挨拶 - SciREX 科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」

科学技術外交シンポジウム 岸科学技術顧問講演
「科学技術外交のこれから」
皆さん、まずは,こんばんは,とご挨拶したいと思います。本日、科学技術外交シン
ポジウムに多数お集まり頂き本当にありがとうございます。ただ今、御紹介いただ
ました岸輝雄でございます。科学技術外交の重要性とその意義については,島尻
大臣,そして今,白石学長から十分にご説明をいただいたと考えております。
そこで,これから,この7,8ヶ月に私たちが行ってきました活動を含めて,「科学技
術外交のこれから」ということで,簡単にまとめをさせていただきたいと考えている
次第です。私、昨年 9 月に、岸田外務大臣から科学技術顧問を任命を頂きました。
聞けば、岸田大臣は、科学技術を外交に活かしていきたいとのお考えで、有識者
の方々を集めて,かつ時間をかけて,これは今白石先生のお話にもございました,
検討した上で、本格的に取り組んでいくために、私の力をも得たいというようなお話
しでした。
それに対して私自身なんですが,若い頃に少しドイツに滞在したのと,日本学術会
議で国際担当の副会長を務めたこともありますが、「外交」にはほぼ全く無縁だった
という言い方ができるかと思います。ちなみに外務省の建物に入らせていただいた
記憶はほとんどございません。そういう状態だったのですが,新しいことにはチャレ
ンジをすべきだという科学者の務めであり、科学技術外交顧問というこの役を引き
受けさせていただいた次第です。私のバックグラウンドは、工学、特に材料科学・材
料工学です。そういう背景もありまして,理論だけではなく、実践的に、何か具体的
なことを是非追求したいという,そういう姿勢で取り組んでいきたいと考えている次
第です。
そこで,就任後に、私が最初に行ったこと、これが国内外のネットワークの構築とい
うことがいえるかと思います。まず,ここに示してございますように,国内について
は,昨年 12 月に、科学技術外交推進会議という会合を立ち上げました。外交に科
学技術と言いましても、科技技術の範囲は本当に広いものがございまして、そうい
う状況下で,関係しそうな主要分野の日本の本当の第一人者,トップレベルの方々
に協力して頂けるように,その委員として、医学、生命科学、環境、エネルギー,情
報通信、物質・材料,ロボット,農学、国際関係、そして科学技術政策などの幅広い
分野のレベルの学者や企業関係者、また、若手を含め約 17 名の方々,この図に
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示してありますが,17 名の方々に就任をお願いし、岸田大臣から任命をしていただ
いた次第です。今年 2 月には推進会議の第 1 回会合を委員全員の御参加を得て
行うことができました。これが国内の話なのですが,
国際的には,昨年の 10 月に東京で開かれた「日米オープンフォーラム」,この上段
に示しております,そして,本年 2 月に米国ワシントンで開かれた「カーネギー財団
シンポジウム“科学技術外交と日米同盟”」等に出席し,日・米・英・ニュージーラン
ドのカウンターパートの外務省科学技術顧問とのネットワーク作りを進めて参った
次第です。
個別の政策課題に対して有意義な助言を行うためには、推進会議の委員に加えて、
またそれに加えて,各関係に詳しい有識者や関係省庁、関係の機関の方々の協
力を得る必要があります。このため、我々がスタディ・グループと呼んでいる検討会
を開催したり、意見交換の機会を設けるなど、様々な形で関係者の方々から知見
を得るようにしております。
スタディ・グループについては、現在のところ,日米協力、海洋・北極、保健、国際
協力,この 4 テーマについて、これまで 7 回の会議を開催し、推進会議委員のほか
に外部有識者約 10 名、政府関係者のべ 60 人の御参加を得てきました。このように、
関係者から最高の知見を集められるようにしていく,そういう場を設定するというこ
とも、私の重要な役目の一つと考えている次第です。
こういう関係機関との連携について、科学技術分野で国際的な活動を行っている
JST,JSPS,JICA, AMED, NICT,JETRO,そして学術会議等,また、シンクタンク機
能を持つ機関、すなわち、まさにこの政策研究大学院大学,その他、文科省の
ナイステップ
N I S T E P 、JST の CRDS、それと NEDO の技術戦略研究センターなどとの協力に
も留意していきたいと考えている次第です。
次に、この関係者のネットワークを活用して、どのような助言を行っていくか、その
内容についてお話ししたいと思います。
そういう意味で,これからは「科学技術外交のこれから」という,この本日の講演の
題目に沿った話になるかと思います。と言いましても,まずは、2 日後の伊勢志摩
サミットが迫っております。日本の議長,日本議長下の開催という絶好の外交機会
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を念頭に、経済成長に不可欠なイノベーションの牽引者である科学技術分野の観
点を踏まえた議論をし、G7 議長国としてリーダーシップを発揮できるように取り組ん
できました。具体的になりますと、これからお話しする 2 点について、スタディ・グル
ープを何度か開催し、サミットを担当する外務省、また,科学技術大臣会合を担当
する内閣府など,政府部内の関係者に対し問題を提起し,いわゆる提言を行って
きた次第です。
一つは、保健分野についてです。これは、2 月の推進会議の際に、委員の永井自
治医大学長から御提案を頂いたのですが、今回のサミットを念頭に、医療データの
利用に関する国際協力の推進を呼びかけるよう促しました。医療データの分析に
ついて国際協力を進めることができれば、より効果的な医療や医薬品の開発を促
し、無駄な医療をなくし、副作用を防ぎ,より安全な医療を実現することに役に立つ
というように考えている次第です。
ただこの場合,国際的に医療データを利用できるようにすることは、二次利用を可
能とするためのプライバシー・データの処理、倫理的なルールの確立、データ収
集・利活用に関するフォーマットの整合性確保など,大きな課題に今後とも国際的
に取り組む必要があり、そのためには、政府、医療機関など様々なレベルの協力
が今後必要となる,という風に考えている次第です。
そして,もう一つの提案は、環境分野についての提案です。地球温暖化に対して
様々な取組が行われております。その発生メカニズムや生態系への影響などを解
コップ
明するには、まだデータが十分とは言えません。昨年の 11 月の COP21 の際に合
意された気候変動に関するパリ協定においても、観測強化に関する規定が盛り込
まれています。地球観測データの収集も、これまでにも国際的な取組が進み、衛星
利用等を含め技術も進歩していますが、地球の約 70%,7 割を占める海について
は、海水温と塩分といった基礎データは約 4 千個所に投入されたブイで収集ができ
るものの、プランクトンの量とか、酸性度などのバイオ・ケミカルデータや、また,
4,000m 以下の深海のデータについては、収集するシステムがまだ確立されている
とは言えません。
先週、つくばで行われました,今島尻大臣のお話にもありましたが,科学技術大臣
会合においても,公的研究の成果を公開する,いわゆるオープン・サイエンスの一
環として,保健・医療分野の研究データの利用や海洋観測データの収集に関する
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国際協力の重要性について議論されておりますが、そのエッセンスは、是非、首脳
レベルでも取り上げていただきたいと期待しております。
また、いずれの点も、グローバル課題の解決のために、如何に ICT 分野の高度な
技術革新を背景としたビッグ・データの収集・解析能力の向上,そして AI,人口知
能,技術も取り入れた、データ,いわゆるデータに裏付けされた「エビデンス・ベー
スの政策立案」,これが役に立つものと確信しております。この手法は将来,材料
の開発の短縮化を目指すマテリアルズ・インテグレーション,または,マテリアル
ズ・インフォマティクスなどにも適用可能性を示しているということが言えるかと思い
ます。この場合,重要なことは,日本の科学技術が特に優れている,実験に基づく
エビデンス・ベースの政策立案ということも,十分に含んでいるものというように解
釈していただければ幸いです。これまでサミットに関するお話をさせていただきまし
たが,次に、8 月下旬に予定されている,先ほどもお話しが出ておりました,アフリカ
開発会議, いわゆる TICAD についての準備状況です。
アフリカに対する支援については、日本もこれまでに相当の経験の蓄積がございま
す。 JICA,JST による SATREPS というプログラム,これは非常に高く世界で評価
されておりますが,科学技術を活用した政策ですが、科学技術という切り口から改
めてより効用の高い次の一手が何かをきちんと検討していく段階にあるというよう
に考えている次第です。特に貧富の格差を是正しつつ,産業の育成を図る,いわ
ゆるインクルーシブ・イノベーションを重視する時期にあるという考えでおります。
このようにこれまでにスタディ・グループを開き、推進会議委員をはじめ有識者・政
府関係者の知見を得て、上述の大きく 2 つに分けて検討を進めてきているところで
す。
一つは、アフリカに関して言いますと,人材育成,これが最優先課題となるという言
い方ができるかと思います。ちょっと見にくいのですが,アフリカの優秀な人材が先
進国に流出してしまう「ブレイン・ドレイン」の状況,これが今危惧されております。そ
の知見を十分にいかして,アフリカに優秀な科学者を戻し入れる「ブレイン・サーキ
ュレーション」を助長し、アフリカ諸国の工学教育などを含めた科学水準の向上に
貢献する手法を確立するというのが TICAD に向けた一つの仕事と考えておりま
す。
もう一つは、日本人として共同研究や日本の研究開発の成果をアフリカの社会に
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も活かしていく「社会実装」のための手法です。
これらの 2 点について、近く、具体的な提言をまとめ外務省に示したいと考えていま
す。
このようなグローバル課題というものは、昨年、国連で採択された 17 項目,ここに
まとめてございます 17 項目から成る 2030 年に向けた持続的開発目標 SDGs の実
現のために、科学技術イノベーションをどのように活用していくかという議論が国際
社会の中で活発化してきております。米国の科学技術顧問も、このような議論でリ
ーダーシップを発揮しつつありますが、我々日本側も有意義な貢献をしていきたい
と考えている次第です。
最後になりますが、科学技術外交を今後より持続的な取組にしていくためには、政
府関係者や科学技術分野の関係者だけではなく、広く一般社会の方々の理解を得、
共感の輪を広げていく「パブリック・エンゲージメント」に取り組むことが重要だという
ことが言えます。
この点で、今回のシンポジウムを実現するに当たり、日本経済新聞社の御協力を
頂いたことを深く感謝申し上げます。また今後、国内はもとより,海外においても、
先に述べましたように,米国ワシントンでのシンポジウムに参加したところですが、
内外でのパブリック・イベントの企画・参加に努め、様々な形で情報発信に取り組ん
でいきたいと考えております。
また,今 53 の在外公館,海外の日本大使館です,この 53 の在外公館に,科学技
術アタッシェが置かれております。途上国,新興国,先進国,簡単に分けることは
難しいのですが,研究分野毎にこの在外公館の力を借りて,「科学技術マップ」の
ようなものを作成できればと期待をしているところです。それを用いて「人財育成」
「技術支援」「共同研究」をどう組み立てていくのか,これが今後の大きな課題にな
るかと考えている次第です。同時に,アフリカに加えて,地域も非常に重要になると
思います。ASEAN 諸国,最も重要な国です,東欧,バルト3国等,先進国の仲間に
なりつつある国々,そして地域にも大きな注目をする必要があるという言い方がで
きるかと思います。
以上、外務大臣科学技術顧問としてのこれまでの活動と今後の展望について駆け
足でお話しをさせていただきました。就任 8 か月になりますが、周囲の関心は非常
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に高いものがあると思います。責任を感じているところでもありますが,既に多くの
方々の御協力が得られております。これまでのいわゆる「スタートダッシュ」につい
て一定の手応えを感じている,というのが現在の心境です。特に科学技術外交推
進に大事な,若い人材の育成ということも忘れないで進めていければと考えている
次第です。
今後、科学技術コミュニティの一員として,さらに、皆様方の御期待に応えつつ,よ
り多くの方々に進んで協力したいと思って頂けるよう,日本外交をイノベートする,
という方向に持っていければと考えている次第です。
本当にご清聴ありがとうございました。日本外交をイノベートするということで努力
いたしますが,今後ともご支援のほどよろしくお願い申し上げます。ありがとうござ
いました。
(了)
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