
いる。
目に見える効果としては、民間事業者ならではのきめ細かい住民対応(不具合発
生についての 24 時間対応窓口の設置等)や巡回業務の複合化などが実現できてい
る。一方、今後の課題としては、包括委託業務の適用エリアの拡大、業務内容の深
化、さらには点検業務によって蓄積された履歴データの有効活用などがある。また、
管理業務の内容について発注者・受託者双方の間で双方の分担範囲をどう確定させ
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ていくかという点もポイントであり、双方で個別事例の積み上げを重ねて行くこと
により、責任分界点を構築してきている。
府中市では、今回の包括管理業務の試行の検証を進め、道路管理業務のさらなる
向上に取り組むとしている。
② 道路メンテナンス会議等によるメンテナンスサイクル構築に向けた取り組み
道路管理の実務において、市町村の管理体制がウィークポイントであることから、
市町村に対する支援体制を構築することを主眼として、各都道府県において国交省
の声がけにより「道路メンテナンス会議」が設立されている。例えば、群馬県では
平成 26 年 3 月に「群馬県メンテナンス協議会」を立ち上げ、全国に先駆けて点検
業務5カ年計画を策定し、橋梁を中心とした管内の道路施設の点検を計画的に進め
るとともに、点検結果を踏まえ緊急度が高い施設の補修に精力的に取り組む方針を
打ち出している。
また、市町村の技術者不足に伴う管理体制を補うため、群馬県では市町村から点
検・診断業務を受託し、地域ごとに一括して点検業務を発注することにより、効率
的な点検を進めている。
これらの取り組みはインフラの維持管理サイクルの構築に向けた第一歩であり、
国交省ではその充実に向けて矢継ぎ早に提言を打ち出している。平成 27 年 2 月に
は、社会資本整備審議会技術部会において「市町村における持続的な社会資本メン
テナンス体制の確立を目指して」という提言を取りまとめており、市町村の管理体
制の強化、国や都道府県による支援策を充実すべきとしている。また、メンテナン
ス情報の「見える化」を進め、点検履歴データを有効に活用して予防保全に取り組
み、メンテナンスサイクルを着実に回すことを目指している。
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