① 成長性の分析

社会人基礎Ⅱ
会計の視点からの業界・企業分析の基礎
2015年09月28日(月)・10月06日(火)
説明の流れ
1.なぜ会計情報を分析するのか
2.会計情報とはどのような情報なのか
① 貸借対照表
② 損益計算書
3.会計情報はどこで入手できるのか
4.会計情報をどのように分析するのか
① 成長性の分析
② 安全性の分析
③ 収益性の分析
5.企業分析の事例~サンリオ~
6.会計情報の分析結果をどのように判断するのか
参考文献
なぜ会計情報を分析するのか
企業はさまざまな立場の人々との関係から成り立ってい
る。企業を取り巻くさまざまな人々がその企業の状況につ
いて知りたいと思っている。状況を示す1つの情報として
「会計情報」がある。
なぜ会計情報を分析するのか?
① 客観性を高める
イメージでの判断→財務的な裏付けのある判断へ
② 不確実性を低減させる
将来に関する不確実性を減らして、より適切な意思決定を可能にする
「財務諸表利用者が直面する意思決定の多くは、将来の事柄に関するものであ
る。そこには当然のことながら、何らかの不確実性が存在する。企業や、企業を
取り巻く環境の将来をパーフェクトに予測できる人物などいないからである。そこ
で、不確実性を低減させて、より適切な意思決定を行う必要性が出てくる。それ
を可能にする1つの手段が、財務諸表分析といえるだろう」(伊藤、2014、p.631)
利 用 者
活 用 方 法
株主
その会社の株式を買うべきか、売るべきか、保有すべきか
社債権者
その会社の社債を買うべきか、元本や利子が支払不能にならないか
銀行
その会社に資金を貸し付けるべきか、どのような条件か、安全性は?
証券アナリスト
その会社の収益性・将来性はどうか、株式は過小または過大に評価
されていないか
格付け機関
その会社の社債をどのランクに格付けすべきか
取引先
その会社に商品を納入すべきか、現金販売か掛け販売にするか
競合他社
ライバル会社の収益性はどうか、各社の業界内順位はどうか
税務当局
財務諸表にもとづいて課税所得が正しく計算されているか
監督官庁
財務諸表はルールに従って作成されているか、その公益事業会社の
利益は適正か
労働組合・従業員
会社の経営内容は健全か、賃上げの余地はあるか
学生
その会社の収益性、成長性、安全性等はどうか、就職先として魅力
的か
→さまざまな立場の利用者がそれぞれ異なる目的を
もって会計情報の分析をおこなっている
会計情報とはどのような情報なのか
① 貸借対照表
特に重要
企業が一定時点においてどのくらいの資産、負債、純資産を所有しているのか
(財政状態)を示したもの
② 損益計算書
特に重要
企業が一定期間にどれだけもうけたか(経営成績)を示したもの
③ キャッシュ・フロー計算書
企業が一定期間にどれだけの資金(キャッシュ)をどこから獲得し、それを
どのように使ったのか、資金に余裕があるか、利益にどれだけ資金の裏付けが
あるかを示したもの
④ 株主資本等変動計算書
株主資本がどのような理由でどのくらい変動したのかを示したもの
「現代会計入門」
の学修範囲
① 貸借対照表
流動負債
流動資産
負債
固定負債
資本金
有形固定資産
資産
純資産
固定資産
無形固定資産
投資その他の資
産
繰延資産
資本
剰余
株 金
主
資 利益
本 剰余
金
資本準備金
その他の資本
剰余金
利益準備金
その他の利益
剰余金
自己株式
評価・換算差額等
新株予約権
資金の運用形態
お金をどのように使ったのか
資金の調達源泉
お金がどこから入ってきたの
か
資産=負債+純資産
② 損益計算書
期間1年
自
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
Ⅴ
Ⅵ
Ⅶ
損益計算書
平成×年×月×日 至 平成×年×月×日
売上高
×××
売上原価
×××
売上総利益
×××
販売費及び一般管理費
×××
営業利益
×××
営業外収益
×××
営業外費用
×××
経常利益
×××
特別利益
×××
特別損失
×××
税引前当期純利益
×××
法人税、住民税及び事業税
×××
法人税等調整額
×××
当期純利益
×××
5つの利益
① 区分表示
活動の性質や発生の頻
度によって収益および費用
の各項目をグループ分けし
て、それらを対応表示させ
ている
② 段階別利益
「営業損益計算」「経常損
益計算」「純損益計算」の3
つのステップに分割され、
段階ごとに利益を計算して
いく
経営分析の指標としては、営業利益、経常利益、
当期純利益がよく用いられる。
会計情報はどこで入手できるのか
① 法定開示
・ 有価証券報告書
・ 決算短信
→各企業のHPやEDINET
(http://disclosure.edinet-fsa.go.jp/)
② 自発的開示
・ アニュアル・リポート
・ 環境報告書
・ CSR報告書(持続可能性報告書)
・ 統合報告書(アニュアル・レポート+CSR報告書)
→各企業のHPより入手可能
(OLCの例)
会計情報をどのように分析するのか
① 成長性の分析
各分析指標の伸びや趨勢・推移をみる
・対前年度比率、伸び率、対基準年度比率
② 安全性の分析
企業の支払能力や財務的な安定性の判定を行う
・短期支払能力:流動比率、当座比率
・長期支払能力:自己資本比率、負債比率
「現代会計入門」の学修範囲
・百分比財務諸表分析
・成長性の分析
・安全性の分析
・収益性の分析
・1株当たり分析
・1人当たり分析
③ 収益性の分析
企業が利益を稼ぐ能力の判定を行う
・売上高利益率:売上高営業利益率、売上高経常利益率、売上高当期純利益率
・総資産利益率(ROI):総資産事業利益率、総資本経常利益率
・自己資本利益率(ROE)
① 成長性の分析
■ 対前年度比率
対前年度比率=分析対象年度の金額/分析対象前年度の金額×100
前年度の数値と比較して、増えたのか減ったのかを表す
(数値例)
X1年度の金額/X0年度の金額×100=4,056÷3,934×100=103.1(%)
■ 対基準年度比率
対基準年度比率=分析対象年度の金額/基準年度(特定年度)の金額×100
ある基準年度の数値と比較して、増えたのか減ったのかを表す
(数値例)
X2年度の金額/X0年度の金額×100=3,982÷3,934×100=101.2(%)
X3年度の金額/X0年度の金額×100=4,123÷3,934×100=104.8(%)
② 安全性の分析
■ 短期支払能力
1.流動比率=流動資産/流動負債 ×100
短期に支払期限が到来する流動負債に充当することが可能な流動資産を
どの程度持っているかを示す
2.当座比率=当座資産/流動負債 ×100
当座資産=流動資産-棚卸資産で計算される。流動資産から棚卸資産を
除くことで、より換金性の高い資産をもとに支払能力を明らかにできる
■ 長期支払能力
自己資本比率=自己資本/総資本 ×100
自己資本比率が高いということは、それだけ利子を支払わなければなら
ない負債への依存度が低いということ。それにより経営の安定度が高まる
③ 収益性の分析
■ 売上高利益率=各種利益/売上高 ×100
売上高に占める各種利益(営業利益、経常利益、当期純利益等)の比率を
表す指標
■ 総資産利益率(ROA)
総資産経常利益率=経常利益/総資産 ×100
株主が拠出した資金と債権者が拠出した資金を用いてどれだけの利益を
あげたのかを表す指標
■ 自己資本利益率(ROE)=当期純利益/自己資本
×100
株主が拠出した資金をもとに、どれだけの利益をあげたのかを表す指標
企業分析の事例~サンリオ~
1.成長性の分析
過去10年間の主要指標の推移
(百万円)
100,000
90,000
80,000
70,000
60,000
50,000
40,000
30,000
20,000
10,000
0
-10,000
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
(年)
資産合計
売上高
売上総利益
営業利益
経常利益
当期純利益
2005
87,129
80,843
28,941
5,742
4,023
2,666
資産合計
売上高
2006
83,190
78,535
26,864
4,370
3,294
1,581
2007
76,977
73,005
26,149
3,965
5,683
1,405
売上総利益
2008
69,296
51,888
26,138
4,105
2,825
-1,885
営業利益
2009
70,658
52,289
26,714
4,816
4,866
1,898
経常利益
当期純利益
2010
2011
2012
2013
2014
66,147
66,981
65,767
75,444
71,741
53,183
51,562
50,672
52,044
50,976
30,106
31,327
31,488
33,050
31,510
8,540
11,042
11,508
12,386
10,232
6,975
11,230
10,921
18,363
10,955
4,098
9,616
6,189
14,074
7,739
出所:「株式会社サンリオ」有価証券報告書より作成
企業分析の事例~サンリオ~
1.成長性の分析:対基準年度比率
サンリオの成長推移 (2005年度を1とする)
(倍)
6
5
4
3
2
1
0
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
-1
(年)
-2
資産合計
売上高
売上総利益
営業利益
経常利益
当期純利益
出所:「株式会社サンリオ」有価証券報告書より作成
企業分析の事例~サンリオ~
2.安全性の分析:短期弁済能力をみる
流動比率と当座比率の推移
(%)
200.0
180.0
160.0
140.0
120.0
100.0
80.0
60.0
40.0
20.0
0.0
2005
2006
2007
2008
2009
流動比率
2010
2011
2012
2013
2014
(年)
当座比率
出所:「株式会社サンリオ」有価証券報告書より作成
企業分析の事例~サンリオ~
2.安全性の分析:長期弁済能力をみる
自己資本比率
(%)
50.0
45.0
40.0
35.0
30.0
25.0
20.0
15.0
10.0
5.0
0.0
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
(年)
出所:「株式会社サンリオ」有価証券報告書より作成
企業分析の事例~サンリオ~
3.収益性の分析:売上高利益率
売上高利益率指標の推移
(%)
40.0
35.0
30.0
25.0
20.0
15.0
10.0
5.0
0.0
-5.0
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
(年)
-10.0
売上高営業利益率
売上高経常利益率
売上高当期純利益率
出所:「株式会社サンリオ」有価証券報告書より作成
企業分析の事例~サンリオ~
3.収益性の分析:総資産経常利益率(ROA)
総資産経常利益率の推移
(%)
30.0
25.0
20.0
15.0
10.0
5.0
0.0
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
(年)
出所:「株式会社サンリオ」有価証券報告書より作成
企業分析の事例~サンリオ~
3.収益性の分析:自己資本利益率(ROE)
自己資本利益率の推移
(%)
50.0
40.0
30.0
20.0
10.0
0.0
2005
-10.0
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
(年)
-20.0
出所:「株式会社サンリオ」有価証券報告書より作成
会計情報の分析結果をどのように判断するのか
① 時系列で比較する
時間軸に沿って過去の数値や比率を比較分析する(例:過去10年の推移)
② 他社の指標と比較する
→比較対象とする企業をどのように見つけるのか
(a) 同一産業に属していること
(b) 同一規模であること
(c) 類似の会計方法を用いていること
(d) 同一の地域に位置していること
③ 標準指標と比較する
・『産業別財務データハンドブック』(日本政策投資銀行編、日本経済研究所)
・『TKC経営指標』(TKC)
参
考
文
献
① 経営分析に関する書籍
・櫻井久勝(2015)『財務諸表分析 第6版』中央経済社。
・伊藤邦雄(2014)『新・企業価値評価』日本経済新聞出版社。
② 財務会計全般に関する書籍
・櫻井久勝(2015)『財務会計講義 第16版』中央経済社。
・伊藤邦雄(2014)『新・現代会計入門』日本経済新聞出版社。