Japanese Life Course Panel Survey *JLPS* ****3

労働時間とメンタルヘルスに関する
パネルデータ分析
─ Japanese Life Course Panel Survey (JLPS) の分析(3)─
中澤 渉(東洋大学)
本研究は、科学研究費補助金基盤研究(S)(18103003, 22223005)の助成を受けたもの
である。東京大学社会科学研究所パネル調査の実施にあたっては、社会科学研究所
研究資金、株式会社アウトソーシングからの奨学寄付金を受けた。パネル調査データ
の使用にあたっては社会科学研究所パネル調査企画委員会の許可を受けた。
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アウトライン
•
•
•
•
問題設定
先行研究
仮説設定
分析モデル(fixed effect, Allisonのhybrid
model)
• 基本的な記述統計結果
• 分析結果
• まとめ
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問題設定
• 仕事と家庭の両立の難しさ
家庭重視、個人のライフスタイル重視、という価値観の浸透の一方で、
仕事に多くの時間を割かねばならない状況が、よりstressfulな社会へ
(Hochschild 2001)
恒常的に残業を強いる社会・時間の使い方に対しても柔軟性がない
→Work-Life-Balanceの欠如(山口 2009: 13-17)。
• 職場環境とメンタルヘルスの問題
「働き過ぎ」という指摘から、労働時間は減少傾向。近年は必ずしも日本
の総労働時間が世界的に長いとはいえなくなっている。
→短時間(非典型)雇用の増加が一要因。つまり非正規雇用の増加とと
もに、正規雇用の割合が減少、正規雇用に労働時間のしわ寄せ。非正
規雇用は不安定な地位のため、将来に不安、一方正規雇用も労働強化
が進行し、ストレスが増大(山田 2007: 54-61)
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仕事とストレスに関する先行研究
• ストレスの感じ方には個人差
パーソナリティとリーダーシップ研究 協働者に対する評価傾向
(性格的なもの)と、集団で行う課題の統制度(環境・仕事の内容)により、
ストレスの感じ方に違い(白樫 2010)。
• ジェンダーとストレス
競争心・敵意・時間的切迫感・達成への過剰な努力を特徴とし、冠動脈
疾患と関連するType A 行動(Friedman)は男性に顕著。また男性役割期
待や女性役割期待を内面化している人ほど、性別役割分業やジェンダー
に付随するイメージと異なる仕事をする場合にストレスを感じる傾向があ
る(田尾 1999; 坂田 2003a)。
社会学的には、社会経済地位の低下でストレスが増し、自己統制感や自
尊心が減少すること、女性は相対的に慢性的なストレッサーに晒されや
すく、うつになる傾向が強い(Read and Gorman 2010)。
→社会的な性役割期待と就業行動との葛藤 女性(特に既婚女性)に顕
著?
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仮説
• 一般的に、長時間労働はメンタルヘルスに負の影響を及ぼすだろ
う。
• 未だに家庭内での性役割分業は強固。就業継続してゆく上で、仕
事との葛藤は女性の方が抱きやすく、長時間労働によるメンタル
ヘルスの負の効果は、女性でより明確に現れるだろう。
• 仕事へのストレッサーについて、①従事している仕事そのものの
融通性にかかわるもの、②仕事を規定する環境や背景、の2つに
分けることができる(坂田 2003b)。
→上述した理由から、女性では②のような、仕事をめぐる環境や枠
組み(勤務時間の問題など)を自分で決められればストレスが軽
減されるのではないか。一方、男性は女性より仕事そのものに専
念できる傾向が強いため、①のような仕事そのものさえ好きなよう
にできれば、ストレスが軽減されるのではないか。
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データ
• 働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査(東京大学
社会科学研究所・Japanese Life Course Panel Survey, 以下、
JLPSと表記)の第1波(2007年)~第4波(2010年)
• 分析対象は、就業期間(無職や学生の期間は除外)
• 従属変数のメンタルヘルスの指標(日社82回大会発表でも使用・
詳細は中澤 2010)
Mental Health Inventory (MHI5)
5つの項目の合計得点を100点満点に換算したもの(Rumpf et al. 2001)
だが、日本版のワーディングに修正を加えたもの(Yamazaki et al. 2005)
を用いる。スコアが大きいほど、メンタルヘルスの状態はよい。
52点以下が実際に「うつ」である可能性が高い(山崎ほか 2005)
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分析モデル(1)
• 固定効果モデル→不変の観察できない異質性(unobserved
heterogeneity)に対する対処。
yit  zi  xit   ui   it
従属変数yitは、個人属性(不変)のziと可変的な個人の状況xitによって説
明される。説明されない部分は誤差とみなせるが、すべてが測定上の誤
差εitではなく、投入された説明変数や共変量で説明しきれない個人特性
が存在する。それがuiの「観察できない異質性」である。ただしuiとεitは
データ上区別できず、またuiは説明要因と相関がある可能性が高い。そ
うなると、αやβは不偏推定量にならない。
yi  zi  xi   ui   i
これは個人内の平均従属変数に、平均的な個人属性の説明要因を回帰
させたもの。個人間変動(between推定)を示す。ここで上式から下式を
引けば、バイアスの原因となるuiが消え、不偏推定量がもたらされる。こ
れが固定効果(within 推定)モデルである。
yit  yi  ( xit  xi )   it   i
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固定効果モデルの長所
• これまでの研究の多くは、横断的調査の結果に基づく。クロ
スセクショナルな分析の結果は、あくまでワンショットで集め
たデータの分布に基づき計算されたものに過ぎない。厳密に
は、解釈の際に、横断データから個人内変動と個人間変動
を区別できない。
• メンタルヘルスは、おそらく個人の性格や体質など、変数化
できない部分と深く関連している。つまり観察できない異質
性による推定値のバイアスの懸念が、一層強まる。先行研
究でもメンタルヘルスと性格的なものとの関連性は指摘。
→ある要因の変動とメンタルヘルスの変動の要因を調べるには、
個人内(within)推定である固定効果モデルが適切!
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分析モデル(2)
• 固定効果モデルの短所→観察期間内における不変の説明変数を考慮で
きない。社会学では、属性(=不変)が重要な関心となることが多いが、
それが考慮できなくなってしまう(Halaby 2004)。
• 不変の説明変数を考慮するには、ランダム効果推定。ただし観察できな
い異質性と説明変数の間に相関がない、という強い仮定が必要。固定効
果モデルでは常に不偏推定値。もし観察できない異質性と説明変数に相
関がなければ(通常、Hausman検定を行う)、ランダム効果モデルでも不
偏推定値だが、推定値の分散はランダム効果モデルのほうが小さい有
効推定量となる。ただし上述の強い仮定が支持されなければ、推定量自
体がバイアスを伴うため、その結果は使えない。
• この問題を解決するために、Hausman & Taylor法(Halaby 2004)のほか、
Allisonにより提唱されたHybrid model (Allison 2009)がある。後者を利用。
• 時間依存変数については、個人内の平均値との各時点における差を投
入(HLMでいうgroup mean centering)。それに説明変数の個人内平均値、
不変の説明変数、観測年を示すダミー変数を考慮。
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説明変数・統制変数
• 説明変数
1日の労働時間(8時間以下を基準・「9~10時間」「11時間以上」のダミー)
仕事の条件や環境
①「自分の仕事のペースを、自分で決めたりかえたりすることができる」 あてはまる=1, あてはま
らない=0
②「職場の仕事のやり方を、自分で決めたり変えたりすることができる」 あてはまる=1, あてはま
らない=0
• 統制変数(共変量)
調査年度ダミー、従業上の地位(基準は正規、非正規・自営家族)、雇用契約期間の
有無(あり=1, なし=0)、職業(SSM8分類で専門管理と非熟練農業は合体、基準を非熟
練農業)、婚姻状態(既婚=1, 未婚・離死別=0)、子どもの有無(あり=1, なし0)
• Hybrid modelではいずれも個人内平均や、個人内平均との差を計算し、
その値を投入。
• 上記の説明変数と統制変数は、いずれも可変的だが、固定効果モデル
で意味するのは、あくまで観察期間内における同一個人内の変化との関
係性。もともと結婚している人・していない人、子がいる人・いない人の個
人間の差をみているのではない。そこでHybrid modelでは、07年(第1波)
時点の婚姻状態・子の有無の状態を不変属性と考えて考慮。
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MHI-5の得点の推移
男性
MHI-5 50以下の割合の推移
改善
同じ
悪化
35
07年→08年
40.7
14.7
08年→09年
41.9
16
44.6
30
42.1
25
09年→10年
37.4
16.7
45.9
20
男性
女性
女性
15
改善
10
07年→08年
5
08年→09年
09年→10年
0
2007年
2011/9/17
2008年
2009年
39.6
42.8
37.2
同じ
悪化
15.6
15.1
16.3
44.8
42.1
46.5
2010年
日本社会学会第84回大会(関西大学)
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職種と従業上の地位の関係
(プーリングデータ)
男性
正規
女性
1,490
非正規
117
自営・家族
114
111
0%
専門管理
2011/9/17
985
18
156
74
20%
事務
744
110
220
40%
販売
748
熟練
901
134
181
43
正規
5
非正規
116
48 14 44
60%
80%
半熟練
非熟練
100%
農業
956
410
自営・家族
830
66
0%
専門管理
20%
日本社会学会第84回大会(関西大学)
612
78
事務
236 1231001141
1,305
40%
販売
熟練
188 258
252 19
7 13 21
59
48
60%
80%
半熟練
非熟練
100%
農業
12
労働時間の分布の推移
男性
女性
2007年
504
828
773
2007年 110
393
1214
2008年
401
710
640
2008年
95
341
1050
2009年
333
2009年
76
274
1053
2010年
301
2010年
77
257
963
0%
583
509
20%
11時間以上
2011/9/17
656
40%
501
60%
9~10時間
80%
8時間以下
100%
0%
20%
11時間以上
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40%
60%
9~10時間
80%
100%
8時間以下
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仕事・職場の裁量・自由度の推移
「自分の仕事のペースを、自分で決
めたり変えたりすることができる」に
あてはまる人の比率
「職場の仕事のやり方を、自分で決
めたり変えたりすることができる」に
あてはまる人の比率
70
70
65
65
60
60
55
55
50
50
45
45
40
40
35
35
2007年
2008年
男性
2011/9/17
2009年
2010年
2007年
女性
2008年
男性
日本社会学会第84回大会(関西大学)
2009年
2010年
女性
14
固定効果モデルの推定結果
• 労働時間は男女とも有意。ただ
し男性は11時間以上のみ。女性
は9~10時間、11時間以上、そ
れぞれ有意でメンタルヘルスを
悪化させる。
• 自分の仕事を自分で決められる
のは、男性でメンタルヘルスの改
善。女性は有意ではない。
• 職場の環境を変えられる場合、
男性は有意でないが、女性は有
意にメンタルヘルスを改善。
• 年々、メンタルヘルスは悪化
• 地位や雇用契約期間有無の変
化は、さほど関係がない。
2011/9/17
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Hybrid Model の推定結果
•
•
•
男性は固定効果モデルと大きく知見が
変わることはない。
女性は固定効果で「未婚→既婚」への
変化は(有意ではないが)正の効果を
もっていたが、07年時点で既に結婚し
ていた人は(そうでない人に対し)負に
有意。
2011/9/17
表では略したが、hybrid modelでは
女性のみ、「未婚→既婚」への変
化は10%水準で正に有意。
• 女性では、仕事の環境に関する変
数は2つとも有意になる。07年時点
での婚姻状態との有意な交互作
用効果は見つからない。
• 07時点既婚女性の労働時間9~10
時間で(労働時間8時間以下より)
有意にメンタルヘルス悪化
→女性において、メンタルヘルスの改
善には、仕事や職場環境のあり方
が一層重要。
表は略すが、07年時点で「子ども
あり/なし」についても同様に検討
したが、全く有意な効果なし。
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結論(1)-固定効果モデルから
• この4年間で、メンタルヘルスは悪化傾向にある。
• 平均値の推移だけではなく、個人内変化の観察を見ても、特
に2009年から10年にかけては悪化傾向が強まっている。
• 11時間以上の長時間労働になると、メンタルヘルスは悪化
する。女性は9時間以上でも有意に悪化。
• 「自分の仕事のペースを、自分で決めたり変えたりすること
ができる」に該当する場合、男性で有意にメンタルヘルスを
改善。一方「職場の仕事のやり方を、自分で決めたり変えた
りすることができる」に該当する場合、女性で有意にメンタル
ヘルスを改善。前者は仕事そのもの、後者は仕事をめぐる
環境と解釈でき、仕事そのものに専心できる男性と、家庭と
の調和をより求められる女性という性役割を反映している可
能性がある。
2011/9/17
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結論(2)-Hybrid modelから
• 女性においては、調査開始時点で既に結婚していた人ほど
有意にメンタルヘルスの状態が悪かったことがわかる。男性
は有意差なし。
• 労働時間や労働環境の有意な影響も、女性ほど顕著に観察
できる。
• 女性で労働時間9時間以上の時、メンタルヘルスの状況が悪
化するのは固定効果推定結果と同じ。ただし07年時点で既
婚だった女性のうち、労働時間9~10時間の層は、さらに有
意にメンタルヘルスが悪化する。→11時間以上という極端な
場合は、未既婚関係なくメンタルヘルスが悪化するが、9~
10時間というのは、そこそこ仕事に責任をもちつつ、家庭の
両立に最も葛藤が生じやすい層?
2011/9/17
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参考文献
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
Allison, Paul D. 2009. Fixed Effects Regression Models, Sage.
Halaby, Charles, N., 2004, “Panel Models in Sociological Research: Theory into Practice,”
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Hochschild, Arlie Russell. 2001. The Time Bind: When Work Becomes Home and Home
Becomes Work, Owl Books.
中澤渉. 2010. 「メンタル・ヘルスのパネルデータ分析」『東洋大学社会学部紀要』47(2): 8395.
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Annual Review of Sociology, 36: 371-386.
Rumpf, Hans-Jürgen, Christian Meyer, Ulfert Hapke, and Ulrich John. 2001. “Screening for
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坂田桐子. 2003a. 「ジェンダーとストレス」横山博司・岩永誠編『ワークストレスの行動科学』
北大路書房: 47-58。
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北大路書房: 77-105。
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依子編『メンタルヘルスへのアプローチ』ナカニシヤ出版, 94-103.
田尾雅夫.1999. 『組織の心理学(新版)』有斐閣
山田久. 2007. 『ワーク・フェア-雇用劣化・階層社会からの脱却』東洋経済新報社
山口一男. 2009. 『ワークライフバランス-実証と政策提言』日本経済新聞出版社。
Yamazaki, Shin, Shunichi Fukuhara, & Joseph Green. 2005. “Usefulness of Five-item and
Three-item Mental Health Inventories to Screen for Depressive Symptoms in the General
Population of Japan,” Health and Quality of Life Outcomes 3: 48.
山崎新・福原俊一・Joseph Green. 2005. 「SF-36の『心の健康』によるうつ症状の測定」iHope
Newsletter No.9.
2011/9/17
日本社会学会第84回大会(関西大学)
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