2016/7/5 ソフトマター工学・第10回 2016年7月5日(火) タイヤの力学とトライボロジー 九州大学大学院工学研究院機械工学部門 准教授 山口 哲生 1 本日のおはなし 1.前回の復習 -接着・粘着とは? -粘着剤引離し過程の解析 2.レポートに関するコメント 3.機械工学におけるソフトマターの適用例 -タイヤの力学とトライボロジー 4.まとめ 2 1 2016/7/5 1.接着・粘着とは? 接着とは? 「同種または異種の固体の面を貼り合わせて一体化した状態」 粘着とは? 「接着の一種で,一時的な接着.(中略)常温で短時間,わずかな力を加 えただけで接着でき,また,凝集力と弾性をもっているので強く接着する 反面,硬い平滑面からはがすこともできる」性質のこと(日本工業規格) 固体 硬化時間 接着の強さ ゲル状 接着剤 粘着剤 液体 施工後の時間 塗工後短時間で接着力を発揮 図:接着力の時間変化 (中前他著、接着・粘着の化学と応用より) 3 剥離過程におけるキャビテーション Stress-strain curve in probe-tack experiment H. Lakrout, ph.D thesis, Creton et al. (1999), Crosby et al. (2000), (iii) キャビティ成長 (ii) キャビテーション σ 界面亀裂 V0 Cf.蜂の巣状剥離パターン (i) 均一変形 (iv) フィブリレーション x / h0 中前他著,接着・粘着の 化学と応用(1998) 内部にできた多数の微小界面亀裂が破壊エネルギーをさらに増幅する. 4 2 2016/7/5 粘着テープの剥離試験と応力解析 f 粘着テープの剥離モデル 右図のように,粘着テープの基材を 梁,粘着剤を線形バネとして,力と M F F + dF M + dM モーメントの釣り合いの式を立てる. X 力の釣り合い 1 dF h( x ) Ea 0 wa dx ha F(x):せん断力 X X + dX wa:粘着テープ幅 M(x):モーメント h(x):粘着テープの変形量 モーメントの釣り合い F ( x) ha:粘着テープ初期厚み dM ( x) dx 応力分布 モーメントの構成関係 M ( x) E f I f d 2 h( x ) dx 2 If h 3f wa 12 Ef:基材の弾性率 If:基材の断面2次モーメント O x 5 3.機械システムにおけるソフトマターの適用例 機械システムにはソフトマターを活用した例が数多く 見られる. 防音,制振:防音材,ショックアブソーバ,ブッシュ 潤滑:潤滑剤 シール:Oリング 摩擦:タイヤ,ワイパー ここでは,ソフトマターの重要性を示す例として, タイヤに関する説明を行なう. 3 2016/7/5 ゴムタイヤとは? ゴムタイヤとは,衝撃の緩和や安定性の 向上などを目的に,車輪(ホイール)の 外周にはめ込むゴム製の部品.自動車, 自転車,オートバイ,モノレールや新交 通システム,地下鉄などの一部の鉄道車 両,航空機(飛行機),建設機械など地 上を移動する多方面の輸送機器に使用さ れる(Wikipedia). 7 タイヤの歴史 以前は,金属や木製の車輪が使われていた. 1867:車輪の外周にゴムを取り付けた.ただし,当時 のゴムタイヤは空気入りではなく,ソリッドゴム(総ゴ ム)タイヤ. 1888:スコットランドの獣医師ジョン・ボイド・ダン ロップが自転車用の空気入りタイヤを実用化. 1895:フランス人のアンドレ・ミシュラン、エドゥ アール・ミシュランのミシュラン兄弟が,パリからボル ドーまでを往復する全行程1200kmのレースに使用. このレースでミシュラン兄弟は100回近いパンクにもめ げず,規定時間を超過しながらも完走. 耐久性に問題があったとは言え,乗り心地,グリップ力, 安定性に格段に優れていることを証明した空気入りタイ ヤは,これ以降急速に普及した. 8 4 2016/7/5 タイヤの構造 タイヤの断面図(ラジアルタイヤ) -タイヤは,1種類のゴムからできているわけ ではなく,複数のゴム,金属,プラスチック などからなる複合材料である. -タイヤは,その構造から2種類に分けられる. ラジアルタイヤ:コードが進行方向に対して 90度に配向.トレッドにベルトを有し,より フラットに接触するよう設計. バイアスタイヤ:コードが斜めに配置. 9 タイヤに求められる性能 車の基本性能には次の3つがある. 「走る・曲がる・止まる」 そのいずれにおいても,タイヤは不可欠. タイヤに求められる性能として以下のものがある. 制音・制振・・・静かで乗り心地が良い状態を実現する 耐久性・・・できるだけ長持ちさせる グリップ・・・曲がれたり止まれるようにする 低燃費・・・転がり抵抗を軽減し,できるだけ少ない燃料 で長い距離を走れるようにする 5 2016/7/5 グリップ性能と転がり抵抗 グリップ性能と転がり抵抗は相反する性能のよう に見える. グリップ性能・・・曲がったり止まったりすると きにすべり摩擦係数を大きくして,すべりをなる べく少なくしたい ヒステリシス摩擦:地面の表面粗さをゴムが通過 することによってMHz程度の加振を受け,ゴム 内部でダンピングすることによって摩擦が発生. B.N.J. Persson, J. Chem. Phys. (2001) 低燃費・・・転がり抵抗をなるべく低減したい 転がり抵抗:タイヤが回転(転動)する際にタイ ヤが周期的に(10Hz程度)変形を受け,エネル ギー散逸する. 転がり抵抗の試験風景 ゴムのすべり摩擦 粗さを持った表面でのゴムの摩擦 様々な温度で測定 シフトファク ターを掛けて 横軸を移動 Ludema & Tabor, Wear (1966) ゴムの粘弾性が重要? 6 2016/7/5 ゴムのヒステリシス摩擦 ヒステリシス摩擦 右図のように,基板に周期的な表面粗さ があるとする. ここでは,大雑把に摩擦係数を表現して みる. ゴムのヒステリシス摩擦 Perssonのゴムの摩擦理論(2001) フラクタルな粗さを持った表面の上を ゴムが通過するときの摩擦係数を理論 的に求めた. C(q):粗さのパワースペクトル,P(q): 真実接触 に関する因子,E(ω):ゴムの複素弾性率 摩擦係数のすべり 速度依存性 B.N.J. Persson, J. Chem. Phys. (2001) 7 2016/7/5 ゴムの周波数分散と性能の両立 ゴムの周波数分散を最適化することで,性能の両立が可能. rolling , sliding FS ~ tan ( ) FN tan δ 転がり抵抗:低周波(10Hz程度)の tanδをできるだけ下げる tan δ(ω) グリップ性能:高周波(MHz程度)の tanδをできるだけ上げる ωRolling~10Hz ωSliding~MHz ω ゴム内部に充填剤(filler)を 配合するなどして,G”の コントラストを導入すること は可能.⇒タイヤメーカー各社 が精力的に研究中. グリップの阻害要因 グリップを阻害する要因はいくつか存在する. -湿潤路面(境界潤滑):路面が濡れることにより, 凝着が損なわれ,ヒステリシスロス摩擦が減少する. -ハイドロプレーニング(流体潤滑): 水溜りに乗り上げてグリップを失う. -雪道:せん断抵抗が小さい雪が タイヤに張り付いてしまう. -アイスバーン:路面の雪が 融けて氷の膜が張るとグリップ が著しく損なわれる. 16 8 2016/7/5 スタッドレスタイヤの研究開発 流体-構造-熱 の連成によるゴム-氷摩擦係数予測モデルの開発 •流体(修正レイノルズ方程式) 圧力分布・氷の融解量 ⇒ せん断応力(潤滑膜厚) •構造(FEM) せん断応力 ⇒ 圧力分布(ゴムブロックの変形) •熱(エネルギー保存則・熱伝導方程式) せん断応力 ⇒ 氷の融解量(摩擦熱量) ゴムブロック 圧力分布 冬季の路面(札幌市内) 膜厚分布 水膜 氷に流入する 摩擦熱 氷路面 融解によって生じた 水の流れ ゴムブロック-水膜-氷モデルの概略 アイスバーンでのブレーキ時 ・発進時の摩擦係数を予測! 17 4.本日のまとめと次回の予告 本日のまとめ 本日は, -タイヤとは? -タイヤの転がり抵抗とグリップ性能 について学んだ. 次回の予告 次回は以下のような内容のお話をする予定. -(仮)ゲルの変形ダイナミクスと超低摩擦メカニズム 18 9
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