PPTファイル - 日本微生物学連盟

日本学術会議 総合微生物学分科会・IUMS 分科会・病原体学分科会 合同会議
平成26年7月19日
日本学術会議 第166回総会 平成26年4月11日
審議経過報告
病原体研究におけるデュアルユース問題
分科会の審議経過報告と同分科会から発出した
「提言 (公表日:2014.1.23)」 の概要説明
日本学術会議連携会員 同、基礎医学委員会 病原体学分科会幹事
同、病原体研究におけるデュアルユース問題分科会委員長
岡本 尚 (おかもと たかし)
名古屋市立大学大学院医学研究科教授 (細胞分子生物学分野)
用語の説明
昨年の総会で課題別委員会「科学•技術
のデュアルユース問題」検討委員会
(吉倉廣委員長)より報告
デュアルユース (dual use):
科学技術は、その使い方により、人類の福祉に貢献する場合と、
テロや攻撃兵器への転用などによりそれを損なう場合がある。
⇒ 「用途の両義性」と訳す。
当分科会では病原体研究に絞って集中的に議論
バイオセーフティー (biosafety) :
バイオセキュリティー (biosecurity):
「病原体」から「研究者」を守る
「研究者(テロリスト)」から「病原体」を守る
ここでの『病原体』とは、防護と監視を要する生物材料(Valuable Biological Material; VBM)
に該当する病原体のことである。VBMには、病原体以外に毒素、ワクチン株、食品、など
が含まれる。
病原体におけるDual use 研究(DURC)とは:
研究内容の誤用・悪用が公衆衛生や国家安全保障に対し
生物学的脅威を与えるもの(Fink レポート(2004)で詳述)。
この問題の起こってきた背景:
1)科学技術の進歩により以前は不可能であった実験が可能と
なったこと。
2)ウエブ等を介して、専門家以外でも実験技術・病原体遺伝子
情報へ容易にアクセスできるようになった。
他方、このような科学・技術の進歩や随伴して生ずる潜在的な
用途の両義性の多様化に比して、病原体研究に関わる研究
者・技術者・教育者自身の認識と理解は、これまで不十分で
科学者の国際的な取り組みの枠組み
(InterAcademy Panel on international issues)
1999年にはUNESCOと国際学術連合会議(ICSU)が『ブダペスト宣言』の中で、科
学技術の発展が今や社会生活や人類の未来に対する脅威となっていることに
鑑み、「社会における社会のための科学」という認識と、科学者の自主的な規
範を求めていた。
とりわけ911事件後のバイオテロと冷戦後の安全保障対策を強く懸念して、IAP
は国際的なアカデミア機関として、その中で議論を重ね、
以下の五原則を提唱した(2005年11月7日)。
IAP 5原則
1) 研究者自身が危険性を認知すること (Awareness)
2) 施設安全管理の徹底 (Biosafety and Security)
3) 責任体制 (Accountability)
4) 研究者への教育・訓練と地域住民への説明
(Education and Information)
5) 施設責任者の監督責任 (Oversight)
(1483? – 1553):
“Knowledge without
conscience is simply the
ruin of the soul”
「良心なき知識は単に
没落した魂に過ぎない」
米国科学アカデミーからの提言:Finkレポート
2001年の炭疽菌テロを契機に、2001年に米国愛国者法と2002年に
バイオテロリズム準備•対応法が施行された。米国科学アカデミーは
Prof. G. R. Fink (MIT)を議長にした委員会を立ち上げた。この委員会
から発出された提言が今日”Fink レポート”と呼ばれるものである。
バイオセキュリティー上の懸念が持たれる研究カテゴリー
Prof. Gerald R. Fink
(MIT; AAAS president)
いずれも生物兵器として使用された場合の「凶悪化」に該当
具体的対応策として提唱された7つの提案 (Finkレポート)
1)科学コミュニティでの教育
2)実験計画の審査
3)出版段階における審査
National Sciences Advisory
Board for Biosecurity (NSABB)
4)国家バイオディフェンス科学諮問委員会(NSABB)の創設
5)悪用を防ぐための追加的要素:VBMの防護と取扱者の監督
6)バイオテロや生物兵器戦争を防ぐための取り組み
7)調和のとれた国際的な監視
研究活動における安全保障上の懸念の確認とともに研究者を取り巻く環境整備に言及し、
政府と科学コミュニティの関係や法規制と自主管理のあり方についても提案された。
科学コミュニティによる「自主管理」を提案しているが、政府と科学コミュニティーを橋渡し
する機関としてのNSABB設立を提言した。
当分科会でも、NSABBのような国家機関を設置するべきかを十分に検討した。
しかし、現状を考慮してその設置を当面は見送り、まずは各研究機関と学協会および研究者•
技術者による「自主管理」に委ねることが適切であるという意見に帰着した。
関連する現行の法規(国内関連法と国際条約)
既存のこれらの法体
1) 武力攻撃事態等国民保護法
(平成16年6月、平成20年6月最終改訂) 系の中で運用で対応
2) 生物兵器禁止条約(BWC)
(1972年4月に署名、1982年6月に批准)
することがまずは求め
られる。
3) 感染症法 (平成10年10月、平成23年12月最終改訂)
4) 家畜伝染病予防法(昭和26年5月、平成24年5月最終改訂)
5) カルタヘナ法(平成15年6月)
6) その他、輸出貿易管理令、外国為替及び外国貿易管理法に
基づく政令、薬事法、食品衛生法、農薬取締法、
労働安全衛生法、検疫法、植物防疫法、など
DU問題に関するこれまでの日本学術会議の動き
2005年
IAP五原則を受けて、日本学術会議 黒川清会長コメント
2006年
日本学術会議よりの声明『科学者の行動規範について』 主に利益相反問題や
研究費使用やデータ作成•発表における (ねつ造、改ざん、盗用、 など)
不正
行為の防止を呼びかけた。
2011年8月
学術フォーラム「生命科学の進展に伴う新たなリスクと科学者の役割」
2011年11月 日本学術会議課題別委員会 『科学•技術のデュアルユース問題に関する
検討委員会』 の設立
2012年5月
日本学術会議基礎医学委員会 『病原体研究に関するデュアルユース問題
分科会』 の設立
2012年11月 第60回日本ウイルス学会学術集会特別シンポジウムの開催
2012年11月 日本学術会議より『科学•技術のデュアルユース問題に関する検討報告』
2013年1月 上記「科学者の行動規範」の改訂
2012年12月
2014年1月
日本学術会議等主催『デュアルユース問題とBSL4施設シンポジウム』開催
日本学術会議より「病原体研究に関するデュアルユース問題」提言を発出
報告 (平成24年11月30日)
科学•技術のデュアルユース問題に関する検討報告
平成24年度 日本学術会議 科学•技術のデュアルユース問題に関する検討委員会
(吉倉 廣委員長)
本文の抜粋
1. 科学者•技術者の職業的責任の自覚。
2. 科学者•技術者の行動原則。自らの職業倫理に基づいた行動。共同体への誠意の自覚。
3. 社会的責任と情報伝達のあり方。自らの研究成果の悪用への拒否と責任。
4. 科学者•技術者共同体としての用途の両義性への対応。DU問題を科学者•研究者全体
の信頼性の問題として意識することの宣言。
提言・規範の展開
ここで提起された問題は、破壊的行為と関連する可能性がある科学•技術の広い分野に当
てはまる。
・この問題に関して、声明「科学者の行動規範について」(2006.10.3)の部分的改訂を提案。
・学術会議の各分野で両義性の問題が議論されるべきことを提唱。
声明 (平成25年 1月25日)
科 学 者 の 行 動 規 範
改訂版
I.
日本学術会議改革検証委員会
(大西 隆 委員長)
同、学術と社会及び政府との関係改革検証分科会(小林良彰委員長)
科学者の責務
科学者の基本的責任
科学者の姿勢
社会の中の科学者
社会的期待に応える研究
説明と公開
科学研究の用途の両義性:
II. 公正な研究
III. 社会の中の科学
IV. 法令の遵守など
ー改訂版ー
平成18年(改訂前)
科学者の基本的責任
科学者の行動
自己の研鑽
説明と公開
「デュアルユース」に関す
る認識を踏まえた「行動規
範」を改めて明言した:
「科学者は、自らの研究の
成果が、科学者自身の意
図に反して、破壊的行為
に悪用される可能性もある
研究活動
ことを認識し、研究の実施、 研究環境の整備
成果の公表にあたっては、 法令の遵守
社会に許容される適切な
研究対象などへの配慮
手段と方法を選択する。」
他者との関係
差別の排除
利益相反
日本学術会議『病原体研究に関するデュアルユース問題』分科会での議論のまとめ
1) IAP五原則の遵守:
病原体研究に関するデュアルユース問題についてはIAP五原則(前述)と価値観
を共有する。「研究者への教育」のために学協会や一般向けシンポジウムやホー
ムページ等を活用し、パブリックコメントを収集する。
2) 過剰規制への懸念と近縁分野からの情報提供:
病原体研究以外の分野例えば産業微生物学など合成生物学などでは規制強化
を行なうことなく産業上のイノベーションの見地で考える必要がある。しかし、この
場合にも病原体研究者からの情報提供や教育が必要である。
3) 過剰な情報公開への懸念:
情報公開については、研究者自身が危険性を認識している(awareness)ことを公
開することが骨子であるべきで、全ての実験結果や計画を公開することはテロや
犯罪を助長し、却って危険性を高める可能性がある。
4) 自主管理の手段の提案:
実験計画に関する各研究機関や学協会での審査機関の設立の可否の議論を進
める。
(参考)欧米の多くの国では研究計画の段階で研究施設が審査する制度が整備。
病原体研究のデュアルユース(DU)問題防止の具体策:
Ⅰ. 教育
・研究者倫理に関する基本教育(総論)とDUの脅威を意識させるための教育
・関連する法律、国際条約、さらにそれらに適切に対応するための教育
・潜伏する危険性を察知する能力を養う教育(座学、演習、レポートなどで実施)
⇒学協会・学術会議からの情報発信
Ⅱ. 管理体制の点検・整備
・各研究組織のバイオセキュリティー管理体制(物理的, 人的;保管, 移動, 情報)
・研究管理体制(研究の自由を保障しつつ危険性が認知された場合の対応体制)
・研究内容の把握(組み換えDNA実験指針ではDU問題の回避について具体的に
定めることはできないので、各研究組織および学協会レベルで、研究の自由や産
業の育成を妨げることのない形を模索する)
⇒ 「研究機関での個別審査制度」の提案
Ⅲ. 情報管理
・DUが危惧される研究成果が得られた場合の情報管理
情報公開の原則(説明責任)
⇒問題提起 1)病原性を高める研究成果の発表方法を今後どう扱うか(学協会)。
2)我が国でも米国のNSABBのような政府機関が必要か(継続審議)。
個別研究課題申請におけるデュアルユース問題を考慮した書式の例
「計画書への」追加項目
謝
辞
当委員会の審議を進め、提言をまとめるにあたり、全ての委員の先生方に甚大なるご貢献
とご助力を頂戴し、さらに、多くの日本学術会議の会員の先生方にもご協力いただきました。
この場をお借りして心より感謝を申し上げます。
日本学術会議基礎医学委員会 「病原体研究に関するデュアルユース問題分科会」各位
春日文子、 笹川千尋、 小柳義夫、 光山正雄、
赤池孝章、 柘植尚志、 松浦善治、 原島 俊
日本学術会議基礎医学委員会
野本明男、 吉倉 廣、 四ノ宮成祥、 西條政幸
(敬称省略)