ガウス誤差関数を利用した 収束の速いヒルベルト変換ディジタルフィルタ 2013年3月6日 吉川 浩†,棟方 渚† ,小野 哲雄† †北海道大学 大学院情報科学研究科 情報処理学会 第75回全国大会 ヒルベルト変換とは Hilbert Transformation • 下記の周波数特性 H(ω) を持つ変換 1.5 縦軸は虚数 式で表すと H(ω) = -i * sgn(ω) 1 0.5 -5 -3 0 -1 -0.5 1 3 5 -1 -1.5 • 全ての周波数成分の位相を90度ずらす • A*cos(ωt) のヒルベルト変換は A*sin(ωt) 情報処理学会 第75回全国大会 ヒルベルト変換とは Hilbert Transformation • ディジタル信号処理には欠かせない • 解析信号(複素信号)を得るために用いる • 信号解析では信号を複素数で扱うと便利 • A e-i(ωt+θ) = A cos(ωt+θ) + i A sin(ωt+θ) 瞬時振幅(A)と瞬時位相(ωt+θ)を正確に取り出せる • 実世界の信号は実数のみ(虚数がない) • ヒルベルト変換で虚数部を生成 A cos(ωt+θ) A sin(ωt+θ) 情報処理学会 第75回全国大会 ヒルベルト変換フィルタの設計 *) • 一般的な手法(Parks-McClellan法 * James McClellan and Thomas Parks. 1972 • 反復法によりFIRフィルタ係数を求める • 最適解が得られる • 計算が遅い • 条件によっては反復計算が収束しないことがある • 提案手法(ガウス誤差関数を用いる方法) • ガウス誤差関数の逆フーリエ変換から求める • 実用解が得られる(最適とは限らない) • 反復法ではないので計算が速い • 必ず計算結果が得られる 情報処理学会 第75回全国大会 提案手法の説明 情報処理学会 第75回全国大会 着想 • HTのインパルス応答からFIRフィルタを設計 (周波数領域での積は時間領域での畳み込み) H(ω) F-1 h(t) y(t ) h( x) f (t x)dx N yi hk f i k 方形窓を掛けた ヒルベルト変換特性 ヒルベルト変換の インパルス応答波形 k 0 fN h Z-1 無限に続くインパルスを有限タップで打ち切る0h0 fN ⇒ 打切り誤差が生じる fN-1 h1 f Z-1 N-2 h2 h1 fN-1 h2 fN-2 f1 hn-1 Z-1 f0 hn hN-1 f1 hN f0 + y = Σ hk fN-k 情報処理学会 第75回全国大会 着想 • 特に,方形のような不連続窓のインパルス 応答波形はなかなか零に収束しない • 打切り誤差が大きくなる 打切り 打切り • 方形窓ではなく連続な窓にする 情報処理学会 第75回全国大会 下記特性の窓関数を見つける • 窓関数の周波数領域の特性 • 通過域はできるだけ平坦 • 連続で滑らか • 窓関数のインパルス応答の特性 • | t | の増加とともに素早く零へ収束 ガウス誤差関数を使った窓 情報処理学会 第75回全国大会 ガウス誤差関数 erf(x) • 定義式 erf( x) 2 x 0 e t dt 2 「ガウス関数」を積分したもの. ガウス関数は時間と周波数の分解能に対して最適 • グラフ 1 0.5 0 -5 -3 -1 1 3 5 erfは平坦な特性を持つ -0.5 -1 情報処理学会 第75回全国大会 ガウス誤差関数によるフィルタ • 提案フィルタの周波数特性 周波数特性 H(ω) ω1=0のとき ω1≠0のとき H ( ) i K erf 2 erf 2 erf 1 erf 1 K は定数(利得を正規化する) ω1 -ω2 ω2 -ω1 ω1, ω2 によってカットオフ周波数を設定できるようにした σによって遷移域の傾きを設定できるようにした • 提案式を逆フーリエ変換 h(t ) M e 2t 2 4 cos(1t ) cos(2t ) t Mは定数 急速に減衰する項 インパルス応答 h(t) 打切り 打切り 情報処理学会 第75回全国大会 評価 情報処理学会 第75回全国大会 ヒルベルト変換フィルタ設計ツール • パラメータ変更に対してリアルタイムに表示できる • PM法は解が収束するまで反復計算するのでリアルタイムは無理 結果はC言語で保存される double hcoeff[] = { 5.3340066754195e-002, 6.4546659217938e-003, -1.5383950543097e-002, 1.0909027758063e-001, 2.8823052782103e-001, 2.7244132465002e-001, 0.0000000000000e+000, -2.7244132465002e-001, -2.8823052782103e-001, -1.0909027758063e-001, 1.5383950543097e-002, -6.4546659217938e-003, -5.3340066754195e-002 }; 情報処理学会 第75回全国大会 性能評価 • パラメータ(通過域,タップ数)を変えPM法 と提案手法のフィルタ特性を比較 • 用いたフィルタ設計ソフトウェア • 提案手法: 自作プログラム • PM法: 三上直樹 氏のフィルタ設計プログラム • はじめて学ぶディジタル・フィルタと高速フーリエ変換 CQ出版. 2005 情報処理学会 第75回全国大会 性能評価 – 実験1 • PM法と提案手法の性能比較 (1) • TAP数=27,通過域 = [ 0.10, 0.40 ] 方形窓 (偏差 6.4×10-2) Parks-McClellan法 (偏差 3.4×10-5) 提案手法 (偏差 9.9×10-4) 情報処理学会 第75回全国大会 性能評価 – 実験2 • PM法と提案手法の性能比較 (2) • TAP数=51,通過域 = [ 0.10, 0.40 ] PM法は 収束せず 方形窓 (偏差 3.6×10-2) Parks-McClellan法 提案手法 (偏差 1.3×10-5) 情報処理学会 第75回全国大会 性能評価 – 実験3 • PM法と提案手法の性能比較 (3) • TAP数=101,通過域 = [ 0.03, 0.47 ] 方形窓 (偏差 5.8×10-2) Parks-McClellan法 (偏差 2.3×10-5) 提案手法 (偏差 5.7×10-4) 情報処理学会 第75回全国大会 性能評価 – 実験4 • バンドパス特性を持つHTフィルタ 通過域 = [ 0.1125, 0.1375 ] Tap数 = 15 Parks-McClellan法 通過域 提案手法 通過域 • PM法は上記通過域で収束せず(通過域を広げて収束) • 収束する条件では利得が1を大きく超える場所がある 情報処理学会 第75回全国大会 応用例 情報処理学会 第75回全国大会 応用例 音声に低周波データを載せる • 脈波や心電図などを音声の振幅に載せて マイク端子から取得する装置を開発 (第16回日本バーチャルリアリティ学会大会,情報処理学会インタラクション2012) スマートフォンを使った脈波測定器 スマートフォンを使った心電測定器 応用例 AM復調の原理 • ヒルベルト変換を利用して振幅を求める 振幅変調された音声 A(t) cos(ωt+θ) ヒルベルト変換対を求める A(t) cos(ωt+θ) ,A(t) sin(ωt+θ) 絶対値を計算する A(t) • ディジタル信号処理によって正確な振幅が分かる • (従来)包絡線検波 サンプリング点が頂点でないと誤差 • ヒルベルト変換 サンプリング点が頂点でなくてもよい (実信号を解析信号化し瞬時振幅を得る) 情報処理学会 第75回全国大会 応用例 復調ブロックダイアグラム A(t)cos(ωt) + Noise BPF |A(t)|2 A(t)sin(ωt) HTF pow2 + ↓ A(t) 8kHz 200Hz A(t)cos(ωt) pow2 LPF (Sinc) HTF ヒルベルト変換フィルタ(実験4で作ったもの.タップ数=15) BPF バンドパスフィルタ(入力信号からノイズとDC成分を除去) pow2 入力を2乗する ↓ デシメーション・フィルタ(サンプリング周波数を下げる) 入力の平方根を計算する 情報処理学会 第75回全国大会 応用例 実際の音声波形と復調データ 振幅変調された音声波形 復調されたデータ 情報処理学会 第75回全国大会 まとめ 情報処理学会 第75回全国大会 まとめ/Future Work • まとめ • erf(x) を利用したHTフィルタ設計法を提案 • 反復法ではないため計算が高速/必ず解が得られる • 得られるフィルタの性能はPM法より若干劣る • 実用解が得られる • スマホで生体情報を取得する装置へ応用 • Future Work • erf(x)のヒルベルト変換以外への適用 • ウェーブレット変換 etc. 情報処理学会 第75回全国大会 ご静聴ありがとうございました
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