変化し続けてこそ継続するブランド

JLAU 技術アーカイブ Vol.003
変化し続けてこそ継続するブランド
ブランディングとブランドを取り巻くファッション業界
阿久津誠治(株式会社カタチ代表 .efiLevol 元ディレクター / デザイナー Bin ディレクター)
飛世拓哉 (株式会社カタチ所属 .efiLevol デザイナー CLEANA デザイナー)
注目と人気を集めているファッションブランド .efiLevol(エフィレボル)
。ブランドをゼロから
立ち上げ実績を作ってきた経緯を中心に、彼らの生きるファッション業界の動きを交えて聞く。
阿久津氏プロフィール:
栃木県生まれ。セレクトショップバイヤー経験後、ショップ立上げに関わり、ディレクター、バイヤーを兼任。.efiLevol で
はディレクション、デザインを担当。株式会社カタチで展開するショップ「Bin」のディレクターも務める。
飛世氏プロフィール:
東京都生まれ。文化服装学院アパレルデザイン科卒業。第 29 回神戸ファッションコンテストグランプリ受賞後、セントラ
ルセントマーチンズ BA 科留学。.efiLevol および、株式会社カタチで展開するブランド「CLEANA」のデザイナーを務める。
発表するごとに変わり続けるコレクション
――お二人はどのような経緯でファッションの世界で働き、今に至っているのでしょうか。
阿久津:僕は最初はセレクトショップで働いていました。店も任されいろいろ経験も積み自分でや
れるかもしれないと思っていた頃、飛世と当初いたもう一人のデザイナーを紹介され 3 人で始めま
した。右も左も分からない学生あがりと、モノを仕入れて売るところだけをしていた人間とで始めて、
ずっと模索しながら続けて 10 年が経ちました。
――ブランドを作るというのは、具体的にどういうことを考えてどんなことをしていくのでしょう
か。服を作りお店に卸して、知名度を高めてファンを作る。そんな感じですか。
阿久津:そうです。
飛世:まずはサンプルを作り展示会を開きます。そこへバイヤーさんに来てもらって注文してもら
うという流れを経て、初めて服が出回ります。
――自分たちの作品なりブランドを世の中に打ち出して領域を広げられているわけですが、領域を
広げるのがゼロからだから凄いですよね。
飛世:そうですね。15 年前くらいに、日本のメンズブランドが売れているバブルみたいな時期があっ
たんです。それの最後、下火になっていくギリギリのところで自分たちがデビューしたっていう。
ちょっとだけその恩恵を受けていると思います。今、日本ではメンズ・レディース合わせてブラン
ドの数は 5000 くらいはあるかなと思います。
――5000 は凄いですね。ファッション業界は今どんな状況なんでしょうか。
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阿久津:厳しい状況です。大きなブランドでも売り上げが大きく減ったり、無くなったりしています。
ブランドを継続していくことは輪をかけて難しくなっていくと考えています。
――要因としてはどんなことが考えられますか。
阿久津:情報が多すぎるというのが何よりでしょうね。以前はマーケティングができていたものが、
今はマーケット自体がなくなってしまっているのではないかと僕は思っています。なので僕らのブ
ランドは凄くニッチなものにしようという戦略を持ってやってきました。それともう一つ、移り変
わりに対応できるブランドにしていったんです。ストリートな服を作ったと思ったらいきなりモー
ドになったり。シーズンごとで変えるブランドと謳っていたんです。
――変えることがブランドのコンセプトなんですね。
阿久津:そうです。普通のブランドはそれができません。変えてしまったらお客さんが離れたりし
ますし。僕たちは時代に沿うカメレオン化するブランディングをしています。
――そうするとお客さんも変わっていくわけですよね。せっかく付いた顧客を捨て去ってまで変え
ていくというのは怖い気がします。変えていく方針には決め手があるんでしょうか。
飛世:一般的にマスと言われる人たちの流れというものは、この業界にいるので掴むことができる
んです。それをウチのブランドっぽいウィットに富んだものとして発表していくというのが根底に
あります。世の中の流れがモードだったらモードに、アウトドアならアウトドアっぽく発表する。
そうするとお店によっては「今回はちょっと…」となることがあるけれど、それが段々認められて
いきました。そうして「次に何をやるのかが楽しみなブランド」になれたという感じです。
――流れとしてはマスを見て、その中のニッチを攻めるという感じなんですね。それって凄く高度
なことですよね。それにしてもブランドっていうのは僕らランドスケープの業界にとって無い概念
かも。
阿久津:僕らはブランドを作ったつもりでいて、実は周りが作っていったという感じがします。ブ
ランドとして認めてもらえてようやくブランディングが成立するというか。買う人がついてこない
と僕らも作れないですし。ランドスケープの世界でも有名な設計者がやることってその人のブラン
ドだと思うんです。僕らでいうメゾンと呼ばれるブランドと同じです。
――それだけに、ブランドと呼ばれるものまでになるプロセスには非常に興味があります。ブラン
ドになれば放っておいても動き出すわけですよね。
阿久津:こちらからのブランディングはある意味一方通行です。それに反応する人は少なからずい
るだろうと僕らも予測はしているけれど、服の注文が付かなかったらブランドとしては成立しない
です。それを何十年とやることが難しいと思います。僕らの一番初めに立ち上げた .efiLevol も 10
年経ちましたけれど。ちなみに僕、10 年経って引退したんです。
――え、引退したんですか。
阿久津:.efiLevol のデザインとディレクション、全部から引退すると発表して。で、会長になりま
すと(笑)。具体的には僕が辞めて飛世が中心になり、26 歳の若いスタッフをデザインメンバーと
して入れることにしました。僕が関わった最後のコレクションでは、その若いメンバーの意見をか
なり取り入れました。イメージをだいぶ変えたんです。僕が着られるものは一つもないくらいのも
のが仕上がってそのコレクションは終わりました(笑)。
――(笑)。
阿久津:でも 10 年間やってきてブランドとして飽きられるのではっていうのもあって。ファッショ
ンに限らず多くの普通のブランドは早いサイクルでいなくなってしまう。飽きられるし競争相手も
増えてくるのでブランディングも変えていく。それと同じで僕らも永続的に続かせるためにも、新
陳代謝をしていく方がいいのではないかと勝負に出たんです。
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飛世氏によるスカートのみのブランド、CLEANA
――そうすると阿久津さんはどういう立ち位置なんでしょうか。
阿久津:基本、.efiLevol というブランドでは何もしません。でもたまに過去にやったゲリラショー
みたいなこととか映像を撮ったりとか、変な T シャツを作ったりとか。そういう企画をするのは大
好きなのでやろうかなというくらいです。ファッションとは違うものを .efiLevol というブランドを
通じてやっていこうと思っています。
――ファッションブランドから手を引くということではない?
阿久津:別のブランドもやっていて、そちらでは僕の好きな服を作っています。一方で、ファッショ
ンではない別業態を作っていこうとしています。
――続けるためには変わっていかなきゃならないということなんでしょうね。ちなみにブランドの
規模を大きくしたいという考えはあるのでしょうか。
阿久津:なったらいいなくらいの気持ちです。僕の感覚でいうとファッションの世界はあと 10 年で
終焉を迎えるだろうと思っています。もちろん生き残る人たちは生き残るんだと思うんですけれど。
――業界全体がですか。
阿久津:はい、僕はそんなに長くないと思っています。でも僕らは続けていける環境を保つために、
バランスを取っていこうと思っています。一方これだけ服の業界に魅力がなくなって、デザイナー
になりたいっていう人もいなくなってきて。服飾の学校を出た人も別の業界に進んで行っているわ
けです。
――ランドスケープも同じです。
飛世:どこの業界も同じですね。
――ちなみにそういう状況は日本だけですか。
飛世:世界の人々は日本人ほどファッションに興味がありません。
阿久津:富裕層の遊びのような受け取られ方です。ヨーロッパの凄く有名な店に行っても人がいな
いんです。これで成り立っているのかなと思い、有名なメゾンの日本人デザイナーに聞いてみたん
です。すると、日本人の考え方じゃ想像がつかないほどのお金持ちのお客さんがたくさんいると。
どう売っているのかいうと、商品が届いたという連絡をそのお金持ちにして、ラックごと全部持っ
ていくそうなんです。
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――その世界がわかっていないと全然相手にされないわけですね。世界と日本の違いも踏まえて今
後ブランドをどのようにしていこうと考えていますか。
飛世:.efiLevol に関して言うと、今後もヨーロッパのような感じは出していかないつもりです。
. efiLevol らしさを持たせながら、新しい要素を与えていければと考えています。一方でこういう世代
のこういう人たちに向けて作るというのは揺るがないと思います。なので、買ってくれる若い人た
ちのことをリアルに分かるスタッフをコアメンバーに引き入れて、リニューアルしていくという形
を取っています。
――その時の若者と一緒にデザインしていくことが一つのスキームだったりするんでしょうか。
阿久津:僕らの世代にとってスーパースターだったブランドのデザイナーも、今の若者にとっては
「誰?」っていう存在なんだと思うんです。それよりも同じ世代の人がデザイナーをやっている方が
センセーショナルでカッコイイと捉えられると思っています。
――それも含めてのブランディングなんですね。
阿久津:僕はそう思っています。
展示会の風景
――こうして 10 年続けてこられたのは、変化し続けてきたからこそということなんですね。最後に
ランドスケープの仕事をしている人たちに対して、ファッションデザイナーとして求めること、こ
うしてほしいということがあれば伺いたいです。もしくは、好きな風景、場所などあれば教えてく
ださい。
阿久津:世界遺産みたいな自然風景にはあまり魅力を感じなくて。たまたま見かけたなんでもない
けど自然に見える川などが、実はランドスケープ的な観点で作られたものだったりしたら凄いなと
思います。人工物なんだけど、そう感じさせないとか心地良さとか。
――僕らにとっては究極の目指すところですね。
飛世:僕は生まれも育ちも東京なんですけれど、好きなのは上から見下ろす東京と、元々あった東
京の風景です。ベイエリアのような大都市を感じさせる東京と、路地裏のようなずっと生きられて
きた風景、両方いいなと思います。
――ありがとうございます。今日はお忙しいところ本当にありがとうございました。
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