民法770条(裁判上の離婚)

トゥールミン図式とヴェン図を
使った法教育について
明治学院大学法学部 教授
加賀山 茂
2016/6/18
KAGAYAMA Shigeru, 2016
1
目次
 法教育の理念と到達目標
 民法770条の解釈
 法教育の理念と到達目標は何か❓
 演繹,帰納から発見の推論へ
 法律家の思考方法
 判決三段論法,問題点:障害・消滅事由
 アイラック(IRAC)
 アイラック(IRAC)とは何か❓
 事実認定とルールとの関係
 漁網用タール事件
 トゥールミン図式
 第1段階,第2段階,第3段階
 法の解釈
 法の解釈の必要性
 「車馬通行止め」の解釈
2016/6/18
 民法770条(裁判上の離婚原因)
 抽象的要件と具体的な例示との関係
 民法770条の立法提案
 民法612条の解釈
 民法612条(賃貸借の無断譲渡・転貸の
禁止)
 隠された真の要件と例示との関係
 分析,時代背景,立法提案
 今後の研究課題
 民法の全体像1,2,3
 民法のGoogleマップ1,2,3,4,
5
 エンドロール
KAGAYAMA Shigeru, 2016
2
法教育の理念と到達目標は何か❓
司法改革審議会意見書(2001)
• 事実に即して
具体的な法
的問題を解
決していくた
め必要な法
的分析能力
や法的議論
の能力等を
育成する。
2016/6/18
• NHK病名推理番組
• 総合診療医ドクターG
• 患者の病状から,病名を解明し,診療方法を確定す
るまでのプロセスを見せる。
• 研修医の最初の見立ては,全て外れ。
• 総合診療医のアドバイスを受けながら,可能性のある
病名を全てチェックし,除外すべきものを除外して,正
解にたどり着く。
KAGAYAMA Shigeru, 2016
3
判決三段論法と法的思考
• 第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵
害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
• 第712条(責任能力)
未成年者は,他人に損害を加えた場合において,自己の行為の責
任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは,その行為に
ついて賠償の責任を負わない。
• このような,原則と例外の関係を三段論法によって正当化すること
はできるであろうか。
2016/6/18
KAGAYAMA Shigeru, 2016
4
判決三段論法
大前提:人間は死ぬ
小前提:ソクラテスは人間である
大前提
小前提
結論:ソクラテスは死ぬ
結論
実体法のルール:故意または過失によって他人の権利を侵害した者は,
発生した損害について,損害賠償責任を負う(民法709条)。
訴訟における事実認定と当てはめ:Yは、過失によって(脇見運転をしていて)
Xに衝突して,Xに全治3ヶ月の傷害(損害額100万円)を負わせた。
裁判による判決:YはXに対して100万円支払え。
2016/6/18
KAGAYAMA Shigeru, 2016
実体法
事実認定
実体法の適用
5
不法行為に関するトゥールミン図式
D:データ
YがXを殴ってけ
がをさせた。
C:請求
YはXに損害賠
償金を支払え。
Q:様相限定詞
(法律上の推定)
請求原因
抗弁
W:推論保証(論拠)
故意又は過失によって損害を発生させ
た者は,それによって生じた損害を
賠償する責任を負う。
R:反論
Yは酩酊し,配慮できる状態になかった。
先に殴ったのはXで,防衛が必要だった。
XがYを知ってから,3年が経過している。
B:裏づけ
必要なことは認められる。ただし
損害を最小するような配慮が必要。
2016/6/18
KAGAYAMA Shigeru, 2016
6
科学的推論の3類型
演繹から帰納,そして「発見の推論」へ
• 演繹(三段論法)
(deduction)
• 帰納法
(induction)
• 全ての惑星は太
陽を1つの焦点と
した楕円軌道を描
く。
• 水星,金星,火星
…は,太陽を1つ
の焦点とした楕円
軌道を描く。
• 火星は惑星であ
る。
• 水星,金星,火星
…は惑星である。
• 故に,火星は,太
陽を1つの焦点と
した楕円軌道を描
く。
• 故に,全ての惑星
は,太陽を1つの
焦点とした円軌道
を描く。
2016/6/18
発見の推論
(abduction)
• 火星は惑星である。
• 火星は,太陽を1つの
焦点とした楕円軌道を
描く(ティコ・ブラーエの観測
結果を基にケプラーが発見)。
• 故に,全ての惑星は,
太陽を1つの焦点とし
た楕円軌道を描く(ケプ
ラーの法則の定式化)。
KAGAYAMA Shigeru, 2016
7
アイラック(IRAC)とは何か
IRAC(アイラック)で考え,論証する
Issue
法的分析
Rules
能力
Application
A
Argument
法的議論
の能力
2016/6/18
Conclusion
KAGAYAMA Shigeru, 2016
論点・事実の発見
ルールの発見
ルールの適用
原告・被告の議論
具体的な結論
8
事実とルールとの間の相互関係
ルール 2
ルール 1
事実の発見 ルールの発見
事実 1
2016/6/18
他のルールの発見
と他の事実の発見
事実 2
KAGAYAMA Shigeru, 2016
事実 3
9
漁網用タール事件(最三判昭30・10・18 )
差戻審(否定)
控訴審判決(肯定)
少数説
債権法改正
調査官解説
最高裁判決
543条
(解除)
536条1
項(債務
者主義)
536条2
項(債権
者主義)
債権者だけに
帰責事由あり
債務者に
帰責事由あり
債務者に帰責事由なし
履行不能
2016/6/18
KAGAYAMA Shigeru, 2016
10
トゥールミンの図式の第1段階→2,3
D:データ
(根拠)
C:主張
(結論)
W:推論保証
(論拠)
2016/6/18
KAGAYAMA Shigeru, 2016
11
トゥールミンの図式の第2段階←1,→3
D:データ
(事実関係)
Q:様相限定詞
(推定:おそらく)
C:主張
(結論)
なので
W:推論保証
(論拠)
(仮言的言明)
R:反論
( でない限り)
B:裏づけ
(定言的言明)
(定義,条文,統計)
2016/6/18
KAGAYAMA Shigeru, 2016
12
トゥールミンの図式から法的議論の図式へ←1,2
D:データ
(事実関係)
Q:様相限定詞
(法律上の推定)
×
C:請求
(結論)
請求原因
W:推論保証
条文(要件 効果)
R:反論
条文(但し書き)
B:裏づけ
(定義又は原理)
2016/6/18
KAGAYAMA Shigeru, 2016
13
法の解釈はなぜ必要か?
法の解釈とはどのような作業か?
• 憲法第76条
③すべて裁判官は,その良心に従ひ独立してその職権を
行ひ,この憲法及び法律にのみ拘束される。
• 世の中で生じるすべての訴訟について,憲法または法律
の条文だけを根拠に判決を下そうとするので,法律の条
文の解釈が必要となるのだろうか。
2016/6/18
KAGAYAMA Shigeru, 2016
14
「車馬通行止め」というルールの解釈
拡大解釈
縮小解釈
牛
車
馬
類推解釈
車
馬
おもちゃ
木馬
反対解釈
人間
飛行船
車
2016/6/18
馬
車
KAGAYAMA Shigeru, 2016
馬
15
具体的な条項と抽象的な条項
との間の優先関係
• 不倫をしたら,民法770条の具体的な条項(第1条第1号)
にしたがって,必ず離婚されるのだろうか?
• 民法770条に具体的には書かれていないこと,例えば,配
偶者に暴力をふるったら,離婚されるのだろうか?
• 民法770条1項1号から4号までの具体的な条項と,第1項
第5号の抽象的な条項とは,どのような関係にあるのだろ
うか。
2016/6/18
KAGAYAMA Shigeru, 2016
16
裁判上の離婚原因(現行民法)
 第770条(裁判上の離婚)
 ①夫婦の一方は,次に掲げる場合に限り,離婚の訴えを提起す
ることができる。





一
二
三
四
五
配偶者に不貞な行為があったとき。
配偶者から悪意で遺棄されたとき。
配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込みがないとき。
その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
 ②裁判所は,前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合
であっても,一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めると
きは,離婚の請求を棄却することができる。
2016/6/18
KAGAYAMA Shigeru, 2016
17
民法770条(裁判上の離婚原因)の分析
真の離婚原因
離婚原因ではない
(推定の前提)
・不貞行為
・悪意の遺棄
・生死不明
・強度の精神病
(民法770条1項1
~4号)
婚姻を継続しが
たい重大な事由
(民法770条1項5
号)
 民法770条(裁判上の離婚)
 ②裁判所は,前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合で
あっても,一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは,
離婚の請求を棄却することができる。
2016/6/18
KAGAYAMA Shigeru, 2016
18
裁判上の離婚原因(改正私案)
 民法第770条の改正私案(構造化)①:要件,②:例示(推定の前
提)
 ①夫婦の一方は,婚姻を継続し難い重大な事由があるときに限り,離婚の
訴えを提起することができる。
 ②以下の各号に該当する場合には,婚姻を継続し難い重大な事由があるも
のと推定する。








2016/6/18
一 配偶者に不貞な行為があつたとき。
一の二 配偶者から虐待を受けたとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
二の二 配偶者が,第752条の規定に違反して,協力義務を履行しないとき。
二の三 配偶者が,第760条の規定に違反して,婚姻費用の分担義務を履行しないとき。
三 配偶者の生死が3年以上明かでないとき。
三の二 夫婦が5年以上別居しているとき。(←民法改正要綱案参照)
四 配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込がないとき。
KAGAYAMA Shigeru, 2016
19
民法612条の解釈:例文解釈
最も困難な解釈のひとつ
•
•
•
•
「白を黒」,「黒を白」と言い含める法外な解釈の例
民法770条の場合には,包括要件が一応示されていた。
民法612条の場合には,包括要件は示されていない。
隠された包括要件は,どのようにして発見されたのか?
2016/6/18
KAGAYAMA Shigeru, 2016
20
民法612条(無断譲渡・転貸と契約解除)
第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
①賃借人は,賃貸人の承諾を得なければ,その賃
借権を譲り渡し,又は賃借物を転貸することができ
ない。
②賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借
物の使用又は収益をさせたときは,賃貸人は,契
約の解除をすることができる。
2016/6/18
KAGAYAMA Shigeru, 2016
21
民法612条のトゥールミン図式
賃借人が無断で
賃借物を転貸した。
おそらく
誤り
賃貸人は,賃貸借
契約を解除する。
背信行為と認め
るに足りない特
段の事由がある。
賃借人は,民法
612条1項に違
反しており,2項
に基づいて契約
を解除できる。
無断譲渡・転貸の場合に賃貸借契約を解除できるかどうか:
1. 継続的契約関係の当事者が,信頼関係を破壊したときは,契約を解除できる(原則)。
2. 賃借人が無断譲渡・転貸を行ったときは,信頼関係の破壊が推定される(推定規定)。
3. 信頼関係を破壊したと認められない事由があるときは,契約は解除できない(例外)。
2016/6/18
KAGAYAMA Shigeru, 2016
22
民法612条(無断転貸)の分析
真の解除原因
解除原因でない
(推定の前提)
・無断譲渡
・無断転貸
(民法612条)
信頼関係破壊
(法理)
 最一判昭41・1・27民集20巻1号136頁
第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
 ①賃借人は,賃貸人の承諾を得なければ,その賃借権を譲り渡し,又
土地の賃借人が賃貸人の承諾を得ることなくその賃借地を他に転貸し
は賃借物を転貸することができない。
た場合においても,賃借人の右行為を賃貸人に対する背信行為と認
めるに足りない特段の事情があるときは,賃貸人は民法612条2項に
 ②賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益
よる解除権を行使し得ない。
をさせたときは,賃貸人は,契約の解除をすることができる。
2016/6/18
KAGAYAMA Shigeru, 2016
23
「信頼関係破壊の法理」はいかにして発見されたのか
賃借人保護の
必要性
背信行為に当たら
ない場合に解除を
制限
「信頼関係破壊
の法理」の確立
住宅事情
の悪化
信義則・権利濫用
の活用
事実認定の工夫
解雇権濫用禁止の
法理の類推
末弘・川島・戒能
社会的背景
判例
学説
広中俊雄『債権各論講義』有斐閣(1979)173-180頁参照。
2016/6/18
KAGAYAMA Shigeru, 2016
24
民法612条(改正私案)
 第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)(民法改正私案)
 ①賃借人が契約の目的に違反して使用又は収益をしたため,賃
貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されるに至ったときは,
賃貸人は,契約の解除をすることができる。
 ②賃借人が,賃貸人の承諾を得ないで,その賃借権を譲り渡し,
又は賃借物を転貸したときは,信頼関係が破壊されたものと推
定し,賃貸人は,契約の解除をすることができる。
 ただし,賃借人の行為が,賃貸人に対する背信行為と認めるに
足りない特段の事情があることを賃借人が証明したときは,賃貸
人は,契約の解除をすることができない。
2016/6/18
KAGAYAMA Shigeru, 2016
25
法教育の今後の研究の課題
• 契約法の法教育を実現するための研究
(民法のGoogleマップを作成する試み)
• 民法通則の改正
• 不法行為法の電気回路図化
• 契約のフロー図
• 契約成立のフロー図
• 契約の有効・無効と権利外観法理との関係
• 契約の類型
• 契約法の全体像の論理式(Prolog)による表現
2016/6/18
KAGAYAMA Shigeru, 2016
26
民法通則(現行民法)→改正案
第1条
(基本原則)
民
法
第1編
第1章
通則
権利濫用の禁止
第2条
(解釈の基準)
2016/6/18
私権の
公共の福祉適合性
契約自由の
信義則による制限
KAGAYAMA Shigeru, 2016
個人の尊厳
両性の本質的平等
27
民法の目的,私権の行使とその制限
(加賀山改正私案)←現行法
民法の目的
個人の尊厳と平等の実現
民
法
第1編
第1章
通則
第1条
(民法の目的並びに
私権の行使及び
その制限)
私権の行使の自由並びに
信義則による制限及び責任
権利濫用の禁止
第2条
(解釈の基準)
2016/6/18
私権の
公共の福祉適合性
KAGAYAMA Shigeru, 2016
個人の尊厳と
両性の本質的平等
28
不法行為法の体系化
故意又は
過失
因果関係
損害
責任無能力
免責
損害賠償
過失相殺 3年経過
消滅時効
2016/6/18
20年経過
KAGAYAMA Shigeru, 2016
29
民法のGoogleマップ(その1 )
Start
成立
Yes
有効
No(不成立)
不当利得
No(取消し・無効)
(停止条件・始期が未到来)
効力
発生
履行
No(条件・期限)
Yes
No (解除条件・終期が到来)
未発生
履行強制
No(不履行)
No(救済)
免責
Yes
契約解除
損害賠償
End
2016/6/18
KAGAYAMA Shigeru, 2016
30
START
民法のGoogleマップ(その2)
申込発信
能力
不喪失
能力喪失
反対の
意思なし
能力喪失
不知
申込到達
承諾期間
定めあり
承諾期間の定めなし
承諾発信
期間
内到達
申込
撤回なし
申込撤回
撤回
延着なし
承諾発信
承諾延着
撤回到達前
承諾発信
撤回延着
通知あり
承諾到達
延着
通知なし
契約成立
2016/6/18
KAGAYAMA Shigeru, 2016
31
民法のGoogleマップ(その3)
民法90条(公序良俗違反)
権利外観法理
の適用除外
(公序の問題)
意思無能力
民法5条以下(制限行為能力による取消し)
民法95条(要素の錯誤),96条(強迫取消し)
民法93条(心裡留保)
本人が相手方の悪意又は有過失を立証
民法109条の表見代理
権利外観法理
の適用
(取引の安全)
民法94条(虚偽表示)
相手方が善意,本人が有過失を立証
民法96条(詐欺取消)
民法112条の表見代理
相手方が善意・無過失を立証
2016/6/18
KAGAYAMA Shigeru, 2016
民法110条の表見代理
32
無償
(返還不要)
財産権を
対価が金銭
2. 売買
対価が物
3. 交換
有償
移転する
民法の
Google
マップ
(その4)
1. 贈与
返還必要
4. 消費貸借
無償
5. 使用貸借
有償
6. 賃貸借
従属的
(時間決めで)
7. 雇用
返還必要
物の利用
典型契約
役務の提供
独立的
(財産権を
仕事の完成
8. 請負
事務の処理
9. 委任
物を預かる
10. 寄託
移転しない)
団体形成
11. 組合
年金事業
12. 終身定期
金
事業を営む
紛争の解決
2016/6/18
KAGAYAMA Shigeru, 2016
13. 和解
33
民法のGoogleマップ(その5)
 % Main
claim(price,X,Y) :conclude(sale,X,Y),
not(invalid(sale,X,Y)),
not(suspend(sale,X,Y)),
not(extinguish(sale,X,Y)).
 % Sub
invalid(sale,X,Y) :factor_error(sale,Y,X),
not(grave_negligence(sale,Y,X)).
invalid(sale,X,Y) :factor_error(sale,Y,X),
grave_negligence(sale,Y,X),
know(factor_error,X,Y).
2016/6/18
suspend(sale,X,Y) :suspend_condition(sale,X,Y),
not(achieve(Condition,X,Y)).
suspend(sale,X,Y) :time_period(Time,X,Y),
not(expire(Time,X,Y)).
extinguish(sale,X,Y) :terminate(sale,Y,X).
extinguish(sale,X,Y) :prescription(Time,X,Y),
Time >= 10.
 % Data(Example)
conclude(sale,takahashi,kagayama).
factor_error(sale,kagayama,takahashi).
grave_negligence(sale,kagayama,takahashi).
% know(factor_error,takahashi,kagayama).
KAGAYAMA Shigeru, 2016
34
民法612条(無断転貸)の分析(1/2)
真の解除原因
解除原因でない
(推定の前提)
・無断譲渡
・無断転貸
(民法612条)
信頼関係破壊
(法理)
 最一判昭41・1・27民集20巻1号136頁
第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
 ①賃借人は,賃貸人の承諾を得なければ,その賃借権を譲り渡し,又
土地の賃借人が賃貸人の承諾を得ることなくその賃借地を他に転貸し
は賃借物を転貸することができない。
た場合においても,賃借人の右行為を賃貸人に対する背信行為と認
めるに足りない特段の事情があるときは,賃貸人は民法612条2項に
 ②賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益
よる解除権を行使し得ない。
をさせたときは,賃貸人は,契約の解除をすることができる。
2016/6/18
KAGAYAMA Shigeru, 2016
35
民法612条(無断転貸)の分析(2/2)
真の解除原因
真の解除原因
解除できる
解除できる
反対解釈
解除要件でない
(解除できない)
(推定の前提)
・無断譲渡
・無断転貸
(民法612条)
信頼関係破壊
(法理)
 第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)(加賀山茂「改正私案」)
 ①賃借人が契約の目的に違反して使用又は収益をしたため,賃貸人と賃借人との間の信頼関
係が破壊されるに至ったときは,そのときに限り,賃貸人は,契約の解除をすることができる。
 ②賃借人が,賃貸人の承諾を得ないで,その賃借権を譲り渡し,又は賃借物を転貸したときは,
信頼関係が破壊されたものと推定する。
 ただし,賃借人の行為が,賃貸人に対する背信行為(信頼関係の破壊)と認めるに足りない特
段の事情があることを賃借人が証明したときは,賃貸人は,契約の解除をすることができない。
2016/6/18
KAGAYAMA Shigeru, 2016
36
民法の適用頻度ベスト20
95 601
541
1% 1%
2%
703
2%
110 711 416 723
1% 1% 1% 1%
656
1%
612
2%
177
2%
90
2%
719
4%
2016/6/18
770
1%
709
32%
1
5%
415
6%
715
8%
722
9%
710
18%
KAGAYAMA Shigeru, 2016
37